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ANAのエアバス A380向け機内食担当者にインタビュー。日本発便は「ハワイ到着後の過ごし方を一番に考えた“コンパクトなサービス”」に

プレミアムエコノミー向け機内食は「短距離線のビジネスクラス並み」

2019年5月24日 就航

ANAが2019年5月24日に就航するエアバス A380型機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」。この導入に合わせて提供を開始する機内食についてインタビューした

 ANA(全日本空輸)が2019年5月24日よりハワイ・ホノルル線に導入するエアバス A380型機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」。ANAは11月に、エアバス A380型機の就航に合わせてハワイ線のサービスを刷新することを発表している(関連記事「ANA、2019年5月24日のエアバス A380就航に合わせたホノルル線新サービスを発表。ハワイらしい限定サービス多数」)。

 さまざまなサービスが発表され、12月26日には運航ダイヤや航空券の販売開始時期なども発表されるなか(関連記事「ANA、ホノルル線A380型機のダイヤ決定。カウチシートは最大半額のキャンペーン」)、機内食については、新たなブランドのコラボーションなどが発表された一方、メニューの全貌は明らかにされていない。まだ決定しないメニューなども含め、その方向性やコンセプトについて、ハワイ新サービスの機内食を担当する、ANA CS&プロダクト・サービス室 商品戦略部 アシスタントマネジャーの鳥巣奈美子氏にインタビューした。

全日本空輸株式会社 CS&プロダクト・サービス室 商品戦略部 アシスタントマネジャー 鳥巣奈美子氏

日本発便のエコノミー機内食は1種類。たっぷり休息できる「コンパクトなサービス」

 今回のインタビューで見えた機内食に関わる最大の変更点が、日本発便のサービス内容だ。通常、機内食というとファーストクラスであれば1皿1皿料理を提供したり、エコノミークラスであれば2種類のメニューから選択できたりといったイメージがあるが、日本発ホノルル便の新サービスは、「できるだけコンパクトなサービスにしようと考えている」という。

 例えば、メニューが明らかになっていない日本発のファーストクラス機内食について、鳥巣氏は「欧米路線に設定されているファーストクラスの同等のメニュー内容となる」とする一方、通常は5回程度に分けて出すところ、同じメニューを3回程度にまとめて提供(ただし、乗客の要望に応じてコースでの提供にも対応できるようにするとしている)。

 ビジネスクラスはトレイに乗せて1回で。新設されるプレミアムエコノミー向けの機内食もトレイに乗せて1回で提供するスタイルとなる。

 エコノミークラスでは、日本発はハワイ・ワイキキにある「bills(ビルズ)」とのコラボレーションメニューを提供することが発表されているが、このコラボメニュー1種類のみを提供。2食目は既存のホノルル線と同様に袋に入った軽食にして好きなときに食べられるようにする。

 ちなみに、提供のタイミングについては成田発、羽田発に関わらず、日本からの離陸後すぐに提供する。

 この「コンパクトなサービス」の導入理由について鳥巣氏は、「日本からホノルルに行く便は、フライトタイムが短め。そして(乗客は)ホノルルについてどう遊ぶか、どうゆっくりするかが大事なので、夜に日本を出発して、コンパクトなサービスでお休みいただいて、ハワイで楽しんでいただきたい。いかにホノルルで遊んでもらうか……現地での過ごし方を一番に考えた」と説明する。

 おおよそ離陸後、1時間半~2時間程度を目安にサービスを終え、機内の照明を落として、乗客がゆっくり休める環境を整える計画だという。日本からホノルルまでの飛行時間は大ざっぱに6~7時間なので、3~4時間程度は静かに過ごせる時間が確保されることになる。

 一方で、「ホノルル発便は朝やお昼ぐらいに出発して日本に夕方到着なので、ずっと起きてらっしゃる方も多い。エコノミークラスでもおつまみ付きのアペリティフサービスから始まって和食と洋食から機内食を選べるような、ほかの長距離路線と同じサービスを提供する」というように、コンパクトなサービスは日本発便のみで導入する方針だ。

 ちなみに、日本発のエコノミークラスについては機内食の選択肢がなくなることについて、「1種類しかないの?というお声があることも覚悟しているが、広く受け入れていただける食事にするつもり。それを楽しんでいただいて、早くお休みいただき、(到着後)午前中から活動できるようなフライトにしたい」と、現地での過ごし方を最優先にしたスタイルを重視している。

ホテルチェックインまでの時間を「bills」で。ワンドリンクサービスカードを付けた意味

 ところで、日本発便のエコノミークラスでは、オールデイカジュアルダイニング「bills」とのコラボレーションメニューを提供するのに合わせ、トレイに置かれたミニカードをbills Waikikiに持っていくと、ウェルカムドリンク1杯がサービスされる。このサービスもハワイ到着後の過ごし方を考えたものだという。

 鳥巣氏は「ホノルル到着が日本時間でいうと3時ごろで、入国や移動などを終えて、そろそろお腹が空いてくるころにbillsに行って、ドリンクと一緒にパンケーキなどを召し上がっていただいて、ゆっくり過ごしていただくとよいのでは」と話す。

 ホノルルに行ったことがある人は経験があると思うが、日本を夜に出発する便でホノルルに到着すると、午前中にはワイキキのホテルに到着してしまうため、(アーリーチェックインができない場合は)ホテルにチェックインできないままに時間を過ごす必要がある。元気があればホテルに荷物を預けてどこかへブランチを食べに行ったり、疲れがあればロビーでウトウトしたい……けどもったいないと考え直したりと、到着直後の午前中の過ごし方はホノルルに着いて最初に頭を悩ませるポイントになる。

 billsとのコラボレーションで提供するワンドリンクサービスは、そうした到着後の午前中の過ごし方の提案の一つになっているのだ。もちろん、これは到着後に元気に動けることが前提なので、機内でのコンパクトなサービスと合わせ、搭乗から到着直後までを一連の流れとして考えて、その過ごし方を提案しているといえる。

日本発のエコノミークラスではワイキキにあるレストラン「bills(ビルズ)」とのコラボレーションメニューを提供する(写真提供:ANA)

 ちなみに、billsはハワイ発祥ではなく、オーストラリア発祥のお店である。そうしたお店とコラボレーションした理由について鳥巣氏は、同社のハワイ路線とbillsの顧客層が近いことも理由の一つに挙げた。具体的には、billsは30代女性に人気があり、ANAのホノルル路線もほかの路線に比べると30~40代の女性が多いという背景があることから、「30代、40代の女性には『世界一の朝食』として知られており、朝到着して、行ってみようかなと思っていただけるのでは」と、同店とコラボレーションした理由を説明した。

 また、「リコッタチーズのパンケーキや、スムージーなどヘルシーな料理が多い。健康にも気を遣っていることを、billsブランドと一緒にイメージを作れれば」とも語り、billsとのコラボレーションで機内食のヘルシー志向な面を広めていきたい考えも示した。

「ビジネスクラスと変わらなくない?」を目指すプレミアムエコノミーの機内食

 さて、今回のハワイ新サービスで、まったく新しいサービスとなるのがプレミアムエコノミーの機内食を提供する点だ。これまではプレミアムエコノミー設定便であっても、エコノミークラスと同じ食事を提供していた。

 この機内食について11月の発表時点では「(エコノミークラスよりも)ワンランク上の機内食」と紹介され、具体的なメニューは発表されていないが、トレイの上にビジネスクラスと同じような陶磁器製の食器に盛り付けられた料理の写真が公開されている。

 このプレミアムエコノミーの機内食について鳥巣氏は、笑みを浮かべつつ「ちょっと力を注ぎすぎた」と話す。具体的なメニューは未確定だそうだが、前菜もお酒と一緒に楽しめるような本格的なものになるという。

 ここで、ややステレオタイプ気味だとは思いながらもあえて「ビジネスクラス寄りか、エコノミークラス寄りか」を尋ねてみたところ、「短距離路線のビジネスクラスレベル」との回答。「これまでビジネスクラスにお乗りになっていた方にも『ビジネスクラスと変わらなくない?』と思っていただけるような機内食を提供する」と、プレミアムエコノミーの機内食に対して、かなり注力していることが窺える。

11月の発表時に公開されたプレミアムエコノミーの洋食メニュー(写真提供:ANA)
11月の発表時に公開されたプレミアムエコノミーの和食メニュー(写真提供:ANA)

 一方、ファーストクラス、ビジネスクラス、プレミアムエコノミー、エコノミークラスと4クラスで異なるメニューとなり、その差異も気になるところだ。プレミアムエコノミーが「短距離路線のビジネスクラス相当」になるならば、ビジネスクラスはどうなるのだろうか。先に関連記事として示した11月の発表会で披露されたプレミアムエコノミーとビジネスクラスの機内食は、食器こそ違うものの、料理そのものはあまり違いがなく、前菜などはプレミアムエコノミーの方が豪華と感じる人がいるのではないかと思うほどだった。

 そのビジネスクラスの機内食については「現在、鋭意調整中」との回答。そのなかでも、やはりプレミアムエコノミーよりも上級クラスの機内食とするのはもちろん、ハワイ料理などのハワイアンテイストを盛り込む予定だという。

 また、ビジネスクラスというとビジネスマンが多い落ち着いたイメージがあるが、ホノルル路線に関しては、新たにカップルシートを導入していることからも窺えるように、新婚旅行や若いカップルの利用、年に1回のぜいたく旅行など若い世代の利用も他路線に比べて多い。そのため、落ち着いた雰囲気だけでなく、若々しさも感じられるようなメニューを目指しているという。

ワイキキ以外の過ごし方を伝えるフォーシーズンズとのコラボ

 ホノルル発便のファーストクラスでは、洋食メニューとしてフォーシーズンズ・ホテルズ&リゾーツの「Four Seasons Resort Oahu at Ko Olina」にあるイタリアンレストラン「Noe」とのコラボレーションメニューを提供することが発表されている。

「Four Seasons Resort Oahu at Ko Olina」は、ハワイ・オアフ島の南西、静かなコオリナ地区にある5つ星のリゾートホテルだ。オアフ島では圧倒的に行く人が多いであろうワイキキではなく、あえてそこではないホテルとコラボレーションしていることになる。

 鳥巣氏は「ファーストクラスは乗り慣れている方も多く、静かなところでゆっくりラグジュアリーな休日を過ごすような雰囲気を楽しんでいただきたいと、ゆっくりのんびりできるホテルとのコラボレーションにした」と理由を説明する。この料理はホノルル発便で提供するメニューなので、他路線のファーストクラス同様に1皿ずつサービスがされ、ゆっくりと食事を楽しむことができる。

 また、「ほかのクラスの方にも、『ファーストクラスとコラボレーションしているホテルだ』と、お食事だけでも、1泊だけでも体験していただれば、ワイキキとは違うハワイを感じていただける。“なにもしないぜいたく”を味わえるホテルなので、そのような過ごし方を体験していただければ」といった提案も。500名以上が乗れるエアバス A380型機でハワイを訪れる人が増えるなか、「全員がワイキキ、ではなく、コオリナや離島など、いろいろ楽しんでいただきたい」としている。

ホノルル発のファーストクラス(洋食)として提供する、フォーシーズンズ・ホテルズ&リゾーツの「Four Seasons Resort Oahu at Ko Olina」にあるイタリアンレストラン「Noe」とのコラボメニュー(写真提供:ANA)

ドリンクメニューや子供向けのサービスでもハワイらしさを

 そのほか、現在提供中のものを継続するサービスも含め、ハワイ線独自のサービスが計画されている。

 例えばワイン。ワインのラインアップ自体は、2018年9月から他路線でも展開している「ワインセレクション」に基づいたものとになるが、先述したフォーシーズンズとのコラボメニューについては、同レストランのシェフとソムリエによるマリアージュを実施。食事に合うワインをメニューカードでも紹介する予定になっている。

 また、ドリンクメニューについては現在も提供しているパインアップルジュースを路線限定メニューとして継続して提供。さらに、ハワイアン航空ではPOGジュース、JAL(日本航空)ではコナビールといったように、ハワイの“ご当地もの”といえるドリンクを機内で提供しているが、ANAでもそうしたご当地ドリンクメニューの提供を検討しているという。

 ちなみに、ANAのホノルル発便では、アイスクリームにワイキキの「トロピシャスアイスクリーム」を提供しているが、これはエアバス A380導入後も変わらないという。

 そして、ANAがエアバス A380型機導入にあたっての新サービスを語る際に、必ずといってよいほど言及されるのが「家族で楽しんでもらう」という点だ。同機の客室で大きな特徴となっているカウチ型シート「ANA COUCHii」はそれを象徴するサービスになっている。

 そこで気になるのが子供向けのサービス。子供向けにも新たな機内サービスを検討しているというが、機内食については現在もホノルル線で提供している「デコ弁」が中心となる。これは子供向けに往復とも事前予約制で提供しているもの。

 このデコ弁提供開始時の企画にも携わったという鳥巣氏は、2つの観点で観点でこのデコ弁の意義を話す。

 1つは「食育」の観点、「お子さまが嫌いなブロッコリーやニンジンなども入れている。いままで食べられなかったものが食べられるようになって、CA(客室乗務員)にも褒めてもらえれば、旅の思い出にもなる。好き嫌いがなくなってくれれば」とする。

 そして、もう1つのポイントが「ママ」。「自分で食べたいと思える見た目にすれば、今までママが食べさせていたものを自分で食べるようになったとなれば旅のなかでの成長になる」という面。そして、「結果的にママがラクになる」という側面がある。子供の食事を手伝っていると、母親は自分の食事が後回しになりがちだが、子供が自分で食べられれば一緒の時間に食事を楽しめるようになる。こうしたところにも家族でのハワイ旅行を楽しんでほしいというANAの思いを感じることができる。