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士別駅「日本最北の駅そば」閉業へ。在りし日の「そば+激辛カレー」をしのぶ

“厳密に言えば”日本最北駅そば? 士別駅「ささき」突然の閉店

「日本最北の駅そば」こと、JR宗谷本線・士別駅の「フーズサービスささき」を営んでいた佐々木政勝さんが、1月17日に71歳で亡くなったことが報じられた。2月1日付けの北海道新聞が報じたところによると、同店は廃業する予定だという。

 かつて宗谷本線の各主要駅にあった駅そば店は閉店が続き、士別駅の駅そばは“厳密に言えば”日本最北の駅そばであった(2025年1月時点、詳細は後述)。1日の乗降客が600人前後の士別駅で、列車の発着がない時間帯でも地元の方々に利用されていた「フーズサービスささき」とは、どのような店だったのか。筆者訪問時の写真から、改めて「日本最北の駅そば」を思い起こし、書き記していく。

士別駅「フーズサービスささき」店舗

最北の駅そばは普通? だが、それがいい!

士別駅ホーム
メニューとお土産

 フーズサービスささきは2002年、士別駅の待合室の一角で開業。ドリンクやお菓子、特製のサーターアンダギー(沖縄風の揚げ菓子)、士別市の特産品などを扱う売店も併設していた。

 飲食メニューは「駅そば」とのれんのかかった、売店横の小さなスペースで提供されていた。メニューは「かけそば・うどん」(300円)にはじまり、「天ぷら」「きつね」「月見」「カレー」といったバリエーションがあり、さらに「カレーライス」「ライス」も(2022年11月時点)。改めて見ると、普通の駅そば店のなかでもお財布にうれしいリーズナブルさで、メニュー数もそれなりに豊富だ。

士別駅そば・天ぷらそばをアップで

 駅そばの味は、シンプルな出汁に柔らかめの麺、汁が染みやすい衣多めの天ぷら……つまり、「いたって普通」だ。しかし、たまに目の前に列車がゴトゴトと発着したり、駅員さんがきっぷを発券したりという、駅構内ならではの環境音を聞きながら味わう駅そばには、旅の醍醐味が染みわたっている。

激辛のカレーライス

 またカレーライスは、わざわざメニューに赤文字で「カライ!」と記され、頼んだ瞬間に佐々木さんがふっと顔を挙げて「辛いけどいい? すっごく辛いけどいい?」と何度も念を押してくる。それでも「まぁ一般受けする程度の辛さだろう」とタカをくくって頼むと、これが本当に辛い。

 駅のカレーで有名どころと言えば、品川駅「常盤軒」や、秋葉原駅「新田毎」といった、そば店のサイドメニューで出るものを想像する方も多いだろう。しかし、士別駅で出るカレーは、ずば抜けて普通に辛い。ここは称号を付け加えて、「日本最北の駅そば+日本最北・日本一の激辛駅カレー」と呼ぶのがしっくりくる。

 また佐々木さんは話好きで、道外からの観光客と話す姿もよく見かけた。筆者が何度か訪問した際にも「どこから来たの? 横浜市? 東京の方の?」と話しかけられたり、店に貼られたサインを指さして「この子は士別出身のアイドルだけど、知ってる?」と聞かれるなど……なかなかフレンドリーな方であった(全然知らない方だったが、一応知っていると答えた)。

 士別駅の駅そばは、取り立てて特別な味ではなかった。しかし写真を見ながら記憶をたどると、家庭的でシンプルな味の駅そばと、その記憶を吹き飛ばす激辛カレーのインパクト、そして店主の温かいお人柄が思い出される。

 待合室でまったりと駅そばを食べながら、乳用・肉用合わせて1.5万頭の羊が飼われる士別市の話や、どうでもいい世間話に興じて一時を過ごしたい。フーズサービスささきは、そう思わせるお店であった。

音威子府・留萌・遠軽……消えゆく「北海道の駅そば」。いまの最北端は?

旭川駅の駅そば店は、駅弁も併売している

 士別駅フーズサービスささきの閉店によって、宗谷本線・旭川駅構内の「旭川駅立売商会 旭川駅構内コンコース売店」が日本最北の駅そばとなった。ただ、駅そばをカウントする基準によって、解釈が違ってくるかもしれない。

稚内駅併設の施設内にある「ふじ田」そば

 まず、日本最北の駅として知られる宗谷本線・稚内駅では、2011年の旧駅舎取り壊しまで、立ち食いスタンド「そば処宗谷」が営業していた。新しく開業したそば店(ふじ田)はトッピングの削り昆布がいい味を出している名店だが、改札からすぐとはいえ駅ではなく、駅併設の複合施設内にある。この店舗は厳密に言うと「日本最北の複合施設そば」「日本最北の駅前・駅チカそば」だ。

音威子府駅「常盤軒」そば・おにぎり

 2011年の稚内駅そば閉店後は、宗谷本線・音威子府駅構内の「常盤軒」が「日本最北の駅そば」となった。かつては駅ホームで営業していたものの、1989年(平成元年)には駅舎構内に移転。そばの実を甘皮ごとひいた黒い麺が特徴的で、全国有数の「駅そばの聖地」として訪問客が絶えなかった。

 しかし、常盤軒は2020年にコロナ禍で休業ののち、三代目の店主・西野守さんが84歳で亡くなったことで閉店。その後、音威子府村の観光協会とご家族の方の協力で「最後の営業」として2日間だけ復活したものの、麺を製造する「畠山製麺」の閉業によって、あの一杯は完全に幻となってしまった。

 しかし、畠山製麺と交流のあったという「ゲストハウスイケレ」(音威子府駅前)や「音威子府TOKYO」(東京都新宿区)などで、当時と同じではないものの、音威子府の黒いそばを味わえる。

留萌駅構内の「にしんそば」

 旭川駅(北緯43度45分49秒)よりわずかに北側にある、JR留萌駅(北緯43度56分33.68秒)の立ち食いそばスタンドは、2023年3月の鉄道廃止とともに駅ごと閉鎖され、現在は近くの「道の駅るもい」に移転している。

 北海道の駅そば店は個人経営が多く、ほかにも石北本線・遠軽駅「北一そば」も、店主の方が亡くなったことから2019年に閉店にいたったが、現在はクラウドファンディングなどで復活の動きがあるようだ。

札幌駅ホーム「弁菜亭」そば

 これらの駅そば店舗は概して営業時間が短く、なかなか食べることができないうちに突然閉店……といったパターンが多く、「次の旅行で寄りたい!」と思っていても、実食がかなわず閉店するような事態もしばしば起きる。「日本最北のホーム上駅そば」である札幌駅「そば処 弁菜亭」(5・6番ホーム、7・8番ホーム)も、数年後には北海道新幹線の工事による駅改築の影響を受けるかもしれない。

 北海道の旅の思い出を彩る駅そばは、お店が健在なうちに訪問し、実食することをお勧めする。