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ANA、「乾坤一擲」のハワイ線サービス拡充。自社ラウンジやエアバス A380型機について社長会見で説明

2018年5月30日 実施

ANAグループの定例社長会見では、エアバス A380型機の特別塗装機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」のモデルプレーン3種が並んだ

 ANAHD(ANAホールディングス)とANA(全日本空輸)は5月30日、ANAHD代表取締役社長 片野坂真哉氏、ANA代表取締役社長 平子裕志氏、ANAHD 広報・コーポレートブランド推進部長 髙柳直明氏が出席し、定例の記者会見を実施した。

 2018年度最初の記者会見ということで、両社社長は新年度の方針について言及。ANAHD代表取締役社長の片野坂真哉氏は「2018年度は5年間の中期経営戦略の初年度にあたる。安全と品質の総点検の2年目としてしっかりやっていきたい。改めて、安全がすべて、という意識をグループ全体に徹底するとともに、基本品質向上に向けて、サービス、安全対策、働き方改革と人材育成、未来に向けてのイノベーションと、4つの分野に投資を拡大して成長の加速に向けた基盤固めに取り組んでいく」と述べ、2018年度を中期経営戦略の遂行に向けた足下固めの年と位置付けた。

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏

 ANA代表取締役社長の平子裕志氏は、「安全と品質の総点検をテーマに、総合トレーニングセンターへの投資や、整備訓練専用機を使用した実地訓練の導入など人材育成への投資を積極的に進めていきたい」とし、ハワイ・ホノルル路線に投入予定のエアバス A380型機のサービスや、同日発表したダニエル・K・イノウエ国際空港への自社ラウンジ設置(関連記事「ANA、エアバス A380型機就航に合わせハワイ・ホノルル空港に自社ラウンジ開設。広さは『他社の倍』」)、先般発表のあったユニバーサルサービス拡充(関連記事「ANA、機内用の新型車椅子導入やローカウンター全国展開などユニバーサルサービス拡充」)、羽田~バンコク線の6月1日からの増便や、北九州空港への貨物定期便就航、働き方改革などについて説明。

全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子裕志氏

 同日発表の空港ラウンジについては、ANAHD 広報・コーポレートブランド推進部長の髙柳直明氏が、「日本国内のANAの自社ラウンジとは異なるコンセプトにしている。ハワイらしい色合いや素材をラウンジデザインの基調とすることで、ハワイの余韻に浸りながらも、日本らしい温かみのあるデザインを取り入れ、ANAならではの空間をおもてなしを実現する」と紹介。「ANA SUITE LOUNGE」「ANA LOUNGE」それぞれの概要を紹介した。詳しくは先述の関連記事を参照されたい。

ANAホールディングス株式会社 広報・コーポレートブランド推進部長 髙柳直明氏

ハワイ旅行の概念を変える「乾坤一擲」の投資

 今回の会見では、4月25日に発表されたエアバス A380型機の特別塗装機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」の色が異なる3機種のモデルプレーンも展示。出席した記者からの質問に答える形で、平子氏は「ハワイといえばJAL(日本航空)という概念を変えたいと思って、このような飛行機を導入する。『なぜこのようなサービスをするんだろう』という工夫をふんだんに盛り込んでいる」と、各種サービスを紹介。「今回は『乾坤一擲』。ハワイの概念を変えて、勝算をもっていきたい」と意気込みを語った。

 エアバス A380型機の機内については、ファーストクラス8席、ビジネスクラス56席、プレミアムエコノミー73席を2階(アッパーデッキ)に、エコノミークラス383席を1階(メインデッキ)に配置すると発表されている。

ANAが導入するエアバス A380型機の特別塗装機「FLYING HONU」
「ハワイの空」をイメージしたANAブルーの機体、
「ハワイの海」をイメージしたエメラルドグリーンの機体
「ハワイの夕陽」をイメージしたサンセットオレンジの機体

 このうち、ビジネスクラスについては、ANAで初めてペアシートタイプのフルフラット可能なシートを導入。さらにファミリー向けに「ANA COUCHii(カウチ)」と呼ばれる、エコノミークラスの複数席をベッドのように使えるシートを導入する。

 ここで導入される予定のファーストクラスについては、「ファーストクラスは意外に直前まで空いている。“ある日突然ハワイに行きたい”と思ったときに、これまでは90%以上のロードファクター(搭乗率)だったので、行きたくても行けないことがあった。お客さまによっては多少高くても行きたいときに行きたいというアベイラビリティを提供することで、ハワイのイメージを変えていく」と導入の目的を語った。

 また、アッパーデッキに設けられるプレミアムエコノミーについて、平子氏は「飛行時間が6~8時間と短い路線ではなく、長く感じるときもある。少しでも体を楽にしていきたいとき、“ビジネスクラスは買えないが、プレミアムエコノミーなら乗れる”というお客さまがいると思う。その需要を取り込んで、73席は埋められると思っている。(エコノミークラスの)ANA COUCHiiは、GWに東京・六本木でシートを展示するキャンペーンを行ない、非常に注目をいただいた。お値段の心配は聞いているが、興味をいただいていることには手応えを感じている」と話した。

 プレミアムエコノミーについては片野坂氏も「ハワイはレジャー路線の先入観があるが、建設業や水産業などの意外にビジネスのお客さまがいる。欧米と同様、エコノミークラスとビジネスクラスのの中間に乗る方が確実にいらっしゃるのではないか」と需要の見通しを述べた。

ANAが導入するエアバス A380型機のシートマップ
ペアシートのように利用できるビジネスクラスのシート
73席を備えるプレミアムエコノミーのシート
ベッドのように利用できるエコノミークラスの「ANA COUCHii(カウチ)」

 加えて、520席という座席の販売については、「これまでも搭乗率90%を超えており、いま現在も乗りたくても乗れないお客さまがたくさんいらっしゃる。マイレージ(の特典航空券を)使いたくても使えないという潜在需要もあると思うので、しっかり取り込んで行く」としたほか、旅行商品としてもパッケージ商品だけでなく、航空券と宿を柔軟に組み合わせられる商品などを提案して需要喚起を図る方針を示した。

 こうしたエアバス A380型機のデザインや機内サービスについて平子氏は、「思いっきり面白い飛行機を作ろうとプロジェクトチームを立ち上げ、いろいろアイディアを出し合った結果がこれ。従来ではあり得ないファーストクラスがあったり、カウチシートがあったりなど奇想天外なシートを導入している。主要ターゲットはファミリーやカップル。そうした方たちが利用しやすいということを大きなテーマとしてシートをデザインした」と総括。

 片野坂氏も「ワクワクするデザイン。ANAはスター・ウォーズ(の特別塗装機)など、わりとペイントが好き。3色のかわいらしい飛行機でチャレンジをするということでよかったと思う。率直な感想は、ハワイ路線における市場シェアが一挙に高まる。ボーイング 767型機、 787型機、ビジネスクラスではスタッガードシートのフルフラットと航空機をより大型で、より快適にしていっている」とハワイ路線を徐々に拡充していることへの期待を寄せた。

 また、この日発表のあったラウンジについて平子氏は、「ラウンジの面積のイメージでお答えすると、おそらく他社の広さの倍以上は確保している。自社で持つのは、飛行機同様に、乾坤一擲、このように投資した。これからのリゾート路線の象徴としてハワイにしっかり投資していくということ。内部の装飾やアレンジがしやすいことも含めて自社で保有することにした」と話した。

会見場にはダニエル・K・イノウエ国際空港に設置する自社ラウンジのイメージパネルを展示した

JALの中距離LCCについても言及

 3月22日に発表した傘下LCCのピーチ(Peach Aviation)とバニラエアの統合について片野坂氏は、当初の発表どおり「2019年度内統合に向けて具体的に動き出した。お互いの強みを活かして、統合後のピーチは2020年度を目処に中距離LCCへ進出し、機材50機、国内線国際線合わせて50路線以上の規模で、売上高1500億円以上を目標に掲げ、アジアのリーディングエアラインLCCを目指していく」と説明。

 この機材について、統合の段階でピーチ35機、バニラエア15機の計50機を統合するイメージとのこと。一方でパイロット不足に関する懸念については、「同じ飛行機(エアバス A320型機)なのでパイロットに大きな不安はないというのがベースにある」と片野坂氏は述べ、中距離路線、国際線に適合する新機材導入などに対するパイロットからの期待の声などがあることも紹介した。

 JALによる中距離LCC参入についての質問に片野坂氏は、「面白いと思った。間違いなくお客さまの選択肢が広がるので日本のLCC市場が活性化すると思う」との見方を示した。

 また国際線LCCが増加していることについては、「国際線LCCはこれから主流になり、アジアでも台頭していくだろう。しかし日本は特に羽田空港に発着枠の関係で参入できない事情があるので、LCCは成田や地方路線、FSC(フルサービスキャリア)はしばらくの間はカニバライゼーション(競合)がなく、共存していけるのではないか」とする一方、「6年前にピーチ、続いてバニラエアを作り、両社とも黒字になった。6年間で需要が高まったり、新規需要を生んだりもしたが、運航上のトラブルやパイロット不足などの苦い経験もしている。これまでのよいもわるいも実績を糧に頑張りたい。油断していると追い抜かれる」と気を引き締めた。

 このほか、福岡空港の民営化にあたり、同社が出資する福岡エアポートホールディングスが優先交渉権を得たことについて、片野坂氏が「確定に向けて進みたい」とし、「法律上、着陸料やテナント賃料を上げて利益だけを追求することに対しては注視される。就航する会社が増え、利用者が増え、というよい回転にするという視点で参画していくことになる」とし、(確定した場合は)航空会社、利用者双方に便利な空港を目指す方針であることを述べた。

 同じく国土交通省関係では、「持続可能な地域航空のあり方に関する研究会」において、ANAウイングス、HAC(北海道エアシステム)、天草エアライン、ORC(オリエンタルエアブリッジ)、JAC(日本エアコミューター)の5社を合併するという答申が出されている件についても質問が挙がった。

 このうちANAウイングスとORCはANAグループもしくは出資する企業となるが、片野坂氏は「中間答申から賛意を表明している。その意味は、需要が厳しく、補助金を支えとする地域航空は長期的に見て新しいスキームに移行していくべきだろう。地域や会社、グループを越えた取り組みで、困難なテーマだと思うが、安定的にネットワークを維持するためには、提案された内容に向かって、関係者が合意に向かって進んでいくべきではないか」と述べ、地元への配慮も交えつつ、航空会社としてスケジュール通りに進められるよう前向きに取り組む意向を示した。

 一方、ANAが出資するスカイマークについて、支援表明時にコードシェア(共同運航)を実施予定としていた件については、「スカイマークの利用率が高く、(ANAで航空券を売るという)ニーズがない」とコードシェアが実現していない理由を説明。出資会社として「業績がよいのでよかったと見ている」とした。

 このほか、原油価格が高騰傾向にあることについて平子氏は、「エアラインにとっては、非常に悩ましい問題。経営的には、一部の原油をヘッジをしており、国際線ではサーチャージを頂戴しているので、ある程度の影響は相殺される。夏場の時期のサーチャージの水準が固まるので、このなかで影響を注視していきたい」と説明。

 6月に発表される見込みの旅客向け燃油サーチャージの具体的な価格動向などには触れなかったが、「お客さまからするとサーチャージも運賃も高いという声を頂戴するかもしれないが、旅客、貨物ともに(航空事業全体が)好調を維持しているので、利便性や快適性を追求することで、しっかりANAに乗っていただけるように頑張りたい」と話した。