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ANA定例会見。出国税の空港整備活用への期待やハワイ市場の課題を語る

連結化したピーチは「異次元のマーケティング」が刺激に

2017年11月21日 実施

ANAグループの定例会見。出席者は左から全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子裕志氏、ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏、ANAホールディングス株式会社 グループ広報部長 髙柳直明氏

 ANAHD(ANAホールディングス)とANA(全日本空輸)は11月21日、本社において両社社長による定例記者会見を実施。ANAHD代表取締役社長 片野坂真哉氏、ANA代表取締役社長 平子裕志氏、ANAHDグループ広報部長 髙柳直明氏が出席した。

 会見では11月1日に発表した2017年度(2017年3月期)第2四半期の決算について触れ、ANAは国際線が堅調な需要に支えられたほか、国内線過去最高の搭乗率を記録するなど、すべての利益項目で同期過去最高の決算となった(関連記事「ANA、2017年度第2四半期決算は売上高、利益ともに過去最高。国内線利用率も過去最高)。

 また、LCCのピーチ(Peach Aviation)も9月に仙台拠点化などを進め、ほぼ全路線で高い搭乗率を記録。バニラエアも前年に競争が激化した台北路線で、イールドマネジメント(需給適合や価格設定などによる収益管理)を強化して競争力を回復。増収増益を達成した。

 ピーチについては今年度からの連結化となるが、片野坂氏は「独自性を邪魔しないという基本姿勢を考えながら、乗員養成や機材更新、安全性をサポートしていく」とし、加えて、過去にフォルクスワーゲンのピンクビートルを機内販売(関連記事「ピーチ、機内販売でフォルクスワーゲンの“ピンクのビートル”『#PinkBeetle Peach Edition』を5台限定販売」)したことなどに触れ、「ピーチのマーケティングはANAとは異次元の新しい世界。Instagramの活用などで若い世代を取り込んでおり、グループの成長のエンジンであることに間違いない」と、斬新なマーケティング手法に刺激を受けていると語った。

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏

 平子氏は上期のANAの取り組みなどについて紹介。8月に増便した羽田~ジャカルタ線については、日本各地からASEANの中心地へのビジネス渡航や訪日需要から好調に推移しているという。また、全席パーソナルシートモニターを搭載したエアバス A321neoの導入、新千歳の新ラウンジやチェックインカウンターの導入などを紹介。

 また10月30日に結果発表が行なわれた内閣府やJAXAなどと実施した宇宙ビジネスのアイデアコンテスト「S-Booster 2017」において、ANA社員の松本紋子氏のアイディア「超低高度衛星搭載ドップラーライダーによる飛行経路・高度最適化システム構築」が大賞を受賞したことに触れ、「日常の職場での課題認識から生まれたもの。革新性、世界の航空会社がユーザーとなる可能性、CO2削減効果などの社会的意義を鑑み、社長表彰した」と、その成果を讃えた。同件については片野坂氏も「グループを挙げてアイデアの事業化に向けてサポートする」と述べている。

 一方で平子氏は、昨今頻発している落下物事故に関してもコメント。日常の航空機点検における注意喚起を部門長から発したほか、11月10日から「落下物防止啓蒙活動」を開始し、ポスター掲示やメルマガでの情報発信や情報共有、優れた活動への表彰などに取り組んでいることを紹介した。

全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子裕志氏

 質疑応答では、2019年から総2階建て旅客機のエアバス A380型機を導入することが発表されているハワイ路線に関しての質問が挙がり、従来から発表されているとおりファーストクラス、ビジネスクラスの導入や、ハワイの市場特性に合わせた機内のハード面の充実を図ることが改めて語られたほか、ハワイ現地においても同機就航が初めてであることから、「(ホノルルの)空港当局も歓迎している。ダブルデッキに対応した搭乗橋の建設が予定されているほか、ラウンジも新しく開設する準備を進めている」と明かした。

 一方、これまでコードシェアなどの提携を結んでいたハワイアン航空が、JALとの包括的業務提携を締結したことなども踏まえ、「メインは(ホノルルがある)オアフ島だが、一定程度の人がハワイ島やマウイ島へ周遊するので、パートナーをしっかり確保するのが大事。(離島への)コネクションサービスは(A380型機)就航に向けての課題」(片野坂氏)との見解を示した。

 ちなみに、航空会社の提携について平子氏は、「シナジーが生まれることが大事。それによって利便性が生まれるか、2社がウィン・ウィンの関係になれるかが大事。ANAはスターアライアンスというグローバルアライアンスで経験を積み、ユナイテッド航空やルフトハンザ ドイツ航空とのジョイントベンチャーのような形態へ進んできた。(ジョイントベンチャーは)各局の独禁当局の審査をクリアしなければならないのでどこでもできるわけではないが、そのハードルの高さを考えると非常に競争力のあるもの。またベトナム航空へは望まれて出資しており、この関係がないと難しい。出資したから提携効果が生まれるのではなく、お互いにウィン・ウィンの関係を築けるかを見定めてやっていくのが大事」との考えを述べた。

 また、片野坂氏も「東南アジアは非常に動きが活発で、海外旅行も増えているので、その勢いを逃さないように、相手のニーズを踏まえてスターアライアンスと関係のないところへもパートナーとしてアプローチすることになるだろう。ベトナム航空との提携についてはミン会長(ファン・ノック・ミン氏)からも『ANAとのパートナーはウィン・ウィンである』とコメントがあり、非常にありがたい。その結果、ベトナムからカンボジアへもコードシェアをしていこう、とよい回転になっている」と、ベトナム航空とのパートナーについて述べている。

 旅客サービスに関しては、JALの国内線Wi-Fiサービス無料化などに対抗した、同社の取り組みについて平子氏が、「(インターネットへの接続は)衛星を通じてやっているが、容量に限界がある。現在は50%ほどの機材が搭載しているが、無料にしてしまうと皆さんがアクセスして通信できなくなってしまう可能性があり、ハード面で耐えられるかを検証している。投資をしっかりしたうえで、いずれ容量が大きくなってきたら、それなりのサービスをすべきとの議論はしている」と説明。具体的なサービスについては公表できるタイミングではないが、「楽しみにしていただきたい」とした。

 このほか、11月10日に観光庁の有識者会議で“1000円以内が妥当”との中間報告が出され、11月16日には自由民主党の観光立国調査会で「観光促進税」として“1000円”を徴収すべきと決議された、いわゆる「出国税」について、片野坂氏は「航空会社一律だと思うので、LCCは運賃水準から考えると影響が大きいのではないか」との見方を示したほか、使途について「日本の玄関である空港の環境整備に使われてほしい。例えば新しい技術でスムーズな入出国ができるようになるなど、航空旅客の利便向上が実感できるようなことへの使用を優先していただいて、併せて観光に資することに有効活用していただきたい」と希望を述べた。

 今回の定例会見は好調な成績となった2017年上期の決算を受けてのものとなるが、片野坂氏は「経営計画が成果を出している手応えはあるが、(世界経済、日本経済の好調といった)外的要因があると思っている。今年と来年は“安全と品質の総点検”と呼びかけている。引き締めていきたい」としたほか、平子氏はテロや経済変動などのリスクに対して「社内では運航リスクや保安リスクをなくしていくことに尽き、安全という基本品質を強固にしていくことになる。経済変動リスクに対しては、リーマンショック級の経済変動があっても耐えられるような財務体質を持つことが大事。財務体質はよくなってきており、安全に対してはコストをかけても徹底的にやっていきたい」との姿勢を示した。

 また、2020年の先を見据えた、エアライン事業の収益基盤確立やグループ会社の再編、AIや自動運転などの10年後の世の中の変化にどう対応していくか、などを盛り込んだ中期経営計画の発表に向けた議論を重ねており、2018年の早い段階で発表する予定であるとした。