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ANAHDとANA、定例社長会見で飲酒問題陳謝。平子社長「遅延発生の要因を未然に防ぐ方策を進める」

国内線新ラウンジや機内安全ビデオのリニューアルについても説明

2018年11月16日 実施

定例会見に臨席したANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏(右)と全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子裕志氏(左)

 ANAHD(ANAホールディングス)とANA(全日本空輸)は11月16日、ANAHD代表取締役社長 片野坂真哉氏、ANA代表取締役社長 平子裕志氏による定例記者会見を実施。同日発表した取り組みの説明などが行なわれたが、話題は10月25日に発生したANAウイングスのパイロット飲酒問題に集中した。

 10月25日に石垣島発のANA1762便(石垣8時10分発)に乗務予定であったANAウイングスのパイロットが、前夜の飲酒に起因する体調不良を申し出たために別の運航乗務員と交代。5便が遅延し、計619名に影響を与えた。飲酒に関する対応措置について、同日国交省へ報告を行なっている(関連記事「ANAグループ、パイロット飲酒問題に対する改善に向けた措置を国交省へ報告」)。

 片野坂氏は会見の冒頭で、「前日夜の飲酒により、別乗務員への交代となり出発を遅延させてしまった。ご搭乗いただいたお客さま、関係者の皆さまに、多大なご心配とご迷惑をおかけすることになった。ANAグループを代表して、心よりお詫び申し上げる」と謝罪。「改めてエアライン5社、ANA、ANAウイングス、エアージャパン、ピーチ(Peach Aviation)、バニラエアの航空従事者はもとより、グループ全役職員の安全の徹底、アルコールに関する教育の一層の強化など、安全の堅持と再発防止に努める」と語った。

飲酒問題で謝罪するNAHD 片野坂社長と、ANA 平子社長

 平子氏は同日国交省へ報告した内容を示すとともに、「あってはならない運航の遅延を生じさせたことに関し、大きな責任を感じている。信頼を取り戻すためには、このような事態は2度と起こしてはならないという強い覚悟でいる」とコメント。特に今回の件は、10月2日にパリ発羽田行きの便でパリ支店長がが機内で泥酔のうえ、乗客に怪我を負わせる事件があった直後ということで、「(10月2日の事案発生ご)すぐに社内的に飲酒の問題について注意喚起を行なった。そんななかで起きた。自覚や意識に対する覚悟が足りていなかったのではないか」という背景にも触れた。

 同日提出した報告内容を含め、対策については、「パイロットは2000名近くいるが、彼らはみんなプロ。自分たちが運航の責任を負う“ザ・ラストマン”の気持ちで運航しているが、その個人個人の力量、能力もさることながら、ANAあるいは関連会社の航空会社を含めた組織的な体制の強化も必要だと思っている、今回の再発防止策もそれに基づいたもの」と総括。

 特に、会見中に何度も触れたのが「コミュニケーションの強化」という点。「パイロットは個人の責任のなかで日々の運航を完遂しており、その責任は大変なものがある。フライトごとのストレスが大きいものであることは認識しており、だからこそ組織的な対応、コミュニケーションが大切ではないか。再発防止策では、呼気検査器の刷新に留まらず、パイロット1名1名に寄り添って、教育プログラムやカウンセリングも用意している」とし、「日ごろの同僚、上司と部下といった関係のなかで会話ができる文化の醸成を目指したい」と話した。

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏

 また、片野坂氏は組織の姿勢として、「規定を違反することもだが、結果的に交代要員がいなくてお客さまの便が遅れたのがもっともよくない。さまざまな対策を講じるが、グループ会社を束ねているので、ピーチやバニラを含めて、アルコールの基準の統一化などを進める」とし、「今回の件で組織の緩みがあると断言するつもりはないが、組織を点検しなければいけないと思っている。その強いきっかけだと感じている」と話した。

 ちなみに、片野坂氏によるとANAでは2008年に呼気検査器を導入するなど飲酒問題の対策を進め、近年は問題が大きく取り上げられることはなかったとする。一方で、国交省への報告内容をまとめた記事でもお伝えしたとおり、ANAでは乗務予定のパイロットの呼気中アルコール濃度基準値(0.1mg/L)超えが、羽田空港で過去5年間に8件発生している。この際はスタンバイしていたほかのパイロットが乗務することで運航に支障をきたすことはなかった。

 この点について平子氏は「運航に影響がなかったというだけで、アルコール問題は常日頃から大きな問題としている。運航に影響がなければよしとすべきではないのは確かだが、これまでの対策がそこそこ功を奏していたと考えられる。運航に影響がなかったという意味では表面化しにくい。パイロットの交代が発生したので、私どもでは内部的に調査を進めて対策している」としている。

 なお、今回は石垣空港という小規模の地方空港で起きたため、交代人員の手配に時間を要したことが遅延が発生した原因の一つになっている。飲酒起因に限らず遅延を生じさせないための対応について尋ねると、平子氏は「体調管理については定期的なヘルスチェックや、乗務するパイロット同士の相互チェックなどで健康状態をチェックするなどしている」と飲酒以外にもパイロットが乗務に支障を来たさないような対策は現在も行なっていることに触れたうえで、「地方の特に小規模な空港にスタンバイ要員を配備するのは難しい状況。そのため、そういったこと(乗務できない事態)があると便の遅延につながる可能性が高くなる。そうならないよう未然に防ぐ方策をやっていくのが私どもの方針」とし、飲酒以外の理由も含めてパイロットが予定便に乗務できない事態が発生してしまった場合の対応の変更については現時点で打ち出していない。

隈研吾氏監修の国内線ラウンジを伊丹、福岡、那覇へ展開。機内安全ビデオもリニューアル

 定例会見ではこのほか、両氏がANAグループやANAに関する直近の話題を説明した。

 片野坂氏が紹介したLCCのピーチ、バニラエアの統合については、先般発表(関連記事「バニラエアの新社長にピーチの井上慎一氏が内定。2019年度の両社の統合に向けて」)があったとおり、ピーチCEOの井上慎一氏がバニラエアの社長を兼務。ANAHDが保有するバニラエアの全株式をピーチに売却する。また、機材については2019年春より順次、機体の塗装と改修を進めるとしている。

 また、ロールスロイス製エンジンの点検・整備については12月から改良型ブレードの供給が始まることで影響を最小限に留められるとし、ロールスロイスとは補償交渉を開始したことを明らかにした。

全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子裕志氏

 平子氏は、2019年2月17日の羽田~ウィーン線開設について言及。ANAとして欧州7番目、世界44番目の就航都市となり、欧州便は7路線/週112便に拡大することになる。「ウィーンは中東欧のゲートで、共同事業パートナーであるルフトハンザグループのオーストリア航空便へ乗り継ぐことで、欧州各都市へのスムーズなアクセスが可能。羽田の深夜枠を活用し、ほかの欧州路線と合わせて移動の選択肢を増やし、利便性を向上していく」と紹介した。

 続いて、16日に発表したANAの国内線ラウンジの刷新についても紹介(関連記事「ANA、伊丹/福岡/那覇空港の国内線ラウンジをリニューアル。2019年2月から順次オープン」)。隈研吾氏監修による国内線の「ANA SUITE LOUNGE」「ANA LOUNGE」を、2019年2月以降順次、伊丹空港、福岡空港、那覇空港に展開するというもの。平子氏は「搭乗前の貴重なお時間をゆっくりくつろいでいただくための特別な空間」と話した。。

 また、同日発表のあった機内安全ビデオについては、「機内での安全に関わる大切な情報を、より分かりやすく、また、すべてのお客さまにご興味を持ってみて視聴いただけるよう、日本の伝統芸能である歌舞伎をテーマに刷新した」と説明。国内線で12月1日から、国際線で2019年1月1日から上映を開始する(関連記事「ANA、機内安全ビデオを『歌舞伎』テーマにリニューアル。日本らしさを伝えるとともに興味を引く演出に。降機時にはメイキングビデオ上映」)。