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ANAグループのLCC、ピーチとバニラエアの統合発表会見。ブランドはピーチを継承

路線の重複も少ない2社の強みを集結

2018年3月22日 発表

ANAグループのLCC、ピーチとバニラエアが2019年度末を目処に統合。会見に臨む(左から)Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO 井上慎一氏、ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏、バニラ・エア株式会社 代表取締役社長 五島勝也氏

 ANAHD(ANAホールディングス)は3月22日、傘下のLCCであるピーチ(Peach Aviation)とバニラエアの経営を統合することを発表した。統合プロセスを2018年下期に開始し、2019年末を目処に新体制とすることを目指す。統合はピーチを基盤としたもので、「ピーチ」ブランドを継承する。

 3月22日に行なわれた記者会見には、ANAHD 代表取締役社長 片野坂真哉氏、ピーチ 代表取締役CEO 井上慎一氏、バニラエア 代表取締役社長 五島勝也氏が出席。

 ANAHD社長の片野坂氏は、統合の目的を「今後の国内における新規需要開拓、旺盛な訪日需要を獲得していくためにも、小型機事業の拡充や中距離LCC事業への展開を、スピード感を持ってやっていくことが、ANAグループの将来の成長のためにも必要」と説明。

 これまで、ピーチとバニラエアはそれぞれに独自のマーケティングを展開してきたが、「ANAHDとしては、これまで同様LCC事業に関しての経営の独自性を尊重する。そのうえでピーチ、バニラ両社の強みと人的リソースを結集させ、統合後のピーチと、フルサービスキャリアのANAという、ANAグループ全体でさまざまなお客さまのニーズに合ったサービスを提供して、収益の最大化を目指す」とした。

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏

 経営の独自性について、ピーチCEOの井上氏は、「(ピーチは)ブランドが一程度確立しており、ANAとは違う顧客層を持つ。女性が約6割で、年齢層も20~30代が56%。ANAと同じようなブランドにしたら離れてしまう。これはANAホールディングスの企業価値に資することにならない」とし、これまでどおり独自のマーケティングを進めていく意向だ。

 2社の統合発表がこの時期になったことについて片野坂氏は、「両社とも業績が堅調」「訪日外国人増加の潮流が強い」「地方創生ということで日本全体が地方を活性化させたいという機運が盛り上がっている」という3点を挙げた。同氏は2017年度のピーチ連結子会社化のころから統合を考えていたというが、2017年秋にピーチ井上CEOからLCC市場について話を受けたことで進展したという。

 そのきっかけの一つが、ANAグループが2月に発表した2018年~2022年の中期経営戦略に含まれる、2020年を目処とする傘下のLCCによる中距離国際線路線への進出計画である。井上氏はピーチ単独での中距離国際線に2025年度ぐらいの参入を考えていたというが、「単独でやっていては間に合わない。(統合により)前倒しで行なって激しい競争に生き残るために一緒にやっていく」と話す。

 また、東京オリンピック・パラリンピックを2020年に控え、海外LCCを含めた競争環境が激化。特に成田を拠点とするバニラエアの代表取締役社長 五島勝也氏は「成田は本邦LCC同士の競争に加え、海外LCCやフルサービスキャリアとの競争が激化。成長するために双方のリソースを統合し、スケールメリットで競争力を高め、効率的事業運営を行なうことが重要」とし、「(統合することが)アジアのリーディングLCCへの近道。高い目標を目指すということでモチベーションを感じている」と話した。

Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO 井上慎一氏

 ブランドが消失することになるバニラエアについて片野坂氏は「台湾路線という主力の戦場で一度勝利し、その翌年に一度苦しくなったが生き延び、再び台湾路線への主力となった。主力の戦場で勝ち残る経験をしたのは大きい。また、奄美大島路線についても新規需要を開拓した」と評価。

 五島氏もバニラエアの特徴として、「成田~台北線の便数シェアは1位。3月に就航する福岡~台北線就航により1日5路線8便に拡大する」「鹿児島の奄美大島路線は、就航前後で首都圏からの訪問者が倍増。経済効果を地元では“バニラ効果”といわれ地域創生に貢献した」と説明している。

バニラ・エア株式会社 代表取締役社長 五島勝也氏

 統合については、2018年度下期から段階的に実施し、2019年末を目指す。事実上ピーチがバニラエアを吸収合併する形となり、ピーチは関西(大阪)、バニラエアは成田を拠点としているが、井上氏は「大阪は離れません!」と本社は関西に置くことを強調。ただし、バニラエアが持つ首都圏を中心としたネットワーク(路線網)、市場を活かすべく、大阪からの出張という非効率性を解消するために本社機能の一部を東京に置く選択肢も検討している。

 今回の発表では、統合後の2020年度に50機以上の機材保有、売上高1500億円、営業利益150億円の規模を目指すという目標が掲げられているが、この数字は、統合によって2社のネットワークが足されることによる収益面の向上、機材や施設などの効率化などによる計算できるコスト削減や、ピーチが持つ連続式耐空証明をバニラエアの機材にも適用できるようになる可能性によるコストの削減、逆に機材増などに伴うコスト増などを含めたものとした。中距離国際線参入にあたっては、そのための人員も必要になるとしている。

 ネットワークについては、現在、ピーチが国内線15路線と国際線14路線、バニラエアが国内線6路線と国際線7路線を有しているが、重複するのは3路線のみ。ピーチには関空、那覇(沖縄)、仙台、新千歳(札幌)といった日本全国をカバーする国内拠点の充実ぶりや訪日需要の取り込み、バニラエアには首都圏に市場を持つことや充実した台湾路線など国際線運航経験が豊富であるといったそれぞれの強みがあり、そのまま足されることによる効果への期待は3社長が口を揃える。

 ただし、新体制後のネットワークについては、中距離国際線路線の件も含めて検討中としており、井上氏は「顧客利便性をまず考える。そしてLCCの生命線である機材の稼働効率、就航先との関係などを総合的に考える」と説明。バニラエアが加盟しているLCCによる航空連合「バリュー・アライアンス」についても継続は未定とし、統合後の市場やネットワークに応じて提携先を検討するとしている。

 予約などのシステムについては、ピーチのものをそのまま使用する計画で、ANAとの統合は考えられていないという。そのほか、マイレージプログラムなどの営業面においては、「コストが上がらないことを前提にいろいろな知恵を出し、シナジー効果を出すことを考えていく」(井上氏)とし、現時点では具体的なことは明かされなかった。