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羽田空港の制限区域内で実施中の自動運転バスの実証実験。磁気マーカーで位置認識。将来は乗客輸送も

愛知製鋼、SBドライブ、先進モビリティ、ANA、NIPPO、NECの6社が協力

2019年1月15日~25日 実施

2019年1月22日 公開

愛知製鋼、SBドライブ、先進モビリティ、ANA、NIPPO、NECの6社が羽田空港の制限区域内で自動運転バスの実証実験を実施

 愛知製鋼、SBドライブ、先進モビリティ、ANA(全日本空輸)、NIPPO、NEC(日本電気)は1月22日、羽田空港で実施中の制限区域内での自動運転バスの実証実験を報道公開した。1月15日~25日に実施しているもの。

 この実証実験は、関連記事「ANAやSBドライブら6社、羽田空港の制限区域内で自動運転バスの実証実験。1月15日~25日実施」でも紹介したとおり、国土交通省の航空イノベーション推進の一環として行なわれているもの。2018年12月から全国4空港で、8グループが実証実験を実施するものの1つとなっている。

国土交通省の公募に応えた8グループが全国4空港で実証実験を実施する

 実証実験の公開にあたってあいさつした、国交省 航空局 航空ネットワーク部 空港技術課 空港施設企画調整官の長谷川はる香氏は、「インバウンド増大をはじめとする航空需要拡大、各国の空港リニューアルなどによる競争激化、テロなどのセキュリティ脅威、生産年齢人口の減少に伴う人手不足といった、さまざまな航空輸送業界の課題が出てきている。その課題に対応しつつ、利用者目線で世界最高水準のサービスを提供するために、国交省航空局では自動化やロボット、バイオメトリックス、AI、IoT、ビッグデータなどの先端技術やシステムを活用して、航空業界のイノベーションを推進していく方針を打ち立てている」と、「航空イノベーションの推進」の背景に言及。

 なかでも、官民が連携すべき取り組みの一つとして挙げたのが「地上支援業務(グランドハンドリング)の省力化、自動化」で、制限区域内の自動走行車両の実証実験も、この課題解決に向けたものとなる。実証実験と今後については、「2018年度内に結果をとりまとめて、有識者委員会で空港内の自動走行実現に向けた課題を抽出し、目標としては2020年までに国内空港のどこかで自動走行を実現させたい」との目標を語った。

国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 空港技術課 空港施設企画調整官 長谷川はる香氏

 1月15日から実施している実証実験のグループメンバーのうち、空港で業務を行なう事業者の立場となるANAからは、空港センター業務推進部 企画チーム リーダーの山口忠克氏が同社の目標について説明。「さまざまなイノベーション推進を通じて、人と技術の融合や役割分担、シンプル&スマートな空港オペレーションを実現したいと考えている。お客さまにとってシンプル&スマートなサービスをどう提供するかという側面と、私どもがいかにシンプル&スマートな働き方をするかという点がある」とし、なかでも人手をかけた労働集約型の業務が多いグランドハンドリング業務への新技術導入に取り組んでいる。

 その例として、PBB(旅客搭乗橋)の自動化、荷物のコンテナへ積載する業務の自動化や効率化、重い荷物を運搬する作業の負荷軽減、飛行機の牽引を行なうトーイングトラクターの効率化などを挙げている。実際、2018年8月から飛行機のプッシュバック作業を電動車両で行なう実証実験(関連記事「ANA、飛行機の移動・牽引をリモコン操作。新技術の実証実験を羽田空港で公開」)も実施している。山口氏は、こうした取り組みを行なう目的として、「労働集約型を維持したまま便数を増やすのは無理だと思う。より少ない人数で1便を飛ばす仕組みへどう変えるかを真剣に考えなければならない」とも語る。

全日本空輸株式会社 空港センター業務推進部 企画チーム リーダー 山口忠克氏

 そうしたなかで行なわれる自動運転車両の実証実験について、「羽田空港を中心に首都圏空港の発着枠拡大で生産量が増える、それに伴い空港内の車両台数が増えることも見込まれる。一方で、運転手不足が重要な課題になってきているのも事実。自動化と車両の見える化を通じて、車両の稼働率を上げる、あるいは適正配置を進めるなど、自動化によって運転手の省人化を図っていきたい」と、目的を説明した。

 また、空港の制限区域内という環境については、人や自転車などの飛び出しがない、制限速度が30km/hと比較的低速といった特徴があり、「自動走行車両が有人車両とどう共存していくかということを試していく最適なフィールドではないかとも考えている。有人車両と無人車両の融合に向けて、既存ルールをどう変えるか、どのような新しいルールを作っていくかというところでも積極的に発信していきたい」との狙いも述べている。

 ちなみにANAでは、2018年2月に制限エリア外となる新整備場地区で、運転手を乗せない状態での自動運転バスの実証実験を行なっている(僚誌Car Watchの記事「【無人自動運転映像掲載】ANAとSBドライブ、羽田空港新整備場地区でレベル4相当自動運転の実証実験に成功」参照)。今回の実証実験はそれを踏まえたものとしており、「2020年以降、オリンピックもあるので、なるべく早期に空港における自動運転バスの実現をANAグループとしては目指したい」と意欲を示した。

ANAが進める地上支援業務のイノベーション
自動運転については2018年2月に新整備場地区で実証実験を実施しており、今回はフェーズ2の位置付け

磁気マーカーによる自己位置推定と、遠隔操作によるブラスト回避

SBドライブ株式会社 企画部 部長 坂元政隆氏

 全社を代表して実証実験の内容を説明したSBドライブ 企画部 部長 坂元政隆氏は、「これは単発の実験ではなく、2020年に見据えた大切な一歩。2020年以降、実際に羽田空港の内外で、自動運転車両を走らせる目標を掲げている」とし、各社の役割や技術の概要を紹介。

 今回の実証実験は、いわゆる「自動運転レベル3」と呼ばれる運転席に運転手がいる状態で自動走行を行なうものとなる。空港の事業者に自動運転車両を受け入れてもらえるか「受容性の検証」、PBBや特殊車両があるなかで自動走行が可能かどうか「技術的な検証」、空港の安全管理規程に合致した状態で自動走行が可能かどうか「走行環境・規制の検証」を主な検証項目として取り組んでいる。

 車両は、先進モビリティの自動運転制御技術や、SBドライブの遠隔監視システム「Dispatcher」に対応させた「日野ポンチョ」ベースの小型バスを使用。このバスは、2018年2月に新整備場地区で実施した際に用いたものと同じ車両となる。

2020年に空港や空港周辺で乗客輸送を自動化することを目標としたロードマップ
各社の役割
主な検証項目
自動運転に用いる「日野ポンチョ」をベースに先進モビリティの自動制御技術や、SBドライブのDispatcherに対応させた小型バスを使用
自動運転技術を盛り込んだ日野ポンチョベースの小型バス
車両前方に取り付けられたLiDAR(ライダー)やミリ波レーダー
前方のカメラは障害物検知用のほか、遠隔監視システム「Dispatcher」で使用するものも装着されている
車外に取り付けられているDispatcher用カメラや障害物検知用のLiDAR
車内
車内のカメラ。Dispatcherによって遠隔でモニター可能
運転席まわり
ハンドルを動かすためのモーター
自動走行制御システムやDispatcherからの情報を表示する運転席用のディスプレイ
NVIDIAのDrive PXを使用した先進モビリティの自動走行制御システム
Dispatcher用のシステム
バッテリ

 走行するのは、2018年12月10日に供用が開始されたサテライトターミナルと、国内線第2ターミナルを結ぶ片道約600m。ここは現在、リムジンバスが5分間隔で運行しており、これを置き換えるという視点での検証となる。

今回の実証実験の走行ルートと、空港制限区域内に特有の課題
走行ルート上の「難所」と、その課題解決策

 空港の制限区域内での自動運転車両の走行の特殊性に対応する技術として、大きく2点が挙げられた。

 1つはGPSが遮断される環境での走行に対応するという点。坂元氏は「空港はお客さまの移動をより自由にするために、移動スペースが2階に確保されていて、1階部分にひさしなどがあり、GPSが受信できない。GPSは位置精度が高いRTK-GPSを使用しているが、衛星からGPS情報を得る点は同じなので遮蔽物があると使えない。道路側に磁石を埋めて磁気マーカーシステムを活用する」と紹介。この自動走行技術では自車の位置を自己推定して、それに応じて動作を決定するというプロセスになるが、GPSとの通信が遮断されると、ほかの技術を用いて自己位置を推定する必要がある。そこで利用するのが磁気マーカーシステム(磁気ポジショニング・システム)である。

 磁気マーカーシステムとは、道路側に埋め込んだ磁力を持つマーカー(要するに磁石)を、車両側に取り付けたセンサーで読み取らせて道路上であることを認識する技術。ここでは愛知製鋼の技術を用いている。

 磁気マーカーは直径3cmで、GPSが遮断されるエリアに対し、通常は2m間隔、カーブでは1m間隔で埋設。NIPPOの施工により、総延長約250mに200個弱のマーカーを3日間かけて埋め込んでいる。さらにGPSは途切れてから復帰するまでに一定のタイムラグがあることから、GPSが遮断されるエリアの前後にもある程度の位置までは磁気マーカーを埋設している。

 この磁気マーカーシステムについて坂元氏は「30年ほど前からある技術だが、実用化されていなかった。理由の一つが、センサーモジュールの感度にあり、これまでは地面に埋める磁石を強くするためにコストが高かった。愛知製鋼は携帯電話の部品などで使われるMIセンサー、すなわち超高感度磁気センサーを用いて、比較的弱い磁力を読み取ることに成功した。施工も簡便になり、画期的なコストダウンを実現している」と説明。約1.2mのセンサーモジュールをバス底面2か所に取り付けている。

愛知製鋼が開発した従来技術から大幅なコストダウンを実現した磁気マーカーシステムにより、GPSが遮断される環境においても自己位置推定を可能とする

 愛知製鋼によると、マーカーそのもののコストは従来品の「100分の1以下」とのことで、さらに道路の修繕時なども「捨てた方が安い」「(マーカーが小さいので)アスファルト処理の過程にある砂鉄を取り除く作業で取り外せる」という施工コストの面でもコストダウンを図れるという。

 また、センサーについても極めて微弱な磁力も検出できる。例えば、大型トレーラーが横を走る、鉄橋を走行する、自車の運動などで発生する磁気変化も検知するレベルだという。そこで、形が決まっている磁気マーカーが発する磁気分布以外には反応しないようなアルゴリズムを組み込んでいる。

 ちなみに、今回は直径3cmの磁気マーカーを埋め込んでいるが、道路表面に貼り付けて使用する、より安価なシートタイプの磁気マーカーも用意している。空港ではエンジンへの異物混入などを避けるため飛散物を発生させるのは厳禁であることから、今回は埋設を選択している。効率的に埋設する技術を持つというNIPPOによると、今回はアスファルトへの施工となったが、コンクリートへの埋設も可能とのことだ。

 さらに、NECが開発協力し、RFIDセンサーを取り付けた磁気マーカーを新たに採用しているのも大きな特徴となっている。これは約1京個分のユニークなIDを割り振れる仕様となっている。電力は車両側から無線で給電するとともに車両からIDを送るよう指示を出し、IDを受け取る仕組みとなっている。このIDを識別することで、さらに正確に位置を特定できるようになる。先述のシートタイプの磁気マーカーにもRFID付きのタイプを開発している。

 愛知製鋼では、「人の命を預かる自動車なので、一つのシステムではどのシステムでも無理ではないか。我々としては(同社の磁気マーカーシステムが)一番精度が高く、信頼性が高いシステムだと思っているが、これも含めて二重、三重のシステムを作るのがあるべき姿だと思っている」とし、複数の自己位置推定技術の一つとして活用してもらうことを狙う。

新たに開発されたRFIDタグ付きの磁気マーカーを採用
愛知製鋼が開発したMIセンサーを利用した磁気センサー。車体底部に2個取り付けられている
道路に埋設した磁気マーカー
埋設のイメージ
埋設されているRFID付きの磁気マーカー
奥が従来型の磁気マーカー
今回の実証実験では使用していないシートタイプの磁気マーカー

 空港制限区域内でのもう1つの課題は、エンジンのブラスト(ジェットエンジン後方への排気)への対策だ。空港の安全管理規程では飛行機の後端から100m以上離れることが定められているという。

 ここでは、自動運転車両の遠隔監視を行なうSBドライブのシステム「Dispatcher」を活用している。これは車内5か所、車外7か所に取り付けられたカメラのライブ映像が遠隔の監視室へ送られ、複数の自動走行車両を管理できるシステム。例えば、車内の映像から走行中に乗客が立ち上がったことなどの異常検知してアラートを発することもできるほか、遠隔で車両内へ放送を行なうこともできる。

 Dispatcherを利用したブラスト対応は、このDispatcherを通じた遠隔監視者による判断によって走行許可を出すものとなる。走行ルートの途中にあるブラストが影響するエリアの前後には「ブラスト停止線」が引かれており、そこで必ず一時停止するようプログラムされている。ここで遠隔監視者がブラストの影響がないと判断すれば発車の指示を出すようにしている。

 なお車両からの映像はLTE回線を通じて送信されており、遅延は1秒未満とのこと。LTE回線が一程度(2018年2月の実証実験時は3秒)途切れた場合は、車両が自動的に停止するようになっている。

 なお、今回の実証実験においてのブラスト判定は、この遠隔監視者のみが判断しており、熱などの検知は行なっていない。SBドライブの坂元氏は「いろいろな選択肢を模索している」と話し、車両だけでなく空港インフラ側へのセンサー類設置なども含め、将来的には新たな手法の追加導入も検討する意向を示している。

SBドライブがレベル4自動運転に向けて開発した遠隔監視システム「Dispatcher」を用い、ブラストの有無を人が判断し、遠隔で発車指示を送る
Dispatcherを用いて遠隔監視している様子
Dispatcherを用いたブラスト対策の流れ
Dispatcherの画面イメージ
ブラスト停止線で一旦停止した状態(写真左)で、遠隔監視者が問題ないと判断したら発車指示を出す(写真右)
地上スタッフ向けのスマホアプリも開発
Dispatcherでは車両の走行状態や、車内の人の移動、車両位置追跡など、レベル4の自動運転時代を見据えて、1人で複数台の遠隔監視を行なうための機能を盛り込んでいる

 実際の走行の様子については写真や動画をご覧いただきたいが、各ターミナル到着後から折り返しの出発までの間は運転手が手動で運転、それ以外を自動運転で走行するものとなっている。これはUターン位置の申請など事務上の手続きの問題で、技術的には全行程を自動化することも可能とのことだ。

 自動走行中、運転手はハンドルにすぐ戻せる位置で完全に手を離していることが分かる。そして停止位置へスムーズに走行する様子が見て取れる。ちなみに今回乗車はしていないものの、GPSによる位置推定を行なっているエリアと、磁気マーカーによる位置推定を行なっているエリアとでは、乗り心地に若干の差があり、敏感な人はGPSの方がスムーズに感じられるという。この点について先進モビリティの担当者は、「今後、制御技術を磨いて、滑らかに走行できるようにしたい」と話している。

自動走行中は運転手がハンドルからわずかに手を離している
自動走行の様子
SBドライブが公開した自動走行中の車内映像

 当誌では、2018年12月17日~19日に鴻池運輸とZMPを中心としたグループが成田空港で実施した制限区域内での自動運転車両の実証実験もレポートしている(関連記事「成田空港の制限区域内で自動運転車両の実証実験スタート。鴻池運輸とZMPが実施」)。

 今回の羽田空港の実証実験では、空港側に磁気マーカーを埋設するという初期コストが発生するというデメリットはあるが、「走行のロバスト性(環境に対する耐性/影響の受けにくさ)、確実性が高い。磁気は雨が降っても積雪があっても可能」などの優位性を述べる一方、「今後、磁気マーカーだけなく多重系で走行させることも検討」(SBドライブ坂元氏)と、先述した愛知製鋼と同様、複数の方法を盛り込んでいく方向性を示している。

 今回の実証実験を受けて、ANAの山口氏は「安全を担保しながらいかに確実に走れるかを検証しながらステップアップしていきたい」と話し、従前より認識されていたGPS電波受信の問題のほか、「空港のなかは制限速度最大30km/hだが、一般道と比べて加速度が高く、全体がキビキビしている。そういった車両との関係性をどうするか」と、実証実験で浮かび上がった課題があることなどを紹介。

 導入目標は2020年を見据えており、「(オリンピックなどで)諸外国から来る多くの方にANAブランドを認識していただきたいし、日本の先進技術に触れていただくことになんとかチャレンジしたい。(2019年の)1年間も実証実験をしたいと思っており、一歩一歩進みたい」とコメント。

 今回のシステムをそのまま導入した場合は、運転手に加えて遠隔監視者を増員する必要があるが、「いきなり省人効果を出すのは難しい。例えば、運転免許を持たない人が保安要員として乗車するという段階を経てレベル4へ進むなども考えられる」と話す。航空の現場は規制が多いほか、信頼性や確実性を重視する傾向が強いこともあり、「物事が大きく変わる機会があまりない。そのために風穴を開け、意味や需要などを認識してもらうというステップが必要」と、レベル3の段階でも導入には前向き。

 また、旅客も含めて「いきなり(無人のレベル4)は抵抗感があると思う。レベル3で安全が担保されているという実績を積み上げ、ステークホルダーの理解を得ながら進めていく必要がある」と、先述のとおり“一歩一歩”進めていく意向を示している。

 導入空港については、「さまざまなGSE車両(地上支援業務に携わる車両)があるので、自動走行という広いくくりでは羽田空港が最初になるとは限らないが、バスについては羽田空港を最初のターゲットに進めたいと考えている」とし、まずは乗員を乗せることからスタートすることを視野に入れ、のちのちは旅客を乗せての利用へと進めるとの方向性を示した。