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成田空港の制限区域内で自動運転車両の実証実験スタート。鴻池運輸とZMPが実施
国交省の公募に応えた8グループが12月から全国の空港で実施
2018年12月18日 11:47
- 2018年12月17日~19日 実施
鴻池運輸とZMP、NAA(成田国際空港)は、成田空港内の制限区域内において、自動走行車両の実証実験を12月17日~19日に実施する。国土交通省 航空局が6月26日に公募した「空港の制限区域内の自動走行に係る実証実験」に鴻池運輸とZMPが共同で応募、選定されたもの。NAAの協力を得て、同空港内での実証実験が行なわれることになった。
インバウンド増加などに伴う昨今の航空旅客需要拡大に対し、生産年齢人口の減少による労働力不足が課題となるなか、国交省では2018年1月に「航空イノベーション推進官民連絡会」を立ち上げ、そのなかでグランドハンドリングなどの地上支援業務について官民が協力し、自動化、AI、IoTといった先端技術を使って航空関連業務を効率化する航空イノベーションの推進を図っている。
その取り組みの一つが今回の空港の制限区域内での自動走行の実証実験となる。6月22日に公募を開始(関連記事「国交省、ランプバスなどの自動運転化に向けた『第1回 空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会』実施」)。その後、応募があった企業グループから8グループを選定し、12月から順次実証実験を開始することになった。今回の実証実験にあたってあいさつを行なった国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 空港技術課 空港施設企画調整官の長谷川はる香氏は、「今年度(2018年度)内に8グループの結果をとりまとめ、行動とは環境が異なる実際に自動走行するうえでの課題を実証実験のなかで抽出する」と、12月から始まった実験の目的を説明した。
実験の実施グループの1社である鴻池運輸からは、新事業開発本部 副本部長の和田山安宏氏があいさつ。1880年創業の歴史ある企業で、全国6空港において地上旅客業務、グランドハンドリング業務などの請負を行なっており、航空会社系を除いては国内最多の従業員が空港で業務をしているという。今回の取り組みでは、実証実験の実施にあたって統括的な立場となる。
航空需要拡大に対して従業員のさらなる雇用は必要になるが、「そのなり手がいない」ことが課題となっていることから、空港業務の安全性確保や、特殊技能の習得は前提としたうえで、省人化することで対応していきたい考え。
ZMPとの取り組みついては、同社は鉄鋼業や飲食品の工場などの請負も行なっていることから、「重労働が多い。例えばロボットの導入や、自動搬送機の導入など、いろんなスタートアップの会社とディスカッションして、取り組みをやっている。そのなかで、新しい若い会社であるZMPと組むことに違和感はない、時代の最先端をいく会社と組むことは我々にとっても大きな意義がある」とした。
鴻池運輸とZMPのグループが成田空港を実証実験の場所に選んだことについて和田山氏は「我々は6つの空港サービス展開しており、なかでも成田空港と関空(関西国際空港)が大きなセグメントとなっている。今回、(国交省が提示した実験フィールドに)関空が入っていなかったので、成田空港は自然な選択」と説明した。
もう1社のZMPは自動運転技術を持つ企業となる。取締役の市橋徹氏は、「ZMPは自動運転やロボットを核として事業を行なっている。技術を使って社会の役に立ち、社会的に意義のあることをやることで、それが事業につながると考えている。国内はもとより、グローバルで130年以上やっている名門企業(の鴻池運輸)と組んで、空港のイノベーションにチャレンジできるのはありがたいチャンス」と話した。
同社では、2008年から自動運転技術の開発に取り組み、2014年からは神奈川県と愛知県で公道での自動運転をスタート。その後は東京都内でも公道での自動運転に取り組み、2017年度には日本で初めて、ドライバーが乗らず、遠隔で監視をした状態での自動運転の実験を公道で実施。
さらに、2018年8月には世界初となる自動運転タクシーの営業サービスを実施。乗客は募集に応えた人ではあるが、実際に料金を支払ってのものとなった。東京・大手町~六本木間でサービスを行ない、歩行者が多いなど複雑な環境のなか、のべ約500kmを無事故で終えることができたという。
今回の実証実験では、JASCO(日本空港サービス)のスタッフが第1ターミナルと第2ターミナルを往来する車両を自動走行で輸送する。距離は往復で約2km、所要時間は往復15分。JASCOによると1日10往復ほどする日もあるとのことで、運転手の業務量としては少なくないとのこと。この業務の省力化を図る。
使用するのは、同社が公道実験でも用いているトヨタ自動車のエスティマをベースとした自動運転車両「RoboCar MiniVan」。前方、後方に2D LiDAR(ライダー)、上部に3D LiDARとGPS、運転席前方にステレオカメラと単眼カメラを2台搭載しており、主にLiDARとカメラが捉えた情報をベースに、自律運転を行なう車両となっている。
基本的なシステムは同社の自動走行の制御ソフトウェア「IZAC」を用いており、走行するエリアの地図情報をソフトウェア側に登録しておき、LiDARとカメラが捉えた映像と照合して位置を認識、自動走行を行なうものとなる。
ただし、空港での実証実験にあたり、空港内の走行ルールなどに準じた走行を行なうようにしているほか、トーイングトラクターの後方に連結するパレットやコンテナを載せるドーリーについて、コンテナなどが載っていない状態の薄いドーリーを車両として認識させるためのアルゴリズムなどを加えているという。
そうした空港独特の特性やルールはあるが、実証実験の概要を説明したZMP プラットフォーム事業部長の龍健太郎氏は、「制限区域内ので自動運転を行なうのは初めてなので、その課題を抽出したい。特に『実用化』の部分が大きいと思っている。空港環境は公道とはルールなども違うが、子供が飛び出すようなことのないクローズドな環境。実用化しやすい領域」と話し、早期の実用化によりインバウンド増や航空需要増大に対応したいとの考えを示した。
今回の実証実験では、グランドハンドリング業務に従事するスタッフの移動用車両を自動走行するものとなるが、同社では現在、RoboCarのEV(電気)バス版となる「RoboCar EV mini Bus」の開発も手がけており、市橋氏は「次は乗客の移動も手がけたい」とし、荷物の運搬を行なうトーイングトラクターや自動運転トラックなども視野に入れている。
ただ、ランプ(駐機場)サイドでの作業車両については、飛行機のエンジンが動作中に後方に排出されるジェットブラストをどのように認識するかなどが課題になるとしている。
また、今回の実証実験でフィールドを提供するNAAの執行役員 空港運用部門 総合安全推進部長の川瀬仁夫氏は、「航空機の発着回数は増加の一途をたどる一方、地上支援業務は労働力不足に各社とも悩んでいる環境にある。我々、NAAとしては、実証実験が行なわれるルートについて安全面などを配慮したうえで、相談させていただいているので、直面する課題などはなく、安全に実験が成功すると思っている」と説明。「実験が成功して、新技術が活用され、成田に自動走行のクルマが走ることに期待したい。我々もいろいろな面で協力していきたい」との期待をしめした。
ちなみに、成田空港においては、12月17日~19日に行なわれる鴻池運輸とZMPのグループのほか、2019年1月28日~30日には丸紅とZMPのグループによる実証実験も行なわれる予定となっている。
【お詫びと訂正:2018年12月20日】初出時、鴻池運輸 和田山氏の所属部署名に誤りがありましたので修正しました。
実際の実証実験では、第1ターミナルの駐車場に置かれたクルマが、トーイングトラクターが前方を通過したのを確認したうえで自動走行開始。ここでも、コンテナなどを積んでいないドーリーを牽引するトーイングトラクターを正しく認識できていることが分かる。
そして、第1ターミナルから第2ターミナルまで自動走行し、再び第1ターミナルへ戻る。今回はPC上に表示された車載カメラの映像と、マップに投影された位置を確認したが、ランプエリア内は15km/h、途中にある陸橋は30km/hと途中で変化する制限速度に対応しつつ、自律走行をしている様子を見ることができた。
この車両に同乗したJASCOのスタッフ2名は、「不安はあったが、違和感がなく、優しい運転。景色を見ていると普通にクルマに乗っている感じ」「(自動運転の)完全ではないイメージや、人が自分の意識で運転していないなど不安だったが、それを覆すぐらい、人が運転しているのと変わらない」と感想を話した。
今回の実証実験は主な目的な課題の抽出になっており、国交省では、2020年にレベル3相当の導入も見据えられているほか、同じく2020年ごろから自動運転レベル4、レベル5といった完全自動運転に向けた実証実験もスタートするロードマップを策定している。
今回、システムがすべての運転動作を行なうが、自動運転の継続が難しい場合に運転者が介入できる「レベル3」のものとなるため、運転席には人が座って、ハンドルに手を添えていることが必要になる。そのため「自動化」という表現よりも「省人化/省力化」といった表現がより適切ではあるが、鴻池運輸の和田山氏はレベル4やレベル5の実用化を待たず、(すべての条件が整って実用化されることを前提に)レベル3の自動運転であっても導入に積極的な姿勢を示した。