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リモコンで飛行機をプッシュバック。ANA、遠隔操作・旋回機能を備えた電動車両を佐賀空港で導入

2019年7月4日 導入

ANAはリモコン式の電動車両による移動、けん引作業を佐賀空港で導入した

 ANA(全日本空輸)は7月4日、リモートコントロール方式による電動車両を使った航空機の移動・けん引作業を佐賀空港において導入した。独Mototok製「Spacer8600」を使用したものであり、実際の運航便に対して遠隔操作でプッシュバックなど航空機の移動を行なう。

 国内他社が成田空港においてリモコン式の車両を使用してプッシュバックを行なっているが、その車両には旋回機能は搭載されておらず、パイロットが操舵する必要があるという。一方ANAが導入したSpacer8600は旋回機能を備え、地上作業員が従来のトーイングトラクターと同様にプッシュバックを行なうのは国内初としている。

ANAは佐賀空港において「Spacer8600」によるリモコン式の遠隔操作によるプッシュバックを開導入。報道公開した

 2018年10月から羽田空港において実証実験を行なっていたSpacer8600は(関連記事「ANA、飛行機の移動・牽引をリモコン操作。新技術の実証実験を羽田空港で公開」)、操作者が広い視野を確保できるのに加え、航空機の車輪の向きを間近で確認できることから、より平易に安全に移動やけん引を行なえる。

 また従来のトーイングトラクターにおいては、車両と航空機の間にトーイングバーを接続してプッシュバックを行なうことから操作が難しく、習熟にも時間を要していた。その点、Spacer8600は前輪を持ち上げてダイレクトに操舵できるので、従来方式でマスターするのに必要とされていた時間の半分ですむメリットもある。そういった利点を実証実験で確認できたことから、ANAでは本格導入した。

左がトーイングトラクター、右がSpacer8600。運転席がないのでコンパクトであり、電動なのでCO2の削減にもつながる
オペレーターは送信機を使ってSpacer8600をリモコン操作する
Spacer8600はトーイングバーを用いない方法で航空機を移動させる

 佐賀空港が最初の本格導入に選ばれた理由としては、天候も比較的安定しており、地元の理解があるという地の利に加え、大空港ほど飛行機の往来が激しくなく、フライトに使用されている機体もSpacer8600に対応しているものが多いことを挙げていた。

 ちなみにSpacer8600は、ボーイング 737-500/700/800型機、エアバス A320/321型機といったナローボディ(単通路)のみに対応したものであり、ワイドボディには使用できない。現在、佐賀空港ではワイドボディの機体としてボーイング 767型機も使用しているが、こちらの機種に関しては従来通り、トーイングトラクターを用いる。

ANAグループが先進技術を「試す」「集める」「繋げる」イノベーションモデルとして位置付けている佐賀空港

 報道陣に公開された初日は、ANA454便 佐賀発 羽田行(ボーイング 737-800型機)をANAエアサービス佐賀の山領氏が、ANA982便 佐賀発 羽田行(エアバス A321neo型機)を同社の山口氏がプッシュバックを担当。

 両氏ともに視野の広さと確実な視認性を一番のメリットとして挙げており、「トーイングトラクターと違って屋根がないので悪天候時は辛くありませんか?」といった質問に対しても、Spacer8600の方が作業がしやすいと即答していた。現在、佐賀空港所属のオペレーターでSpacer8600の有資格者は両氏を含めた5名ほどがおり、今後も随時育成していくとのことだ。

ANA454便 佐賀発 羽田行(ボーイング 737-800型機)のプッシュバック
ANA982便 佐賀発 羽田行(エアバス A321neo型機)のプッシュバック
出発準備をするANA982便。Spacer8600を前輪が固定できる位置で待機させる
搭乗が終わり出発が可能になったところで前輪が持ち上げられ、Spacer8600に固定される
オペレーターによって航空機を指定位置までプッシュバックさせる
前輪を降ろして、プッシュバック作業は完了
滑走路に向かうANA982便
初日のSpacer8600によるプッシュバックを担当したANAエアサービス佐賀の山領氏(写真左)と山口氏(写真右)

 ANA全体としては詳細は未定ながらも今年度中に数台購入し、佐賀空港における運用状況を踏まえてオペレーション上の課題抽出を図り、ほかの空港でも導入してゆく方針である。また、Mototokではワイドボディに対応した車両も開発中とのことで、ゆくゆくはすべての機体をリモートコントロールでプッシュバックさせていきたいと担当者は話していた。