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飛行機の10cm手前までボタン1つで動作。成田空港でAIを活用した自動装着PBB(旅客搭乗橋)の実証実験

実用化すれば駐機してから降機までの待ち時間を短縮

2019年3月27日 公開

成田国際空港の64番スポットで、AIを活用して自動装着を行なうPBB(旅客搭乗橋)の実証実験を開始する

 NAA(成田国際空港)は3月27日、4月1日からAIによる画像認識技術を活用して自動装着するPBB(旅客搭乗橋)の実証実験をスタートするのに先立ち、その様子を報道関係者に公開した。2018年7月5日に試験導入を発表していたもの(関連記事「成田空港、AIが自動装着する旅客搭乗橋を2018年度末に試験導入」)。

 飛行機の乗り降りに用いるPBBは、飛行機が駐機場に到着したあと、スタッフがジョイスティックを使った操作により飛行機に接続する作業を行なっている。場合によっては3分ほどかかったり、装置の付け直し作業なども発生するが、この作業を自動操縦にすることで、約90秒へと時間を短縮できるほか、スタッフの技量に関わらず一定の時間で装着できるという。これにより、駐機してから旅客が開始するまでの待ち時間を減らせることがメリットになる。

 ただし、今回の実証実験では飛行機の手前10cmまでを自動操縦で行ない、飛行機への接続は人間の手に委ねる。技術的には飛行機に接続するところまで自動化できるほか、これを禁止する法令などもないそうだが、現時点では安全を優先して10cm手前までに限定した。そのことからNAAでは「アシスト機能」という捉え方をしている。

 設置されたのは第2旅客ターミナルの64番スポットで、主にJAL(日本航空)が使用しているスポット。NAAでは第2ターミナルの8スポット16基を更新する計画があり、最初に更新するのが64番スポットだったことから実証実験に用いられることになった。

 国内線のみの運用では、徳島空港が2018年2月に3基のPBBを自動操縦化しているが、国際線にも使用されるスポットに導入されるのは国内初という。導入しているのは徳島空港、成田空港ともに新明和工業のPBBで、これにパナソニックのAI画像認識システムをアドオンする形で導入している。

自動操縦に対応した64番スポットのPBB

 自動装着PBBでは、通常のPBBに加えて、飛行機のドアを認識するためのカメラ、駐機位置を確認するためのカメラ、PBBと飛行機間の距離を測るレーザー距離計、PBBで回転動作を行なう3か所に高精度のロータリーエンコーダ(角位置を識別するためのセンサーをデジタル信号化して出力するパーツ)を搭載。合わせて、ソフトウェアも同機能を組み込んだものへアップデートしている。

 実証実験に先立って、PBBに取り付けられた画像認識用のカメラを用いて2018年8月~2019年2月に画像データを取得。JALが運用するボーイング 737/767/777/787型機の画像を収集している。

 そして、実際に作動させる際には、事前収集した画像とマッチングさせることで、正しい位置へと操縦していく。この際に参照されるのはドアの輪郭だという。このエッジを検出することで位置を調整する。また、PBBの底部に取り付けられたカメラの映像から情報を得て駐機位置のずれも補正。目安として前後左右1mのずれは補正できるという。また、悪天候の場合などでもAIが画像判定して正しく動作するという。

 ドアの輪郭が判定の基準になるので基本的には塗装の違いによる影響はなく、例えば航空会社ごとにデータを取り直すといった作業は必要ないが、ドアの輪郭が不明瞭になってしまう塗装が施されている場合や、濃霧などカメラからの映像でドアの輪郭が分かりにくい場合などは認識が困難になる。

指さす先にある黒い枠内に、ドア画像の検出に用いるカメラを搭載している
ドア画像の認識用カメラ
こちらはドライブレコーダーで自動操縦には用いていない
底部
駐機した際のノーズギアの位置を認識するためのカメラ
通常のPBBにも付いている赤外線センサーのほか、自動装着PBBではレーザー距離計を搭載する(青いシールが貼ってあるものが赤外線、黒いボックス状のものがレーザー距離計)

 実際の操作にあたっては、まず駐機した航空機の機種を指定。スタートボタンを押すことで自動装着のプロセスが開始される。このボタンは、鉄道のデッドマンシステムのようになっており、動作している間、ずっと押し続ける必要がある。

 そして、1m手前に近づいた段階で一旦停止。ドアに正対した位置で改めて画像の認識をし直し、10cm手前の位置まで近づいていく。あとはスタッフの手によって10cmの隙間を埋め、風防用の幌を被せれば装着完了となる。

成田空港で実証実験を開始するAIを用いた自動操縦PBB
自動操縦により装着されるPBB
手前10cmの位置まで自動操縦
PBBの運転台。「オートスタート」と書かれたボタンを押し続けることで、飛行機に自動的に近づいていく
接続を行なう機種を選択
ドライブレコーダーの映像
スタッフがPBBを操縦しているかのようだが、最後の10cmを除いてはボタンを押し続けてるだけ

 自動装着PBBを運用する現場スタッフは、手動でのPBB操作を行なえる資格を持つスタッフに限定する。この資格は国家資格ではなくNAAによるものだという。自動装着PBBの導入によって資格取得のカリキュラムが簡易なものへ変更される可能性については、安全を第一に考えて検討するとの説明に留めた。

 NAAでは4月1日から9月までの予定で実証実験を実施。“9月までの予定”は厳密に日付を区切っているわけではなく柔軟に対応していく方針で、担当者が、検証期間中に実運用に耐えるという判断ができれば、そのまま実運用に移行する可能性も否定しなかった。