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ホームへの停止や交互通行を自動制御。JR東日本ら7社が大船渡線BRTで自動運転バスを公開

2018年12月12日~2019年3月8日 実施

2019年1月29日 公開

JR東日本ら7社が共同で、大船渡線BRTの専用道を利用した自動運転バスの実証実験を実施

 JR東日本(東日本旅客鉄道)、先進モビリティ、愛知製鋼、京セラ、ソフトバンク、日本信号、NEC(日本電気)は、JR東日本管内の大船渡線BRTのBRT専用道を用いた、バスの自動運転の技術実証を開始し、1月29日にその様子を報道公開した。

 大船渡線BRTは、2011年の東日本大震災で被害を受けたJR東日本 大船渡線と気仙沼線の一部区間をBRT(バス・ラピッド・システム)へと転換したもの。線路をBRT専用道へ転換してバスによって地域交通を支えている。

 JR東日本では、2017年9月に公共交通の将来のあり方やモビリティを変革することを目指す「モビリティ変革コンソーシアム」を同社が中心となって設立し、現在は140弱の企業、大学、研究機関などが会員に名を連ねる。このなかに、「鉄道ネットワークを中心としたモビリティ・リンケージ・プラットフォームを構築し、出発地から目的地までの『シームレスな移動』の実現をめざす」ことをテーマに活動を行なう「Door to Door推進ワーキンググループ」があり、今回の実証実験はこの一環として行なわれるものとなる。

実証実験が行なわれている大船渡線BRTの竹駒駅周辺。専用道の入り口には踏切も設置されている
大船渡線BRTの車両。写真右の青い車両は観光型車両の「三陸の海」号で、後述の交互通行の試験に使われた
JR東日本を中心に取り組む「モビリティ変革コンソーシアム」。このなかの一つのテーマとして今回の実証実験が行なわれている

 実証実験は、大船渡線BRTの区間のうち、陸前高田市にある竹駒駅の前後の専用道447mを使用している。実証実験の期間は2018年12月22日~2019年3月8日。このうち、車両の実走を伴う実証実験は1月8日~31日に行なわれる。その前後の期間は工事や通信などの検証期間となっている。

実証実験の実施場所
今回の実証実験における各社の役割。詳細は順次紹介していく

 自動運転車両は、先進モビリティが日野リエッセをベースに自動運転制御技術を導入した車両を使用。あらかじめプログラムされた走行軌跡データに沿って、ハンドル、アクセル、ブレーキを制御するものとなる。

自動運転バスのシステム
日野リエッセをベースに自動運転制御システムを組み込んだ先進モビリティの自動運転バス
車両周囲にLiDARやミリ波レーダー、GPSアンテナなどを装備しているのが見える
自動運転の制御システム。
LiDARが受け取った周囲の情報
ハンドルの周囲を映すモニター
走行状況や交互通行時の信号を示すモニター。運転席の脇でも同じ内容を表示している

 今回の実証実験で特徴的な点として、磁気マーカーの使用が挙げられる。1月23日に羽田空港の制限区域内での自動運転バスの実証実験について紹介しているが(関連記事「羽田空港の制限区域内で実施中の自動運転バスの実証実験。磁気マーカーで位置認識。将来は乗客輸送も」)、そちらで使われている同じように、愛知製鋼の磁気センサーと磁気マーカー、さらにNECが協力しているRFIDタグ付きのものを使用している。

 これは、愛知製鋼がMI(超高感度磁気)センサーを応用して開発した微弱な磁力も読み取れる磁気センサーを用いたもの。磁気マーカーの磁場パターンのみを読み取るようにすることで誤検出を避けるアルゴリズムを組み込んでいるほか、車両底部の前後2か所にセンサーを設置することで、車両の傾き(向き)も把握できるようにしている。

 磁気マーカーについては羽田空港とは異なり、大船渡線BRTではシートタイプの磁気マーカーを使用。直径100mm、厚さ2mmの磁気シート368枚を、竹駒駅近くでは20cm間隔、そのほかの場所は2m間隔で設置。うち64枚にRFID付きのシートを使用している。ちなみに、RFID付きの磁気シートタイプを今回のような実証実験に用いるのは初めてという。

 磁気シートは接着剤付きのシートになっており、磁気シートを2枚重ねて貼付(RFID付きの場合はRFID付き磁気シートの上に、RFIDタグが付いていないシートを貼る)。その上に保護シートを貼るという工程で施工していく。今回は3名体制で作業を行ない、路面に雪があったために乾燥させるという工程があったものの、368枚の磁気マーカーを1日(約7時間)で貼り終えた。

 この施工はスピードだけでなく、貼るだけなので工事の音が出ないのもメリットに挙げられている。またスピード面についても、現在は1枚1枚手作業で貼り付けを行なっているが、愛知製鋼では将来的にはさらに効率的に貼り付けられるようにすることを目指している。

 この磁気マーカーは、車両を誘導するためではなく、自車の位置を推定するために用いられる。多くのケースでは車両の自己位置推定にGPSを用いることが多く、先進モビリティの自動運転バスにも高精度なRTK-GPSが組み込まれているが、今回の実証実験ではほぼ磁気マーカーを使って自動運転制御のための自己位置推定を行なっている。

 GPSではトンネルなどの遮蔽物がある場合に電波を受信できないケースがあるが、磁気マーカーはそうした場合にも有効などがメリットとなる。また、積雪の多い東北地方ではあるが、クルマの走行に支障がない程度の積雪量においては、磁気の検出には問題がないという。

磁気マーカーについて
磁気マーカーと保護シート。写真右の細長い棒状のものがRFIDセンサー
設置の様子
設置された磁気マーカー
NECによるRFIDタグの送受信機。送信機から送電も行なう
車両底部の状態。磁気センサーは2か所、RFIDの送受信機は1組を搭載している

 運転そのものは、あらかじめ走行軌跡がデータとして用意されており、磁気マーカーとRFIDによる位置情報を元にハンドル、アクセル、ブレーキの場所を判断するものとなる。その走行軌跡データを作るベースとなっているのが、NECが提供した地図データである。

 NECでは、道路の線形や勾配などの情報を数値化し、特定のフォーマットに合わせてデータ化。このデータは全国の高速道路のデータ量を集めたとしても20MB程度というかなり小さなものとなっている。今回はJR大船渡線の線路跡地を専用道に転換した道路であることから、JR東日本が保有する線路のデータを元に線形をデータ化した。道路の設計図面があれば、数値データへの変換は難しくないという。

 実証実験のフィールドとなっている区間は勾配があまりないので活用されていないが、この地図データを利用すると、上り勾配があることを事前に把握して速度低下を抑えるような制御を行なえるなど、自動運転より前のステップとなる運転支援への活用も考えられる。

 今回はNECの地図データを元に、竹駒駅を通過するパターンと、竹駒駅のホームに自動運転で正着するパターンを切り替えて使用する。先進モビリティの自動運転バスは通常、実際に走行したデータから走行軌跡を生成するが、今回のように地図データを元にして走行軌跡のデータを生成するのは初めてだという。

 そして、このホームへの正着制御も今回の実証実験の大きなポイントとなる。磁気マーカーは中心から横にどのぐらいずれているかも判定することができるので、その情報を元に運転制御を行ない、ホームに寄せて停止をする。

 先進モビリティでは今回、ホームと車両の間が±2cm以下の位置を目指した厳密な制御を行なっている。とはいえ、この±2cm以下という数字は、20cm間隔という磁気マーカーの密な配置もあってのことで、実用化にあたってはホームとの間隔は4cm以下ぐらいが目標になるのではないかという。

 そして、これらの技術を活用し、最高40km/hの速度で走行し、決められた位置で停止するという実験も行なわれている。

走行軌跡について
自動運転中のドライバーは、わずかにハンドルから手を離している
今回の実証実験で重要なポイントになるホームへの正着制御
こちらも今回の実証実験のポイントとなる40km/h走行。この状態でも手を離したまま
竹駒駅への自動運転による正着制御
大船渡線BRT自動運転バスの40km/h走行
大船渡線BRT自動運転バス車内
大船渡線BRT自動運転バス車内(40km/h走行時)

 今回の実証実験で、もう1つの大きな検証ポイントが交互通行の制御だ。大船渡線BRTでは、車両1台分の幅員しかなく交互通行を行なわなければならない区間がある。対向車両に通行権がある場合(交互通行区間内にいる場合を含む)は自車が停止し、通行権を得たら交互通行区間への進入を開始する制御を自動で行なうものとなる。

 ここでは、日本信号による信号制御技術と、京セラの無線通信技術を使っている。先進モビリティの自動運転バスが持つRTK-GPSによる位置情報を利用し、700MHzを使ったITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)無線とLTEの2系統でバスが自車位置情報を送信すると、信号制御機がその位置情報に対して交互通行区間への優先権処理を実施。通行を許可するバスに対して通行権を返信する。

 ここで使われている700MHzは、元々アナログテレビで使われていた、いわゆるプラチナバンドと呼ばれるもので、警察などがすでに使用しているが、総務省からの許可を得て今回の実証実験のITS用途に活用。700MHz帯ITS通信による信号機連携の自動運転は初めてだという。

 700MHz帯の送受信は、無線の送受信を行なう路側機と車両側でそれぞれ4本のアンテナを立てて送受信。複数アンテナの信号で指向制御や干渉除去を行なうアダプティブアレイ技術を用いている。なお、700MHz帯は1チャネルのみの利用となるため、複数の通信が発生する場合は時分割形式で処理を分けている

 ちなみに、700MHz帯の場合は信号制御機につながった路側機との直接通信だが、LTE通信はキャリア回線を使ったもので、位置情報や信号制御機のデータはクラウドを介して送受信される。そのため、LTE通信の場合には遅延が避けられない。一方でカバレッジの面ではLTE網のエリアの広さはメリットであり、今回は2系統を同時に送受信して、通信手段による比較検討を行なっているが、将来においては多重運用によって冗長性を確保する使い方も考えられている。

 今回の実証実験では、視覚的に分かりやすくするため、信号制御機が送り出している信号を、実際の信号機を使って表示するようにしていた。ここで使われている信号機は地域性を考慮し、日本信号が開発した着雪防止カバーが取り付けられていた。

700MHz帯ITS無線とLTEを使用した信号制御による交互通行制御
700MHz帯TIS無線のアンテナ
700MHz帯ITS無線の路側機(送受信機)
車両側にはITS無線用に4本のアンテナを設置
日本信号による信号制御機
実証実験では信号制御機が無線で送っている信号情報を可視化するために信号機を設置。着雪防止カバーが付いた信号機を使っている
交互通行の様子。信号が赤(=通行権がない状態)の場合は交互通行区間の手前のすれ違い区間で停車し、青(=通行権がある状態)の場合は交互通行区間へ進入する
車内外から見た信号の様子。車内のモニターでは、無線で送られた信号情報が表示される
自動運転バスによる交互通行
大船渡線BRT自動運転バスの交互通行~駅への正着制御(別角度)

 このほか、今回の実証実験の自動走行の処理には組み込まれていないものの、バスの位置を正確に把握するために、ソフトバンクのマルチGNSS端末を用いて、遠隔地から参照できるシステムの検証も行なわれている。これは将来の実用化に向け、遠隔での運行管理を行なうことを見据えたものだ。

 このマルチGNSS端末は、GPSのほかGLONASS、QZSS(みちびき)の信号を受信可能で、端末から直接LTEで情報を送信する。実際、バスに乗せた端末と、技術展示用の端末の位置をiPad上に表示させた例を見ると、iPad内蔵のGPSよりも高精度に位置を特定できていることが分かる。

 カーナビでは地図の道路へマップマッチングによる補正などが行なわれるが、BRTの専用道などはカーナビの地図上で道路として認識されないため補正が効かず、GNSSによる測位での正確さがより求められる。また、みちびきからは災害・危機管理情報も送信されることから、GNSS対応端末の存在が、自然災害発生の認識にも役立つ可能性もあるという。

 ちなみに、あらかじめ指定したエリア(ジオフェンス)からの入出情報を送信する機能や、加速度センサーとジャイロセンサーにより車両のゆれの検出機能も標準で備えるほか、自動車メーカーの試験車両への搭載が実例としてある。このほかにも大規模工場に立ち入る車両にこの端末を渡すことで工場内での移動場所を認識し、立ち入り禁止エリアへ進入を防止するといった応用例も考えられるという。

ソフトバンクのマルチGNSS端末
iPad上にマッピングしたマルチGNSS端末
Googleの赤いピンがiPadのGPSの情報で、左上の方にある日時が表示されている場所が、このiPadのあるより正確な位置
これまでの写真からイメージできるとおり、ホームに停車中のバスの位置がかなり正確に測位できていることが分かる
東日本旅客鉄道 技術イノベーション推進本部 ITストラテジー部門 部長 佐藤勲氏

 JR東日本 技術イノベーション推進本部 ITストラテジー部門 部長の佐藤勲氏が、「各業界を代表するトップクラスのテクノロジを持っている企業と、一つの目標のために、各企業の強みを活かしてBRTバスの自動運転実現に向けて取り組んでいる」と語る今回の実証実験。1月8日からの走行実験も含め、「今のところは順調に進んでおり、大きな問題はない」という。

 今回の実証実験に大船渡線BRTを選択した理由としては、「専用道なのでさまざまな技術検証を行ないやすい」ことに加え、「BRTは、東北復興の一つのシンボルだとも思う。JR東日本はじめ7社の持つテクノロジで、イノベーションを起こして、東北復興に少しでも力になりたい」との背景も表明。

 ただし、実運用で大船渡線BRTが最初になるとは決定しておらず、12月末から1月初めにかけて行なわれた山手線の自動運転実証実験(関連記事「JR東日本、山手線E235系の自動運転試験を公開。ドライバーレスの無人運転に向けた実証実験」)にも触れ、「鉄道に続いて、バスでの自動運転はここで初めて実施する。導入するとすればBRTの区間になるのではないかと思うが。どこになるかは今後いろいろな条件を加味して、決定していくことになる」として明言されなかった。

 また、実用化に向けては、「いま提供している安全レベル、サービスレベルを損なうことがあってはいけない。それらをしっかりと維持しながら、自動運転の実現に持っていくことが重要」「自動運転中に大きな災害が発生したり、不慮の事故が起きたりといったときの対応は非常に重要な問題だと認識している。これに対しての考えや、技術的な対応は現時点で話せる段階にない。まずは技術的に(自動運転で)走るのが第一歩で、災害や事故時の対応は今後の大きな検討課題」「本格運用するには、技術的課題のみならず、法整備や運用上の問題などある」といったいくつかのハードルを挙げ、「明確な時期はいま申し上げることはできない」とし、まずは課題を一つ一つクリアしていく姿勢を示した。