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【詳報】2020年内の試験運用開始を目指すANAの大型自動運転バス。羽田空港第2ターミナル拡張後の国内線/国際線乗り継ぎに対応

2020年1月22日 公開

2020年1月22日~31日 実施

ANAが羽田空港で実用化に向けた自動運転バスの実証実験をスタート。2020年内の試験運用開始を目指す

 ANA(全日本空輸)が羽田空港の制限区域内で、自動運転バスの実証実験を行なうことはお伝えしたとおり(関連記事「ANA、羽田空港で乗客/乗員向け自動運転バスの実用化に向けた実証実験。年内にも試験運用をスタート」)。本稿では、ANAが新たに導入した自動運転バスの技術面や、実証実験開始日に行なわれた会見の模様をお伝えする。

 自動運転バスのデモンストレーションにあたり、航空イノベーションを推進する国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 空港技術課 課長補佐 山根勇氏があいさつ。インバウンド(訪日外国人旅客)の増加による航空需要や空港間競争の高まり、セキュリティを取り巻く課題、労働人口減少など課題を抱えながらも「世界水準の高い旅客サービスを求めなければならない」と話し、そのために先進技術を活用した航空イノベーションの推進を図っていることを説明。

 山根氏は「航空局としても人手不足解消に向けて、航空イノベーションの推進を図るとともに、自動運転がいち早く導入されることを願っている」と期待するとともに、関係者、利用者への理解を求めた。

国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 空港技術課 課長補佐 山根勇氏
国交省が推進する航空イノベーションについて
2018年度以降に実施した「人の輸送」に関わる空港での自動運転実証実験

 ANAからは、オペレーションサポートセンター 品質企画部 担当部長の山口忠克氏が説明。2017年以降に自動運転バスの取り組みを実施するなど、「シンプル&スマート(Simple&Smart)な働き方にいかに変えるか」の取り組みを進めていることを紹介。特にグラハン(グランドハンドリング、地上支援業務)では「労働集約型の働き方をしているので、どのように少ない労力と人数で飛行機を飛ばすか」が課題にあるとし、「人と技術の融合や役割分担の見直しを図っている」と説明した。

 また、新技術活用の成果として、「大きなポイントは、新技術で今の仕事をいかに簡単にするか。担い手が広がっていく効果があり、作業負荷が軽減されれば働きやすい会社になる。余裕が生まれれば安全、品質を高められるし、離職者も減る。その先に省力化、省人化が生まれると考えている」と話した。

 このほか、グラハン業務ではトーイングトラクターの自動運転やロボットスーツの活用、リモコン式航空機牽引器の活用をはじめ、さまざまな取り組みを進めていることを紹介。「トータルでグラハン領域の働き方を変えていくのかという考え方に基づいている」とし、グラハン業務の約3割の業務について自動化の取り組みを進めていることを紹介した。

 その一環である自動運転バスの実証実験について、過去2回の検証内容などを紹介。「今回、いよいよ実用化を見据えた実証実験。1日も早く、実験だけでなく、実際のオペレーションでどう活用していくのか、ゴールはシンプル&スマートの働き方を作ること。そこに向けた一歩をどう踏み出すかがポイント。我々は2020年内に羽田空港内で(自動運転レベル3相当での)試験運用を目指したい。そこに向けた第一歩」と今回の実証実験の位置付けを説明。

 実証実験で利用するルートについては、「航空機の認識はまだ難しいところがあるので、建屋沿いを設定。決められた2地点間を動くのが最適と考えた」と説明。具体的には、羽田拡張に伴い3月29日に供用を開始する第2ターミナル南側の国際線エリアと、第2ターミナルの北寄り(北サテライト)とを結ぶルートを想定したもの。

 現在は国際線エリアが工事中のため、その手前で転回(折り返す)ルートとなっているが、山口氏は「大型バスを転回させるのは安全性も考えると懸念がある」とし、試験運用にあたっては、南北それぞれに設けられる国内線/国際線接続用のバス乗降場を、転回をせずに走行するルートを想定しているという。

全日本空輸株式会社 オペレーションサポートセンター 品質企画部 担当部長 山口忠克氏
ANAが取り組むグラハン領域でのイノベーション
自動運転バスの活用に向けた取り組み
「2020年内に自動運転バスの試験運用を目指す」との目標を提示
実証実験のルート。南側(写真右寄り、3の箇所)で転回しているのは、南側で国際線エリア増設の工事が行なわれているため。試験運用では北側(写真左寄り)のように転回せずに走行することを想定しているという

 続いて、ベース車両の提供とメンテナンス支援を担うビーワイディージャパン 取締役副社長 花田晋作氏がBYDの会社概要や、電気バスの利点などを紹介。

 今回利用する車両「K9RA」は、全長12m、全幅2.5m、全高3.4mで、リン酸鉄リチウムイオンバッテリを用いた電気バスであることを紹介。バッテリ容量は324kWhで、「エアコンを使用した状態で250km以上の走行が可能」という。

 電気バスの利点としてはCO2排出削減がないことや、災害時の給電機能、振動や騒音がほとんどないことによる乗客や乗員へのストレス軽減、運用コストなどを提示。自動運転においては制御システムへの電力供給を容易に行なえることもメリットとして挙げている。なお、自動運転の制御システムを搭載することによる航続距離への影響は「走行に用いる電力に比べれば、ほとんどないに等しいぐらい」の軽微な影響であるとした。

 ちなみに、ANAが2019年4月からハワイ・ホノルルで運行している、ワイキキ中心部のTギャラリアとアラモアナセンターを結ぶシャトルバス「ANA Express Bus(ANAエクスプレスバス)」も、BYDの電気バスを使用。エアバス A380型機の「FLYING HONU(フライング・ホヌ:空飛ぶウミガメ)デザインにラッピングしている(関連記事「リアル“ホヌ”との邂逅も。ANAがエアバス A380就航に合わせて提供する『ハワイ旅行をさらに満喫できる新サービス』を体験」)。

ビーワイディージャパン株式会社 取締役副社長 花田晋作氏
BYDの会社紹介
電気バスの利点
実証実験で用いる自動運転バスのベース車両となった電気バス「K9RA」の概要

 自動運転技術の提供と自動走行に関する技術検証を担う先進モビリティは、商品開発室 部長の釘宮航氏が説明。2018年度の実証実験までは同社が保有する日野「ポンチョ」をベースとした小型の自動運転バスを使用していたが、今回はANAが保有する大型バスに対して自動運転の制御システムを組み込んだことを紹介し、「輸送力は運転手を含めて28名から57名へとほぼ倍に増強された」と説明。そして、「車両サイズや特性が変わった状態で自動運転でちゃんと操作できるか、安定的に自動運転できるかを検証する」と実証実験の目的を解説した。

 ちなみに、自動運転ではGPSを基本に自車の位置を推定(自己位置推定)し、どのような操作が必要かを判断する。しかしながら、屋根やPBB(旅客搭乗橋)の下などでGPSが受信できない場所もあるため、そういった場所で安全に走行するための自己位置推定技術も導入する必要がある。

 2018年度の検証では、この自己位置推定にGPSと磁気マーカーを用いたシステムを使用した。磁気マーカーは道路に埋設した磁気マーカーを、車両に搭載したセンサーを用いて検出することで自己位置推定を行なう。

 今回は、その磁気マーカーを使わず、GPSとSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)という技術を使用。SLAMはLiDAR(レーザー光によるレーダー)を用いてリアルタイムに周囲環境地図を作成。あらかじめ用意されたマップと照合して自己位置の推定を行なう技術となる。ベースとなるマップは12月から1月にかけて約1か月かけて作成されたという。

 今回の実証実験に用いる自動運転バスでは、前方に3か所、後方に1か所のLiDARを搭載。このほかに、前方にミリ波レーダーも搭載している。釘宮氏によると、SLAM、磁気マーカーのどちらかではなく併用も考えているとのこと。今回の車両には磁気マーカーを読み取るためのセンサーは搭載していないが、後付けで搭載することは可能だという。

先進モビリティ株式会社 商品開発室 部長 釘宮航氏
2018年度と今回の実証実験で用いる自動運転バスの比較表
自己位置推定にSLAM技術を用いて検証する

 遠隔監視システム「Dispatcher」や添乗員操作用アプリを提供するSBドライブからは、企画部 部長の坂元政隆氏が説明。「4社の連携がキモになるが、うまく進められている」と述べ、各社との密な連携によって新たな機能を提供できていることに言及。

 Dispatcherは自動運転車両の位置や状況を、遠隔で監視するシステム。例えば2018年度の実証実験においては位置の把握と、一時停止箇所で安全を確認したうえでの発車指示を送るという作業を遠隔で行なっていた。

 今回の実証実験では、BYDと先進モビリティの密な連携により、これまでにできなかったハザードランプの点灯、ドアの開閉などを遠隔でできるようになっている。

 また、車内6か所に車内の客室部分を写すカメラを搭載しており、ここにはAIも活用して乗客の挙動を自動的にチェック。例えば、走行中に乗客が歩いているような状況ではDispatcher側にアラートが表示され、どのような動きをしたかを把握できるようになっている。

SBドライブ株式会社企画部 部長 坂元政隆氏
Dispatcherの特徴
ドアの開閉指示などに用いる添乗員用アプリ

実証実験では第2ターミナル沿いを走行。3月開業の国際線エリアとの接続を想定

 先述のとおり、第2ターミナル国際線エリアの供用開始後、北側と南側に国内線/国際線乗り継ぎのためのバス乗降場を設置する予定で、自動運転バス試験運用にあたってはその2地点を結ぶルートが候補になっている。

 今回の実証実験では、南側の国際線エリアは工事中のため、建屋沿いのルートを南向きに進んだあとで南側は65番スポット付近で転回し、北向きに走行。北側のバス乗降場に一時停止し、北サテライトをぐるりとまわって再び建屋沿いの道路へと戻るルートが設定されている。

 試乗してみたところ、出発時には揺れがあるものの、それ以外は車内も非常に静かに快適な印象。唯一、自動運転制御システムの廃熱ファンの音がかすかに聞こえる程度で、これも電気バスでなければ聞こえないであろう程度の静かなものだ。

 運転手は転回時や、乗降場からの出発時には一時ハンドル操作を行なうこともあるが、そのほかは操作の必要がない。ウインカー(方向指示器)についても登録された地点で自動的に点灯するようプログラミングされているという。

BYD「K9RA」をベースにした自動運転バス。ANA保有で、オリジナルデザインにラッピングしている
右側面
左側面
前部
後部
前方ドア
中央ドア
車両後方後部には、飛行機の尾翼と、ANAの2020年に向けたスローガン「HELLO BLUE, HELLO FUTURE」のロゴをデザイン
前部左右と中央にLiDARを搭載
前部中央のBYDエンブレムの下にミリ波レーダーを搭載
後部にも1基のLiDAR
天井に搭載された4G/LTE通信アンテナ
同じく天井に設置されたGPSアンテナ
車外に6つのカメラを搭載
自動運転による走行の様子
自動運転バスの車内外。同時撮影ではないが、ほぼ同一の位置を走行中の車外、車内それぞれの様子
自動運転による走行。さまざまな車両が往来するなかで走行し、ウインカーも自動制御されている
自動運転による走行中の車内
添乗員用のアプリ。ドアの開閉を遠隔操作者に指示できる
自動運転制御システム
2台のPCで走行中のデータをモニター
左側のPCでは走行状況を表示
右側のPCではSLAMで作成されたマップを表示
こちらはあらかじめ作成された地図データ
ほぼ同位置でのSLAMによるマップ
車内には監視のために6つのカメラを搭載
加えて、運転席のパネルを撮影するカメラを搭載している
Dispatcherによる遠隔監視の様子
アラートが表示されると、その内容を確認できる
AIにより乗客の移動などを自動検出。転倒などしていないかを即時チェックできる
車外カメラの映像
車内カメラの映像
新たに搭載されたドア開閉やハザードランプなどの遠隔操作ボタン

各社代表が臨席して披露セレモニー。BYD車両採用で日中交流への寄与も

 実証実験が報道公開された1月22日、ANAの格納庫において自動運転バスのお披露目式典が催された。

全日本空輸株式会社 代表取締役 専務執行役員 清水信三氏

 冒頭であいさつしたANA 代表取締役 専務執行役員の清水信三氏は、同社が取り組む空港業務のシンプル&スマート化や、過去の自動運転バスの実証実験などに触れつつ、「東京オリンピック・パラリンピックまでいよいよ200日を切った。世界中から日本が注目される機会に、より多くのお客さまに新しい技術に触れていただけるよう、今回の実証実験を通じて、抽出されるさまざまな課題について、それを一つ一つ克服しながら、実証実験で使用する大型電気バスを用いて、第2ターミナルを周回するルートを使った自動運転バスの試験運用を2020年内に実現したいと考えている」と、今回の実証実験後の目標について語った。

 また、中国を本拠とするBYD製の電気バスを採用したことについても触れ、「ANAと中国の関係は、長年日中友好に尽力した元社長の岡崎嘉平太の誕生日にあたる1987年4月16日に東京~北京線、東京~大連~北京線を開設以降、30年以上になる。ANAは3月からの2020年夏ダイヤ期間中に中国13都市目の就航地として深センを予定しており、日本の航空会社として初めての就航を目指している。これもなにかの縁とうれしく思う。これからもANAは日本と中国をつなぐ翼として、日中間における技術や人の交流に貢献してまいりたい」と、日中関係についても言及。

 最後に、「ANAグループでは自動運転バスだけでなく、新しい技術の活用を通じたイノベーションを推進し、空港におけるグランドハンドリング業務の自動化を促進したい。自動化促進を通じた働き方改革などにより生産性向上を図り改めて生産年齢人口が減少するなかでも、政府が掲げる2020年の4000万人、2030年の6000万人という訪日外国人旅行者数目標に達成に向けて官民一体になって連携して取り組んでいきたい」とあいさつを締めた。

SBドライブ株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 佐治友基氏

 続いて登壇したSBドライブ 代表取締役社長 兼 CEOの佐治友基氏は、今回の自動運転バス車両について「私自身も試乗し、スムーズな走り心地を体験し、感動した」とコメント。

 遠隔監視システムのDispatcherに接続する車種として、今回のBYD K9RAが11車種目になると紹介し、「空港内業務に最適化するため、管制側から自動運転車両に指示を出すことが可能になるようにカスタマイズを加えている。システム屋としては、いかに空港オペレーションを理解し、そこで自動運転車両が活躍できる業務フローあるいは事業モデルを作れるかが、今後ますます重要になる」と、同社が担う役割を説明。

 BYD車両への対応については、「遠隔でモニタリングするという受け身なだけでなく、ドアの開閉やハザードランプを点けることができる。Dispatcherに接続してきた車種のなかで、もっとも遠隔でコントロールできる領域が多い。自動車メーカーの協力なしには達成できなかった。BYDさまの技術陣からのオープンな情報公開があって、初めて達成できた。その点は技術的にも非常に進んだと感じている」と、先進性を紹介した。

先進モビリティ株式会社 代表取締役社長 青木啓二氏

 続いて、先進モビリティ 代表取締役社長の青木啓二氏が、「現在、2020年の自動運転によるモビリティサービスの実用化という政府目標に対して、いろいろな車両を使って全国各地で実証実験が進められているが、特に、公道ではない場所での自動運転を実現するという観点で、空港のなかで自動運転の実用化についてはさまざまな方から期待と高い関心を示されている。今回の実証実験にあたっては弊社も並々ならぬ努力で、ぜひ実用化につなげたいと考えている」との意気込みを語った。

 技術面についても、「弊社はこれまで、もっぱらGPSと磁気マーカーの組み合わせを主に使っていたが、この2つの組み合わせでは実用化に向けたさまざまな課題がある。今回新たにデジタル地図とLiDARを組み合わせた、SLAMという方式を導入した。今回の実証実験を通じて、SLAMとGPS、そして今回は使っていないものの磁気マーカーも含めた3つの組み合わせで、自動運転の実用化につなげたいと考えている」と、今回のSLAMによる実証実験に対する期待を述べた。

 青木氏は、「磁気マーカーは道路側に敷設するためインフラ工事などの制約があり、コストもSLAMに比べると高いが性能はよい。SLAMはコスト優位性があるが、信頼性は磁気マーカー比べると課題が多い」とし、今回の実証実験がSLAMの課題解決につながることに期待しているとの考えも示している。

BYD アジア太平洋地域 自動車販売事業部 総経理/ビーワイディージャパン株式会社 代表取締役社長 劉学亮氏

 ベース車両を提供するBYD アジア太平洋地域 自動車販売事業部 総経理/ビーワイディージャパン株式会社 代表取締役社長の劉学亮氏は、同社のバスが全世界で利用されていることを紹介し、日本での電気バスをベースにした実証実験が開始されることについて「羽田空港のみならず、日本のすべての空港、日本全国の都道府県や各地域で、より安全、より安心、よりスマートな社会づくりに協力できる」との考えを述べた。

 そして、「東京オリンピック・パラリンピックを開催する2020年は、社会の発展や科学技術における有意義な1年になるのではないか。BYDはこれからも日本のパートナーと一緒に、自動運転車両の普及、公共交通の自動運転による素晴らしい社会の実現に貢献したい」との意気込みを示した。

中華人民共和国 駐日本国大使館 公使 郭燕氏

 最後に、中華人民共和国 駐日本国大使館 公使の郭燕氏が登壇。中国がクリーンエネルギーの活用に積極的であることを紹介し、BYDに対して「電気自動車のリーディングカンパニーであり、中国の電気自動車分野で重要な影響力を持ち、世界の電気自動車のトップランナー。多くの国々が、CO2排出削減目標を達成したクリーンで美しい国を築くことに積極的に貢献している」と評価。

 BYDの日本での展開については「BYDの電気バスは京都、沖縄、福島などで運行されている。今回、自動運転電気バスが羽田空港の制限区域内で運行されるが、世界でも初めてのことであり、空港ならびに関連企業の人件費削減、営業効率の向上、環境保護事業に大きく貢献し、日本企業とのより緊密な協力に役立つものと考えている」とコメント。「BYDの対日努力が勢いよく発展し、駐日の新エネルギー分野での交流、協力のために積極的な役割を果たす」との期待を寄せた。