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JAL、手荷物を運ぶトーイングトラクターの自動運転を成田空港で実証実験
2019年11月12日 18:03
- 2019年10月31日~2020年3月31日 実施
- 2019年11月12日 公開
JAL(日本航空)とNAA(成田国際空港)は、10月31日から2020年3月31日までの約5か月間、航空貨物や旅客手荷物の運送用コンテナを牽引するトーイングトラクターの自動運転の実証実験を実施している。その様子を11月12日に報道公開した。
生産年齢人口の減少が社会的課題となるなか、インバウンド(訪日旅客)増加などで需要が高まる航空業界においても、将来的な人手不足が懸念される。国交省ではその対策として、先端技術やシステムを活用した航空イノベーションを推進している。
国交省 航空局 空港技術課 保全係長の三浦佑輔氏は、「旅客数は年々増加しているにも関わらず、輸送に関わる就業人口はほぼ横ばいか、若干減っているのが実情。航空輸送分野のイノベーション推進にあたり官民、民民の強調が不可欠」とし、当面の取り組み分野の一つに「地上支援業務の省力化・自動化」を掲げていることを紹介。「地上支援業については、2020年度までに省力化技術の導入を目指している」と説明した。
その一環となるGSE(地上支援業務)車両の自動運転化については、空港の制限区域内における実証実験として2018年度にグランドハンドリングスタッフや旅客、すなわち「人」を輸送するランプバスなどの実証実験を展開。2019年度は「物」を輸送するトーイングトラクターなどの実証実験を、成田空港、佐賀空港、セントレア(中部国際空港)、関空(関西国際空港)の4空港で実施する計画となっている(関連記事「国交省、国内4空港で手荷物・貨物の輸送を想定した自動走行の実証実験」参照)。
その実証実験の一つが、JALが成田空港で実施しているものとなる。JAL グランドハンドリング企画部 部長の手島康浩氏は、「JALでは現在、成田空港において約250台のトーイングトラクターを運用しており、この自動運転化が実現すると、大幅な生産性向上が期待できる」とし早期実現を目指す考え。時期については「2020年度」を目標としており、初期導入空港については未定としつつ「効果が大きいのは(車両の)走行距離が長い大きな空港なので、幹線空港が中心になる」との考えを示した。
実証実験のフィールドを提供するNAA 上席執行役員の川瀬仁夫氏は、成田空港においても航空機の発着回数が増加の一途をたどる一方で、地上支援業務の人手不足が深刻化しているとの課題認識を示し、「その解決のために空港制限区域内での自動運転実証実験に積極的に協力する」との姿勢で参加していることを紹介。
フィールドの提供にあたっては、「空港管理者として特にルート上の安全面を相談させていただいており、課題は特段ないと考えている」と説明。事前に道路上の安全性確認だったり、空港内の事業者に協力を求めたりはしたものの、例えば磁気マーカー敷設のような物理的に手を加えるような作業は行なっていないという。そして、「今回の実証実験が成功することを大いに期待するとともに、成田空港において実用化することを待ち望んでいる」とコメントした。
LiDARとGPSで自律走行する「TractEasy」。遠隔管理にはSBドライブの「Dispatcher」使用
JALが今回の実証実験で使用する自動運転のトーイングトラクターは、仏TLD製の「TractEasy」。これに仏EasyMile製のソフトウェアを組み合わせ、Smart Airport Systemsのサポートを得て実施している。
TractEasyは、LiDARとGPSなどを活用して自律走行を行なう自動運転車両となる。空港では、コンテナを積載するドーリーのように、一般道路ではあまり意識されない薄さの車両も走行することから、底面寄りにもLiDARを装着し、障害物検知に活用している。
自車位置の推定にはGPS、ジャイロセンサーなどの慣性計測ユニット、走行距離計などを活用。走行するマップのデータについては3日間程度をかけて作成したという。
実証実験について説明したJAL グランドハンドリング企画部 GSEグループ長の清水弘一氏は、実証実験の対象としてトーイングトラクターを選定した理由「トーイングトラクターは業務用車両でもっとも多く、いろいろな搬送ルートが存在する」という点を挙げ、「同一ルートで多頻度走行が実施されており、無人化の効果が期待できる。最も自動化の貢献度が高い車両」と、実用化後の効果についても高い期待を示している。
その搬送ルートについて、今回の実証実験では、成田空港第2旅客ターミナル本館にある手荷物仕分け場と、サテライト側にある手荷物仕分け場の間の約400mを第1段階として利用。2020年3月までの実証実験期間中には、「十分なデータを蓄積したうえで」(清水氏)、サテライト手荷物仕分け場から駐機場を周回するルートの実証実験も行なう計画となっている。
実証実験では、現在の技術面、運用面、インフラ面それぞれで、できること/できないことを抽出し、実導入に向けた具体的計画を策定する材料を取得していく。
さらに、この自動走行の実証実験では、SBドライブの遠隔管理ソフトウェア「Dispatcher」も活用。SBドライブ 社長室 室長の佐々木悠祐氏は「将来的にいろいろな自動運転車が走る未来を見据え、それらの車両を1つのシステムで管理できる」とDispatcherについて説明。TLDの車両から4G/LTE回線経由で送られる各種データを取得できるようにし、実証実験で利用している。
Dispatcherでは、走行中車両の位置のマップデータや、速度などのステータスのほか、走行距離、走行時間、平均速度、バッテリ残量、アラート発生場所などの履歴を確認することが可能で、自動走行するうえでの課題洗い出しにも活用できる。
また、現在は自動走行車両側にプログラムされた走行データが記録されているが、2020年3月までを目途に、Dispatcher側からミッション(運行指示)を送信することができるようになる見込み。さらに、空港内を複数の自動走行車両が利用される状況においても、1つのシステムで管理できるよう対応していくとの将来も見据えているという。
トーイングトラクター自動走行の様子
報道公開された実証実験の内容は、第2ターミナル本館の手荷物仕分け場~サテライト手荷物仕分け場間の走行の一部。今回の実証実験は自動運転レベル3の検証となり、すべての運転をシステムが行なうものの、緊急時などにドライバーが即座に運転に介入できるものとなる。そのため、即座にハンドル、ブレーキ操作が可能なよう運転手が1名同乗している。
また、人が運転する業務車両も非常に多いなかでの検証となっており、人が運転する車両は15km/h程度での走行であるのに対して、自動運転車は10km/h程度での速度となることから、ほかの事業者の協力が不可欠な実証実験となっている。そのため発着のピーク時間は避け、発着が少ない時間帯に1日2~3時間ほど実施しているという。
実際の走行では、一時停止箇所で自動的に停止し、周囲に多くの走行車両があるなか、車列が途切れた(=安全に進行できる)状態をセンサーで判断して、自動的に再発進する様子や、カーブなどを違和感なく曲がる様子が見て取れる。
すでに10日間ほどの実証期間を経ての報道公開だが、JALの手島氏によると現状では大きな課題は発生していないとしており、国交省ほか関係機関と協力して、運用面を含めた課題をクリアして実用化を目指していく意欲を示した。