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国交省、ランプバスなどの自動運転化に向けた「第1回 空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会」実施

6月末から実証実験実施者を公募。2018年度内に実証実験を実施

2018年6月22日 実施

国交省が空港の制限区域内における自動走行の実証実験について「第1回 空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会」を実施

 国土交通省は6月22日、5月に発表した空港の制限区域内における自動走行の実証実験についての議論を行なう「第1回 空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会」を実施した。

 昨今の航空旅客需要拡大が続くと見込まれる一方で、生産年齢人口の減少による労働力不足が課題となっており、国交省では2018年1月に「航空イノベーション推進官民連絡会」を立ち上げ、そのなかでグランドハンドリングなどの地上支援業務について、官民が協力し、最新の技術を活用することで作業の省力化を進めていく体制を作っている。

 そのうち地上支援業務については、志望者の減少のほか、離職率が高いために有資格者が不足。それに対応するために給与水準を引き上げることで業務コストが増すなどの課題が挙がっており、航空イノベーション推進官民連絡会が公表した「官民ロードマップ」において、2020年までに省力化技術を導入することを目標として掲げている。

 その一環として取り組まれるのが、ランプ車両の自動運転で、2018年度については空港の制限区域内において乗客・乗員の輸送を想定した自動走行の実証実験をスタートする。システムがすべての運転動作を行なうが、自動運転の継続が難しい場合に運転者が介入できる「レベル3」以上の自動運転車両を2020年までに導入することを目指す。

 この実証実験に監視、公募要領の検討や実施者の選定、実施内容の検討と結果の評価などを行なうのが「空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会」で、国交省 航空局 航空ネットワーク部 空港技術課が事務局を務める。

地上支援業務の労働力不足が課題
航空イノベーション推進官民連絡会が公表した官民ロードマップ。今回の取り組みは主に旅客輸送の自動運転に関するものとなる
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部長 久保田雅晴氏
桜美林大学 ビジネスマネジメント学群アビエーションマネジメント学類 教授 大村裕康氏

 第1回開催にあたってあいさつした国交省 航空局 航空ネットワーク部長 久保田雅晴氏は、「自動運転については一般道や高速道路でさまざまな方法で実証実験の取り組みが行なわれており、ルール作りが急速に進んでいるところだが、空港内は一般道とは異なる特殊な環境。特有のルールもあり、使う機材も異なっている。世界的にもあまりなく、国内では初めての取り組み。(委員会で)さまざまな角度から議論いただき、来たるべき実走に向けた課題を抽出したい」と委員会の意義を述べた。

 委員は下記のとおりで、委員長は事務局からの推薦により、桜美林大学 ビジネスマネジメント学群アビエーションマネジメント学類 教授 大村裕康氏が務めることとなった。大村氏はターミナルビルや運航管理などは効率的になった一方で、「ランプエリアは30年間からあまり変わっていない」と指摘。

 自動運転導入が人材不足の解決策の一つになるとする一方で、「安全や乗客の利便性が損なわれては元も子もない」とし、「(委員会での議論により)AIや最新の高度な通信技術を使った自動走行をぜひグラハンの広い分野で活用できるようにして、グラハンの仕事の変革するスタートに、多少なりともお手伝いできれば」と委員長としての意欲を述べた。

空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会の委員

桜美林大学 ビジネスマネジメント学群アビエーションマネジメント学類 教授 大村裕康氏
東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 教授 花岡伸也氏
金沢大学 新学術創成研究機構 未来社会創造研究コア 准教授 菅沼直樹氏
国土交通省 航空局 総務課 政策企画調査室 室長 墳﨑正俊氏
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 空港技術課 課長 梅野修一氏
国土交通省 航空局 安全部 安全企画課 空港安全室 室長 北原政宏氏
国土交通省 航空局 交通管制部 運用課 課長 工藤正博氏

空港制限区域内の自動走行に係る実証実験検討委員会のオブザーバー

日本航空株式会社
全日本空輸株式会社
仙台国際空港株式会社
成田国際空港株式会社
中部国際空港株式会社
東京空港事務所
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 航空ネットワーク企画課
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 空港計画課 大都市圏空港調査室
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 空港業務課
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 首都圏空港課 成田国際空港企画室
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 首都圏空港課 東京国際空港企画室
国土交通省 航空局 航空ネットワーク部 近畿圏・中部圏空港政策室
国土交通省 航空局 交通管制部 交通管制企画課
国土交通省 航空局 交通管制部 管制課
国土交通省 航空局 交通管制部 管制技術課
国土技術政策総合研究所 空港研究部 空港計画研究室

 今回行なわれる実証実験は、6月末~7月27日に公募を行ない、9月に行なわれる第2回検討委員会で実施者の選定や実験計画を審議。実証実験に先立ち、仙台空港で模擬フィールド試験を行なったのちに、10月ごろから2019年2月ごろまでを目処に実際の空港で実証実験を行なう予定となっている。

 実証実験は仙台空港、成田国際空港、羽田空港(東京国際空港)、セントレア(中部国際空港)のいずれかで実施。実施空港や空港内の走行ルートは応募者からの希望や技術を踏まえて決定される。

 応募資格は「民間企業または企業共同体で、日本での法人格または支店を有し、Webサイトやパンフレットなどで事業内容を確認できる者」とされている。委員からは日本での法人格と支店の条件について指摘があったが、事務局側は外資企業を排除する目的ではなく、「空港内での実走を目標にしているので、最終的に日本でビジネスをしていただけるところに応募していただきたい」と理由を述べた。

 なお、実証実験に使う車両や保守費用、損害発生時の費用負担などは公募する実証実験実施者の負担となる。委員会ではこの点について「飛行機などに損害が発生すると実施者でまかない切れないのでは?」との質問が上がった。事務局側は「公募要領案に保険加入の義務を明記している。レベル3では操作できるところに運転士がいるので緊急時には停車をしてもらう。また実施の際には空港関係者にこのような車両が走ることを事前に周知する」と回答している。

実証実験の進め方の案

 応募要件は下記のとおりで、乗客のほかパイロットやCA(客室乗務員)、スタッフの移動に用いるワゴン車やバスを想定している。実際にどの程度まで自動運転で対応できるかについて事務局では、「現在の自動走行の技術で走れるのは空港内でも限られると認識している。例えば旅客を運ぶ車両であれば、ビルから(沖留めされている)航空機の側まで本当に走れるか、エンジンのブラストをどう確認するのか、など人に頼らざるを得ない部分もあるのではないか。ビルのまわりの車両通行帯のようにルートが明確に決まっていて、航空機の影響がないところで行なうのが最初の実証実験としては安全ではないかと思っている。ただ、空港内で走れるチャンスはあまりないと思うので、実施者の希望や技術、空港側とのすりあわせを行ないたい」とした。

 また、車両メーカーが単体で応募するなど空港構内での事業を行なっていない企業が応募した場合には、国交省が空港構内事業者とのマッチングの場を設け、空港内での実証事件にあたって協力を得られる体制を整えるとしている。

応募要件

車両の要件

・空港内を走行する時点で、有効な自動車検査証の交付を受けている、または車両の構造および装置が地方運輸局長の指定する指定自動車整備事業者による「道路運送車両法の保安基準」(昭和26年運輸省令第67号) に準じた検査を受け、これに合格していること。

・自動走行システムレベル3以上の技術であること。

・「車両自律型」技術(GPS、レーダー、カメラ等を通じて位置や障害物等の情報を認識する技術)、または「路車連携型」技術(道路側からの支援を要する技術)を用いたものであること。

・バスタイプ(最大定員10人以上)またはワゴンタイプ(最大定員4~10人程度)であること。

・遠隔での監視が可能であること。

・「安全性に関する検証項目」の「完全自動を要する項目」すべてに自動運転で対応可能であること。

運転者の要件

・運転者は、実験車両の運転者席(ない場合は操作位置)に乗車して、常に周囲の交通状況や車両の状態を監視(モニター)し、緊急時等には他人に危害を及ぼさないよう安全を確保するために必要な操作を行なうこと。また、空港内で車両を走行させる際には、以下のいずれかの対応をとる必要がある。

 1. 車両を走行させる空港の立入承認証の交付及び車両運転許可を受ける。

 2. 車両を走行させる空港のビジターパスの交付を受けるとともに、立入承認証を所有し車両運転許可を受けている者を同乗させる。

 検証するのは安全性、施設・設備への適用性といった24項目。このうち、自動停止、制限速度については完全自動を要件としている。完全自動を証明するため、決められた様式の実験計画提案書のほかに、ほかの実験で使われた映像などのエビデンスの提出を求める。

 また、路車連携型の場合、道路側に磁気マーカーなどを埋め込む必要が発生する可能性があるが、それらの費用を負担してととのえるのも実施者側となる。ここでは航空機の運航に必要なほかの機器に影響を及ぼさないことが求められる。空港側が受け入れできるかなどは「公募を受けたあとに空港管理者と調整する」とした。

実証実験で評価する24項目。車両はレベル3を満たせていることが条件だが、一部に完全自動を求められる項目が設定される

 委員会では、このほかにもいくつかの疑問、意見があがった。「実施空港それぞれに違いがあり、時間帯によっても違う。実験環境を揃えることは考えないのか」に対して事務局では、「空港ごとにルールも異なるので、まずは実証実験を行なう空港で技術開発を進めていただきたい。航空局でもルール作りを進めている」とした。

 また、「現在のランプを走るクルマに比べてのんびり走っているように見えるかも知れない。効率が落ちるのでは?」との指摘に対しては、アドバイザーとして参加した航空会社より「(のんびりの)程度にもよるが、空港内も車両の制限速度が定められている。安全の観点であり、確実な作業が前提」とした。

 このほか、自律型の自動運転車両ではAIによる学習に頼る部分があるが、空港内の作業については学習がしていない状態であること、コンテナを連節して走るトーイングトラクターのような(一般的な車両と)まったく異なる動きをする車両もあることから、実証実験のための実験が必要になるかもしれない、との意見も挙がっていた。