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ANAと双日が「ANAビジネスジェット」設立。ホンダジェット活用でビジネスジェットを身近なものに

エアバス A380型機導入に合わせてホノルルにも拠点。プレミアムなハワイツアーを検討

2018年3月28日 発表

ANAHDと双日がホンダジェットも活用するビジネスジェットによるチャーター手配会社「ANAビジネスジェット」を設立。ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏、双日株式会社 代表取締役社長 藤本昌義氏、ホンダ エアクラフト カンパニー 取締役社長 藤野道格氏による記者会見が行なわれた

 ANAHD(ANAホールディングス)と双日は3月28日、共同で新会社「ANAビジネスジェット株式会社」を設立し、ビジネスジェットを活用したチャーター手配事業を開始することを発表した。併せて、ANAHDが本田技研工業の航空機事業子会社であるHACI(ホンダ エアクラフト カンパニー)と戦略的パートナーシップを締結する。

 同日には、ANAHD 代表取締役社長 片野坂真哉氏、双日 代表取締役社長 藤本昌義氏、HACI 取締役社長 藤野道格氏が出席して記者会見を開いた。

 ANAHDは2月に発表した2018年~2022年の中期経営計画で「新規事業の立ち上げ」を掲げており、これもその1つ。4月1日に行なう組織改正で、グループ経営戦略室にビジネスジェット準備室を新設し、ビジネスジェットを活用したチャーターや付随するサービスのアレンジを目的として旅行手配事業を実施する準備を進める部署を立ち上げるとしていた。

 その事業会社として、双日との合弁で立ち上げられる「ANAビジネスジェット株式会社」は、ANAHDが51%、双日が49%を出資。2018年夏の設立を予定している。

 提供するサービスは主に以下の3つ。

  • ANA国際線で欧米へ行った先でのビジネスジェットによる乗り継ぎチャーターの手配
  • 日本から海外の目的地へ直行のチャーター便を手配
  • 地上のリムジンや宿泊、レストランなどのさまざまな手配を行なうコンシェルジュサービス
ANAビジネスジェットの事業

 会見で繰り返し述べられたのが「時間効率の最大化」「時間的価値の最大化」という言葉で、出発時間が自由なオンデマンドのチャーター便を利用することで無駄のない移動が可能になることをアピール。日本から米国のロサンゼルスへANA便へ行き、フェニックス、サンフランシスコとまわってロサンゼルスから日本へ帰るケースでは、民間の定期便を使うと4日間かかるが、米国内でビジネスジェットを使うと2日間ほどで済む。また、中国内陸部へ直行チャーター便で行くことで北京や上海などでの乗り換えが不要になり、日帰り出張も実現できるといった例が示された。

 さらに、欧米の空港にあるビジネスジェットターミナルを利用すれば、長い列を成す入出国審査などに並ばずに動けるほか、プライバシーが確保され、機内でミーティングなども行なえることで、さらに時間の節約が可能になる。ANAHDの片野坂氏は「お客さまへのヒアリングでANAの国際線で欧米へ行った先で、ビジネスジェットを使って効果的に移動することがニーズとして存在していることを実感できた」とし、ビジネスジェットの利用が時間的な大きなメリットを提供できるとした。

 一方の双日は、2003年からビジネスジェット事業を開始し、2005年からは運航や整備体制の構築、チャーター販売、機体売却といった一貫したサービスを提供。双日の藤本氏は「ビジネスジェット事業は時間にして計1万時間のチャーター販売の実績があり、アジアのビジネスジェット市場のパイオニアとして市場を構築してきた自負がある」とし、ANAHDとも機材(航空機)調達などで長年の信頼関係が築けていることから提携に至ったことを紹介。

 ANAHDにとっては事業ポートフォリオの拡充につながるビジネスジェットについて双日が持つ知見やノウハウを享受できること、双日にとっては日本のビジネスジェット市場が拡大することで、既存ビジネスジェット事業の拡充にもつながることがメリットとなる。

ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂真哉氏
双日株式会社 代表取締役社長 藤本昌義氏
ANAホールディングス株式会社 グループ経営戦略室 経営企画部 副部長 吉田秀和氏

 双日の藤本氏は、日本の空港で国際線のビジネスジェット発着回数が2014年から10%超伸び、さらに加速を増した成長が見込まれるとし、今回の合弁会社について「誰もアプローチできなかった顧客層にニーズに応じたサービスを手配できる。新たなビジネスジェット利用層獲得の起爆剤になる組み合わせ」と期待を寄せた。

 顧客のターゲットとしては、ANAが持つ法人販売や双日の既存顧客インフラとの連携を活かした企業の経営層や政府ミッションなどへの販売、ANAセールスによるハイエンドな旅行商品としてパッケージングしての提供などを検討。事業の説明にあたったANAHD グループ経営戦略室 経営企画部 副部長の吉田秀和氏は「法人販売や旅行商品はANAグループの強みなので、機能的に連携して市場拡大したい」と話した。

ビジネスジェットによる時間効率最大化をアピール
ターゲット顧客。ANAの法人販売やANAセールスの旅行商品の強みを活かす

ホンダジェット活用で「贅沢品」「富裕層の乗り物」のイメージ払拭をねらう

 新会社では、これまでビジネスジェット事業の課題となっているポイントの解消も図る。ANAHDが大手企業の経営者らを対象に調査して得られた課題のうち、サービス窓口が限られていることや、移動手段としての公共性が必要との指摘については、ANAグループの販売ネットワークや、公共交通機関であるANAブランドのサービスとすることで解決を図る。

 さらに、ビジネスジェットに対する「一部の特別な人の乗り物」というイメージも課題に挙げられ、大手企業の経営者らからは、そのイメージを払拭し、社会に浸透させてほしいとの要望を得たとし、この点は会見でも何度も強調された。

 今回同時に発表されたANAHDとHACIの戦略的パートナーシップの背景には、そのイメージ払拭が目的の1つにある。ANAHDの吉田氏は「(従来のビジネスジェット事業は)使った人が限定的で、大型機や中型機が中心なので価格面のハードルが低いものではない。一足飛びに市場を構築するには大型機、中型機だけでは難しく、その観点でホンダジェットを活用する。ホンダジェットは小型機だが、その常識を越えた快適性や、極めて高い経済性を実現できる。移動手段として現実味のある価格設定が可能になる」とホンダジェット導入の目的を説明。

 ANAは本事業で優先的にホンダジェットを活用できるほか、製造メーカーであるHACIが持つメーカーの強みを活かして事業立ち上げのノウハウやサポートを得られることを目的にしており、乗り継ぎチャーターでの共同プロモーションや、HACIへホンダジェット購入希望顧客の紹介などを行なう。

 一方のHACIは、ANAグループとの提携によってビジネスジェット市場の拡大を図ることを目的としており、ANAビジネスジェットが行なう乗り継ぎチャーターにおけるサービスエリア拡大に向けたサポートを行なう。なお、ANAビジネスジェットは手配事業を行なう企業であるため、機材は自社で保有しない。従って、ANAHDが現地で契約したビジネスジェット事業会社へ、HACIがホンダジェットを販売するスキームになるという。

 HACIの藤野氏は、「ビジネスジェットの効率やスピードは、ビジネスの効率やスピードが重視される欧米では一般的でビジネスツールの1つになっている。特に欧米では小型ビジネスジェットのチャーター運用が近年増加している。同時に日本においても海外からのビジネスジェットの発着回数が増加している。ANAの卓越したサービスと、ホンダジェットの優れた乗り心地や快適性を組み合わせた旅は、時間効率だけでなく、快適性などの面でも、いままでのサービスをはるかに超える新しい価値を見いだせると確信している」と、この取り組みに期待を寄せる。

 ANAビジネスジェットでは、大型機として座席数8~19席、航続距離1万1000km相当(東京~ニューヨーク/ロンドンなど)のグローバル 6000型機やガルフストリーム G650型機、中型機として座席数8~12席、航続距離6000km相当(ロサンゼルス~ニューヨーク、東京~香港などの近距離アジア圏など)のチャレンジャー 350型機やガルフストリーム G450型機、小型機として座席数4~6席、航続距離2000km相当(ロサンゼルス~ラスベガスなど)のホンダジェットをラインアップとして用意し、予算やニーズに応じて最適な機材を選べるようにする。

 双日の藤本氏は、「これまでビジネスジェットにありがちな『贅沢品』『一部の富裕層の乗り物』というイメージから離れ、『時間を有効活用しビジネスを成功させる効率的な移動手段』としてのビジネスジェットへと、イメージを置き換えていけるのではないか」と期待を述べた。

ホンダ エアクラフト カンパニー 取締役社長 藤野道格氏
ビジネスジェット市場の課題と、ANAビジネスジェットでのソリューション
ANAビジネスジェットのラインアップ

 さらにHACIの藤野氏は、日本でビジネスジェットが普及しない理由について、大きく2つの理由を挙げた。

 1つは、「ビジネスジェットをどう使ったよいのか、使うことのメリット、贅沢品なのではないか、といった感情的な部分が大きい。ビジネスジェットを使った経験が少ないので、そのハードルを越えるところに来ていない」と分析。そのうえで、「私自身、ハードスケジュールで疲れていると的確な判断ができないことがあるが、(ビジネスジェットを使って効率を高めることで)素早く正しい判断を行なえることは、ビジネスジェットを使うコスト以上の利益が出てくる。そのような合理的な考え方でのグローバルスタンダードな競争が日本で起これば、感情的なハードルは越えられるのでは」とした。

 もう1つは、「首都圏に機能が集中しており、羽田や成田のスロット(発着枠)の問題がある」という点で、「羽田空港では2017年にビジネスジェットのスロットが8回から16回に増え、(発着申請が競合した場合の)優先度も6位から4位に引き上げられた。地方空港ではホンダジェットはトータル84空港で利用できる。これは新幹線でアクセスできる場所よりも多い地方をカバーでき、しかもオンデマンドで移動できるということ。日本でもビジネスジェットの優位性はある」とし、今回のANAビジネスジェットでの取り組みによって、日本人が欧米でビジネスジェットを使う機会が増え、そのメリットが認識されることによって日本で普及していく未来に期待を寄せた。

2019年にはホノルルにも拠点を設立。エアバス A380型機のプレミアム体験とシナジー

 ANAビジネスジェットは、2018年夏の設立を目指し、まずは北米での乗り継ぎ便と日本発直行チャーター便の手配事業をスタート。その後、2018年下期に欧州での乗り継ぎ便の手配事業を開始する。

 その後、2019年には整備を中心とする運航基盤を米ハワイ・ホノルルに構築する予定。これは、2019年就航のエアバス A380型機就航を見据えたものとなる。

 ANAのエアバス A380型機はファーストクラスやビジネスクラスなどの上級シートを用意して、プレミアムなプレジャー需要に応えていく方針が示されている。そうした利用者層に対し、例えばハワイの島々へホンダジェットを使ってアイランドホッピングするなど、プレミアム層に向けた展開を検討しているという。

ANAビジネスジェットの今後のスケジュール。2019年のエアバス A380型機就航に向け、ホノルル拠点を整備予定
今回の会場に展示されたのは、青いホンダジェット。主翼上面にエンジンを載せた独特の設計で乗り心地に高い評価が得られており、2017年は小型ビジネスジェット機のカテゴリで世界最多出荷数となったという
ホンダジェットはエアステア(飛行機に内蔵された搭乗用のステップ)を備える
機内の様子。応接間のように向かい合った4席の客室。最後尾にラバトリーを備えている
前方にある客室の空調などを操作するパネル
客室から機内前方を見た様子
コックピット