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ATR、日本市場は2025年までに約100機のターボプロップ機需要があると予測。松本零士氏がATRを描いた絵画をプレゼント
2018年11月15日 15:00
- 2018年11月15日 実施
ATRは11月15日、CEOのステファノ・ボルテリ(Stefano Bortoli)氏が来日したのを機に会見を開き、同社製品や日本市場の状況などを説明した。このなかで、日本においては国内観光需要に対する新規路線や地域間航空の拡大により、2025年までに約100機のターボプロップ機の需要があるとの予測を示した。
ステファノ・ボルテリ氏は約2か月前にATRのCEOに就任したことなどを冒頭で述べたうえで、「日本初のATR 72-600型機をJAC(日本エアコミューター)に納入できたことを祝う素晴らしい日。この航空機は日本の市場にとって完璧なマッチング。ATRは日本という市場のニーズに最適な航空機を届けられると確信している」と話し、同社や地域航空業界の状況の説明に入った。
ボルテリ氏は、先週発表のあったボンバルディアがターボプロップ機事業を売却する発表を行なったことなど、M&Aが多く発生する難しい市場のなかで業界3位の地位を築いているとし、「1700機以上の受注、1500機以上の納入、200以上の航空会社が、100か国以上で運航し、毎秒離陸が行なわれている状況」と、同社の好調さをアピール。
その成功の要因としては、納入の日から最後まで顧客である航空会社との関係を重視してきたことや、環境に配慮した設計とすることで長く使用でき、燃料効率もよいものを作ってきたことを挙げ、「私たちの役割は人々をつなげること。離れて暮らしている人たちを私たちの存在によってつなげたいと思っている。それをできている。だからこそマーケットリーダーのポジションを築けている」と、ターボプロップ機のシェアは75%を占めており、ターボファンジェット機を含めても約36%のシェアを獲得していると、業界でのポジションを説明した。
続いて登壇したATR Airline Marketing Managerのエリカ・ソメルサロ(Eerika Somersalo)氏は、日本市場におけるATRのアドバンテージや同社機の特徴について説明した。
日本にある約80の空港のうち、50%がリージョナル機に依存し、ほとんどの航空路はリージョナル機で行なわれていることになると指摘。そのうち30%がターボプロップ機によって運航されており、地域を結ぶことがそれぞれのコミュニティに旅行客やGDPの増加、外貨獲得や投資を呼び込むなどのメリットがあるとする。
そして日本においてもATR機の運航会社が増加しており、2015年にATR 42-600型機を初めて導入した天草エアラインに続き、2017年にはJACがATR 42-600型機を導入。2018年はHAC(北海道エアシステム)がATR 42-600型機を発注したほか、10月にはJACがATR 72-600型機を受領。このJACが導入したATR 72-600型機は、ATRにとっても1500機目の納入というマイルストーンになった。
燃費のよさ、メンテナンスコストや運航コストの低さ、信頼性の高さ、アクセスしにくい空港でも運航しやすいこと、環境に配慮していることを紹介。ATR 42/72型機は高い共通性を持たせており、同クラスのジェット機に比べてCO2排出量や騒音、コストなどが低く、1機当たりの年間コストでは最大250万ドルを削減できるとした。
そのような強みによって、50~90席クラスの航空機市場において過去8年間の受注実績で、35%のシェアを占めているほか、ターボプロップ機の受注では75%の市場を占めている。
また、最新技術の導入も進めており、最新のコックピットは5枚の液晶ディスプレイを備えているほか、ソフトウェアのアップデートにより更新可能なナビゲーション機能などを搭載。また、「CLEARVISION」システムは、「Skylens」というヘッドマウントディスプレイを利用したもので、カメラによる映像などを組み合わせて表示することで、視界がわるい状態での運航をサポートする。
客室では、以前よりも重量を120kg削減したGeven社製品を採用。18インチ幅(約45.7cm)というターボプロップ機としては大型の座席で、28インチ(約73.7cm)のシートピッチにも対応するという。
このほか、FedEx(フェデックス)が貨物型となる「ATR 72-600F」型機を発注し、2020年に就航予定であることや、800mの滑走路で離着陸可能なSTOL(Shor TakeOff and Landing)性能を持たせた「ATR 42-600S」型機の開発意向に言及。
2018年に入り、小笠原諸島に1000m以下の滑走路を持ついわゆる“小笠原空港”の建設について東京都が検討を始めている。現在、東京と小笠原諸島の父島までは週1便、約24時間をかけてフェリーが運航されているが、ここにATR 42-600S型機を運航すれば2時間でアクセスでき、1機運航するだけで年間3万5000人の往来が可能になると説明。低騒音と低CO2排出により自然の生態系への影響も最小限に抑えられることも合わせて説明した。
日本には1000m以下、800m以下の滑走路を持つ空港がほかにもあり、そこにATRを運航することで地域活性化に貢献できるとし、高い潜在性があることを強調。「ルートオープナー」として離着陸に必要な滑走路距離が短いATR 42-600型機やATR 42-600S型機、成熟した路線にはユニットコストが低いATR 72-600型機を導入するなど、日本の地域路線の維持や拡大、全国のコネクティビティを高めることができる航空機であるとアピールした。
ちなみに、ATR 42-600S型機については現時点では開発意向の段階であり、30~50機程度の受注があれば開発フェーズに入るとしている。日本の航空会社にも興味を持って受け止められているという。
このほか、ハイブリッド機(電動ターボプロップ)の開発についても言及。ニュージーランド航空との共同開発について発表しているが、これは単に機体の開発に留まらず、空港インフラなども含めて、オペレーションを含めた研究を行なっていく予定だという。
最後に改めて登壇したCEOのステファノ・ボルテリ氏は、ソメルサロ氏の説明を受けて「私は日本を非常に楽観視できると思っている」とし、「日本には大きな機会がある。まだまだ見込みのお客さまがおり、4つのタイプのお客さまに対して100機以上の納入を目指したい」と説明。2025年までに100機の需要があり、「その大部分」を獲得したいとの考えを明かした。
また、日本の地域航空業界については、「ATR機によって違う結果が生まれるようにしたい。ATR機でなければ行けない場所に飛ばし、移動できなかった人々やビジネスを動かしたい」と力を込める。「我々が成し遂げたいのは安価でサステナブルなソリューションを届けること。多くの地域の航空路線は政府の補助金、すなわち税金が使われている。私たちが航空会社に具体的なタスクに適応した航空機を届ければ、税金を別のところに届けられる」と話し、地域社会を尊重し、顧客の声を聞いて「よきパートナーになっていける」と話した。
イタリア大使、漫画家 松本零士氏がATRを祝福
会見には、駐日イタリア大使のジョルジョ・スタラーチェ氏もあいさつ。ATRはイタリアのアエリタリアと、フランスのアエロスパシアルの合弁によって生まれた会社であることからの来場で、「イタリア、フランス、日本の完璧なチームワークの結果として、このような場が生まれた」とパートナーシップの強さを示し、ATRの現在の業績について祝福した。
また、航空機ファンとして知られる漫画家の松本零士氏も来場し、CEOのステファノ・ボルテリ氏にATR機を描いた絵画をプレゼント。
松本零士氏は、「ATRの飛行機の絵を出せてうれしい。宇宙や飛行機が大好きで、子供のときから飛行機マニア。だからアニメーションにも空を飛ぶものを盛んに書いている。先日までイタリアにおり、ローマから12時間ちょっとかけて帰ってきた。私はなにがなんでも窓側に座らないと気が済まない人間。ずっと外を眺めながら帰ってきて幸せ」とあいさつ。
富士山をバックにATR機が飛ぶ絵画をボルテリ氏に手渡しながら、「富士山の絵を描くのは大変。飛行機とのバランスもあって、飛行機の角度をうまく調整しないとかっこよく描けない。そこが飛行機マニアたるところで、これは本当に楽しかった。描かせていただいて本当にありがとうございます」と制作のエピソードを語った。