旅レポ

フライト時間わずか13分。デビュー初日の天草エアライン新型機「ATR 42」の天草~熊本線に搭乗

2月20日より日本で初導入されたATR 42型機「新みぞか号」(熊本空港で撮影)

 天草エアライン(AMX)は、2月20日より日本初導入のATR 42型機「新みぞか号(天草弁でかわいいを意味する)」での運航を開始した。そこで筆者は、初フライトとして天草~福岡線を1往復終えたあとの、天草エアラインの最短距離の路線である天草~熊本線に搭乗した。全便コードシェア便をしているJAL(日本航空)の時刻表を見ると、その距離はわずか42マイル(約67km)。JAL便名の普通運賃で購入してもJALマイレージバンクに42マイルしか貯まらないくらい近いのだ(JALへのマイル積算はJAL便名で購入時のみ)。

 筆者は、往路は熊本空港からレンタカーで天草空港へ向かった。天草五橋を経由して約100kmの道のりを約2時間半かけて移動したが、天草エアラインの天草~熊本線を使うと時刻表上では20分で移動できてしまう。では実際に飛行時間は何分になるのか検証しながら、新型機のATR 42型機に乗ることにしたのであった。

 まずは、新型機導入に伴って新しくなった新制服を紹介しよう。天草エアラインでは、新型機ATR 42型機の就航に合わせて客室乗務員とグランドスタッフの制服を一新した。海をイメージした機体と同じ明るいブルーの新制服で、パンツとスカートの2つのスタイル。スカーフも客室乗務員は黒と白の2色から選べるようになっているのが特徴である。

新型機導入に合わせて2月20日から着用を開始した天草エアラインの新制服

 搭乗手続きを済ませ、いよいよ熊本行きのAMX201便の搭乗開始時間が近づき保安検査場へ。天草空港では、外部に委託するのではなく、自社で保安検査場業務を行なっている。グランドスタッフだけでなく、フライトのないCA(客室乗務員)、総務、営業に加えて、役員も業務を手伝うマルチタスクが徹底されている会社なのである。

天草空港から熊本空港へは1日1便。天草空港を朝10時05分発となっている

 飛行機までは徒歩での搭乗となるが、前日まで天草の空を2000年から15年以上飛び続けたボンバルディア Dash 8-103型機を横目にみながら飛行機に乗り込む。従来のボンバルディア機も含め、多くの飛行機が機体前方から乗り込むのが一般的であるが、ATR機では機体最後方から乗り降りをする。そのため、後部座席を選ぶと到着時にも最初に降りられることになる。

空港ターミナルビルから徒歩で搭乗。いよいよATR 42型機の機内へ。乗り降りは機体後方のドアからとなる
前日に運航を終えたばかりのボンバルディア Dash 8-103型機「みぞか号」を遠くに見ながらの搭乗

 いよいよ楽しみにしていた機内へ。機内に入った瞬間、クルマの新車に乗るように、新型機の機内からは新しい革の香りがしていたのが第一印象だった。ワインレッドの本革シートを採用しており、座り心地も格段に以前よりもよくなっている。機内の空間も広くなったが、何よりも新しい飛行機は気持ちいい。

 客室デザインは、イタリア人デザイナーであるジウジアーロ氏と共同開発したモダンな「Armonia Cabin(イタリア語で調和・ハーモニーの意味)」を採用した。詳しくは10月2日に掲載された記事「天草エアライン、2016年1月に運航を開始する『ATR42-600(みぞか号)』を披露」をご覧いただきたい。

ワインレッドの本革シートを採用し、座り心地もアップした
出発の最終準備をする井上紗綾CA

 天草エアラインといえば、乗客と客室乗務員の距離が近いことで知られているが、従来は機体最前方に着席していた客室乗務員の席がATR機では最後方に変わった。その為、最後方の通路側「13B」に座ることができれば、アナウンス以外の時間でシートベルトサインが消灯していれば雑談ができる可能性が高い。また、従来のボンバルディア Dash 8-103型機同様に最前列の1C・1Dは進行方向と逆向きのシートになっており、航空ファンには人気の座席として継承された。

 筆者は今回「12C」の席に座ったのだが、機内であることを発見した。シートのヘッドレストカバーの印刷が一部逆向きになっており、前から見ると文字とロゴが逆向きになっているのだ。これもご愛嬌といったところだろうか。

1C・1Dは進行方向逆向きで2C・2Dとはお見合い席になる
ヘッドレストカバーの印刷が一部逆になっていたのもご愛嬌

 そうこうしているうちに扉が閉まり、熊本へ向けて出発となった。多くの航空機で電子機器の利用が離着陸時を含めて緩和されたが、天草エアラインのATR機では、従来同様にすべて電子機器の利用は扉が閉まった瞬間から禁止されている。例えば、デジカメで離陸の瞬間を撮影することもできないので注意が必要だ。

 電子機器の利用について、同便に乗務する客室乗務員の井上紗綾CAに聞くと「アナウンスも流しますが、シートベルトサインの横に電子機器のサインがこの飛行機ではあるんです。このサインが消えている時間は電子機器をお使いいただけます」とのことである。昔はシートベルトサインとタバコのサインだったが、全席禁煙になり、今はシートベルトサインと電子機器のサインになったのだった。さすが、新しい飛行機である。

シートベルトサインの横に電子機器使用禁止のサインがあった

 前便が福岡空港の混雑によって遅延した影響で、定刻よりも20分遅い10時25分過ぎにスポットを離れ、10時29分に阿蘇くまもと空港へ向けて天草空港を離陸した。以前のボンバルディア機に比べるとATR機は重量が重くなったこともあり、滑走路をこれまでよりも長く走ってから離陸したように感じた。新型機になったことを実感したのはエンジン音が静かな点である。隣の人と話していても十分に声が聞き取れるくらいの音なのである。離陸の瞬間に機内は拍手で包まれた。

 さて、時刻表上では20分となっている実際の飛行時間はどのくらいなのか?

 離陸後、右側のC・D座席からは天草の島の景色を、左側のA・B座席からは長崎県の島原半島を一望することができる。あいにくの天気ではあったが、低い高度での景色を楽しむことはできた。

 そして離陸から3分後の10時32分に電子機器使用禁止のサインが消灯。サイン消灯後は電波を発信しない電子機器の利用が可能となり、デジカメをはじめ、ノートパソコンやタブレット、機内モードに設定されたスマートフォンの利用が可能になった。天草~熊本線については飛行時間の関係からシートベルトサインは消灯しないことになっており、その頃には天草と九州本土を結び、今年が開通50周年になる天草五橋を見ることができた。

あいにくの天気だったが、天草の島々を機内から眺めることができた
機内の様子。シートベルトサインは飛行時間の関係で好天時でも消えない
機内アナウンスをする井上紗綾CA(12Cの座席から撮影)

 離陸から9分後の10時38分に電子機器使用禁止のサインが点灯し着陸態勢に入った。電子機器が実際に利用できたのはわずか6分間であった。そして、あっという間に九州本土に入り、離陸から13分後の10時42分に阿蘇くまもと空港に着陸したのだった。

 この13分という飛行時間、前述のとおり筆者は同じ行程の往路をクルマで2時間半かけて移動したことを考えると、瞬間移動した気分だった。13分の天草エアラインのフライトはあっという間であった。

阿蘇くまもと空港に到着。グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロースで機内デザインを担当したパラダイス山元氏は、各就航空港でのセレモニー参加のため、この日は天草→福岡→天草→熊本→伊丹→熊本→天草の6便に連続搭乗した
到着ゲートでは天草エアラインの齋木育夫専務(写真右)などがお出迎え

 熊本空港到着時には、天草エアラインの齋木育夫専務などがお出迎え。そのまま大阪・伊丹空港行きのAMX801便として運航されるのを前に、熊本空港の出発ゲート前でセレモニーが行なわれ、テープカットで新型機導入を祝った。熊本空港に約30分駐機したあと、11時20分頃に大阪・伊丹空港へ向けて出発したのだった。

2月19日までは新型機導入準備に伴い、天草~福岡線2往復のみに減便されていたが、2月20日以降は、天草~福岡3往復、天草~熊本1往復、熊本~伊丹1往復の5往復10便体制で運航され、全便日本航空(JAL)とのコードシェア便として運航される。わずか1機しかない航空会社である天草エアラインは、新型機導入で利用者増を目指す。

阿蘇くまもと空港でも就航セレモニーが開催された
司会は天草エアラインの客室乗務員山口亜紀CAが担当
大阪・伊丹空港へ向けて出発したAMX801便

鳥海高太朗