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ANAとJAXAが中心となり宇宙で役立つアバター研究に取り組む「AVATAR X Program」発表
産官学が連携、新たな宇宙開発を促進する
2018年9月11日 14:51
- 2018年9月6日 発表
ANAHD(ANAホールディングス)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は9月6日、宇宙関連事業の立ち上げを目指すプログラム「AVATAR X Program」を発表した。AVATAR X Programは、今後伸長するであろう宇宙関連市場を見据え、ANA(全日本空輸)とJAXAが中心となり、同市場へ参入を目指す企業や団体と連携して関連事業の立ち上げを目指すプログラム。同年3月に発表された「ANA AVATAR VISION」と、JAXAの「JAXA 宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC:JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation)」の一環となる。
AVATAR X Programで事業化を目指す関連事業の例としては、「宇宙空間における建設事業」「宇宙ステーションや宇宙ホテルなどの保守・運用事業」「宇宙空間におけるエンタテイメント」が挙げられている。
発表会では最初にANAHDの代表取締役社長である片野坂真哉氏が登壇。冒頭において、台風21号や北海道胆振地方で起きた大地震について言及し、「被害にあわれた方にお見舞い申し上げます。また、運航再開に向けて関係各社の方のご努力に感謝しております」と述べた。
3月に発表された「ANA AVATAR VISION」では、ロボットや最新テクノロジーを活用することで、遠隔地であっても瞬間移動したかのように実地体験できるような世界構築を紹介していた。半年経った現在、「想像以上に共感していただけるパートナーが次々と集まっていただいております」と前置きし、そのなかでも今回は重要なパートナーとしてJAXAと手を組み宇宙事業まで拡大した「AVATAR X Program」を始動することを発表。
その第一段階として、参加企業や団体、大学や研究機関とコミュニティ形成を目的としてコンソーシアムを発足させ、宇宙関連事業における事業計画やロードマップの作成に入るとしている。
ANAは元パイロットである大西卓哉氏が宇宙飛行士になるなどつながりも深く、また片野坂氏本人も入社当時に将来の夢として「宇宙輸送をやっていたらいいな」という想いもあり、同グループの長期戦略を発表した際に「いつか宇宙へ」というメッセージを記したことも語っていた。
続いてJAXAの理事長である山川宏氏が登壇。片野坂氏と同様に被災地域の方へのお見舞いを述べるとともに、政府からの要請で被害地域の状況把握のために陸域観測技術衛星2号「だいち2号」による緊急観測の準備も進めていると話した。
JAXAは2018年4月より新たな7年間の中長期計画を開始し、そのなかでは宇宙利用と産業振興の拡大が大きな目標になっている。5月から開始した宇宙イノベーションパートナーシップは、事業意思のある民間事業者などとJAXAの間でパートナーシップを結び、共同で宇宙関連事業の創出を目指す研究開発プログラムで、今回のAVATAR X Programもその一環となる。「JAXAからは、人材、知識、機械などを提供いたします」と話した。
ANA AVATAR VISIONにおいてテストフィールドを提供している大分県も今回のAVATAR X Programに参加することを表明。会場では大分県の知事である広瀬勝貞氏がビデオでメッセージを寄せ、「大分県ではすでに複数のアバタープロジェクトの準備が進んでおり、JAXAの協力のもと、この秋に行なわれる『海と宙(そら)の未来展』においては、県内の小学生に学校にいながら、アバターによって筑波にあるJAXAの施設を遠隔見学してもらう企画を準備しております」と、進められている企画について紹介した。
そして、AVATAR X Programの技術拠点となる「AVATAR X Lab@OITA」を建設するための環境整備を支援することを表明し、非常に楽しみであると話した。「県としても、先日、内閣府の『近未来技術社会実装事業』にアバター事業で採択を受けておりまして、こうしたさまざまな事業を通じて、皆さんと一緒にアバターによる新しい未来の創造に挑戦していきたいと思います」と抱負を語った。
AVATAR X Programの詳細については、ANAのデジタル・デザイン・ラボ アバタープログラムのディレクターである深堀昂氏が解説した。ANA AVATARはANAが考える新たな移動手段であり、遠隔地にあるロボットを操作し、「見る・聞く・触る」ことにより自分の存在や技能、感覚を転送するもの。自分自身で考えて操作することにより、外部に対して影響を与えることができるのが「これまでのVR技術とは大きく違う点です」と深堀氏は語る。
アバター技術で操作するロボットは1体につき複数の人がログインすることもできるので、輸送量に制約がある宇宙空間においては利用価値が高い。1体のロボットに対して技術者や研究者、一般の人がログインして使うなど、ニーズに応じてさまざまな利用方法が考えられる。具体的なシーンとしては、「地上のエンジニアが宇宙ステーションで船外活動」「地上の科学者が宇宙ステーションで船内実験」「宇宙ステーションにいる宇宙飛行士が人工衛星の保守作業」「地上から宇宙遊泳が楽しめるエンタメ」といった内容が紹介された。
今後については、片野坂氏から発表されたようにステップ1では2018年内にコンソーシアムを発足させて事業目標を策定。
2019年からのステップ2では、大分県に月や火星の宇宙環境を模した技術実証フィールド「AVATAR X Lab@OITA」を建設し、実証実験に必要な通信機器や研究設備などを整備する。実験フィールドでは、アバター技術の実証実験だけでなく、将来人類が宇宙空間で生活するために欠かせない「探す・見つける」「楽しむ・学ぶ」「建てる」「暮らす」「医・食・住」を中心とした各種の事業性検証も併せて行なう。
ステップ3では、2020年代序盤の開始を目指し、「宇宙空間(地球低軌道)での技術の実証実験と事業性検証」後、各事業を立ち上げる。ステップ4では、これらの事業を月面や火星において展開する。
AVATAR X Program 参加表明企業・団体(28社、3団体、順不同)
・ANAホールディングス株式会社
・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
・大分県庁
・XPRIZE Foundation(XPRIZE財団)
・CLOUDS Architecture Office
・株式会社大林組
・大成建設株式会社
・株式会社竹中工務店
・鹿島建設株式会社
・株式会社NTTドコモ
・ソフトバンク株式会社
・KDDI株式会社
・ミサワホーム株式会社
・森ビル株式会社
・株式会社エイチ・アイ・エス
・有人宇宙システム株式会社
・株式会社友岡組
・大野砕石有限会社
・SpaceVR
・株式会社カナリア
・株式会社ADDIX
・凸版印刷株式会社
・株式会社メルティンMMI
・合同会社RE-al
・テレイグジスタンス株式会社
・GITAI Japan株式会社
・Apptronik Inc.
・SynTouch Inc.
・HaptX Inc.
・Shadow Robot Company Ltd.
発表会の終盤には宇宙飛行士である山崎直子氏も登場。「2010年に宇宙ステーションの組み立て、補給ミッションに携わった宇宙飛行士の立場から申し上げても、このAVATAR X Programには大きく期待しております。宇宙空間においては、物品などの制約とともに“クルータイム”も限られております。このクルータイムは、実験などにすべて使えるわけではなく、宇宙ステーションのメンテナンス、物品管理、清掃などにも使われます。また、実験をするにしてもツールの運び出しや資料の後片付けなど、非常に労力が費やされています。ですから、アバター技術が宇宙でも活用されていくとクルータイムがより有意義になり、我々が本当にやらなくてはいけない細かな作業に集中できることに大きく期待したいと思います。また、宇宙ステーションの先には月面探査やその先の遠くの探査など、未知な環境において人類が活動する前にアバターが作業環境を整えるといったところにも期待したいと思います」と、宇宙飛行士の観点からAVATAR X Programに対する期待を語った。
最後に大分県内に建設予定である技術実証フィールド「AVATAR X Lab@OITA」の設計を担当する「CLOUDS Architecture Office」(略称:Clouds AO)の3人が登壇し、コンセプトなどについて説明した。敷地は大きな窪地になっており、その窪みをクレーターに見立てて、各施設を配置する設計になっている。
中心の窪地にはシンボルビルディング、南側に月面環境模擬センター、北西側にR&D(研究開発)センターと医療センター・宿泊施設が建設される予定。施設の東側にはアバター遠隔探査フィールドが設置される。
コンセプトについては、「革新的な技術だけでなく、非常にヒューマニズムにあふれたプロジェクトであると感じたので、それにふさわしい技術と人間性を兼ね備えたデザインコンセプトを目指して取り組みました」と曽野正之氏は語った。AVATAR X Lab@OITAの施設は2019年4月から順次着工されるが、完成については未定となっている。
3社がAVATARのデモンストレーションを公開
AVATAR X Programの紹介が終わると、アバターのデモンストレーションが公開された。普段は関係者以外立入禁止である実験棟で行なわれ、室内には実際の月面を想定した砂地が用意されていた。そこには「月惑星環境で活動するアバター」「月周回宇宙ステーションで活動するアバター」「月面活動を遠隔で見学するアバター」の3つが展示されており、それぞれの開発者が個別に解説した。
月惑星環境で活動するアバターは、メルティンMMIが開発した「MELTANT-α」を使って、宇宙探査実験棟に模擬した地上管制室から月面で作業を行なっているシーンを想定したものだ。
MELTANT-αに使われている技術として特徴的なのは、人の手の構造を模した独自のワイヤー駆動技術により、繊細かつパワフルな動作を実現していること。また、超低遅延の遠隔操作システムによるレスポンスのよい操作性、ハプティクス機能により物を触るなどの力触覚を操作者にフィードバックしてくれるので、離れていても自らの手で作業しているような操作が可能としている。
月周回宇宙ステーションで活動するアバターは、Re-alが開発した「SPACE AVATAR」を使って地上の管制室から月を周回する宇宙ステーション船外の断熱材のひきはがし作業を遠隔操作で行なうというもの。
柔軟な動作を遠く離れた場所に“伝える・保存する・再現する”技術「リアルハプティクス」を用いることにより、触覚もリアルに再現する。リアルハプティクスは慶応義塾大学ハプティクス研究センターが開発した力触覚技術であり、慶応義塾大学が基本特許を保有しており、Re-alは共同で開発を行なっている。
月面活動を遠隔で見学するアバターは、凸版印刷が東京大学 暦本研究室と取り組んでいる「IoA仮想テレポーテーション」を使ったもので、地上の操作者が模擬宇宙環境にいるアバターを操作し、4K+広角レンズ搭載カメラの映像を大型多面モニターへ映し出すことで作業の様子を見学できるというもの。手元のコントローラを使ってアバターを操作し、視点を変更することも可能だ。