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ANAと三越伊勢丹、世界初のアバターによる“瞬間移動ショッピング”専門店「avatar-in store」を期間限定オープン
東京・日本橋のコレド室町3に12月5日~24日
2019年12月4日 17:48
- 2019年12月5日~24日 オープン
ANAHD(ANAホールディングス)と三越伊勢丹は、世界初となる、アバターでしか買い物ができない専門店「avatar-in store」を、東京・日本橋のコレド室町3 3階に、12月5日~24日にオープンする。
ANAではアバターを使って遠隔地へ瞬間移動するライフスタイルの提案や社会インフラの構築を目指してアバター事業を展開しており、その一環として、実際にアバターを用いてインターネット経由で買い物ができる店舗を展開するものとなる。
本店舗の概要についてANAHD 上席執行役員 グループ経営戦略室長の芝田浩二氏は、「12月24日までの20日間限定のサービスではあるが、いわゆる“瞬間移動ショッピング”をお楽しみいただける。お客さまは事前にアバターを経由して、三越伊勢丹さまのプロのスタッフから直接アドバイスを受けながら、冬のギフト、魅力あふれる商品をお買い求めいただける」と紹介。
さらに三越伊勢丹との協力を進めるとし、「来春以降はサービス範囲をもっと広げ、お店にお越しなるのが難しい、ご高齢の方や体の不自由な方にも、世界中どこからでもアバターを経由した、デジタルとリアルを融合した瞬間移動ショッピングを楽しみいただけるように努力していきたい」と話した。
店舗を展開する三越伊勢丹 執行役員 日本橋三越本店長の牧野伸喜氏は、「私たちは人と時代をつなぐ、そしてオンラインでもオフラインでも最高の顧客の価値体験を提供することを目指している。デモンストレーションとして、私どもの美術サロンで千住博先生の展覧会、そして静岡伊勢丹のお客さまに瞬間移動していただいて、新しい商談をさせていただくなどした結果、ぜひこのプロジェクトに参加させていただきたい、となった」と、本プロジェクト参加への背景を説明。
さらに、「人とロボットの共生で、私どものおもてなしの心を全世界に広げられれば。また、百貨店ビジネスにそれほどお客さまの広がりがないので、このアバターで日本、世界のお客さまとつながれることに大いに期待している」とコメント。
高齢者、体の不自由な方など、百貨店を訪れることができない国内の潜在顧客はもちろん、全世界の潜在顧客に対し、「私どもが自信を持った商品を、日本、世界に広げていくトライアルをしたい」と説明し、アバターによって「価値提案の場を広げる」ことへの期待も示した。
店に入れない瞬間移動ショッピング専門店「avatar-in store」の概要
アバターならびにavatar-in storeについては、ANAホールディングス株式会社 アバター準備室 ディレクターの深堀昂氏が説明した。
アバターについて同氏は「次世代のモビリティ×人間拡張のかけ算をアバターと呼んでいる。飛行機を使う移動手段ではなく、いろいろなところにアバターロボットを設置し、誰でもインターネットを経由して瞬間移動できるモビリティ。時間がないときや、身体的に家から出られない、入院中、高齢者、離島にお住まいの方々などが自由にインターネットを介してロボットに意識を伝送して、見て聞いて動き回れる」と定義付けし、飛行機で移動する人は世界人口の6%でしかないことを踏まえ、「体を移動させるのではなく、意識だけを伝送させる移動手段を考えた。このモビリティはどんな方でも使える。例えば空港や駅がなくてもインターネットが通じていれば、PCやスマホからアバターに接続して社会参画できる」とポイントを説明した。
そのために、さまざまなアバターロボットの開発を進めているが、今回のavatar-in storeでは、コミュニケーション型ロボットの「newme(ニューミー)」を使用。タイヤによる移動や、カメラによる映像とマイク/スピーカーによる音声の伝送が可能なものとなる。
10月に幕張メッセで行なわれたCEATEC 2019では二足歩行タイプやアームの付いたものなども展示されたが(関連記事「『CEATEC 2019』レポート。ANAが初出展でアバター技術を披露」)、深堀氏は「高性能なロボットを開発だけしてもなにも変わらないと思っている。技術を高めつつ、一般の家庭でも使えるロボットを研究室の外に出していく」と実際に利用できる環境を提供していることを本店舗展開のポイントに挙げた。
そして、今回のavatar-in storeで、アバターによるショッピングに価値を感じてもらえるか、そこにニーズがあるのかも含めて検証をするという。
このnewmeは100cm/14.5kg(高さ/重量)のSタイプ、130cm/15.0kg(同)のMタイプ、150cm/15.5kg(同)のLタイプがあり、avatar-in storeではLタイプを使用する。曲線を用い、カラーリングもカスタマイズ可能なデザインとしているが、この点について深堀氏は「ポイントは“ばらまく”こと。いろいろなところに置いて、不特定多数の人が、いろいろな目的に応じて、いろいろなことができる社会を作りたい」とデザイン設計の背景を説明した。
頭にあたる部分には、10.1インチのフルHD対応ディスプレイを搭載し、上下60度のチルト稼働が可能。タイヤによる移動もでき、横方向への首振りはタイヤを利用することになる。バッテリ駆動時間は約3時間。avatar-in storeでは5台を店舗に用意し、1台を常時稼働させて、ほかのnewmeは充電するなどしてスタンバイさせておく体制で運用するという。
avatar-in storeを利用したい人は、事前にavatar-inのWebサイトで無料の会員登録をし、PCやタブレットにアプリをインストール。期間中10時~19時に、30分単位で予約をしておく。アプリでは、newmeの前方と足下のカメラを参照でき、店員とのコミュニケーションが可能になっている。買いたいアイテムをカートに入れて、決済まで完結できる。
ハードウェアであるnewmeと、このソフトウェアは「avatar-inプラットフォーム」としてANAが開発を進めており、映像の低遅延伝送技術なども盛り込んでいる。アプリケーションの今後の利用シーンや利用企業に合わせたカスタイマイズについて深堀氏は「決済機能なども実装しており、ショッピングアプリができていることで、いろいろな分野をカバーできる」と説明。また、企業のアプリに組み込みたいなどのニーズに応えるために、APIの提供も検討しているという。
さらに、この「avatar-in」という言葉については、「『明日avatar-inして三越でショッピングしよう』のように、avatar-inという動詞を世の中に広げたい」との希望を述べた。
今回の実証実験としてショッピングという題材を選んだ理由は「物が届くことが重要。店員さんと話して、実際に物が届くことで、仮想現実ではないことが分かる」と説明。avatar-in storeはガラス張りとなっており、「行っても中に入れないというとんでなもないコンセプト」(深堀氏)というものだが、アバターロボットがどのように動いて、店員さんがどのように接客しているかを見てもらうという目的もあるという。
avatar-in storeとオンラインショッピングとの違いについては「三越伊勢丹さんのナレッジがある方と話しながら動かすことができること。商品のストーリーを聞きながら買い物ができる」と説明。そのため「背景のストーリーがあり、説明をすることが価値の高まる商品がアバター向き。どこでも買える商品はオンラインショッピングの方が向いているのでは?」との考えも示した。また、テレビ/ビデオ電話を活用したショッピングとの比較に対しては、「動くことが重要。動くことで存在感が高まり、コミュニケーションが深まる」と説明している。
一方、売り手である店舗スタッフの負担などについては、深堀氏は「今回の検証課題の一つ。仮説としては、(リアル店舗よりも)説明は増えることになるが、人材教育に投資されているところでは活きてくるのではないか」と述べ、三越伊勢丹の牧野氏は「お客さま本位でいろいろな付加価値をどうお伝えするかが、我々の接客の一番の大切なところ。1対1で接客させていただくということは、デモに参加した本人は非常に楽しかったと。お客さまとお話しして、お客さまに価値提供し、お客さまに満足いただくこと。これは我々が気付かなかったお客さまとのOne to Oneのつながりがあり、実際の接客にも活きてくるのでは」との見方を示した。
深堀氏はアバター、avatar-inを活用した未来のビジョンとして、「2050年までに『物理的距離と身体的限界をゼロにする』ことを目指して、最先端の技術、サイエンス、テクノロジーを融合して、さまざまなアバターロボット、それをつなげるプラットフォームを産官学協力して実装しようとしている」と紹介。
今回のavatar-in storeは12月24日までの期間限定だが、深堀氏は「2020年4月以降は、アバターをいろいろなフロアや店舗に置くことで、三越伊勢丹さんのファンが好きな場所で買い物できるようなサービスを構築できたら」と話し、リアル店舗にアバターを導入し、さらにいろいろなショッピング体験を提供したいとしている。
また、三井不動産とともに、日本橋エリアでアバターの都市実装共同事業を展開することを11月に発表しており、この計画では2020年内に100体のnewmeを日本橋エリアに設置することを目指している。この計画でもショッピングなどへの活用は計画されているというが、深堀氏は「私たちが重要だと考えているのは、これまでのロボティクスは使い方が明確で限定されていたが、限定されてしまうと導入企業側も、例えば受付案内しかできないのに投資しなければならないのはリスクになる。アバターなら中に入る人次第で、例えば中に有名な先生に入っていただけばその講演を聞ける。中に入る人の価値をそのまま伝送するというアバターが街中にあれば、いろいろなことができる」と活用の創出を目指す考えを示している。
その先の2021年度はロボットをコントロールし予約した場所へアバターが自動的に移動して待っている技術の実装や、価格や商品が浮かび上がって見える「ライブ商品AR」の実装に向けて研究を進めているという。
2025年度には、二足歩行型アバター、アーム付きアバターといった高性能なアバターを実装し、商品の陳列や荷物の運搬が可能なアバターを開発したいとしている。深堀氏は「例えば、日本の労働人口が減少しているが、世界は人口が増えているので、海外の方がアバターで陳列を手伝えるような社会インフラができれば」との展望を示した。