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ANAHD、福岡市玄界島でドローンの配送実験公開。唐泊漁港~玄界島で自律飛行輸送に成功
2018年11月24日 18:45
- 2018年11月21日 実施
ANAHD(ANAホールディングス)は、エアロセンスと福岡市とともに「平成30年度 CO2排出量削減に資する過疎地域における無人航空機を使用した配送実用化推進調査」に参画している。この3者間で初めてとなるドローンを使用した輸送実験を、11月21日に福岡市の玄界島で実施した。
3者それぞれの役割として、ANAHDは実証実験をまとめる代表事業者、エアロセンスは自社ドローンの提供や、実際の飛行・運航管理。そして福岡市は実験場所の提供や社会実装に向けた調整、という内容。
同日、報道陣は実験場所に設定された玄界島へ福岡市がチャーターした連絡船で移動し、現地で本土から飛来するドローンの離着陸を見守った。博多ふ頭から約18kmの場所にある玄界島へは、連絡船で約30分ほど。12時半には、集合場所となった博多ふ頭からチャーター船が出発。13時過ぎに玄界島に到着した。
実験の前に3者から実験内容や取り巻く環境について事前説明
実証実験の開始前に、玄界島集会所で説明会が行なわれた。最初に、ANAHD デジタル・デザイン・ラボ チーフディレクターの津田佳明氏より、「ANAは60年以上前、ヘリコプター2機に従業員16名と、今でいうスタートアップでした。ヘリコプターとドローンは親和性があり、空の革命児としてドローンがあります。
挑戦していくという意味で自分たちのことを『破壊者』と表現していますが、例えば航空運賃についての破壊はLCCが担っています。利便性という意味ではドローンがあり、飛行性能やバッテリ性能が向上すれば、自宅の駐車場から飛び立てるようになると思います。スピードでの破壊は宇宙ロケットがあります。物理的な移動をしなくて済むというアバターの研究もそうです。現状、ドローンは空撮や航空機の機体整備に使用されています。ゴルフツアーなどでコース紹介に使われていたり、新興国での物資輸送ができないか検討中であったりします。
ANAは旅客機のオペレータなのですが、今後どのポジションを目指していくか、ということにつきましては、航空機輸送と同じく、インフラ、地域、航空法など与えられた範囲のなかでドローンオペレータ事業者としてやっていきたいと思っています。
実証実験に関しましては、まず無人のエリアで実験を繰り返していきデータを蓄積していきたいと考えてます。現状、玄界島は1日7便の渡船が走っておりますが、そのなかでドローンがどのような役割を見いだしていくのか、というのも実験から得たいと思っております」と説明した。
続いて、エアロセンス CTOの佐部浩太郎氏は、「今回は、福岡県西区にある唐泊(からどまり)漁港をA地点として、こちら玄界島のヘリポートのB地点までを飛行します。本日は往復します。唐泊から薬品などを運び、玄海島からは特産の海産物を箱に入れて、唐泊漁港まで折り返し飛行をします。
飛行ルートは4.4kmほど。山があるので折れ曲がったルートとなっています。飛行スピードは10m/s、時速およそ36km/hほどで移動します。約9分間ほどで玄界島に到着する予定です。一度、30mまで上昇し、その後さらに斜め方向に70mほどまで到達し、玄界島に向けて飛行します。今回は行き帰りともに1kg程度の荷物の搬送をいたします。
両地点に機体をコントロールできる送信機を用意し、いつでも手動コントロールに切り替えられるようになっております(今回はルート設定済の自律飛行が前提)。荷物用のボックスはコーティングされた発泡スチロール製でワンタッチで機体に装着できます」と、ルートや運搬物など実験の概要が説明された。
最後に、福岡市総務企画局 企画調整部 企画課長の藤本和史氏から、福岡市を取り巻く現状について説明があった。「政令市として5番目となるまで人口が増加している福岡市ですが、市街化調整区域といった外縁部、いわゆる農村部などは福岡市内にもあります。そうした開発が進んでいないエリアが市域の5割を占めています。市全体では2015年まで20年ほどで、人口が20%ほど増えていますが、市街化調整区域では14%ほど減っています。高齢化率も上がっています。福岡が元気だといっても外縁部ではどんどん高齢化が進んでいるのが現状です」と、人口増加率が政令市中、全国1位を誇る福岡市でも、高齢化問題が進行しているという背景を説明。
唐泊漁港を出発したドローンが無事、玄界島に到着
3者の説明が終了したのち、報道陣はB地点に設定されているヘリポートに移動。
14時20分ごろ、実験用ドローンは玄海島に向かって飛び立った。9分ほどで到着するということで、肉眼で確認できたのは着陸の3分程前。手動コントロールに移行することなく、無事ヘリポートに着陸し、ANAスタッフより玄界島住民に荷物が手渡された。
荷物を受け取ったあとは、本土へ折り返す便に荷物を積載。玄界島産の天然生わかめのパックを2袋、ボックスに封入し、ドローンのバッテリ交換とセンサーチェックを終えたのち、14時50分、唐泊漁港に向かって飛び立った。
福岡市漁業協同組合 玄界島支所 支所運営委員会会長の細江四男美氏は、「この島も少子高齢化に伴い後継者不足です。Webサイトを製作しさまざまなアピールを行なっていますが、今年になって30歳の若い人が漁師をしたいということで渡ってきまして、活気が出てきています。
冬は海が時化て食料が届かない季節です。船が出せないときに小さいものがドローンで運べると。玄界島で採れるサザエやウニが、その日のうち、もしくは採って数時間後には飲食店で提供できるといったことができれば、鮮度がよい状態で食べていただけると思います。
船が出せなくて困るのは、新聞が届かないことです。台風や冬時期の季節風が強くなるときは多いですね。新聞なら比較的軽くて飛ばしやすいかもしれません。高齢者の薬も、わざわざ市内まで取りにいかなくて済むとよいですよね。
あとは、密漁の監視に使用できそうだな、と思いました。飛んでいって現場を撮影する。それが直接的な被害から抑止力になればよいと思いました」とコメントした。
実験が無事終了し、ANAHDの津田氏は「安全に1往復できましたので、ホッとしています。次は有人地帯で、となりますが、ここが大きなハードルとなるかと思っておりまして、そこがクリアできないとビジネスには結びついていかないと。今はたくさん経験を積むフェーズですので、今日のような実験を数多くやっていく。地元の方にもニーズを感じ取ってもらい、我々も経験を蓄積することが大事かと思います。
さらに大きい荷物、長い距離となっていくことも視野に入ってきます。我々は(ドローンの)機体メーカーではありませんが、今後も協力しあって続けていくことが大事だと思ってます。
ドローンが増えてきますと、秩序だった空が必要になってきますので、運航管理や管制というインフラも作り上げていきたいですね」と締めくくった。