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ANA、超スマート社会実現に向けたアバター事業「ANA AVATAR VISION」発表会。遠隔地をつないで釣りや美術館巡りを体験

2018年3月29日 実施

ANAが「ANA AVATAR VISION」の概要説明とデモ展示を行なった

 ANA(全日本空輸)は3月29日、2018年~2022年度グループ中期経営戦略において策定された、Society 5.0(超スマート社会)の実現に向けた取り組みの一つ「AVATAR(アバター)」事業を始動させるにあたり、取り組みである「ANA AVATAR VISION」の概要説明とデモ展示を羽田空港において行なった。

 アバターはさまざまな理由で実際にその場に行くことができない場合に、ロボット技術など最先端テクノロジを用いた自身の化身ともいえるアバターを活用することで、コミュニケーションをとったりアクションを起こしたりすることができる。

 例えば、春休みに沖縄への家族旅行を予定していた父親が仕事で行けなくなった場合に一緒に美ら海水族館で家族と楽しむ、遠くへ出かける時間がないけど海釣りを楽しみたい場合は遠隔地の釣り堀とつながったシステムで魚釣りを楽しむ、こういったことが近いうちに可能になる。

 このほか、災害の現場における救助活動、医療機関の整備が進んでいない地域における触診を含む治療、地理や財政的な制約によって十分な教育が受けられない人への教育機会の提供など、さまざまなシーンでの活用が期待されている。ANAHD(ANAホールディングス)代表取締役社長の片野坂真哉氏は「このようなANA AVATARをこれからの日本や世界の皆さんへの新しいライフスタイルとしてご提供していきたいと思っています」と語った。

あいさつをするANAホールディングス株式会社 代表取締役社長の片野坂真哉氏
テストフィールドのある大分県の知事 広瀬勝貞氏とアバターを介して歓談する片野坂真哉氏

「ANA AVATAR VISION」は、高性能なアバターを開発するために賞金レースを活用することによる早期の実用化と、既存技術の市場テストによるサービス化の準備の2本柱になっている。

 前者はアメリカに拠点を置くXPRIZE財団が主催する国際賞金レースにおいて「ANA AVATAR XPRIZE」がテーマに採用されており、2018年3月12日から4年間にわたり、賞金総額1000万ドルの開発レースがスタートしている。このなかで考えられているアバターは、「見て、聞いて、触れる」といったように1台で何でもできるものが想定されている。現在はVRやAR、テレコミュニケーション、センシングやロボット技術など、さまざまな技術がそれぞれ発展しているが、それをアバターとして早期にパッケージングするための施策が「ANA AVATAR XPRIZE」になる。

 ちなみにこちらの賞金レースの優勝条件は「初めて操作する人が100km以上離れているアバターを遠隔操作し、単純作業から複雑な作業までを行なう」となっており、災害救助や介護、特殊作業などのシナリオをこなし、ポイントを競う。現在のところ、世界各国から150以上のチームが参加登録しているとのことだ。

 後者のサービス化の準備については、大分県にあるテストフィールドで実証実験が進められており、教育、医療、観光、農林水産、宇宙開発といった分野の実験が進められている。またクラウドファンディングサービス「WonderFLY」を活用して、サービス企画や機運の後押しが図られている。

 このアバターを利用するためのサービスとしては「AVATAR-IN」という専用のアプリケーションを用意する予定であり、世界中に置かれたアバターを活用し、さまざまな体験ができるとのことである。

「ANA AVATAR VISION」を説明する、ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・ディレクター 深堀昂氏(左)と、ANAホールディングス株式会社 デジタル・デザイン・ラボ アバター・プログラム・イノベーション・リサーチャー 梶谷ケビン氏(右)
3月12日から開始された賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」。2018年~2021年まで、4年間にわたって高性能アバターの開発が競われる
実証実験は大分県の協力のもと、県内にあるテストフィールドで行なわれている
クラウドファンディングサービス「WonderFLY」を活用して資金調達を図る
専用アプリ「AVATAR-IN」を通じて、さまざまなアバターサービスが提供される予定

 当日の会場では「ANA AVATAR FISHING」「ANA AVATAR DIVING」「ANA AVATAR MUSEUM」「ANA AVATAR AIRPORT SERVICE」の4つのサービスのデモンストレーションが行なわれた。

「ANA AVATAR FISHING」は、遠隔地の海などで実際に釣りができるサ-ビスを体験してもらうもので、釣った魚は配送で自宅に届けられる予定。「ANA AVATAR DIVING」もフィッシング同様、遠隔地の海の中の貝を実際に潜って収穫できるサ-ビスになっている。

「ANA AVATAR MUSEUM」は、遠隔地の水族館をはじめ、美術館、博物館、動物園などを実際に動き回り鑑賞できるサ-ビスを体験できるもので、例えば、体が不自由な高齢者が孫とアバターで現地合流して一緒に楽しむといったシーンが想定されている。

「ANA AVATAR AIRPORT SERVICE」は、訪日外国人向けに遠隔地から多言語で乗客を案内するサービスで、当日は自動手荷物預け機の使い方を中国語で説明するデモンストレーションが行なわれた。

 現在、多くが試作機段階であるが、今後も実験を重ねて実用化のめどが付いたものは早ければ2019年4月以降からサービスの提供を予定している。

慶応義塾大学が取り組んでいる「ANA AVATAR FISHING」のブース。手前にある釣り竿を操作して、奥にある遠隔操作された釣り竿を操作する。魚がかかると、操作側の釣り竿にも“ググググッ”という振動が本物のように伝わってくる。こちらに使われている力触覚の原理は特許も取得しているとのこと
株式会社メルティンが取り組んでいる「ANA AVATAR DIVING」のブース。操作者の手元にあるカメラの上で手を動かしたり握ったりすると、その動きを分析して水槽内のマニピュレータ同じように動作して貝をつかめる
凸版印刷株式会社が取り組んでいる「ANA AVATAR MUSEUM」のブース。当日は沖縄県にある美ら海水族館の大水槽前にあるアバターが撮影している4K映像をリアルタイムで大画面に表示していた。コントローラでアバターの向きを変えることで視野も変化する
「ANA AVATAR AIRPORT SERVICE」は、Suitable Technologies社のアバターBeamシリーズを活用したサービス。この日は遠方にいる空港スタッフが自動手荷物預け機の使い方を中国語で説明していた。現地語対応できるスタッフが不在の場合の対処、アイドルタイムの有効活用などが想定されている