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ANAと日立、遅延や悪天候時の運航ダイヤ修正を自動立案する技術の実証実験。熟練者と同じ案を出すケースも
2020年3月5日 17:22
- 2020年3月5日 発表
ANA(全日本空輸)と日立製作所は3月5日、航空機の運航ダイヤ修正を自動立案する技術の実証実験を実施することを発表した。
ANAは現在、1日あたり国内線で約800便、国際線で約200便の計約1000便を運航しているが、悪天候や機材メンテナンス、空港/空路の混雑などの影響によるイレギュラーが「規模の大小はあるが、ほぼ毎日発生している」(ANA オペレーションマネジメントセンター オペレーションマネジメント部 フライトスケジュールマネジメントチーム アシスタントマネジャー 筒井謙一氏)という。こうしたイレギュラーが発生すると、後続便に影響が波及するため、その影響を最小限に留めるよう運航ダイヤの修正を行なう必要が生じるが、これは人の手により進められているのが現状だという。
その業務フローとしては、便の運航状況のほか、後続便やほかの機材の状況、搭乗している旅客や乗り継ぎが必要な旅客の数、空港の運用時間、天候などさまざまな情報を網羅的に収集し、スーパーバイザーと呼ばれる社内資格を持つスタッフが過去の経験則や状況判断の感度、あらゆるルールを加味したうえで影響を見積もり、修正ダイヤを立案。それを関係各所と調整し、すべて成立して修正ダイヤを決定している。関係各所との調整で、例えば乗務員の人繰りで実現が難しいとなれば、修正ダイヤの立案はやり直しとなり、天候のように分単位で変わる情報などは改めて収集し直す必要がある。
ここでは、多様で大量の要件を満たした修正計画を出す必要があるところが難しく、例えば航空機のバリエーションだけでも74名乗りのプロペラ機から500名以上が乗れる大型ジェット機まで280機ほどあり、空港や航空路の過密具合なども見積もる必要がある。また航空機の運用には航空法に則った整備機会の時間も必要であり、柔軟性のあるダイヤと、さまざまな法、ルールの遵守の両立が難しい点だという。
ANAとしては、より早くイレギュラーから回復し、定時性向上や欠航を抑制しつつ、利用者への状況提供も早く行なえるようしたい一方で、現状の属人性の高いオペレーションでは、高度な専門性を必要とすることから人の養成にも長時間を要し、10名弱というスーパーバイザー資格保有者の時間的制約からくる心理的負担などの課題があり、「マニュアルによる業務がそろそろ限界に近い。そのためにデジタル技術にサポートを求めてきた」(筒井氏)と今回の実証実験に取り組むことになった。
一方の日立製作所とそのグループでは、「Lumada」と総称されるデジタル技術を活用したソリューション・サービス・テクノロジーを展開しており、さまざまな業界において最適化や自動化ソリューションを導入している。そのなかで計画立案の領域に向けては、4つの基本機能をベースに、同社内の技術を組み合わせることで顧客にフィットさせて提供している。
ANAとの取り組みでは情報収集からダイヤ修正までを自動化し、4つの修正ダイヤ案とそれぞれの案のKPI評価レポートを提出するシステムを構築。日立製作所 産業・流通ビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 流通システム本部 第四システム部 技師の生田博久氏は「計画ダイヤの修正業務は高度で難易度が高いもの。ケーススタディを通じて深く理解し、そこに日立のノウハウを活用し、速度と品質を両立した最適化モデルをデザインしている」と説明する。航空の分野は実施しようと思えばできることの自由度は高いが、法/ルールによる制約が多いことが難しいという。
最終的に採用されるのは一つの案だけになるが、例えばコストインパクトが小さい案、利用者の乗り継ぎ便対応を重視した案など、状況に応じて重視する項目が異なるために複数のレポートを提示。それぞれに対して便の入れ替え数や欠航数、最大遅延時間、定時出発便数などさまざまな指標の適合度合いを示すKPI評価レポートを提示することで、人間による最終決定をサポートするようになっている。
提示する案の数など細かい部分はあくまで今回の実証実験におけるものでこのあたりも今後の検討項目の一つとなるが、日立製作所ではこの技術を汎用化することで、最終的にLumadaの航空業界向けサービスとしての展開していくことを計画している。
この実証実験は2019年6月からスタートし、主に過去のイレギュラー発生時のデータを元に修正ダイヤ案を出して検証が行なわれている。現在では、熟練者と同等の速度で修正ダイヤ案を出せ、サーバー4台をパラレルで動作させることで、熟練者と同じ時間で4案を提示できる状況になっているという。
立案にあたっては、ANAのオペレーションで必要となるさまざまな情報を自動的に収集。通常のオペレーションで必要となる関係各所との調整においても、人繰りの可否は加味して最適な案を出している。
これまでの検証のなかで、実際に熟練者が作成した案と同じ案を出す例もあるといい、「今回の実証実験は世界的に見ても非常にチャレンジングなことで、ここまでたどり着けない可能性の方が高いと思っていた。現状を見ると、ある程度の見込みが立ってきた」(筒井氏)と評価している。
また、筒井氏は今回の修正ダイヤの自動立案について、「人の仕事を技術が担うのではなく、速度と品質という相反する両面を実現していくために、人が時間に追われてやっている仕事を技術の力を借りて、人間はよりベターでベストなことを見つけていく判断に時間を割けるようにするためのサポートツールになればと考えている」との構想も述べている。人が最終決定をすることに違いはないが、「現在のスーパーバイザーとは違うスキルが求められるようになるのではないか」と将来を見る。
なお、ANAは今回の実証実験については実現性と有効性を検証するものとしており、導入するかどうかも含めて、今後検討していく。