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withコロナ時代の空旅とは? ANAの感染拡大予防の取り組み「ANA Care promise」。安心のために乗客ができること

2020年6月1日から順次開始

withコロナ時代の新型コロナウイルス対策「ANA Care Promise」の取り組みを取材した

 ANA(全日本空輸)は、5月21日に「ANA便をより安心してご利用いただくために」と題したニュースリリースを発表し、新型コロナウイルスの感染拡大予防に対する同社の基本的な考え方や、飛行機搭乗時に通過する各箇所での具体的な実施内容をとりまとめた。6月1日からはこれらを「ANA Care Promise(ケア・プロミス)」と称し、一連の取り組みを本格化させている。この取り組みについて、空港から機内でどのような取り組みが行なわれているかを6月4日に取材した。搭乗客が注意すべき点と併せて紹介する。

 5月21日に発表されたニュースリリースでは、ANAグループの基本的な考え方として4ポイント。そして、乗客へのマスク着用の協力を求めているのが要旨となる。以下に引用する。

ANAグループの基本的な考え方

(1)空港、機内、ラウンジなどあらゆるシーンにおいて、常に衛生的で清潔な環境をご用意いたします。
(2)ANAグループの職員はお客様と接するあらゆる場所においてマスクを必ず着用いたします。
(3)ANAグループで運航するすべての航空機は定期的に消毒いたします。国際線機材は毎便、国内線機材も毎日夜間に消毒を実施いたします。
(4)ANAグループで運航するすべての航空機は、きれいな空気で換気されています。

お客様へのお願い

 お客様におかれましても、新型コロナウイルス感染拡大を予防するために、空港および機内においては、お客様同士のご不安解消のため、マスクを必ずご着用ください。
 なお、マスクを着用されないお客様ならびに発熱など体調がすぐれないお客様のご搭乗をお断りする場合がございます。
 皆様へ感染拡大防止に向けた取り組みへのご協力をお願い申し上げます。
※:マスクの着用に関しては、幼児または着用が難しい理由のあるお客様を除きます。

 要点としては、あらゆるシーンで清潔を保つこと、機内の消毒を実施すること、機内は換気されていること、乗員/乗客すべてマスク着用を基本とすること、といったあたりが挙げられる。「ANA Care Promise」は具体的にこの方針に沿った取り組みが行なわれている。

空港での取り組み

フェイスシールドまたはビニールカーテンでカウンターでの感染予防

 飛行機に乗る際にまず訪れるのが空港。空港スタッフは全員マスクを着用するほか、チェックインカウンターでは、一部の有人カウンターにビニールカーテンを張っている。また、ビニールカーテンが張られていないカウンターや、それ以外の場所で従事するスタッフはフェイスシールドを着用している。

 このマスク+ビニールカーテンまたはフェイスシールドは原則的な運用となっており、これによって乗客とスタッフ間での飛沫感染を予防している。

 空港での取り組みについてインタビューに応じた、ANAエアポートサービスの吉川仁美氏は、フェイスシールドの着用について「お客さまに安心を感じていただけるよう、マスクやフェイスシールド着用を徹底している」とし、これから迎える暑い季節のなかでのフェイスシールド着用についても「季節的に着用を検討する必要はあるかも知れないが、安心を感じていただけるのであれば苦にはならない」と話す。

 ビニールカーテンについては、「お客さまとスタッフとの距離はこれまでと同じで、アイコンタクトもできる」という点をポイントに挙げる。チェックインカウンターでは予約確認でカードなどをやり取りすることもあるが、「トレイを使って、お客さまとの直接の接触を避けている」という運用を行なっており、あまり違和感なく接客できるという。

チェックインカウンターに張られたビニールカーテン
ビニールカーテンのない場所で作業するスタッフはフェイスシールドを着用
羽田空港のチェックインカウンター入口に掲示されているポスター
インタビューに応じたANAエアポートサービス株式会社 旅客サービス部 国内業務課 吉川仁美氏

マスク着用やソーシャルディスタンス、消毒で乗客同士の不安解消を求める

 一方、乗客に対しても協力を呼びかけている。主には「マスクの着用」「列を作る場面で間隔を空けて並ぶこと」「手の消毒」の3点だ。

 マスク着用は飛行機への搭乗に限らず日常生活でも求められているが、「1便に1名ぐらいは搭乗口でマスクを着けてらっしゃらない方をお見かけする」(吉川氏)とのこと。SKiPサービスはカウンターに立ち寄らないこともあり、協力要請は搭乗口で行なうのが基本になっている。

 吉川氏は「お客さま同士の不安をなくすためにも着用にご協力いただいている」とし、これまでに搭乗口でマスク着用の協力を求めて拒まれたことはないという。

 2点目の列を作る際の間隔は、いわゆるソーシャルディスタンスを確保するもの。床に立ち位置の目安を示すマークを貼付し、一定の間隔を空けて並ぶようアナウンスやポスターなどで呼びかけている。

 緊急事態宣言が全国が解除されて間もない時期でもあるため、コロナ禍以前のような人出ではないが、「夏の多客期では列が長くなる可能性もあるので、その対策は現在検討している」とし、情勢を見て新たな対策を打っていく意向だ。

間隔を空けて列を作ってもらうよう立ち位置を示すマークを床に貼付

 3点目の消毒については、羽田空港ではすでにあちらこちらに消毒液が設置されている。まだ設置していない空港についても、順次導入を進めていく計画だ。

 重視されているのは人がモノに触れる部分の消毒だ。例えば自動チェックインカウンターや、自動荷物預け機(ANA Baggage Drop)、航空会社が用意する車いすやベビーカーなどが挙げられる。これらはスタッフがこまめに消毒するよう心がけている。

 また、乗客にも手の消毒に協力を求めている。自動チェックインカウンターや自動荷物預け機が置かれている場所はスタンションが張られ、手の消毒をしたうえでこのエリアに立ち入ることを促している。機械も1台おきの稼働に制限することで“密”を回避している。

 このほか、保安検査場入口のチェック機でレシートのように出てくる「通過証」も、係員が触れずに乗客自らが受け取るよう促していることから、保安検査場の入口にも消毒液を設置。

 さらに、飛行機に乗る直前にも消毒液を設置し、機内へのウイルス持ち込みを防止している。

羽田空港では、自動チェックイン機や自動荷物預け機を1台おきに使用。それぞれのエリアの入口に消毒液を設置している
羽田空港の保安検査場前に掲示されているポスター
保安検査場に入る際にも消毒
通過証は乗客自身がピックアップする
空港と飛行機を結ぶPBB(旅客搭乗橋)にも消毒液を設置。搭乗前にも消毒を

サーモグラフィでの体温を乗客自らがセルフチェック

 保安検査場においては、国土交通省の取り組みとして国内6空港に乗客の体温を測定する検温用サーモグラフィを設置している。37.5℃以上の体温は赤、未満は青系統の色で表示する。

 設置後の間もない時期には係員が立ち会って確認していたが、現在はセルフチェックを行なうようになっている。ここも乗客の協力が必要となる部分だ。

保安検査場の入口に設置されたサーモグラフィ。自身でモニターを確認

羽田空港の搭乗口には「Care Promise」担当スタッフも配備

 これは現在、羽田空港でのみ実施しているものだが、6月4日から搭乗口に「Care Promise」専任の担当者を、各便に1名ずつ配備。乗客への案内や協力要請を行なっている。

 搭乗口でもソーシャルディスタンスを確保するよう間隔を空けて列を作るよう促しているほか、不必要な“密”を避けるべく、搭乗アナウンス前に列を作らないようにも求めている。

 保安検査場同様、搭乗口で出される「搭乗案内」カードも、これまでは地上旅客スタッフがピックアップして乗客に手渡ししていたが、乗客自身で受け取るよう案内している。

搭乗口の様子。ビニールカーテンは張られていない
羽田空港の搭乗口に掲示されているポスター
スタッフ全員がマスクとフェイスシールドを着用
羽田空港には各便に「Care Promise」担当スタッフを配備
乗客は間隔を空けて搭乗口を通過
搭乗案内用紙を乗客自身で受け取ってもらうよう案内

飛行機内での取り組み

CA(客室乗務員)はマスク+手袋姿。食事サービス時はゴーグル着用

機内のギャレー

 飛行機搭乗中もマスクの着用は求められる。CA(客室乗務員)もマスクを着用しており、後述の機内換気と合わせて安心してもらうよう呼びかけている。

 CAは加えて、手袋も着用。ドリンクなどをカートに準備する際も直接手を触れることがないようにしている。

 さらに、プレミアムクラスで食事をサービスする際にはゴーグルを着用する。これは食事中に乗客がマスクを外す必要があるため。飛沫感染のリスクが高まる状況にあることから、ゴーグルを付けて予防しているという。

ギャレーでの手洗い
ドリンクなどを準備する前に手袋を着用
プレミアムクラスで食事をサービスする際にはゴーグルも着用する

紙パックのドリンクは受け取りも廃棄も乗客自身で

 現在、ANA国内線のドリンクサービスは紙パックのお茶のみを提供しており、子供向けに同じく紙パックのリンゴジュースを用意している。このほかに、ペットボトルの水も搭載しているが、数が限られていることから、薬を服用するためなど必要な乗客にのみ提供しているという。

 紙パックのドリンクの提供時はトレイに乗せた紙パックを乗客自身で受け取ってもらうようにしている。さらに廃棄も、降機時にCAが持ったゴミ袋に乗客自身で投棄してもらうようにしている。こうすることで、CAと乗客との接触を最小限にしている。

 以前のように複数のドリンクから希望のドリンクをコップに注ぐサービスは行なわれておらず、受け取りから廃棄まで乗客に協力を求める状況となっていることから、機内アナウンスでは「サービスが行き届かないこと」に対するお詫びが述べられていた。

紙パックのドリンクを乗客自身で受け取ってもらうスタイルで提供
大人には紙パックのお茶、子供にはリンゴジュースを提供
降機時にCAが持つゴミ袋に飲み終わった紙パックを投棄

 このほか機内サービスの点では、雑誌の提供や機内販売を取りやめているほか、機内誌もシートポケットには設置していない。機内誌については希望者に提供するようにしているが、使い回しはせず、乗客に提供して降機後に機内に残された機内誌はすべて廃棄しているという。

シートポケットには安全のしおりとエチケット袋のみ

飛行機の換気を機内アナウンスで説明。機内の消毒も強化

 新型コロナウイルスの感染が世界に広がりはじめたころから、航空会社や航空機メーカーが強くアピールしていたのが、機内の換気に関する情報だ。機内の空気は、ウイルスがいない外気と、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターを通してウイルスを99.95%以上除去して循環させている空気の混合気であること。そして、機内の空気は滞留することなく、常に上から下へと流れて循環していることから、約3分間で完全に入れ替わる。これにより、機内の空気は清潔な空気になっている。

 ANAでも機内換気をイラストを使用して説明しているほか、CAによる機内アナウンスでも「約3分間で機内の空気がすべて入れ替わる」ことを説明して安心するよう呼びかけていた。

 ちなみに、機内アナウンスではこのほかに「乗客自身のマスク着用」「咳エチケット」「近くや大きな声での会話を控えること」への配慮を求めた。そして、マスク着用を求める現状を踏まえた保安上の案内として、酸素マスクが下りてきた場合には、「マスクを外して酸素マスクを着用する」ことも説明している。

イラストを使って機内換気の仕組みを説明(画像提供:ANA)
ボーイング 767型機の機内上部。スリットから空気を取り入れる
窓側足下にあるメッシュ部分から排気。空気は上から下に流れる
コックピットにある機内空気循環のスイッチ。基本的に常にオンにしている(写真提供:ANA)

 機内の清潔さを保つためにもう一つ取り組みを強化しているのが、機内の消毒作業だ。国内線の機材では毎日夜間の駐機中にアルコールを用いて、機内のテーブルや肘掛け、シートモニター、コントローラなどの乗客が手を触れる部分を中心に消毒。

 ラバトリー(トイレ)はさらに徹底。飛行中は以前より二酸化塩素を用いた除菌消臭剤を使って拭き掃除を行なっているが、加えて6月3日から飛行機の空港到着から出発までの間に、CAがアルコールを用いた除菌シートを使って、毎便ラバトリーの消毒を行なうようにしている。

 6月中旬以降は、希望する乗客への除菌シート配布も計画しており、消毒に関する取り組みをさらに強化していく。

毎日夜間の駐機中に機内の消毒作業を実施(写真提供:ANA)
飛行中に二酸化塩素を用いた除菌消臭剤でこまめにラバトリーを拭き掃除する
加えて、毎便、空港での駐機中にアルコール除菌シートで消毒。この取り組みは6月3日にスタートした
空港駐機中にラバトリーをアルコール除菌シートで消毒。乗客の手が触れる部分を特に念入りに消毒していく