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ANAの機内はどのように消毒されているのか? 約30分かけて787型機の清掃&消毒を実施

777型機の機内換気システムも見学

2020年6月15日 取材

新型コロナウイルス感染拡大防止のために実施している機内の消毒作業

 ANA(全日本空輸)は6月15日、新型コロナウイルス感染拡大防止のために行なっている飛行機客室内の消毒作業や、飛行機の換気システムを報道公開した。

 ANAでは6月から新しい生活様式に対応した飛行機利用のスタイル「ANA Care Promise」を訴求しており、機内の消毒作業などについても、関連記事「withコロナ時代の空旅とは? ANAの感染拡大予防の取り組み『ANA Care promise』。安心のために乗客ができること」で簡単に紹介している。

 機内の消毒作業は、国内線の場合は1日1回、夜間の駐機中に行なわれている。この日の取材対象便となった那覇から飛行してきたボーイング 787型機が羽田空港に到着後、清掃スタッフが飛行機に乗り込み、まずは各席のゴミの回収や忘れ物のチェックなど、通常の作業を一通り実施。

 続いて、テーブル、アームレスト、窓やシェードのコントローラ、オーバーヘッドコンパートメント、プレミアムクラスのシートモニターなど、人が手を触れる部分を中心にアルコール消毒液を含ませたクロスで清掃していく。並行してラバトリーやギャレーは担当者が分かれ、並行して作業。各ラバトリーを前方から順番に消毒/清掃していた。

 ちなみに、消毒作業の追加に伴って清掃スタッフの増員などは行なっていないという。オーバーヘッドコンパートメントのように新たに念入りに作業するポイントが追加されるなど、スタッフは「作業は増えた」と話すが、すでに「慣れた」とも。機種にもよるが、通常国内線であれば約15分で清掃を終え、消毒作業によって20分ほど作業時間は増えているそうだ。

 1便あたりおおむね8名程度で作業することが多く、取材した便では、スタート時は5名で清掃を開始し、途中でほかの飛行機の作業を行なっていたスタッフがサポートに入って計10名で作業。30分ほどで清掃と消毒を終えていた。

この日の最終運航を終えた機体へと進む清掃スタッフ。手にはアルコール消毒液とクロスの入ったカゴが
まずは通常の清掃作業を手際よく進めていく
清掃作業終了後、アルコール消毒液を含ませたクロスで、手が触れる部分を中心に消毒作業を実施
プレミアムクラスでは、タッチパネルのモニターや、カクテルテーブルなども消毒
オーバーヘッドコンパートメントは表も裏も念入りに拭き取っていた
ラバトリーも消毒。ラバトリーは、夜間だけでなく、毎便到着後の駐機中にCA(客室乗務員)がアルコール消毒作業をしている
希望する乗客へはアルコール除菌シートの配布もスタートした

大量の空気交換が行なわれる機内。換気回数は手術室の基準以上

HEPAフィルターを手に機内環境について説明する全日本空輸株式会社 整備センター 技術部 技術企画チーム リーダー 奥貫孝氏

 航空会社や航空機メーカーが強くアピールしている機内の空気環境。当誌でもいくつかの記事でお伝えしているとおり、特に機内の空気は滞留することなく、約3分間ですべての空気が入れ替わり、ウイルスフリーな環境が作られるようになっているのがポイントとなる。その換気システムを見学した。

 約3分間で機内の空気が入れ替わるということだが、これは1時間に約20回の換気が行なわれることになる。厚生労働省が2004年に発行した「感染症指定医療機関の施設基準の手引きについて」では「特定区域内」の換気回数の参考値として1時間あたり12回以上とすることを記しているほか、米CDC(疾病対策センター)による医療施設向けガイドラインを見ると、「手術室」の換気回数は1時間あたり15回以上と示されている。あくまで換気という点だけに着目した話ではあるが、約3分間で入れ替わる換気システムの性能を知る目安になるだろう。

 機内の空気は、外から取り入れた空気と機内で循環された空気とを混合した空気となる。外気と循環した空気の比率はおおむね50%ずつ。外気はボーイング 777型機などの場合はエンジンから、ボーイング 787型機の場合は専用の取り入れ口からコンプレッサーを通じて取り入れられる。取り入れる空気はいったん高温となるためウイルスは死滅するという。飛行中はそもそも上空数万フィートで外気は極めて低く、この外気の吸入時にウイルスが取り込まれる可能性はないと考えられている。

 機内の空気は、天井から空気が送り込まれ、壁面足下にある排気口から排出されていく。循環する空気はHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターを通って、外気と混合したうえで再び飛行機上部へと運ばれ機内へと送り込まれる。客室から排出された空気の一部や、ラバトリーなど特定箇所の空気はアウトフローバルブと呼ばれる排気口を通じて機外へと排出される。これは機内の与圧をコントロールするためで、そもそも機外から圧縮した空気を取り込むのも与圧のためのものとなる。

 機内で循環される空気が通過するHEPAフィルターは、0.3μmの微粒子を捕集することができる。新型コロナウイルスは0.1μmだが、空気中に浮遊するウイルスが不規則に動くブラウン運動によってHEPAフィルターの繊維が捕集し、99.95~99.97%を捕集するとされている。

 こうして換気される空気の量は機種にもよるが、航空機の設計基準として1分間に乗客1人あたり200L以上の換気量を供給する設備が必要となっているといい、これ以上の空気量を換気していることになる。

 HEPAフィルターはおよそ2年に1度交換。新型コロナウイルス発生後、交換頻度の短縮などについて航空機メーカーともやり取りがあったそうだが、フィルターは捕集したウイルスを保持する能力があることや、ウイルス自体が72時間で不活性化するとのことで、現状では交換頻度の変更はしていないという。

 ボーイング 777型機の場合は、機体の上部に4枚、下部に4枚のHEPAフィルターを装備。同じボーイングの機体でも、ボーイング 787型機はフィルターの型そのものが異なるという。

機内循環の仕組みを説明するイラスト(画像提供:ANA)
ボーイング 777型機に搭載されているHEPAフィルター
機体下部の貨物室奥(通常は壁になっており見ることはできない)に搭載しているHEPAフィルター。このダクトはマニホールドになっており、機外からの空気と、HEPAフィルターを通過した機内からの循環空気を混合し、中央の太いダクトで機体上部へと運んでいる。
コックピットにある機内循環システムのファン「RECIEC FANS」を動作させるためスイッチ。基本的に常にオンにしている
駐機中も機外からダクトを通じて空気を送り込む
こちらはボーイング 787型機。下のカバーが付いているダクトが外気の取り入れ口。上部の口は高温の空気を冷やすための冷気を取り入れるための吸気口となる
ボーイング 777型機の客室へ空気を送る天井のスリット
こちらはボーイング 787型機。形状は異なるが空気を送るスリットが上部にある
ボーイング 787型機の客室壁面足下にある排気口
機内やラバトリーなどの空気を機外へ放出するアウトフローバルブ。ボーイング 777型機が機体前方と後方にあり、写真上段が前方、同下段が後方のもの。機内気圧の調整弁でもあるので、上空では蓋がもっと閉まったような状態になる