ニュース

乗客が協力できる対策も。エアバス、飛行機の新型コロナ対策の取り組みを紹介

2020年5月28日 実施

エアバス・ジャパンは同社の新型コロナ対策に関する取り組みについてオンライン説明会を実施した

 エアバス・ジャパンは5月28日、新型コロナウイルスを初めとする感染症対策に関する取り組み「Keep Trust in Air Travel(空の旅への信頼保持)」について、代表取締役社長 ステファン・ジヌー氏によるオンライン説明会を実施した。

 世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大し、各国でロックアウトや日本での緊急事態宣言が解除されつつあるなか、ジヌー氏は「日常生活で新しい生活様式が広がるように、空の旅にも新しい行動様式に沿った取り組みを、空港、航空会社、航空機メーカー、サプライヤー、航空当局とともに推進している。エアバスの取り組みを知っていただき、新しいライフスタイルの定着とともに、安心して航空機をご利用いただきたいと思う」と今回の説明会の主旨を述べた。

 ジヌー氏は、「航空機は複数の安全設計によって機内の(感染症に対する)安全性が保たれている」と述べる。そして、航空機メーカーとしてできることの最初の例として、機内の空気の清潔性を保つ機能について紹介した。

 機内客室の空気は、外気を取り込んだ新鮮な空気と、高性能フィルター「HEPA(High-Efficiency Particulate Air)フィルター」を通した機内で循環させた空気を混合したもので構成される。特にHEPAフィルターについては、機内の空気の清潔さを保つキーアイテムとして、さまざまな航空会社がアナウンスしている(関連記事「飛行機の換気についてJALに聞いてみた。搭乗・降機中も機体の空調を積極活用してきれいな空気に」なども参照してほしい)。

 まず外気を取り込む空気については、飛行機は高度1万m付近を飛行し、外気温は非常に低いため、微生物やウイルスは存在しない空気となる。

 一方で、機内で循環される空気は「HEPAフィルター」を通してウイルスなどを除去し、クリーンルーム並みの清潔な空気を提供できるという。このHEPAフィルターは0.3μmよりも小さな粒子を99.95~99.97%捕集。新型コロナウイルスは0.1μmとされているが、“ブラウン運動”と呼ばれる空気中に浮遊するウイルスが不規則に動くことでHEPAフィルターの繊維に引っかかって捕集されるという。

 加えて、ギャレーやトイレの空気は客室の空気とは混ざることなく排出されるようになっており、客室内の空気はウイルスのいない外気+HEPAフィルターを通過した清潔な空気だけで構成されることになる。このHEPAフィルターは、現行のエアバス機(A220、A320、A330、A350、A380の各ファミリー)にはすべて搭載されている。

 また、客室の空気は機体の上から下にかけてのみ循環し、上下に空気を流すことで空気の温度による成層化が防がれる。また、前後左右への空気の流れは基本的に発生しない。この循環空気は秒速1mで絶えず流れ、2~3分内で客室内の空気をすべて入れ換える。

 こうした空気循環の仕組みとなっていることから、ジヌー氏は「セパレータを座席間に置くという意見があるが、緊急脱出の妨げになったり、機体重量が増したりするので望ましくないと思う。それならば乗客、乗員ともにバイザー(フェイスシールド)を装着する方が効果的で簡単。私だったらバイザーをする」と話す。

 また、いくつかの航空会社でソーシャルディスタンスを確保するよう隣席を空けて販売する例があるが、「エアバスとして必要はないと考えている。客室の空気は上から下へ流れ、隣の人との空気の交換はない。皆さんがすでに行なっているマスク着用などの対策を同時に行なうことで、ほぼリスクはなくなると思う」との考えを示した。

機内の客室はウイルスの存在しない外気と、HEPAフィルターを通じた清潔な空気が保たれている
新型コロナウイルスも捕集できるHEPAフィルターをエアバスの現行機すべてに装備している
HEPAフィルターの例
ナローボディ(画像左)とワイドボディ(画像右)における機内の空気循環の流れ。いずれも空気は上から下に流れ、客室の空気は2~3分ですべて入れ替わる

 機内の空気については、このように清潔であることを強調する一方、そのほかの点においても新たな発想で対策を打っていきたいとする。特に、「安全に関して競争はない。業界の問題には業界全体で対応していく」との姿勢を強調。実際にエンジニア間ではボーイングとも意見交換などを行なっているという。また、EASA(欧州航空安全庁)とも連携し、特に「国ごとに異なるルールになることなく、統一されたガイドラインが必要」との認識で取り組んでいるという。

 社内でも、部署を問わず新型コロナウイルス対策につながるアイディアを募集しているそうで、これまでに1400におよぶアイディアが寄せられているという。

 例えば、消毒液やマスクなどのアメニティキットの提供、トイレへのサニタリーキットの配置、手荷物棚の取っ手を抗菌仕様に変更する、機内誌などを自分のスマホやタブレットで見られるようにする、機内を高温洗浄したり70度のイソプロピルアルコールで清掃して滅菌する、などの意見が出ている。

 また、抗菌作用が長く続く洗浄剤や、HEPAフィルターとは異なる形でのウイルス除去技術を持つ企業などと連携を通じ、新技術の開発、活用にも取り組んでいくとしている。

 一方で、航空機メーカーだけではできないこともある。例えば、搭乗前の検温などは空港が実施し、フライト中の機内清掃などは航空会社が実施している。実際に「乗客がフライト中に清掃が行なわれていると安心するというアンケート結果もある」(ジヌー氏)という。また、機内の空気循環を早く始めるほど機内の空気の清潔さはより増すため、どのタイミングで機内換気を始めるかの見直しも航空会社にできる取り組みだ。

エアバスはキャッチコピーにちなみ、人々の移動の再始動をサポートする「We Make It Fly Again」を目標に取り組みを推進する

 そして、乗客にもできることがある。例えば、搭乗前に手洗い/消毒をするといったことのほか、手荷物についてはできるだけ預けたり、機内へ持ち込む手荷物は足下に置くようにしたりすることで、手荷物棚の取っ手に触れる機会を減らすことで感染の可能性を下げることができる。

 なかでもジヌー氏が「一番のリスク」と語るのが降機のシーンだ。「搭乗時はコントロールされて順序よく搭乗していくが、到着した途端に一斉に立ち上がって接触してしまっている姿が見られる。これを前方の人から順番に立ち上がっていただいて徐々に降機してもらえることが理想」と語る。

 最後にジヌー氏は「人々は移動する必要がある。多くの人々は空の移動を愛しているし、我々の務めはそういった人々を国を越えてつなげること。エアバスのキャッチコピーはWe Make It Flyだが、Keep Trust in Air Travelを通じて新しいライフスタイル、行動様式の定着とともに、人々の移動の再始動をサポートする、We Make It Fly Againとすることが我々の目標」だとしている。