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航空会社の垣根を越えて共同でお見送り。機内座席へのメッセージカードなどコロナ禍下のANA福岡空港の取り組みを聞く

福岡空港で航空会社の垣根を越えた共同のお見送りが行なわれている。発案したANA福岡空港のスタッフらに話を聞いた

 新型コロナウイルス感染拡大の影響による航空需要減衰で、国内線/国際線ともに大幅な減便を余儀なくされた航空各社。そのようななか、ANA福岡空港は、同社の発案で福岡空港発着の航空会社7社の共同お見送りを提案したり、機内の座席へメッセージカードを置くなど、コロナ禍ならではの取り組みが行なわれた。その取り組みの背景をビデオインタビューした。

 普段は混雑空港として知られる福岡空港だが、新型コロナウイルス感染症の影響は大きく、利用者も大きく減ったという。そんななか、福岡空港に就航するANA(全日本空輸)、JAL(日本航空)、スカイマーク、スターフライヤー、FDA(フジドリームエアラインズ)、ジェットスター・ジャパン、ピーチ(Peach Aviation)の7社が、出発客を共同で見送る取り組みを4月28日から実施。SNSでも話題となった。

7社共同でのお見送り。実現にはスカイマーク 佐山会長の協力も

 この航空会社共同でのお見送りを提案したのは、ANA福岡空港 旅客サービス部 旅客サービス3課 中村大和氏と長谷部亜由美氏。「朝の混雑時間帯でも誰もおらず、係員さんや横並びになっている各社のカウンターも暗い雰囲気になっていた」という状況のなか、スカイマークの新千歳空港のグランドハンドリングスタッフがボードを首から提げてお見送りしているのをSNSで見て「衝撃を受けた」のがきっかけだと中村氏は言う。加えて、「ただ真似するだけではなく、どうせやるなら……」と福岡空港を発着する国内航空会社でのお見送りを思いついたという。

 そこで、相談を持ちかけたのが、スカイマーク 取締役会長の佐山展生氏だ。中村氏は「スカイマークの佐山会長にTwitterのDMで相談させていただいた。返事は帰ってこないと思いながら送ったのだが、10分後ぐらいに『それはぜひやりましょう』と返信をいただいて、福岡空港の同社支店長を紹介していただいた。そして『スカイマークは全面的に協力するので、ぜひやりましょう』と話していただいた」と、活動をはじめるにあたってスカイマークの協力が大きかったことを語った。

 その後、発案者としてともに活動している長谷部亜由美氏と各社を訪問。「各社とも『ぜひやりましょう』と話していただいて、スピーディに話が進み、普段なら1~2か月かかる難しい取り組みだと思うが、2週間ちょっとで話が進んだ」(中村氏)と、4月28日から共同でのお見送りがスタートしたという。

 ちなみに、沖留め(オープンスポットへと駐機)が中心だったり、自社(あるいはそれに準じるスタッフ)が常駐していない航空会社など、福岡空港発着便があっても参加していない航空会社がある。また、お見送りをスタートしたまさに4月28日から、FDAが全便運休(関連記事「FDA、GW期間を含む4月28日~5月17日に全便運休」参照)となってしまい、一時参加ができなくなった。ただ、掲げる横断幕には当初からFDAのロゴとメッセージも入れられている。

ANA福岡空港株式会社 旅客サービス部 旅客サービス3課 中村大和氏
ANA福岡空港株式会社 旅客サービス部 旅客サービス3課 長谷部亜由美氏

 見送る際には、まずゲートから飛行機へ向かう搭乗橋のところに、対象便の運航会社のスタッフが先頭に立って、その後ろにほかの航空会社のスタッフが並び、全旅客搭乗後は、機体の横で手を振る。飛行機出発時に機体の横に並んで見送るケースは多いが、機体の横だけだと通路側の旅客が見えないとの声があり、搭乗前の通路でのお見送りも行なうことになったのだという。

 通路でのお見送りでは旅客と言葉を交わすこともあるそうで、「お客さまに直接感謝の気持ちをお伝えできるし、他社のお客さまから『ありがとう』や『感動します』と声をかけていただくこともある」(中村氏)、「搭乗中なので時間は少ないが、写真を撮ってくださったり、『頑張ってね』と短い言葉でもかけていただけたりするのがうれしい。機内からも手を振っていただいているのが見える。そのようなことがあると、やってよかったと思える」(長谷部氏)といった思いを語った。

 また、参加したベテランのスタッフが涙しそうになっている光景もあったという。中村氏が尋ねると「自社のお客さまに『いってらっしゃいませ』と言うのは当たり前のことだが、ほかの航空会社の方の『ありがとうございます』や『いってらっしゃいませ』という声が聞こえると、本当に大変な状況で、“福岡空港から飛行機を使ってくださってありがとうございます”という意味なんだと、感極まって泣きそうになる」と理由と話したという。

 ソーシャルディスタンスを確保する観点から、参加するのは各社2名までに絞っているが、お見送りしたいというスタッフは非常に多いという。

5月まで実施していた7社のロゴとメッセージが入ったボードを搭乗口に掲示

6月からは参加会社も増加。垣根を越えた協力は今後の実務にも好影響?

 この共同でのお見送りは、もともとは5月末までの予定で実施していたそうだが、6月末までの延長を決定。6月からはソラシドエアと空港会社(福岡国際空港株式会社)も参画し、空港会社からはインフォメーションセンターのスタッフが参加している。

 回数を重ねても特別感を持ってもらえるよう、5月18日にFDAが復便した際には「FDA運航再開待ってました。福岡空港、皆で頑張りましょう」というボードを作ったり、母の日にも限定ボードを作ったりといった工夫も。6月にも新たな企画を検討しているそうだ。

 また、お見送り対象便は、約1週間で各社1便ずつとなっており、それほど多くの便で実施されているわけではない。「お客さまから『お見送りがあるなら知りたかった』との声もある」(中村氏)とのことで、空港会社から告知の協力についての申し入れがあったと、協力会社が増えたことの効果も出始めている。

 福岡空港は2016年に旧第1ターミナルが閉館され、改修された現在のターミナルビルへ移転した。「第1ターミナルのときは各社がひしめきあっていたので他社さんと協力しあうことが必要だった。今のターミナルビルは広くて便利になったぶん、他社との関わりがなくなってしまったが、今回の件で知り合うことができた。繁忙期などでは館内アナウンスのタイミングが重なったり、飛行機が出発したらすぐに他社さんの便が到着したりするので、顔を知っているだけでも業務がやりやすくなる」(中村氏)と、航空会社の垣根を越えた協力は実務にも好影響を及ぼすようだ。

 長谷部氏は「いったん6月末で終了する可能性があるが、ほかの航空会社ともせっかく協力できたので、それを活かしながら、今後もお客さまに笑顔になっていただける取り組みを少しずつでも実施していければ」との希望を語った。

機体横で出発する飛行機を見送る各社のスタッフ

地上ではコンテナを装飾したお見送り

 このほか、地上ではコンテナを使ったお見送りも実施。これは航空貨物郵便を取り扱う貨物・グランドサービス部の有志によって行なわれたもの。

 貨物を積んで飛行機の搭載するためのコンテナを使って、「頑張れ日本」という手作りのメッセージを制作。運航に影響はないことは前提として、出発する旅客はもちろん、展望デッキの人にも見えるような位置を考えて掲示した。

 この活動に取り組むスタッフは、九州の物流拠点としての生活を支える使命感とともに、「搭乗客と直接接する機会はないが、間接的にも日本を活気づけたい、元気にしたい」との気持ちで思い立ったという。

駐機場にはコンテナを使って「頑張れ日本」のメッセージを掲げている
貨物や郵便を取り扱う貨物・グランドサービス部の有志による手作り

機内座席へ名前入りのメッセージカード。乗客からの励ましのメッセージカードも

 ANA福岡空港では、出発する飛行機の座席に、搭乗する乗客の名前を入れたメッセージカードのプレゼントも行なった。

 発案者は同社 旅客サービス部 旅客サービス2課の薮押綾乃氏。「初めに行なった羽田行きの便では搭乗される方が12名ぐらいで、この時期でも搭乗いただけることに特別感を味わっていただきたく、お客さまの名前入りのメッセージカードを作り、CAにも協力してもらって座席に置かせてもらった」と取り組みのきっかけを話す。

ANA福岡空港株式会社 旅客サービス部 旅客サービス2課 薮押綾乃氏

 緊急事態宣言が出される以前からの取り組みで、周囲にも賛同者が増え、多くのスタッフの手でメッセージカードを作り、配布対象の便も増えていったという。搭乗客は多いときでも20~30名だったというが、「お仕事の関係で飛行機に乗らなければならない方が多数いらっしゃると思うので、この時期にもご搭乗いただけることに感謝したい」と、取り組みを続けている。

 座席への配布ということで乗客からの声は届かないが、SNSなどで反応を見かけることもあるという。また、あるときは「カウンターにいらっしゃったお客さまから『こんな時期ですが一緒に頑張っていきましょう』というメッセージカードをいただいた。係員一同もうれしく思い、みんなでメッセージカードを作成して、2人でお渡ししに行き、大変喜んでいただいた」というエピソードも。コロナ禍のなか、「『空港という場所は大変だと思うけど頑張ってください』という励ましの言葉をもらうことも多い」という。

 継続的に行なっているこの取り組みだが、「搭乗客が多い便では、隣の方に名前が知られてしまうことに抵抗がある方もいらっしゃるので、名前なしのメッセージカードをお渡ししている」と状況に合わせて対応している。

 今後については「お客さまの数が増えてくると難しくもあるが、私自身は今後も続けたい」と希望を話すとともに、「福岡空港にたくさんのお客さまに戻っていただけるように、今の時間を大切にして、お客さまによりよい接客をしていきたい」との思いを語った。

メッセージカードの作成には多くのスタッフが参加
メッセージカードを機内の座席へ