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東海道新幹線700系「再生したら東京ギフトパレットだった件」

引退して東京駅のエキナカ施設になった「再生アルミ物語」

東京ギフトパレットの建材に、東海道新幹線700系車両のリサイクル素材が使われていることを伝えるプレート。プレートは東京ギフトパレットに6枚存在する

 約20年間親しまれてきた東海道新幹線700系が引退したのは2020年3月。

 最終走行列車として3月8日に臨時の「のぞみ315号」が設定され、東京駅で出発式、新大阪駅では引退式などを予定していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で運行そのものが中止となり、「みんなでありがとう」「みんなで見送ろう」ができないままの別れとなってしまった。

2020年3月に引退した東海道新幹線700系(画像提供:JR東海)
700系最終走行列車の運行中止を知らせる2020年3月当時のJR東海のWebサイト

 その700系車両は引退後、新たな役割が与えられ、新たな人生(?)を過ごしている。その場所は、東京駅のエキナカ商業施設「東京駅一番街」の一角をなす「東京ギフトパレット」だ。

 東京ギフトパレットは、訪問先への手土産、職場や家族へのお土産選びに重宝する30以上のブランドが集まる商業エリアだ。東京ギフトパレットを歩いていると、複雑で美しい模様の柱や天井、のれんのようなファサードのような金属製の意匠が目に入るが、それらの素材に700系車両のアルミニウムが再生され、使われているという。本稿では引退から1年が経った700系の気配を東京ギフトパレットに探しつつ、東京駅一番街の運営企業「TSK(東京ステーション開発)」に、700系のアルミをエキナカ施設に使うことになった経緯や思いなどを聞いてみた。

取材時は桜の演出が施されていた東京ギフトパレット

東京駅一番街「東京ギフトパレット」

所在地: JR東京駅 八重洲北口改札外
営業時間: 9時30分~20時30分(土休日は9時オープン)※一部店舗は異なる
Webサイト: 東京駅一番街「東京ギフトパレット」

「役割を終える700系が新しい役割を持って生まれ変わることができたら素敵じゃないか」

東京ステーション開発株式会社 代表取締役社長 谷津剛也氏

 TSKは2005年設立。東京駅一番街の運営、都内の東海道新幹線高架下スペースの事業開発などを担当する、JR東海(東海旅客鉄道)グループの企業だ。グランスタ、エキュート、八重洲地下街、大丸東京店と多くの商業施設がしのぎを削る東京駅において、若いTSKが存在感を示すために打ち出したのが「キャラを立てる」ことだった。

 東京駅一番街において「東京キャラクターストリート」「東京ラーメンストリート」など、次々に個性的な商業エリアを企画。インバウンドの追い風もあり、成功を収めることができた。そのなかで、ギフト系の店舗は「おみやげプラザ」「TOKYO Me+(トウキョウミタス)」と変遷をたどっていたが、大きくテコ入れを図ったのが、2020年8月5日に誕生した「東京ギフトパレット」だ。

 当時、TSKが東京ギフトパレット誕生に向けて目指したのが「上質で存在感のある外観・内装」と、その一方での「工事費の低コスト化」。相反する目標の間で「キャラを立てる」ためには。そこで白羽の矢が立ったのが、引退が決まっていた東海道新幹線700系だった。

 700系で使用されていたアルミニウムはとても品質がよいものだったため、これを新しい商業エリアの建材に使えないだろうか。「1999年にデビューした700系が引退を迎える。役割を終える700系が新しい役割を持って生まれ変わることができたら、これはストーリーとして素敵じゃないか」と社内はとても盛り上がったと谷津社長は振り返る。こうして700系再生アルミプロジェクトが2018年秋にスタートした。

東京ステーション開発株式会社 施設部施設課 課長代理 中村和弘氏

 アルミ缶などアルミのリサイクルは身近なところにもあり、実現のハードルは低いのではと予想していたが、現実は「困難の連続だった」とプロジェクトを担当した中村氏は振り返る。

 新幹線の車両に使われていたわけだから、アルミには塗装が強力に付着し、素材の異なるボルトなどががっちりと食い込んでいる。これら不純物の除去が困難を極めた。裁断~振動~磁気~手作業と、あらゆるアプローチで不純物の除去を試みた。そしてとうとう問題のない割合まで不純物を減らすことに成功し、不純物除去の工程を確立。これは「アルミニウム製鉄道車両のリサイクル方法」という特許取得にまで至った。

裁断~振動~磁気~手作業などで不純物を除去(画像提供:JR東海)
不純物が除去されたアルミニウムチップ
そのアルミが溶かされ生まれ変わる。ちなみに写真の素材は700系C46編成12号車のアルミを再生したもの
「アルミニウム製鉄道車両のリサイクル方法」という発明名称で特許を取得。さらに日本アルミニウム協会から表彰も受けた(画像提供:JR東海)
700系引退記念メダルにも再生アルミが使われている

 700系車両から高品質のアルミニウムを確保できた。そしてもう1つの目標である「上質で存在感のある外観・内装」へ、このアルミをどう活かしていくか。そこには、施工を担当した乃村工藝社の存在があった。JAL(日本航空)の空港ラウンジ「ダイヤモンド・プレミアラウンジ」「サクララウンジ」なども手がける乃村工藝社は、トラベル Watchの読者にもなじみがあるかもしれない。

 乃村工藝社は都内のあるスペースを貸し切り、東京ギフトパレットで施工するデザインのモックアップを実際に作り、机上のデザイン案だったものをリアルな「上質な空間」へするため徹底的に細部を詰めた。「乃村工藝社さんの想像力、設計のディテールなどを現物に落とし込む施工能力に本当にお世話になった」と谷津社長は振り返る。

 こうしてさまざまな試行錯誤の末、700系再生アルミは「柱に100%」「のれんに約50%」「柱・天井の桜装飾に約20%」を使って活用されることになった。

東京ギフトパレットで施工するデザインのモックアップを実際に作って検証した(画像提供:東京ステーション開発)
柱・天井の桜装飾に約20%を使用
のれんに約50%を使用
柱に100%使用

 振り返ってみれば新幹線車両のアルミをリサイクルして活用したこと自体「初」の試みであり、結果として特許を取得するような工程にたどり着いてしまう一大プロジェクトとなってしまった700系車両の再生アルミ。

 谷津社長は、このプロジェクトにかかわった関係者にあらためて感謝を示しつつ、「鉄道は環境に優しい乗り物だと思います。その延長として、役割を終えた東海道新幹線の車両が、新しい役割を持って生まれ変わって、商業施設として活躍していることを、ぜひ皆さまに知っていただけたら幸いです。東京駅を訪れた際には、700系の気配を感じて、できればお買い物もしていただけたら(笑)」と結んでくれた。

 東京ギフトパレットでは、上記の柱・のれん・桜装飾のほかに、700系車両のリサイクル素材が建材に使われていることを伝えるプレートが6枚存在しているので、お土産選びの際に探してみるのも一興かもしれない。

東海道新幹線700系車両のリサイクル素材が使われていることを伝えるプレート
フロアガイドにも700系の再生アルミが使われている