ニュース

日本アジア航空の経験や台湾人CAが台湾市場で貢献。JAL大貫常務が語る台湾路線戦略

2019年7月30日 実施

JALの台湾線の現在と今後について日本航空株式会社 常務取締役執行役員で路線統括本部 国際路線事業本部長を務める大貫哲也氏に話を聞いた

 JAL(日本航空)による東京~台北線が7月30日に就航60周年を迎え、羽田空港、台北でそれぞれ記念の式典やレセプションパーティが開かれたことはお伝えしているとおり(関連記事「JAL、台北路線就航60周年を記念して羽田空港で式典。藤田副社長『日本人向けに質の高いツアーが重要』」「日本アジア航空の制服ファッションショーや放水アーチで盛大に。JAL、東京~台北線就航60周年式典を台北で開催」)。そのさなか、台北側のセレモニーに臨席したJAL 常務取締役執行役員で路線統括本部 国際路線事業本部長を務める大貫哲也氏が報道関係者のインタビューに応じた。この場には台湾エリアも担当に含まれるアジア・オセアニア地区支配人の畠山隆久氏も同席した。

 JALは現在、日本と台湾の間に、羽田~松山線、成田~桃園線、セントレア(中部)~桃園線、関空~桃園線、成田~高雄線の5路線に就航しており、毎日7往復(羽田~松山線と成田~桃園線は1日2便)を運航している。路線の現況について大貫氏は「全路線で85~90%ほどで利用率が大変よい」と好調で、季節変動の影響を受けずに一定の収入を得られるようマネジメントしていると紹介。

 例えば上半期は下半期よりも高需要だというが、供給座席数については半期ごとの路線計画で基本となる機材を決めているほか、同じ機材でもその日の需要予測に応じて座席数の異なる仕様のものを使用するなどしているという。

台湾発旅客にも受け入れられている市場。日本アジア航空の経験が財産に

日本航空株式会社 アジア・オセアニア地区支配人 畠山隆久氏

 JAL台湾路線の特徴として大貫氏は「台湾地区においてもお客さまの大きな支持をいただいている」との認識を示す。「海外ではJALファースト(JALが選択肢筆頭)ではなく、その地のフラッグキャリアなりが選ばれ、次に我々、となる。ところが台湾においては、チャイナエアラインと伍していけるよう支持をいただいている」という。

 その理由の一つとして挙げたは、60年間という路線の歴史。そしてもう一つ、JAA(日本アジア航空)の存在を挙げた。JAAという別会社での運航を32年間続けたのは政治的な理由ではあったが、大貫氏は「台湾線だけを必死になって飛ばして、利益をあげ、プロモーションをするという特殊な会社を別の事情で持ったことが、今の財産になっている」とコメント。台湾市場での現在の基盤になっているとする。

 また、60年間の歴史のなかでは、JAA時代から大学生の文化交流事業も継続的に実施。日本の大学生を台湾へ、台湾の大学生を日本へ招聘する研修事業を行なっているほか、日本で台湾語、台湾で日本語のスピーチコンテストをそれぞれ実施。招聘事業とスピーチコンテストを双方向で連動させて取り組んでいるという。

 さらに、畠山氏はサービス面について、「台湾はCA(客室乗務員)の基地があり、台湾人CAが日台線含めて乗務している。台湾人CAも日本で教育を受け、日本語を話せる。当然、台湾語も英語も話せる、優秀な乗務員がサービスをしている。日本人にも、台湾人にも日本のおもてなしの心で接することができる」と、台湾路線におけるJALの強みの一つとして挙げた。

記念式典に歴代制服を着用して登場した台湾人CA(客室乗務員)。台湾にCAの基地を持つこともJALの強みの一つだという

日本人の台湾渡航者をどう増やす? LCCとの競合は? JAL台湾線の課題

 2018年の日台間の交流人口は約675万人となっているが、台湾から日本へ来る人が476万人以上である一方、日本から台湾へ行った人は197万人ほどに留まっている。この点をJALとしてどのように捉えているかについて大貫氏は、訪日旅客が3000万人を超える一方で、近年の出国者が1500万~2000万人のレンジであることに触れ、「台湾への出国者を増やすという特定の観点ではなく、出国の総需要をどのように喚起していけるかという観点のなかに台湾というデスティネーションを組み入れながらやっていく。台湾への渡航者は出国日本人の10%ほどを占めている。全体が増えれば台湾への渡航者も増えるだろう」との姿勢を示した。

 特に台湾サイドから日本人渡航者数増のための施策として要望に挙がることが多い地方路線については、「課題ではあるがなかなか難しい」との認識を示す。一つは機材繰り、もう一つはFSC(フルサービスキャリア)としてのサービスを提供するためのコストに見合う需要の話につながる。

 前者については、台湾に拠点を置く航空会社と比較して、成田/羽田に拠点があることが課題となる。大貫氏は例として「仙台~台北線をどう飛ぶかというと、東京から台北、台北から仙台、仙台から東京と回すことになる」と話し、台湾線に限らず地方路線全般の悩みとして紹介した。

 後者について大貫氏は、JALのサービスを提供するためのコストと地方路線市場の価格帯という観点で、地方路線開設の難しさについてコメント。ここはLCCとの競合や、全体の座席供給量増などとも関係がある。

 先に、JALの日台線は搭乗率が80%後半を維持しているとのコメントを紹介したが、それを超える需要に対しての対応を尋ねると大貫氏は、「需要があることは理解しているが、どの需要までを我々がビジネスとして追いかけるのかは気にするところ。FSCとしてのJALのサービスを提供するためのコストはある程度は決まっているので、それに見合う価格帯の需要に対して、ちょうどよい飛行機を導入する」という基本的なスタンスを示す。

 イールドマネジメント(1便あたりの収益管理)の観点で、現在の台湾路線はやや厳しい状況にもあるという。1便あたりの収益は「旅客数×単価」となるが、「単価は市場のトレンドに影響する」と大貫氏は指摘。台湾では2020年1月に総統選挙を控えているが、総統選挙前は旅行を控える需要動向があるといい、JALが独自に試算している総需要中のFSC需要が前年割れしている状況が生まれ始めているそうだ。

 一方、旅客数については「数多の需要があるので、我々の製造コストに見合う値段かは別として、値段を少しずつ下げていけば需要は必ずある。気合いを入れてLCCセグメントの需要を取りにいくわけではないが、FSCとLCCの需要に接点はある」と話す。つまり、高単価な座席が売れにくい時期などは、LCC利用層にJALを訴求し、単価を下げてでも旅客数を増やすといった施策も検討されうることになる。ただ、そうした場合には1便あたりの収益が下がることは避けられず、サービス提供コストに見合う価格帯を維持することもビジネスとして求められる。地方路線に存在する需要、そのうちJALのサービス提供コストに見合う需要といった点でも、地方路線市場の難しさがあるというわけだ。

 そうした台湾路線の今後について大貫氏は、「大きく拡大すると楽観的なことは言えないと思っている。安・近・短(安価・近距離・短時間)ということで台湾の総流動の3割ほどがLCCになっている。事業戦略をやっている者としては、そのリスクは感じなければならない」との危機感を示す一方で、「FSCとしてやっていけることがあるはずなので、市場と対話をしながらしっかりやっていきたい。LCCと差別化して、この巨大な台湾市場を確保し、今の形を次につないでいきたい。必ずJALが活躍する余地があると確信している」との意気込みを語った。