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ANA、国際線フラッグシップ機のシート刷新。監修の隈研吾氏「優しくてくつろげる空間を体験して」

2019年7月11日 発表

2019年8月2日から導入

ANAは国際線の機内デザインやシートを刷新。監修の隈研吾氏も招いて発表会を実施した

 ANA(全日本空輸)は7月11日、長距離国際線の主力機であるボーイング 777-300ER型機の機内に新シートを導入することを発表した。約9年ぶりのリニューアルとなる。本稿では概要と同日行なわれた発表会の内容を中心に紹介し、新シートの詳細については別記事でお伝えする。

 新仕様機は、建築家の隈研吾氏監修のもと、日本らしい空間を構築。特にファーストクラス、ビジネスクラスは、よりプライバシーを重視したシートを導入する。そして、プレミアムエコノミーとエコノミークラスは、ボーイング 787-10型機で採用しているものと同等のシートとなった(関連記事「ANA、4月26日に就航するボーイング 787最長胴モデル『ボーイング 787-10』型機を公開。プレエコとエコノミーは新シート採用」参照)。

 新シートの対象となるボーイング 777-300ER型機は、2019年内に受領する新造の6機のほか、2020年から2021年にかけて現在運航中の6機も新シートへ改装。順次12機に導入する。新シート導入機は、ファーストクラス8席、ビジネスクラス64席、プレミアムエコノミー24席、エコノミークラス116席の計212席仕様となる。

ボーイング 777-300ER型機の新仕様機シートマップ(ANAニュースリリースより)

 デザインは先述のとおり建築家の隈研吾氏が総合監修を務め、イギリスのデザインコンサルティング会社であるアキュメン(acumen)が機内空間をデザイン。海外デザイン会社への依頼により先進的な洗練された内装となる一方、隈研吾氏の監修により日本らしさも感じられる空間を実現した。

 新シート導入機は8月2日の羽田空港~ロンドン・ヒースロー国際空港線(NH211便)で運航を開始。当面は新仕様機が1機のため隔日運航(8月は偶数日、9月は奇数日)での運航で、8月末から9月上旬ごろにデイリー運航がはじまる予定となっている。

全日本空輸株式会社 代表取締役社長 平子裕志氏

 7月11日に行なわれた発表会では、ANA代表取締役社長の平子裕志氏が説明に立ち、「2010年に『Inspiration of Japan』と銘打って機内仕様を一新してから9年が経過。おかげさまで大好評をいただいたが、さすがにデザインも古くなり、とりまく環境の技術革新なども関わり、このたび機内仕様を根本的に見直すことにした」と新仕様導入の理由を説明。また、発表会後の質疑応答ではそのほかに、「英スカイトラックス(SKYTRAX)から空港サービスやビジネスクラス機内食などの部門賞をいただいているが、機内エンタテイメントも含めたシートでSKYTRAXやご利用の方から高い評価をいただいていないとの認識があった」との理由も示した。

 新仕様のシートについて隈研吾氏の監修を受けたことを紹介し、「主要空港の国内線ラウンジの総合監修もしていただいており、このたびの新しい機内仕様により、洗練さと日本の美を兼ね備えて最上級のくつろぎ空間を実現した。長距離路線はおおむね10時間以上のフライトを指すが、お客さまによって機内の過ごし方はまちまち。それにお応えすべく、ファーストクラスとビジネスクラスは見る、食べる、眠るだけでなく、プライバシーをテーマに皆さまの大切なお時間を有効にご活用いただけるよう最大限の工夫をした」とし、機内のコンセプトを紹介する動画を上映。

ファーストクラスは「The Suite」、ビジネスクラスは「The Room」のブランドで展開
機内のコンセプトを紹介する動画の一部。上段がファーストクラス「The Suite」、中断がビジネスクラス「The Room」、下段がプレミアムエコノミー/エコノミークラスの紹介

 ファーストクラスについては、「空の上でもホテルで過ごすような時間をご提供したいとの思いから、『The Suite』と名付けた。過去最大の広さを誇る個室型シートで、全席にドアを装備している。また、世界初の4Kに対応した43インチの大型モニターを設置した。また、豊富な収納スペースを設けるなど、細部にわたって機能を向上させた」と説明。

 続いてビジネスクラスについて、「まるで自宅にいるかのようにお過ごしいただきたいという思いを込めて『The Room』と名付けた。座席幅を現行シートの約2倍に広げ、寝返りできるほどの空間を実現した。当社ビジネスクラスでは初めて全席にドアを装備し、プライバシーを格段に向上させた」と紹介した。

 なお、先述のとおり最初に羽田~ロンドン線で8月2日に導入するが、その次の導入路線について質問が挙がると「違う大陸、具体的にはアメリカの中心都市であるニューヨークを考えている」とした。

総合監修を務めた建築家 隈研吾氏
隈氏は機内から登場

 平子氏のあいさつ後、発表会場の後方に駐機したボーイング 777-300ER型機から総合監修を務めた建築家の隈研吾氏が登場。「今回のデザインは、機内をデザインするのに、空間をデザインあるいは建築をデザインするという考え方で設計。空間にゆとりがあり、単に広々しているだけではなく、人にくつろぎ、やすらぎを与えるような日本の建築空間が持っていたよさを、現代の最先端技術を用いて実現した。日本の空間の広がりは質感がすごく大事。自然素材、木や柔らかい布などが持っている豊かな質感が日本の伝統的空間のなかにあって、人々を癒やし、くつろがせてきた」と、「やすらぎ」や「くつろぎ」を強調してコンセプトを紹介。

 さらにデザインのポイントとして、「木の質感がふんだんに使われている。温かい質感、優しい質感がお乗りになった方に、いままではまったく違った体験をしてもらえると思う。さらに日本の伝統的空間の持っている技法、例えば引き戸。ちょっと引いてプライバシーを作る、個人の空間を作るという方法を使って、個人の自分だけの特別なスペースをファーストクラスに実現している。

 光も日本の伝統的空間では大切な要素。光の持っている色や光の射し方、材料の質感を浮かび上がらせる独特の技法を使って、今までの飛行機の機内の印象とは違う優しい空間ができたと思う。カーペットも地面あるいは家庭の温かさを感じられる色合い、パターンを使っており、床から壁面まで、すべてにおいて、日本の空間のエッセンスが満ちている機体」といった点を挙げた。

 隈氏は国内線ラウンジの監修も務めており、「ラウンジと機内は基本的な技法は同じで、木の質感を活かす、日本的な優しい光を作る点などは共通点は多い」とする一方で、飛行機は広さや空間の形、素材の制約など、建築物の中の部屋とは異なる点が多い。その特徴について尋ねてみると、「飛行機の中は、そもそも空間の容量が限られているので、建築の天井などと全然違う。逆にその天井の高さが限られていることが、インティメイト(親密)な空間を作るうえではプラスに働く。普通に建築を設計するよりも今回の方がなんだか親しみ、やすらぎのある空間ができ、大枠の制限をプラスに変えてデザインできたと思っている。素材も飛行機ならではの制約があるが、そのなかで、非常によい質感の液晶パネルや布地、カーペットなどが見つかったので、従来の飛行機の質感とは全然違う、やさしい質感のものができた。ぜひ質感も楽しんでいただきたい」と、飛行機ならではのよさや、楽しみ方を説明した。

 そして発表会では、「一刻も早く、皆さんに、この優しくてくつろげる空間を体験していただきたい。世界中の皆さんに日本の空間の素晴らしさをANAの飛行機のなかで体験していただけたら」と呼びかけてあいさつを締めた。

ファーストクラス「The Suite」(画像:ANA)
ビジネスクラス「The Room」(画像:ANA)
搭乗した際のエントランスに設置した「ウェルカムモニター」(画像:ANA)
プレミアムエコノミー(画像:ANA)
エコノミークラス(画像:ANA)
握手を交わすANA代表取締役社長 平子裕志氏(左)と、建築家 隈研吾氏(右)

【21時45分追記】新仕様機のシート詳細記事を掲載しました「ANA国際線の新シート紹介。ファーストクラスのシートモニターは4K対応43インチ。ビジネスクラスは後ろ向き席採用で約1.3倍の広さに