ニュース
星野リゾートの新ブランドホテル、「OMO」について星野佳路代表に聞く
「新今宮もOMOがよいのでは」
2018年5月7日 13:59
- 2018年4月28日 リニューアルオープン(星野リゾート OMO7 旭川)
- 2018年5月9日 新規開業(星野リゾート OMO5 大塚)
星野リゾートは北海道旭川市にある「星野リゾート 旭川グランドホテル」を、新ブランド「星野リゾート OMO7 旭川」としてリニューアルオープンした(関連記事「星野リゾート、旭川グランドホテルを『OMO7 旭川』へリニューアル・報道公開」)。「OMO」は、ラグジュアリーホテル「星のや」、リゾートホテル「リゾナーレ」、温泉旅館「界」に続く星野リゾートの新しい都市型ホテルブランドであり、5月9日には東京・大塚に2号店として「星野リゾート OMO5 大塚」が新規開業する予定だ。
今回は、星野リゾート 代表の星野佳路(よしはる)氏に同社の取り組みや「OMO」という新しいホテルブランドについて聞いた。OMO7 旭川開業セレモニーでの星野氏のプレゼンテーションを織り交ぜつつお届けする。
「所有」「開発」「運営」から「運営」に特化した星野リゾート
星野リゾートは長野の軽井沢町に「星野温泉旅館」として1914年に誕生し、開業104年を迎えている。従来のホテルや旅館は「所有」「開発」「運営」の3つの役割を1社で担ってきたが、星野氏が1991年に社長に就任したころはバブル経済の崩壊があり、1987年のリゾート法などもあり、旅行業界に多くの新規参入があったため、「運営」に特化した会社へと方向転換した。
運営特化型の企業としてノウハウの蓄積、人材の確保を行ない、就任10年目の2001年に「リゾナーレ八ヶ岳」を開業して軽井沢エリアの外へ進出。2013年には「所有」の立場から経営を判断する、日本で初めて観光に特化した不動産投資信託として「星野リゾート・リート」が東証に上場。現在では国内34拠点、海外2拠点、計36拠点の運営を行なっている。
「OMO」は「旅のテンションを上げる都市観光ホテル」
新ブランド「OMO」のコンセプトは「旅のテンションを上げる都市観光ホテル」。「都市型ホテルがビジネス客ではなく観光客のことを考えて建物とサービスを提供するときにホテルはどうあるべきか」をテーマに掲げている。
ブランド誕生のきっかけは、星野リゾートが2005年に長野のとある温泉旅館の再生に携わったころにさかのぼる。当時、その温泉地の集客は減少しているのに、その地域全体の旅客数は伸びているという現象を発見した。どこかに流れているはずの観光客の動向を調査したところ、周遊を目的にした観光客は温泉地ではなく周辺のビジネスホテルに泊まっていることが分かったという。
そういったビジネスホテルの宿泊客の目的を調べると、ビジネスよりも観光目的が多く、宿泊客の満足度は、予算面、立地、施設の清潔度などでは「大きな不満はない」が、「旅のテンションが下がる」という部分に集約される意見が多かった。この「観光目的だがビジネスホテルに泊まる」層に、星野リゾートが参入するべき重要なマーケットがあると判断した。
そして星野リゾートが手がける新しい都市型ホテルを検討していたときに「旭川グランドホテル」という案件に出会ったことから、OMOブランドとOMO7 旭川が生まれることになったという。ちなみにOMO7 旭川も、先に紹介した星野リゾート・リートの所有物件だ。「OMO7 旭川で成果を出していけば、ほかの地域のグランドホテル業にも転用できるのでは」と星野氏も期待を寄せる。
星野リゾート OMO7 旭川
所在地:北海道旭川市6条通9丁目
アクセス:JR旭川駅から徒歩13分
客室数:237室(DANRAN Roomは115室)
チェックイン/チェックアウト:15時/11時
料金:2名1室利用時の1名あたり5000円~(サービス料込み)
TEL:0166-24-2111
Webサイト:星野リゾート OMO7 旭川
「OMO」ブランドはグランドホテルの新しい形
星野氏は、従来のシティホテル、グランドホテルは“百貨店的”に「宿泊」「ブライダル」「レストラン」「宴会・会議」と事業を展開し、それら各分野が周辺地域にある宿泊特化型ホテル、ハウスウェディング、地域の飲食店や大型施設と競合し、シェアを失っていることが、グランドホテルの収益を低下させていると指摘。
星野リゾートがリゾート地で展開するホテルは、宿泊客に来てもらうための理由作りから始めなければならないが、「OMO」ブランドを展開する街では、地域に魅力的な観光コンテンツがすでに存在する。そういった地域の飲食店、観光施設、アクティビティ提供業者らと競合するのではなく協力し、ホテルと地域全体を1つのリゾートとし、宿泊客にテンションを下げずに楽しんでもらうこと、その魅力を発信していくことを「OMO」ブランドの目標にしている。
例えば宿泊客には夕食は地域の飲食店へ行って楽しんでもらい、一方で地域の飲食店が営業していない時間帯、朝食であったり、夕食後ホテルに帰ってからの過ごし方であったり、そこをホテルの飲食施設が受け持つことで、ホテルのサービスを提供していく。
こういったOMOブランドの考えに基づき、OMO7 旭川では旭川観光の拠点として、1階のロビーラウンジを「OMOベース」にリニューアル。地元民だからこそ知っている情報を宿泊客に提供するサポートサービス「Go-KINJO(ゴーキンジョ)」を展開する。Go-KINJOは「ご近所マップ」「ご近所専隊 OMOレンジャー」「体験レポート(街探索のおすすめコース案内)」「ご当地ワークショップ」の総称。
ラム酒だけを取り扱う独自のポリシーを持った店、地元の常連客が集うアットホームな雰囲気の店など、ガイドブックにも載っていない地元民だから知っている64店舗の紹介と地図を掲載した「ご近所マップ」という観光案内冊子を宿泊客に配布する。これはホテル周辺のショップ、旭川大学吉田ゼミナールと産学連携で共同制作したもの。また、ガイドチーム「ご近所専隊 OMOレンジャー」を各OMOブランド施設で結成。地域のディープな魅力を友人のように案内する。
大阪・新今宮もOMOブランドがよいのでは
星野氏は、観光業界では「インバウンド」がキーワードになっており、訪日外国人旅客数が増えているのは確かだが、2017年の旅行消費額26.7兆円のうち訪日外国人旅行は4.4兆円で、日本人の国内宿泊旅行は16.1兆円という観光庁による「旅行・観光消費動向調査平成29年年間値(確報)」の数字を引用し、「星野リゾートの一番大事なお客さまは日本人であることは当面変わらない」と語る。
日本人をメインにインバウンドも視野に入れるというポジショニングで、OMO7 旭川では、観光の魅力や文化、楽しさを日本にも海外にも発信して、より多くの人が旭川を訪れるような、情報発信の基地になりたいという。
ブランド名の「OMO」は、実は「由来は不明」だそう。ただ、「日本人の若い人や外国人に覚えやすい名前で、商標が取れるもの」という条件は星野氏が設定し、社内で挙がった候補から絞り込んでいった結果、「OMO」になったとのこと。海外の旅行業者にも「発音しやすい、覚えやすい」ことも今後、シティホテルのブランドとして集客力を高めていくためには必要なことという考えがある。
また、OMO7 旭川やOMO5 大塚のように振られているナンバーは、「サービスの幅」を表わしているとのこと。「9(広い)」から「0(限定的)」までのなかで、レストラン機能などを有するグランドホテルを起源にしている旭川は「7」。「地方のグランドホテル的なサービスの幅をある程度維持しながら、新しいビジネスモデルを目指していくのがOMO7の使命」だという。
OMO5 大塚は、過去のシティホテルのビジネスの幅にとらわれずに、「都市に滞在する観光客」へ向けてサービスを絞り込んでいるという。軽食は用意するが、着席スタイルのレストランは設けないとのことだ。
星野リゾートでは大阪の新今宮駅前に都市型観光ホテルの案件を2022年開業を目標に進めているが、これについては「投資家や社内において、OMO7 旭川の開業後数年間の動きをどう判断するか」を前提としながら、「新今宮もOMOブランドがよいのではと私は思っています」と語った。それだけOMO7 旭川は星野リゾートにとって重要な、新しいスタイルのホテルなのだと星野氏は重ねて強調した。