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「星野リゾート」星野代表にリモートインタビュー。「3密のない滞在」をいち早く作り、復活期に備えて人材を維持する

2020年4月15日 取材

星野リゾート 代表の星野佳路(よしはる)氏に、新型コロナウイルス感染症の影響下にある観光市場や同社の現状と対応、今後の展望について話を聞いた

 星野リゾート 代表の星野佳路(よしはる)氏に、新型コロナウイルス感染症の影響下にある観光市場や同社の現状と対応、今後の展望について話を聞いた。星野氏と記者は、それぞれの自宅からネットミーティングシステムを使い対話している。

 星野リゾートは長野の軽井沢町に「星野温泉旅館」として1914年に誕生し、開業106年を迎えている。従来のホテルや旅館は「所有」「開発」「運営」の3つの役割を1社で担ってきたが、星野氏が1991年に社長に就任したころはバブル経済の崩壊があり、旅行業界に多くの新規参入があったこともあり、「運営」に特化した会社へと方向転換。ラグジュアリーホテル「星のや」、リゾートホテル「リゾナーレ」、温泉旅館「界」、都市型観光ホテル「OMO」などを国内外に展開している。

「1/4ぐらい」に市場が縮小したイメージ

 星野リゾートでは、緊急事態宣言の対象エリアにある施設は臨時休業に、それ以外の施設は安心・安全に注意しながら営業を継続している。星野リゾートの3月の業績はよかったとのことだが、緊急事態宣言発出後はキャンセルなども続き「1/4ぐらい」に市場が縮小したイメージだという。

 海外施設は、ハワイにある「サーフジャック ハワイ」と台湾・台中にある「星のやグーグァン」は営業を継続、インドネシア・バリ島にある「星のやバリ」は現地政府の方針に従い臨時休業に。新規施設は、緊急事態宣言の対象エリア外にあり「スタッフが着任済み」の施設はなるべくスケジュールどおりに開業、スタッフがまだ着任していない施設は「開業時期を動かせるので、よりベターのタイミングに動かす可能性はある」としている。

2020年1月~3月に開業した星野リゾートの新施設

2020年1月15日:サーフジャック ハワイ
2020年3月12日:界 長門
2020年3月19日:BEB5 土浦

開業予定(近日)の星野リゾートの新施設

2020年4月20日:リゾナーレ小浜島 ※開業日延期・延期日未定
2020年5月20日:星のや沖縄
2020年6月11日:OMO3 東京川崎

開示されている星野リゾートの新施設(中~長期)

2021年春:界 霧島
2021年春:界 別府
2021年冬:界 ポロト
2021年内:旧奈良監獄保存活用
2022年4月:OMO7 大阪新今宮
2023年春:OMO 下関
時期未定:横浜市庁舎街区活用事業 レガシーホテル

追記:星野リゾートではその後「旧奈良監獄保存活用」の開業時期を「未定」と変更している(2020年10月現在)

3月12日に開業した「界 長門」
「OMO7 大阪新今宮」の起工式(2019年5月28日)であいさつする星野氏

「3密のない滞在」をいち早く作ることが業界で求められている

 新型コロナウイルス感染症は治療薬やワクチンが実際に出てくるまでのおそらく1年~1年半の期間は、「感染爆発を防ぎながら、医療崩壊を防ぎながら、一方で経済をどこかでもう少し活性化させて、経済とコロナウイルスのコントロールの両立を図っていく」ことが社会的な目標であり、「予約状況を見て一喜一憂するのではなく、最終的にどう解決していくのかを考える中長期ビジョンが大事」だという。

 そのため新型コロナウイルス感染症と戦う社会に、この「1年~1年半の期間」で観光がどう貢献できるかを、星野リゾート内で計画を練っており、「観光が感染の原因になってはいけないですから、旅を提供する側の責任として、『3密のない滞在』をいち早く作ることが業界で求められていることだと思うので、それに向けて私たちも一生懸命取り組んでいるところ」と話す。

 星野リゾートで働くスタッフの「仕事の総量」は減ってしまっているが、「観光人材を維持することが私たちの大方針」であることから、練られている計画も「ワークシェアリングをする、場合によっては休みもとってもらいつつ、政府の雇用調整金と私たちの負担でなんとか向こう1年~1年半の観光人材を維持」するものにすべく進めている。「重要なのは企業がしっかり生き残ること。そして生き残るだけでなく、復活期に備えて人材を維持すること」だと説く。

旅を安全に、3密なしの状態で楽しめる魅力を作っていきたい

 苦境に立つ観光業界だが、新型コロナウイルス感染症が収束する未来に向けて星野氏は「マイクロツーリズム」が日本の観光をあらためて強くするためにキーになるのではと話す。

 例えば仮に緊急事態の収束宣言・部分的な緩和などがあった際に、各地の宿泊施設はその周辺の人たち、近くの都市圏、遠くの大都市圏、最後にインバウンドという順に需要が戻ってくると予想される。この宿泊施設周辺エリアの人たちに着目することがマイクロツーリズムだ。

 日本各地にある宿泊施設ではよく、提供する料理の食材を遠くから仕入れていたり、家具はイタリア製だったり、客室を飾るオブジェは東京在住のアーティストだったりといったことがありがちだという。

 観光事業者と地元生産者のネットワークが薄く、地域らしさを表現するためのリソースがまだまだ足りていない状態であり、もっと「地域らしさ」にこだわり、周辺エリアの人をターゲットにすることで売り上げがあがり、雇用の維持にもつながるようになる。まずは地域内で循環させることで、ウイルス拡散の可能性をできるだけ抑えつつ、ある程度ずつ経済力を回復させることもできるわけだ。

 さらに、地元の魅力を再発見することにもつながるという。地元の生産者に宿泊施設に泊まってもらい、交流することで、地元ならではの産品についてアドバイスをもらう機会になる。海外から家具を輸入するのではなく、地元の技術を受け継ぐ家具や工芸品を客室に使うことができる。そうした人材のネットワークを作るよい機会になるのではと話す。

「地域の人たちとのネットワーク、生産者とのネットワークが希薄だったり、地域の人たちが地元の魅力に気付いていなかったりといったことが、日本の観光の力の弱点」であり、今後また観光を盛り上げよう、インバウンドを盛り上げようというのであれば、新型コロナウイルス感染症の影響がある向こう1年~1年半という時間を、この弱点を克服する時間に使うべきだと提唱する。こうして短期的な観光需要を確保しつつ、地域の経済、地域の観光人材の維持に務めることを日本各地の事業者が取り組むことで、将来2020年を振り返ったときに、「大変だったけど、日本の観光の力強さはこの1年があったからだよね」と言えるようにしたいと述べた。

 最後に星野氏は、「緊急事態が緩和されるときには、旅を安全に、3密なしの状態で楽しめる魅力を作っていきたいと思っています。海外旅行ができない1年になりますが、日本の地方のよさを再発見していただけるよう私たちもがんばっていきたい」と決意を語った。