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星野リゾート、星野佳路氏へインタビュー。好調な「星のやグーグァン」、5月開業の「星のや沖縄」などを語る
政府が掲げる「2020年訪日外国人4000万人」は「もともと目標が高過ぎた」
2020年2月25日 11:00
初の「ホステル」となる「OMO3 東京川崎」を6月11日に開業すると発表した星野リゾートの代表 星野佳路(ほしのよしはる)氏に、OMOブランドや最近開業した、あるいは開業予定の各施設などについて話を伺った。
星野リゾートは長野の軽井沢町に「星野温泉旅館」として1914年に誕生し、開業106年を迎えている。従来のホテルや旅館は「所有」「開発」「運営」の3つの役割を1社で担ってきたが、星野氏が1991年に社長に就任したころはバブル経済の崩壊があり、1987年のリゾート法などもあり、旅行業界に多くの新規参入があったため、「運営」に特化した会社へと方向転換した。
運営特化型の企業としてノウハウの蓄積、人材の確保を行ない、就任10年目の2001年に「リゾナーレ八ヶ岳」を開業して軽井沢エリアの外へ進出。2013年には「所有」の立場から経営を判断する、日本で初めて観光に特化した不動産投資信託として「星野リゾート・リート」が東証に上場した。
星野リゾートではラグジュアリーホテル「星のや」、リゾートホテル「リゾナーレ」、温泉旅館「界」などを展開しており、OMOは4つ目のブランドとなる。
「OMO7 旭川」ではOMOレンジャーのスーパーマーケットツアーがとても好評
都市に泊まるビジネス客がビジネスホテルに泊まるように、都市に泊まる観光客を獲得するために立ち上げたOMOブランドは、「旅のテンションを上げる都市観光ホテル」をテーマに掲げている。
OMOブランドは 2018年4月に北海道旭川市の「OMO7 旭川」が1号としてスタート。5月に「OMO5 東京大塚」を開業しており、OMO3 東京川崎はOMOブランドの3号店にあたり、初のホステル施設となる。ちなみに2022年4月には「OMO7 大阪新今宮」、2023年には「OMO 下関」の開業を予定している。OMO3 東京川崎の詳細については関連記事「星野リゾート、初のホステル『OMO3 東京川崎』を6月11日開業。1泊3000円前後から」をご参照いただきたい。
都心にビジネスホテルが林立するなかで「都市観光に特化するという戦略はポジショニング的にはとってもよいと思っている」とブランドの方向性を評価する星野氏は、既存の2軒について「旭川は旭川らしい進化を、大塚は大塚らしい進化をしています」と話す。
地元の人だからこそ知っているお店や観光スポットを案内する「ご近所専隊 OMOレンジャー」はOMOブランドの特徴の1つだが、旭川ではスーパーマーケットツアーがとても好評だという。平均客単価は2300円だそうで、例えばOMOレンジャーが1回に20人の宿泊客を連れて行くとそれだけで地元スーパーにとってはかなりの売上になり、地元によい貢献ができているとのこと。大塚は周囲にディープな飲み屋が多く、当初想定したOMOレンジャーらしい活躍ができているそうだ。
ビーチリゾートを文化リゾートに変える「星のや沖縄」
「星のや」は「現代を休む日」をコンセプトにした星野リゾートのハイブランドで、2005年の「星のや軽井沢」からスタートし、「星のや京都」「星のや竹富島」「星のや富士」「星のや東京」「星のやバリ」を展開。そして2019年6月に台湾・台中の谷關(グーグァン)温泉に「星のやグーグァン」を開業。2020年5月20日に沖縄・読谷村(よみたんそん)に8軒目となる「星のや沖縄」が開業を予定している。
「星のやグーグァン」の宿泊客の約80%が地元台湾の人だそう。ネット予約が90%と高いのも台湾の特徴だという。「星野ブランドが台湾にくる」ということで注目度が高かったそうで、稼働率も「すごくよい」とのことで、宿泊客の「満足度も高く、当面大丈夫だと安心しています」と順調のようだ。グーグァンは標高の高い場所にある温泉地のため、夏には避暑地としてさらなる利用が見込まれている。
「星のや沖縄」は建物もほぼ完成し、スタッフも着任、トレーニングを開始している。沖縄のポイントはオンシーズンの夏季とそれ以外で大きく差があること。冬になると高級ホテルでさえ極端に料金を下げるような状況になる。沖縄に進出するにあたっては、「年間を通じてしっかり集客できるような、本来ターゲティングしたい人たちを集客できるようなマーケティングが必要」で、「いわゆるビーチリゾートというイメージから、文化リゾートに変えなければならない」ということを意識して「星のや沖縄」は企画された。
「星のや沖縄」のコンセプトは「グスクの居館」。沖縄の伝統的な城である「グスク」をモチーフに施設をデザインし、「グスクに泊まるような体験」を提供。また、100室の客室はすべてが「オーシャンフロント」であり、海を眺めながらの滞在を楽しめる。
夏以外の季節にどうやっていらしていただくか、ターゲットしている人たちをちゃんとした単価でいらしていただけるかを考えようと、「食、滞在のあり方、感じていただける非日常性にしても、年間を通じて沖縄のよさを感じていただける内容に仕立てている」という。
リゾートホテルやマンションのような高層の建物ではなく、あえて2階建てにしたことで、海の音を感じ、風を感じて海との近さを意識できる、「外のすぐ飛び出していけるような近さ」を建物が表現している。沖縄は外資の有名ホテルも多く進出しているが、「沖縄は激戦区なので、『沖縄でここが一番いいね』と言われなくちゃいけないと社内の使命として取り組んでいます」と決意を語った。
長期的に安定的に着実に成長できる目標を立てて、持続可能な観光の成長の仕方をする、それが一番大事
政府が掲げる「2020年に訪日外国人旅客4000万人」という目標は達成困難なのではという見方が増えている。それに対し星野氏は「もともと目標が高過ぎた」と話す。4000万人を達成するために無理をする、無理をするからそこにブームやピーク、そしてひずみを作ってしまい、そのあと息切れしてしまうと指摘する。日本の旅行業界の成長には、「長期的に安定的に着実に成長できる目標を立てて、持続可能な観光の成長の仕方をする、それが一番大事」だと語る。
沖縄の入域者数がハワイを超えたと言われているが、外国の大型客船が寄港して、多くの外国人が押し寄せて、沖縄の文化に触れることなく去っていく。そして旅行者の消費額はハワイに及ばない。これらが現状を象徴しており、「訪日外国人の人数を追う時代から、1人あたりの消費額、連泊数、満足度、リピート率、そこを追っていくような観光のあり方に変えなければならない」と述べた。