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星野リゾート 代表 星野佳路氏が語る、北海道やトマムの観光について

インバウンド需要で年間の需要平準化が一番ビジネスには効く

2017年12月19日 開催

日本初のスキーインスキーアウトヴィレッジ「ホタルストリート」をオープン後、囲み取材に応える星野リゾート 代表 星野佳路氏(右)

 星野リゾート トマム(北海道勇払郡占冠村)は12月19日、日本初というスキーインスキーアウトヴィレッジ「ホタルストリート」をグランドオープンした。その詳細については、関連記事(北海道・トマムの「ホタルストリート」グランドオープンセレモニー)でお届けしたとおり。本記事では、その際に行なわれた星野リゾート 代表 星野佳路氏の囲み取材をお届けする。

 この囲み取材には、中国からの取材班も参加しており、中国からの質問は分かるようにしてある。


──北海道におけるトマムの観光地としての位置付けと、星野代表の挨拶で話されていた星野リゾート トマムの開発の完成について教えてください。

星野代表:北海道において(スキーリゾートとして)先行したのは、ニセコだと思います。ニセコがパウダーとか「北海道の雪はすごいんだ!!」ということを世界に知らしめてくれました。ただ、ニセコにはいろいろなスキー場開発会社さまが入っていて一つのニセコができあがっています。それぞれ特徴を出されています。トマムのよいところは、星野リゾート1社で今まで運営させてもらってきましたので、私たちの戦略が明確になっています。(トマムは)気温が低いので雪質も素晴らしいのですが、私たちはファミリーをターゲットにしてきました。

 家族連れでスキーに北海道に来ていただける。子供連れでスキーにいらしていただける。ここがすごく大事な市場なのです。その子供達が育ったときに北海道に戻ってきていただける。日本のスキー市場だけを見ていただいても、日本のスキー人口はかつて多かったのですが、そこから下がりました。下がった理由は、若い人が入らない(スキーは入り込み数で表現することが多い)のではく、(スキーなどのウインタースポーツを)やめていったんですね。子供ができたときに「家族で行ける場所ではない」という位置付けがされてしまったのが、日本のスキー人口が減った原因だと思っています。

 なので、いかに小さな子供を連れた家族が楽しく過ごせるようなスキー場にしていくか。そこがトマムの2004年(星野リゾートが運営を開始)からのテーマだったんです。ですから私たちの間では「ままらくだ委員会」というのがありまして、お母さんたちをサポートしよう。小さな子供たちにスキーを履かせて歩かせる、それだけで大変なんですね。荷物も多いです。そこをしっかりとサポートしてきたのがトマムの業績につながったと思っています。これからも北海道のなかで、雪はもちろん素晴らしいし、スキー場にはもちろんバックカントリーもあれば、パウダースノーもあるのですが、ただ私たちのスタンスとしては日本の家族連れにいらしていただきたいし、小さなお子さまたちをしっかりサポートしていきたいし、それからアジアにおいても、今日(トマムを)見ていただいたように小さなお子さま連れのインバウンドの方たちがいっぱいいらっしゃっています。こういった方たちに支持されるようなスキー場になっていきたいと思っています。

(投資についてですが)私のスキーインスキーアウトヴィレッジに対する思いがすごく強くて、日本にまだなかった。ところがアメリカやヨーロッパは先行したのです。なのでこの(ホタルストリートに対する)投資を一つ目標にしてきたのは事実です。ただ山のキャパに対して、宿泊キャパがまだまだ少ないのです。トマム全体を経営する立場としては、もっと宿泊キャパを増やしていくのがテーマだと思っています。今回クラブメッドさんを誘致した(2017年12月オープンの「クラブメッド 北海道 トマム」)のもそういう理由なのです。

 ずいぶん前からクラブメッドさんにアプローチしていてようやく実現したのですが、トマムというのは一つのホテルが経営するのではなくて、リゾート全体が一つの街のような存在なのです。私たちは、上水も排水も管理してますし、リフトも管理してますし、プールもあるし、アイスヴィレッジもあります。

 全体の施設に合った宿泊キャパを作っていくのが大事で、実はもう少し宿泊キャパには余裕があるんです。ですから、将来的に、業績の推移次第だと思っていますが、宿泊キャパを増やしていく可能性はトマムに残されていると思っています。当面、投資家の皆さまと一緒に長期計画として私が取り組んできた内容は、「ホタルストリート」は、建物としては、計画したなかでは最後のプロジェクトでした。

 同時に、「雲海テラス」。これはどんどん進化させるために、スキー場のシーズンではないですが、夏の観光をいかにしっかり充実させるかというのはすごい大事で、雲海テラスへの投資は続けていきます。

 それから、北海道らしい風景を作っていくのは、グリーンシーズン、4月~11月までの観光においてはすごく大事で、私たちはゴルフ場をやめて草原に戻していくとか。私のなかではトマムが開発される前の原風景というのが北海道らしい風景と思っています。こういう(トマム)タワーが建っていますが、できるだけそれ以外の場所は、この場所にあった原風景に戻していくプロジェクトを進めています。ゴルフ場があることのメリットよりも、北海道らしい風景がちゃんと広がっていて、雲海テラスから見たときにしっかりと素晴らしい「あ~北海道に来た」と思ってもらえるような景観を作っていきたいと考えています。それは建物を作るという投資ではないですけど、雲海テラス、原風景の再現、そこがこれからのテーマだと思っています。

──スキーインスキーアウトの「ホタルストリート」をオープンさせた狙いは?

星野代表:スキー場にスキーヤーやスノーボーダーがいらっしゃって、一番大変だなと思うのが、スキーやスノーボードを脱いでですね、歩いてというとこなのです。とくにお子さま連れの家族は、スキーブーツやスノーボードブーツを履いて子供を連れ歩くのはもっと大変なんです。大きな道具を担いで歩くのも大変です。ですからヨーロッパやアメリカのスキー場において、こういう風に(と「ホタルストリート」を指差しながら)レストランやお店に寄りたいというときに、目の前までスキーインできるというのは、20年くらい前から始まったトレンドとして存在しています。私もいろいろなところを視察してきたのですが、すごく市場にはウケています。

 せっかくスキー場に滞在しているので、お昼に行く、ショップに行く、カフェで時間を過ごす。こういう滞在の時間のときに“できるだけ歩くストレスをなくしてあげる”ということを実現しているのが、このスキーインスキーアウトヴィレッジの最大の機能なのです。

 その快適性を日本のスキー場にも導入できたのが、今回のプロジェクトの最大の意義だと思います。

──先ほどトマムの構想は披露されましたが、北海道全体に広げた場合の今後の開発などは?

星野代表:北海道は日本人にとってもすごく大事な観光地ですし、インバウンドの方々にとってもすごくポテンシャルのある場所で、夏だけでなく冬も強いです。この夏も冬も強いという観光地は、日本のなかですごくめずらしいと思っています。星野リゾートにとっては、トマムは非常に業績もよくなっていますし、我々にとっては一番大事にしているビジネスなのですけど、同時に北海道の大きななかで違った地域への展開もぜひ積極的にやっていきたいと思っています。

 具体的にプロジェクトが始まっているわけではないので、皆さまにお伝えできる状態にはありません。当面、私が積極的に取り組んでいるのは、旭川市にあります、旭川グランドホテルを「星野リゾート OMO7 旭川」として2018年4月末開業するというのがあります。そこに向けてしっかりと準備を行なっています。最初の1年が大事ですから、1年目にしっかりと業績を残せるようにがんばっていきたい思います。

 北海道には温泉もあれば、スキー場もありますし、都市観光もあります。私たちは運営会社なので、いろいろな投資家の方から声をかけていただける機会があれば、どの案件も私たちに何ができるか考えて、真剣に検討していきたいと思います。

──「ホタルストリート」は、夏も開業する予定とのことですが、夏に開業するメリットを聞かせてください。

星野代表:スキー場そのものが冬だけに収益をあげる事業モデルではなくて、夏にもしっかりと収益を稼げる事業モデルにすることが競争力につながります。以前は、トマムは、冬にある程度利益が出ても、それを夏に相殺してしまうということをやっていました。このため、スキー場の投資が止まるわけです。するとスキー場の魅力の進化ができなくなってしまうわけです。

 冬も夏も利益を出せるようなビジネスモデルにしていくのが、すごく大事なポイントです。

 そういった意味で、このホタルストリートの投資においても、質をよくしていく、そしてしっかりと魅力を作っていくためには、冬だけのビジネスではなくて、夏もしっかりと稼げる体制にするというのがすごく大事なのです。宿泊もそうですし、プールもそうですし、そしてこのホタルストリートも同じなのです。

 ホタルストリートには大事な意味があります。夏もトマムにはたくさんの方がに泊まっていただいているので、その方々に食を提供する、またはショッピングを楽しんでもらう街と位置付けています。もう一つは、冬もそうなのです。一般的なゲレンデのレストランはお昼しか稼働しないのです。お昼しか稼働しないと、どうしても十分なよい空間が作れなかったり、滞在の魅力が落ちたり、メニューにもバラエティが作れなかったりします。

 今回、このホタルストリートの特徴は、宿泊している方々が歩いて来られるということです。スキーインスキーアウトもできるのですが、スカイウォーク(遊歩道の名称)を使って宿泊者が夜に歩いてきていただける。夜に来ると、ライティングで非常に素敵なな空間を作り込んでいます。

 タワーに泊まっている方々がスカイウォークで歩いてきて、夕食を楽しんでいただく、カフェを楽しんでいただく、ショッピングを楽しんでいただく。昼も夜も稼働し、かつ、冬も夏も稼働する、という風にすることがこういう施設を魅力あるために必要です。よいテナントさんに入っていただくためには、年間をとおして稼いでいただくのが非常に大事なのです、そのようなモデルにすることが、施設を維持していくために大事です。

──「ホタルストリート」は冬はスキー・スノーボード客に訪れてもらうことを想定していると思いますが、夏はどういう方の来客を想定していますか?

星野代表:夏は、ここ(ホタルストリート)全体が自然の魅力のなかにあります。(ホタルストリートは)リゾナーレトマムとタワーのちょうど中間にあります。スカイウォークは今までも泊まっている方が食事のために通っている通路なのです。2つの施設で計4つタワーがあるのですが、中間地点にありますので、昼食・夕食のニーズで立ち寄っていただけますし、カフェもあるので、過ごしていただける場所になると考えています。

──(中国のメディアからの質問)トマムには中国のお客さまもインバウンドなどで訪れていると思います。いっぱいレストランができましたが、トマムで今後、中華料理とかに関するプランはありますか?

星野代表:食の詳細な内容については、僕は携わってないのですが。こういうリゾートにおいては長期間滞在していただく方も多いので、食のバリエーションをしっかりとそろえることが大事だと思っています。日本食だけではなくて、いろいろな食のタイプを用意していきます。今はかなり増えています。20店舗ほどになります。20のなかから選んでいただける、1週間滞在していただいても、いろいろな食のバリエーションを作っていけるということが大事だと考えています。中華料理店を作って中国の方々にご満足いただけるか分かりませんが、ニーズがあるようなら検討していきます。

 同時にここにお集まりになっている(報道の)方々にもお話ししておきたいのですが、中国からのお客さまも増えていますが、今一番増えているのがオーストラリアからの方々になります。おそらくニセコに滞在してきた夏休みの(オーストラリアは季節が日本と逆のため)オーストラリアの方々、とくに小さな子供連れの家族は、トマムをすごく支持してくれています。成長率が一番高いのです。

 北海道のインバウンドの大事な点は、どこか一つの国に依存するのではなくて、いろいろな国からいらしていただく。そのほうが需要が平準化します。例えばオーストラリアの夏休み、そのあと中国からの旧正月、年末年始は日本人がたくさんいらしていただける。

 観光産業全体として考えたときに、数を増やすのではなくいかに需要を平準化して生産性を高めていくかが、日本の観光に効いてくる。日本の観光はすでに23兆円の需要があります。ただ、収益率が低いというのが私たち観光産業の課題であって、そのために私たちはいかにインバウンドをうまく使って年間の需要を平準化させるかということが、一番ビジネスには効いてきますし、産業の活性化に寄与するのではないかと考えています。

──日本にはいろいろなスキー場がありますが、スキーインスキーアウトの施設として「ホタルストリート」は初めてとしてよいですか?

星野代表:そうです。こういうヴィレッジとして、一つのコンプレックス(複合施設)として作り込んで、完全にスキーインスキーアウトできる。スキーインできる施設は(日本のスキー場でも)いくつかあるのですが、スキーアウトをしたところにリフトがある状態で、スキーを担いで歩くという行為をなくしています。スキーやスノーボードを担いで歩くという状態をなくしていますので、相当ストレスがなくなります。お子さま連れの家族にとっても、楽に感じていただけると思っています。

 どうしてもこういう施設は山の中腹に作る必要があるので、インフラを作ってそこに持っていき、許認可を取るというのは大変な作業になります。海外ではこういうヴィレッジが誕生してきているので、日本でももっとこういうヴィレッジが増えていくと、子供連れのスキー・スノーボードがしやすくなると思っています。

 フランスなんかにはすごくうまくできたヴィレッジがいくつも誕生しています。スキーインスキーアウトホテルとヴィレッジが一体になった開発もあります。ところによっては、そのヴィレッジの地下が駐車場になっていて、雪の降らない駐車場があるような。スキー場の開発の仕方は、ここ30年ですごく劇的に変わっているのを感じています。

 日本の場合、バブル経済崩壊。スキー市場のピークはあそこ(バブル経済期)にあって、そこから下がってきたものですから、スキー場への積極的な投資は行なわれてきませんでした。そういう意味では、ようやくインバウンドが増えてきて、日本のスキー市場にお子さま連れが戻ってきてくれれば、私は再度日本のスキー場を見直して施設をリニューアルしていく。または、そこに投資していく時代が来る可能性があるのではと期待しています。

──インバウンドをポートフォリオ的に活用してという話がありました。オーストラリア、中国については話が出ましたが、ほかに狙っている国や地域、拡大していきたい国や地域はありますか?

星野代表:世界のスキー市場の情報発信源を重視しています。それは、ニューヨークなどに旅行雑誌社の中心があったり、ヨーロッパではロンドンがすごく大事なのです。英語圏ですから。そしてスキーというとパリも大事になります。世界の旅行の、上質な旅行の情報発信基地というのは、どうしても欧米の大都市に集中しています。

 “日本の雪がスゴイ”とか、“北海道はスゴイ”というのを、まだまだ世界の人は知らないのです。ですから、私が意識しているのは、アジアのなかでの集客のバランスを取るだけではなくて、数は少ないかもしれないけど、私たちは欧米を忘れてはいけないと思っています。

 魅力を伝えるという意味では、北米のお客さま、北米の媒体の方々、ヨーロッパのお客さまや媒体の方々にアピールしていく。それは、結果的にそこから情報が出て、アジアの方々も日本を見直し、雪山を見直し、北海道を見直していただけるチャンスになります。トマムも欧米を忘れずに、短期的な効率だけで行くと数には見合わないかもしれませんが、情報発信という意味においてはすごく大事だと思っています。北海道全体にとってものすごく重要な、北米・欧州を忘れてはいけないと考えています。