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ANAとポーラ・オルビス、宇宙で使える化粧品「CosmoSkin」開発スタート。宇宙飛行士や極地建築家が体験とともに商品化への課題を語る

2023年発売を目指す

2020年9月11日 発表

「CosmoSkin」プロジェクト開始の会見をANAホールディングスとポーラ・オルビスが共同開催した

 ANAHD(ANAホールディングス)とポーラ・オルビスホールディングスは9月11日、オンライン会見を開き、宇宙で使用可能な化粧品を開発を行なう「CosmoSkin」プロジェクトのスタートを報告した。商品化は2023年を予定している。

 冒頭では、ANAホールディングス グループ経営戦略室 事業推進部長の津田佳明氏があいさつ。同社が宇宙関連事業に積極的に参入する理由として、「エアラインにとっての破壊的イノベーション」である「LCC」「DRONE」「SPACE」「AVATAR」を挙げ、これらの4つを取り込むためにプロジェクト化を推進していると話した。

 すでに「LCC」「AVATAR」は会社を立ち上げており、「DRONE」「SPACE」に関しては航空事業のノウハウを活かしながら開発、将来的に事業に取り込もうと考えているとのこと。また5年前に2025年までの10年構想を形作った際、2025年までに地球でエアラインが行なえることはすべて実行、以降は宇宙事業への進出を宣言したことも大きいと話した。

ANAホールディングス株式会社 グループ経営戦略室 事業推進部長 津田佳明氏
「エアラインにとっての破壊的イノベーションを考える」
「ANAの事業ポートフォリオから見た宇宙事業」
トップの宇宙への考え方や構想での宣言も宇宙関連事業への参入に拍車をかけたとした

 具体的な動きとして活動例を紹介。有人宇宙飛行を目指す「PDエアロスペース」への出資や整備士の派遣と開発。アジア初の宇宙港の日本開港を目指す「SPACE PORT JAPAN」への参画。「ヴァージン・オービット」とパートナーシップを結び、アジア運航の際にはサポートを行なう形にするなど、事業化に関し前進していることをアピール。

 付随して、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が主催する宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster」への協賛・参画と、2017年に同社社員がグランプリを受賞した「衛星活用による飛行経路最適化」の検討も着実に進めているとした。

宇宙事業化に関する活動例として「PDエアロスペース」への出資や整備士の派遣を紹介
「ヴァージン・オービット」とのパートナーシップ、「SPACE PORT JAPAN」への参画
「S-Booster」への協賛・参画について

 続いては、ポーラ・オルビスホールディングス 執行役員の末延則子氏が登壇。今回のコラボレーションのきっかけとなったアイデアと「CosmoSkin」プロジェクト(宇宙を意味するCosmosと肌を意味するSkinを組み合わせた造語)の概要を解説した。

「S-Booster」で提案した「美肌ウェルネスツーリズム」は、ポーラ・オルビスグループが長年研究してきた肌や健康に関する知見と衛星データを組み合わせ、肌や体調をケアできる最適な旅行地、体験を提供するアイデアとのこと。同案が2019年に「ANAホールディングス賞」を受賞したことがきっかけで2社の連携がスタート。実現に向けて候補地・島根県を交えて準備を進めていると話した。

株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 執行役員 末延則子氏
コラボのきっかけと「CosmoSkin」プロジェクト概要を解説
「S-Booster」で「ANAホールディングス賞」を受賞した「美肌ウェルネスツーリズム」

 また、有人宇宙旅行が身近になりつつある昨今、宇宙における課題解決は地上における問題解決の一助になるとし、一番身近な例として「New Normal」への適応を挙げた。

 運動不足や限られた資源にストレスも多い宇宙から「New Normal」時代を考えることで、新しい未来への懸け橋に、そして事業を通じて地球と宇宙の豊かな未来を描くことを目指し「CosmoSkin」プロジェクトを立ち上げたとした。

民間企業開発の宇宙船による有人宇宙飛行が成功し、新たな時代に入ったと定義づけた
宇宙から「New Normal」を考えると現在の地球での生活課題と共通していることが分かる
宇宙での問題解決は地上での課題解決につながっていく
宇宙から「New Normal」を考え未来の懸け橋に

 具体的には「CosmoSkin」プロジェクトでは、ポーラ・オルビスグループが宇宙でも心地よく使える製品・サービスの研究開発、ANAホールディングスが宇宙環境に近いとされる航空機内において実証実験の場を提供。研究結果をもとに宇宙と地上で使える化粧品を発売するとし、宇宙と地上を結び課題解決する新たな価値を持つ化粧品となると意気込んだ。

 2019年よりディスカッションを重ねており、現状としては製品コンセプトなどを決めている状態。製品の種類などは今後話し合いと研究を通じて具体的に決めていくとのこと。

2社強みを活かし商品開発と実証実験の場を提供
開発した商品は2023年商品化。継続してその後も開発を続ける
新たな価値を生み出す製品の誕生に期待してほしいとした

制約の多い宇宙船や極地にフライト。スペシャリストが苦労と心掛けを語った

 会見後半では「宇宙の課題解決が地球の課題解決へ」と題しパネルディスカッションを開催。宇宙飛行士の山崎直子氏、極地建築家の村上祐資氏、ポーラ 執行役員の山口裕絵氏、ANA(全日本空輸)宣伝部部長兼宇宙事業化プロジェクトの江島まゆみ氏が、それぞれの職種ならではの体験や心掛けを披露してくれた。

パネルディスカッション「宇宙の課題解決が地球の課題解決へ」を実施

 ディスカッションでは、最終的な化粧品開発につながる3つの研究テーマ「宇宙空間で体に起こる変化のメカニズムを解明すること」「制限のある環境に配慮したユーザビリティ(容器に必要なこと)」「宇宙空間でも使える新しい化粧品の剤型」を提案。それぞれについて語る形となった。

「宇宙空間で体に起こる変化のメカニズムを解明すること」では、宇宙飛行士の山崎直子氏が「無重力では血液と体液が上にシフトします。そのため顔がむくむうえ、体に水分量が増えたと脳が誤解し、尿として水分を排出。体内の水分量は90~80%になります。宇宙船内は湿度が低く肌も乾燥気味。逆に補おうと脂が出てしまうことも。また、筋トレはしていますが無重力では顔の筋肉や舌を動かすときの表情筋も衰えがち」と語った。それに対し、「筋肉の衰えからくる肌のハリのなさやたるみはエイジングケアにも通じる問題」とポーラの山口裕絵氏が地上における課題との共通項を指摘した。

宇宙飛行士 山崎直子氏
株式会社ポーラ 執行役員 山口裕絵氏

「制限のある環境に配慮したユーザビリティ(容器に必要なこと)」では、極地建築家の村上祐資氏が南極などに持ち込むものについて「重量やサイズの制約はもちろん、容器に関しては多少雑な扱いでも壊れないもの、かつ使い終わった形が変形すると、パッキングの際にストレスなく使える。また、なかなか物が手に入らない極地では中身の減りがはっきり分かると不安を助長しストレスになるため、把握はできるけれど、分かり過ぎないものがよい」と提案。

 宇宙飛行士の山崎氏も「宇宙でも体積や重量とともに持ち帰るゴミの量に制限があるため、使用後にかさばらないとうれしいですね。環境に優しい点も。アイシャドーのチップは浮いて飛んでいかないようにテープで止めたりしていますし、容器のフタも一体型が望ましいです」と、宇宙ならではのエピソードと要望を披露した。

 限られたスペースでの活動という部分では、ANAの江島まゆみ氏はギャレーを例に「片手で開けられることや視認性も含め、覚える考えるを超えた人間工学に基づいたデザインだとありがたいです」と話し、フライト中は「外側内側精神面と3つのバランスを保つために中間食や水を多めにを摂ったり、保湿もしっかりと、そしてストレスをためず心の余裕を持つことが大事」とした。

極地建築家 村上祐資氏
全日本空輸株式会社 宣伝部部長兼宇宙事業化プロジェクト 江島まゆみ氏

 さらに「宇宙空間でも使える新しい化粧品の剤型」では、宇宙飛行士の山崎氏によると、現状スキンケア用品はゲル状やクリーム状のものが中心で、メイク関連も微細なパウダー状のものは飛び散るため持っていけないと紹介。これに対し、ポーラの山口氏は「水を使わない化粧品はめずらしい範疇のため、今回のプロジェクトでは使用を最小限にして、心地よく使える剤型にチャレンジしていきたい」と語り、水が豊富に使えない宇宙空間は災害時に使える化粧品剤型の開発にもつながるため、さまざまな可能性を探っていきたいと話した。