旅レポ

ベトナム・ハノイ周辺で代々受け継がれる伝統的な文化や技術を体感

ハノイとその周辺の視察ツアー。まずはベトナム北部の伝統を感じられるスポットへ

 ベトナム航空とハノイ観光局は、8月20日~25日の日程で旅行代理店やメディアを対象としたFAMツアー(視察・研修ツアー)を実施した。今回は、代々受け継がれてきた伝統的な技術や文化を感じられるスポットを紹介していく。

 ハノイの魅力の一つとして言及されることの多い観光要素の一つが「歴史」や「文化」だ。ベトナム北部は現在の中国国境に近く、中世期までは世界的にも先進的だった中国からの文化、技術が伝わったことは想像に難くない。ベトナム人のアイデンティティや、フランス統治などの時代もあるので、独自の進化を遂げたであろうこともイメージできる。ハノイ周辺では、そうした脈々と受け継がれてきた伝統をいまも垣間見ることができるのである。

レンガ造りの家が建ち並ぶフォトジェニックな「ドゥオンラム村」

ハノイ郊外にあるドゥオンラム村へ

 まず紹介するのは、ハノイ中心部からクルマで1時間ほど向かった先にある「ドゥオンラム村(ドンラム村とも)」だ。交通機関はなく、タクシーで行くには遠いせいもあってか、今回のツアーのガイドさんも「ガイドを6年やっているが、(日本人を連れて行くのは)4回目」と話すほど、日本人には馴染みのない場所だという。

 一方で、日本のJICA(国際協力機構)が村の保全や観光振興に協力した場所でもあり、そうした成果が認められて、ユネスコのアジア太平洋地域の遺産として認められている。

ドゥオンラム村

 ハノイを流れるホン川(紅川)の流域にあり、稲作やサトウキビを栽培する農村として栄えた村。観光的にはラテライトから作られるレンガが有名だ。蜂の巣のように表面に多数の凸凹のある形状が特徴となっており、民家の周囲をこのレンガを使って覆う古い建物が並んでいる。ハノイのお金持ちな人は、このレンガをドゥオンラム村から手配して家を建てたりもするそう。

 そんなドゥオンラム村では、細い路地の左右をこのレンガが囲う様子が印象的だ。レンガ造りの建物というと単純に欧州の街並みを連想しがちだが、それとはまったく違う。村の雰囲気はアジアそのものであり、そんななかにレンガ造りの壁が建ち並ぶのである。この独特の雰囲気はSNS映え間違いなしで、写欲がくすぐられるだろう。

 村の道は入り組んでいるので、地図を見るなどして帰り道を忘れないように注意したいが、細い路地には広い通りを歩いているだけでは感じられない空気があるので、ぜひ立ち入ってみたいところだ。

レンガ造りの塀に囲まれた小路が魅力
ラテライトを使ったレンガ。表面の凹凸が特徴で、この美しさからハノイの富豪にも人気だとか
道ごとにいろいろな表情があって面白いので歩きまわりたくなる。でも迷子にならないよう要注意

 さまざまな建築物も見どころだ。ドゥオンラム村の入り口で入村料2万ドン(約100円、1000ドン=約5円換算)を支払って入ろうとすると、まず出迎えてくれるのが「モンフー門」だ。1553年に作られたというこの門は昔ながらの民家の作りを今に伝えているといい、ドゥオンラム村の風景に期待を持たせてくれるだろう。周囲に生えるガジュマルや月桂樹の木とのコントラストも美しく、この村を紹介するパンフレットやガイド本でも写真をよく見かける。フォトスポットとして定番中の定番だ。

 ちなみに、「モンフー」は集落の名前。ドゥオンラム村は複数の集落から成っており、以前はもっと多くの門があったそうだが、現存するのはこの門だけだそうだ。

村の入り口とモンフー門
ユネスコのアジア太平洋遺産のパネル。日本人の名前も多く記載がある
クルマで村の入り口へ向かうと共産党のプロパガンダ看板
モンフー門の脇には近代感のある遊歩道が整備されている

 民家の作りも独特。先ほど、“民家の周囲をこのレンガを使って覆う古い建物”と表現したが、これがまさに民家の作り。民家の周囲がレンガの塀に囲まれており、狭い入り口から中に入ると広々とした敷地が広がっている構造こそが、その村の伝統的な家なのだ。

 家屋は、中央に祭壇、左右に2間ずつの計5間を設けたものが典型的な作り。中央が主人、左右が子供や孫などの部屋として使われる。もちろん家族が増えると手狭になることもあったそうだ。そして、各家には井戸が掘られているのも特徴となっている。

公開されている民家の入り口。こうした狭い入り口が1つだけあるのが、ドゥオンラム村の民家の典型
この中央の祭壇を中心に、5つの部屋が横に並ぶのが家屋の典型的な作り
各家庭に井戸がある
入り口から家の敷地へ向かう通路が美しかった

 このドゥオンラム村では「ミア」という言葉をよく見聞きする。例えば、「ミア寺」や「ミア・マーケット」、そして「ミア」を祭った神社もある。ミアはサトウキビを意味し、古くはドゥオンラム村のことを「ミア村」と呼ばれるなど、その栽培で知られた村だという。

 ちなみに神社に祭られている「ミア」はサトウキビではなく、王妃の名前。16世紀から18世紀にベトナムを統治した旧王朝の妃として嫁いだ女性が「ミアさま」の名で伝わっており、「ミア寺」はそのミアさまが創建したもので、「ミア・マーケット」はミア寺の前に広がるマーケットということで、どちらかというと、現代の建物などに残る「ミア」の名は、この女性にちなんでいると考えた方がよいみたいだ。

ミアを祭る神社
ミア・マーケット周辺。地元の人たちの生活を垣間見られる
「ミア寺」の入り口。1642年にミアさまが創建したというお寺
ミア寺の門をくぐると印象的な塔
少し進むとさらに門があり「崇厳寺」と書かれている
ミア寺は大きな伽藍を抜けた先に、回廊状の別の伽藍がある。奥の伽藍は一段低くなっており、こちらに見どころが詰まっている
数々の仏壇や、回廊の両側面に並ぶ僧侶の像が印象に残る
意外なことに教会も。現在は景観を保存するために高い建物の建築が条例で規制されており、この十字架はかなり目立っていた

 この日の昼食は、このドゥオンラム村の「Tiên Thê(ティエン・テー)」でいただいた。ローカル感あふれるレストラン(というよりお食事処と表現した方が適切かも)でふるまわれた数々の手作り料理。「ベトナムの北の方なので中華っぽいのかな?」と勝手な先入観があったのだが、そうした中華っぽい料理もある一方で、なかにはフレンチフライが混ざるという、面白いラインアップ。

 味は見た目を裏切らないもので、「ガーチャン」という川魚の臭いはちょっと気になったが、自家製の味噌や醤油ベースの味付けに、生姜の風味もほどよく効いて、日本人に親しみある味わいだ。特に、蟹味噌の風味が口に広がるスープは絶品だった。

ドゥオンラム村の「Tiên Thê(ティエン・テー)」。味噌造りの竈が並ぶ。ペットボトルに詰められた味噌は日本のそれとは異なり、臭いを嗅いだだけで酔いそうに……
豚肉を豆腐ではさんで揚げたもの
焼き鳥
焼き豚
ガーチャンという川魚の煮物
蟹のスープ
こちらも焼き豚。味噌や生姜などといただく
フレンチフライ
いわゆる空心菜。味付けも中華風

シルクの専業村「ヴァンフック村」で織物作り見学やショッピング

シルク製品を売るお店が並ぶヴァンフック村

 続いては、ヴァンフック村を紹介。ハノイ周辺に多い、特定の産業を営む家庭が集まった集落「専業村」の一つで、ヴァンフック村はシルクの織物作りを専門にしている。英語では「Van Phuc Slik Village」などと表記されるようだが、入り口にある立派な門の裏側に「万福」との漢字表記があり、なんだか縁起がよさそうな村である。

 場所はハノイ中心部からそれほど遠くなく、旧市街からもクルマで1時間足らず。タクシーでも日本円にして2000~3000円程度で行ける距離だ(メーター制のタクシーに乗るのがお勧め)。

ヴァンフック村

ヴァンフック村の入り口にある門。裏側に「万福」の漢字表記
やや寂しい感じもあるヴァンフック村だが、シルクを売るお店は数多く営業している

 そんなヴァンフック村だが、ちょっと寂れてしまっているのも事実で、人通りも少ない。だからこそ日本人にも訪れてほしいというのが現地の願いのようだ。

 この村で訪れたのは「Mao Silk」というお店。シルク製品を扱うだけでなく、昔ながらの工房を見学させてもらうこともできる。特に予約も必要なく、代金もとっていないので、ふらっと立ち寄ってよいそうだ。

 工房の前には、シルクの原料となる繭が並んでおり、絹糸作りから、機織りまで一連の工程がここで行なわれている。現在は絹糸作りも機織りも機械を使ったものが主流だが、観光に訪れた人のために手作業での実演もしてくれる。

 このMao Silkはもちろん販売もしており、ショップには色とりどりのシルク製品が並ぶ。記者は家族へのお土産に100%シルクのストールを購入したのだが、値段は30万ドン(約1500円)。自分では買わなかったがネクタイなども並んでいたので、男性、女性問わず、ショッピングにもお勧めの場所だ。

 ヴァンフック村ではこのほか、シルク製品を売るお店が多数軒を連ねるほか、村でのシルク作りの歴史を紹介する施設、歴史を感じられる豪華な寺院などもある。見て楽しむこともできる観光スポットだ

Mao Silkではシルク製品作りの工房を見学できる
さまざまなシルク製品がなるMao Silkのショップ
工房の入り口には蚕の繭。手で紡ぐ糸作りと、機械での糸作りの両方を見られる
職人が手動の機織り機で反物を作る
こちらは機械織りで、発動機の音と、横糸が行き来する音が工房に響き渡っていた。機械の上に垂れ下がった木の板によって模様を作るそうだ
ヴァンフック村の入り口近くにあるこちらの施設では、シルク作りの道具や歴史などを見ることができる
村内には寺院もいくつかあって散策によい。ショッピングによし、見て楽しむもよしのスポットだ

漆塗りの伝統工芸品作りを体験できる「ハノイア・ハウス」

 次に紹介するのは、ハノイ旧市街地にある「ハノイア・ハウス(Hanoia House)」というお店。17世紀に建てられたドンラック寺院の跡地にあり、旧市街の雑踏のなかに立つ、古めかしい門構えが印象的なお店だ。

 17世紀に寺院があったころは絹の下着を売る場所であったそうだが、伝統技術を継承することを目的に、2000年にフランス企業との合弁で「ハノイア」というブランド立ち上げて、漆の工芸品などを製造、販売する場所となった。

 ドンラック寺院は同店の2階に移設されて現在も祭られており、当時の壁なども一部残されている。

旧市街に立つ「ハノイア・ストア」。周囲とは明らかに違う歴史を感じる門構え
2階に移設されているドンラック寺院
店内は漆塗りの工芸品が販売されている

ハノイア・ストア

 ここでは、そうした伝統工芸品作りを体験できるワークショップが行なわれており、事前予約により観光客も参加することができる。今回は「Sanding - Eggshell」というワークショップを体験。料金は1開催あたりとなり、最大8名で830万4000ドン(約4万1520円)。グループで参加するのがお勧めだ。

 この漆塗りの工芸品は、何層にもわたる下塗りを施したうえで、さらにカラフルな上塗りを施していく工程を踏む(最大では24層にもおよぶとか)。その上塗り工程の装飾の一つとして、卵の殻(Eggshell)を用いたものがあり、「Sanding - Eggshell」はその工程を体験するものとなる。

 参加者には、HOMと呼ばれる防水機能を持つ塗料が塗られた板と、卵の殻、先のとがった金属のナイフ状の道具が渡される。この下塗りの上に卵の殻を乗せ、ナイフ状の道具で細かく割って模様を付けていくものとなる。

 割れた殻が小さく、殻同士に少しだけ隙間がある状態がよいとされるそうで、道具の先で細かく殻を砕きながら作業を進めていく。これはかなりハマる作業で、時間を忘れてついつい熱中してしまう。例えるならば「縁日にある型抜きのような感じ」と思ったのだが、型抜きとは違って殻を砕いたときに生まれる決まりのない形に美を求めるという点で、似ているようでまったく異なるものだと気が付く。

 記者の出来上がりはあまり美しくならなかったのが残念だが、15分ほどの体験時間では物足りなさを感じるほど楽しいワークショップだった。

「Eggshell」のワークショップでは、このような表面デザインを作る工程を体験できる
ワークショップで見本を示す職人さん
HOMと呼ばれる下塗りの上に卵の殻を乗せて、細かく砕いて模様を付けていく
ワークショップではHOMが塗られた板と、卵の殻が盛られた器、ナイフのような道具が渡され、各々職人さんのように作業を体験する

浄瑠璃のような人形劇と融合した水上人形劇

 最後に紹介するのは「水上人形劇」。ベトナム観光の定番のイメージがある水上人形劇だが、ハノイでは旧市街にある「タンロン人形劇場」が圧倒的に有名。しかし、今回訪れたのは、「ナショナル人形劇場(Nhà hát Múa rối Việt Nam)」という、ハノイ中心部からやや離れた場所にある劇場だ。

 ガイドさんによれば、タンロン水上人形劇場は混んでいて予約もなかなかとれないが、こちらは予約なしでも見られて、料金も8万ドン(約400円)と安いのでお勧めとか。しかも、日本でいう人形浄瑠璃のような演出を組み合わせたユニークなものだというから、訪問前からちょっと期待していた。

「ナショナル人形劇場(Nhà hát Múa rối Việt Nam)」の入り口

ナショナル水上人形劇場

 この劇場の脇には博物館のような施設があり、水上人形劇で使う人形や道具などが展示されている。日本の人形とはまったく異なるセンスが根付いており、異文化を気軽に感じられて楽しい。

人形や道具が展示された博物館のような施設が隣接している

 そして人形劇である。観賞したのは「Concurrence Vietnamese puppetry」という、ベトナムの食や芸術などの文化を表現したというもの。イメージしていたとおりの水上人形劇が始まったかと思えば、奥にあるステージ上の人が踊り出したり、その人たちが寝転がって足でパペット人形を踊らせたり、ステージ上で大きな人形が踊り出したりと華やか。

 こうした外国語の劇は、ときに演じられている内容が伝わってこないものもあるのだが、(生身の)人間が表情豊かに躍動することで人形劇の内容が伝わりやすくなっているようにも思え、約50分の劇を楽しんで観賞することができた。ついでにいえば、水上人形劇と、舞台の演劇を組み合わせて見られるというのは、実はお得かもしれない。

 今回はハノイの中心部や、中心部から日帰りできる距離の郊外にある、ベトナム伝統文化を感じられるスポットを紹介した。次回は、ハノイ観光の定番であるハロン湾へと足を延ばしたい。船上で一夜を明かすクルーズ旅を紹介する。

編集部:多和田新也