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羽田空港における「ANA FAST TRAVEL」の完成形。Special Assistanceカウンターオープン
子供連れ・車いす利用者などに配慮した質の高いサービス
(2016/4/22 14:19)
- 2016年4月21日 実施
ANA(全日本空輸)は4月21日、東京国際空港(羽田空港)第2ターミナルにSpecial Assistanceカウンターをオープン。同日運用を開始した。
Special Assistanceカウンターは、子供連れや車いす利用者、介助が必要な人などに配慮した出発手続きカウンター。羽田空港第2ターミナルの出発階である2階に設置され、21日に2カ所目となるSpecial Assistanceカウンターが中央北側にオープンした。
このオープンと同時に、保安検査場の金属検査機をスムーズに通過できる樹脂製車いす「morph(モルフ)」を64台導入したほか、遠隔手話通訳サービスも導入。より多くの人にとって使いやすい空港サービスを実現する「ANA FAST TRAVEL」の羽田空港における改修が完成した。同日、新サービスの説明会がSpecial Assistanceカウンターを中心に行なわれたので、ここにお届けする。
Special Assistanceカウンターの設置は、ANAが2015年6月から取り組んできた新搭乗スタイル「ANA FAST TRAVEL」の羽田空港における完成形となる。ANAはANA FAST TRAVELの第1弾として2015年7月に日本初の自動手荷物預け入れ機「ANA Baggage Drop」を羽田空港に設置。第2弾としては2015年10月には英語、韓国語、中国語(簡体字、繁体字)の4カ国5言語に対応し大画面化(17インチ→19インチ)した新自動チェックイン機を運用開始していた。この自動チェックイン機は、2016年1月にはANAの乗り入れる全国の空港に設置されている。
第3弾として設置されたSpecial Assistanceカウンターは、前述のように2つの入り口があり、1つは子供連れなどに向けたカウンター(以下、9番カウンター)、1つは車いすなどの利用者向けたカウンター(以下、8番カウンター)が用意されている。デモンストレーションは9番カウンターから行なわれた。
子供連れやお年寄りをしっかりサポートする9番カウンター
9番カウンターでは、子供連れやお年寄りをしっかりサポートするためのグランドスタッフが待機するほか、ベビーカーなどの手荷物を預け入れしやすいような構造になっている。実際に航空機を利用する親子3世代の利用客がデモンストレーションを行ない、チェックイン業務が行なわれた。
一連の作業を見ていると、通常の手荷物預け入れと同様の流れだが、このようなサポートをSpecial Assistanceカウンターという特別なカウンターで行なってくれることはうれしいサービス。子供連れやお年寄りだと、どうしても航空機に乗り慣れているビジネスマンのようにせかせか動くことはできないため、後ろにそのような人に並ばれて受け付けはしたくない。年間にそれほど航空機に乗ることもないため、さまざまなことを確認しつつ安全第一で乗りたいものだ。
このSpecial Assistanceカウンターであれば、ゆったりとした時間の流れのなかチェックインや手荷物の預け入れを行なうことができ、しっかりとしたサポートもグランドスタッフから受けられる。実際にチェックインした家族に聞いてみたところ「国際線のようなサービスがうれしいです」とのこと。これまでの国内線の通常チェックインカウンターよりも細やかなサービスを受けられたという。
遠隔手話通訳サービス、樹脂製車いすサポートのある8番Special Assistanceカウンター
次にデモが行なわれたのは、車いすピクトグラムのある8番Special Assistanceカウンター。ここでは車いす利用者、盲導犬・聴導犬・介助犬などを必要とする人、手話でコミュニケーションする必要がある人など向けのカウンターとなっている。
最初にデモが行なわれたのは、カウンターでの遠隔手話通訳サービス。遠隔手話通訳サービスは、仙台に拠点を置く福祉ソリューション事業企業プラスヴォイスの協力により実現したもので、日本の空港カウンターでの遠隔手話通訳サービスは初めてになる。「カウンターでの……」と断わったのは、ANAはWebなどでは2010年2月からSkypeなどによる遠隔手話サービスを行なっており、空港で展開するのが初めてとなるからだ。
ANA 空港センター 空港業務推進部 サービス開発チーム リーダー 島田氏によると、このようなサービスを空港カウンターにも展開したのは、耳や言葉の不自由なお客さまへ対して質の高いサービスを提供するためだという。これまでは、筆談ボードなどを使ってコミュニケーションを行なっていたが、この筆談ボードだと複雑なやりとりの時は時間などがかかり、それが利用客への負担となっていたという。それがタブレット端末を使った遠隔手話通訳サービスであれば、スムーズにコミュケーションすることができ、利用客が座席の希望やサービスリクエストなどをANAに伝えやすくなる。「カウンターを訪れるお客さまのご負担を減らし、よりきめ細やかなサービスを提供したい」との思いから、導入にいたった。
実際のサービスの流れは下記の映像を見ていただきたいが、通常のコミュニケーションと変わらず、利用客のリクエストに応えられている。そのコミュニケーション時間も健常者と同様だ。ちなみにデモンストレーションで利用客となっているのは実際に障がいを抱える人で、手話でスムーズにコミュケーションできているのが分かる。
保安検査場を通過できる樹脂製車いす「morph(モルフ)」
Special Assistanceカウンターは保安検査場Bの横に設置されているが、これには理由がある。8番カウンターは、内部で保安検査場Bと直結しており、カウンターでチェックインを済ませた利用客はそのまま保安検査場B(B11ゲート)に入っていくことができる。
ANAは、今回の「ANA FAST TRAVEL」の一環として車いす製造メーカー松永製作所と共同開発した樹脂製車いす「morph(モルフ)」を64台導入。車いす利用者が8番カウンターでチェックイン手続きをすると同時に、自分の愛用の車いすを預け入れすることができ、このモルフに乗り換えればスムーズに保安検査場を通過できるというスタイルを作り上げた。
これまでの金属が使われた車いすでは、保安検査場の金属検査機ゲートをくぐる際に必ず探知機が反応し、利用者は保安検査員にボディチェックを受けるとともに、車いす各部をチェックされていた。車いす利用者は何も金属を身に着けていないにもかかわらず、体のあちこちを確認され、必ず数分のロスが発生していたことになる。
ところが、樹脂製車いすモルフを利用すると、保安検査場の金属検査機ゲートをスムーズに通過。何のストレスもなく航空機の搭乗口にたどり着くことができ、主車輪を外すと幅が狭くなるためそのまま機内に車いすで入ることができる。文字どおりチェックインカウンターからFAST TRAVELを実現できるわけだ。
このモルフの使用感を聞いたところ、スムーズに通過できるのでこれまでよりも航空機を利用するだろうとのこと。車いす利用者は空港での手続きが健常者に比べて多くなるため、空港には航空機出発の2時間以上前に到着するように心がけているという。8番Special Assistanceカウンターと樹脂製車いすモルフを利用すれば、必要な手続きがスムーズに行なえ、「これまで以上に飛行機を利用するし、これまで新幹線を選んでいた場所も飛行機にするかも」と、好印象であることを語ってくれた。
「ANA FAST TRAVEL」とは
これら一連のデモンストレーションの前に、ANA 上席執行役員 東京空港支店長 峯尾隆史氏より「ANA FAST TRAVEL」に関する説明が、同CS&プロダクト・サービス室商品戦略部 開発チーム リーダー 横幕崇氏より補足説明があった。
東京空港支店長 峯尾隆史氏
昨年6月に「ANA FAST TRAVEL」として、空港の手続きにおける“簡単・便利、ストレスフリーでお客さまの導線が分かりやすい空港”を目指そうという提案をさせていただきました。その第1弾として昨年の7月に日本初の自動手荷物預け機 「ANA Baggage Drop サービス」をすでに(羽田空港に)39台導入をさせていただいています。この導入よって、通常期は“ほぼ待ち時間ゼロ”になりました。そして多客期においても、なんとか5分程度の待ち時間に短縮できるようにハンドリングしています。第2弾として昨年の10月から導入したのが、4カ国語表示もできる新自動チェックイン機。今年の1月には(ANAの乗り入れる)全国の空港で新自動チェックイン機が導入されました。これは非常に大きな画面(19インチ)で、分かりやすく、お客さまからもご好評をいただいています。第3弾として導入するのが「Special Assistanceカウンター」で、このSpecial Assistanceカウンターの導入により、ANA FAST TRAVELにおける羽田空港のすべてのリニューアルが完成しました。
リニューアルの特徴は機能ごとにエリアを集中したレイアウトにすることによってお客さまから分かりやすいという導線を目指しています。ピクトグラムを使っておりますので、いろいろな国籍の方でも目で見ることで分かりやく案内できることも目指しています。(新たにオープンしたSpecial Assistanceカウンターは)車いすをご利用のお客さま、ベビーカーをご利用のお客さま、お手伝いが必要なお客さまが、(羽田空港で)一番便利にスムーズに行ける配置にさせていただきました。これに加え、遠隔による手話サービスがカウンターでできるようになり、樹脂製の車いすも導入しました。
これで羽田空港におけるANA FAST TRAVELの取り組みは全部終了いたしますが、これに満足することなく今後ともお客さまの声に真摯に耳を傾け、ご利用いただけるすべてのお客さまに便利にご利用いただける空港を目指していきたいと思っています。
CS&プロダクト・サービス室商品戦略部 開発チーム リーダー 横幕崇氏
すべてのお客さまにとって目的とする場所が一目で分かる、すべてのお客さまに優しい、そういったところを目指しました。“すべてのお客さま”を大切なコンセプトとして、今回新しい空港カウンターをデザインしました。空港におきましては、まだまだ飛行機に乗り慣れないお客さまがたくさんいらっしゃいます。(インバウンドの拡大により)日本語が分からない、日本語が読めない、そのようなお客さまがこれからますます増えてくると思います。また、こちらのSpecial Assistanceカウンターに代表されるようにお手伝いが必要なお客さまも(空港には)たくさんいらっしゃっています。
一方で技術が発達している今日において、ご自宅で飛行機に乗るための手続きを終えられて、飛行機に乗るための空港を立ち止まるところではなくて通過するところというふうに捉え、ストレスを極力感じたくない、移動して通過したいというお客さまもますます増えきていると考えています。
自動化も技術の進展で進んでまいりました。係員による手続きではなく、(お客さま)ご自身のペースで、好きなときに好きな時間をかけて手続きをする、こういったニーズもますます増えてきていると考えています。
本当にさまざまなお客さまが(空港には)いらっしゃいます。さまざまなお客さまのニーズにお応えしていくこと、これがANAとして今後もチャレンジしていかなければならない。飛行機に乗ることが楽しい、わくわくするとぜひ思っていただきたい。そういったことを、全グループ社員知恵を出し合いながら今回羽田空港のリニューアルに取り組みました。
2020年にはオリンピック・パラリンピックがあり、ますますさまざまなお客さまが飛行機をご利用になる、そういうことを想定しております。訪日外国人のお客さまが非常に増えてくると予想しております。すべてのお客さまにとって分かりやすい空港作りをしていくこと、これは永遠のチャレンジだと思います。ここに果敢にチャレンジしていくことをANAグループ社員一同取り組んでまいりたいと考えております。
羽田空港というのは大きな空港であることと同時に横に長い空港であります。デザインについてはさまざまな工夫をさせていただきました。まず、今まで細切れで、もしかしたら分かりにくかった手続きカウンターを、ゾーンで区分する、これにチャレンジをしております。さらに、壁まで色を塗って、壁面全体を使ってお客さまに分かりやすい案内をしたい、これにチャレンジをしております。
ピクトグラム、絵文字といったほうが分かりやすいかもしれませんが、従来のものよりも4倍以上大きなものにしています。現行の羽田空港では最大限できるまで大きくしました。さらに、(羽田空港は)横長の施設になっていますので、横方向からの視認性も高めたい、そう思いまして突き出しの看板も最大限大きなものを用意させていただきました。
加えて、一番いい場所(第2ターミナルで一番アクセスしやすい場所)にSpecial Assistanceカウンターを設置しています。これによってベビーカーをお預けになるお客さま、車いすをご利用になるお客さまが最短距離でスムーズにご自身のベビーカーや車いすをお預けいただくことが可能になっています。航空機旅行を不安に思っているお客さまもいらっしゃると思います。そういったお客さまのプライバシーに配慮しながら、(Special Assistanceカウンターは)室内型の空間で事前にすべての不安を取り除いていただけるようなお手続きのできる場所として設置させていただきました。
ANAグループは、出発前の空港から、機内、そして到着後の空港までの一連の流れ、一連の空間であったりサービスをいかにスムーズにしていけるか。それによってお客さまの体験価値、カスタマーエクスペリエンスということで社内には合い言葉にしていますが、それを高めていくことによって、飛行機での利用が本当に楽しい、便利。次も移動するときには飛行機を利用したい。訪日外国人のお客さまにより多くの地方に飛んでいっていただいて、飛行機のネットワークを通じてさまざまなお客さまに飛行機の移動を楽しんでいただけるようANAグループとしては引き続きチャレンジしていきたいと思います。
全面リニューアルされた羽田空港のANAカウンター
Special Assistanceカウンター以外の箇所も、島田氏から説明が行なわれた。とくに留意したのは、一目で見て分かりやすいことだという。大きなピクトグラムを使い、壁面まで使ったデザインとするところで各ゾーンがはっきり分かるようになっている。
新チェックイン機の詳細な解説は関連記事「ANA、新自動チェックイン機を松山空港で運用開始」で、ANA Baggage Dropの詳細な解説は関連記事「ANA、日本初の自動手荷物預け入れ機『ANA Baggage Drop』を羽田空港国内線に7月1日導入」で記しているので、そちらを参照していただきたい。
ANA FAST TRAVELの完成形と言われる羽田空港第2ターミナル出発階を見渡すと、妙にすっきりした印象を受けるはずだ。このすっきりというのが、分かりやすさにつながっているのだろう。完成形が日常になると、ANAが何を成し遂げたのか分からない部分もあるが、記事執筆時点(4月12日)では、Googleストリートビューに従来の第2ターミナル出発階が公開されている(旧25番カウンター)。ANAが何を目指して、何を成し遂げたのか、実際に現場で比較して「ANA FAST TRAVEL」を実感してみるのも楽しいだろう。