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ANA、人と人との助け合いで“優しい空港”の実現目指す「&HAND」実証実験。サービスの“すき間”をボランティアがカバー

空港会社や鉄道事業者とも連携した「オール羽田」での対応に期待

2019年9月5日~6日 実証実験

ANAはPLAYERSが開発した「&HAND」を使って空港到着時の困りごとに対応する実証実験を羽田空港で実施

 ANA(全日本空輸)は9月5日、空港到着時に困っている人と、それをサポートできる人とをLINEを活用してマッチングする実証実験を羽田空港の国内線第2旅客ターミナルで開始した。9月5日と6日の2日間にわたって行なわれる。

 本実証実験では、PLAYERSが提供するチャットボット「&HAND」を活用。&HANDは身体的な不安や困難を抱えた人と、それを手助けしたい人をつなぎ、両者による具体的なアクションを促すことを目的としたもの。これまでにも鉄道事業者やイベント会場などで実証実験が行なわれているが、空港での実施は初めてのこと。

全日本空輸株式会社 CEマネジメント室 CS推進部 担当部長 小島永士氏
一般社団法人PLAYERS 池之上智子氏

 ANAでは「ユニバーサルなサービス」として、ここでは空港や機内のバリアフリー対応といったハード戦略のほか、スタッフの教育や人的な対応など“ハート”戦略の2本を軸に、身体障害者など「お手伝いが必要な方」に対してのサービス拡充を進めている。一方で、「旅の始まりから終わりまで、とりわけ障害者にしっかり対応しようとしているなか、社会の高齢化などを見据えると、そのような方にも対応しなければならない」(ANA CEマネジメント室 CS推進部 担当部長 小島永士氏)として、新たな対象に対するサポートとして「&HAND」の実証実験を実施する。

 小島氏は、「到着シーン(の対応が)が手薄なのではないかと思っている」と話し、国土交通省の資料から引用した「空港におけるお困りごと問い合わせランキング」の1位が「到着後の二次交通(地上交通)に関する問い合わせ」であったことや、ANAスタッフ間の引き継ぎ記録のなかで高齢者や若年層を中心とした「タビフナレ(旅不慣れ)」な人からの手伝いの要望が多いこと。また、ANAとPLAYERSが羽田空港で行動調査を行なった結果、「到着後に行き先が分からずにずっと掲示板を見ている高齢者」「警備員に二次交通の質問をする」「ベビーカーを押したお母さんが重い荷物を背負って右往左往している」といった姿を多く見かけたことなどを紹介。

 空港においては、航空会社は飛行機が到着して手荷物受け取り所を出るところまで、地上交通の事業者はバス停留所の前や駅改札を抜けたところから、それぞれ“利用者”に対するサービスを実施しているが、到着ロビーは言ってみればサービスすべき事業者がはっきりしないすき間のエリアとなっている。

 ちなみに、ANAでは視覚障がい者や車椅子利用者などには駅の改札やバス乗り場まで介助しているが、必ずしもサポートが必要ではないが自力の解決が難しい困りごとを持った人というのは、いわばサービス対象のすき間の存在でもある。

ANAのユニバーサルなサービス。「ハート戦略」として教育訓練なども実施している
羽田空港の到着ロビーで「&HAND」実証実験を行なうに至った理由など
羽田空港における「&HAND」実証実験の内容
「&HAND」実証実験の情報伝達イメージ
「&HAND」実証実験の検証内容
「&HAND」実用化に向けて

 そこで、空港が非日常空間である「タビフナレ」な人を主な対象に、羽田空港が日常の場である空港勤務者がボランティアとなって手助けすることの有効性や、空港における利用者の困りごとの把握を目的に行なうのが今回の実証実験となる。

 実証実験ではANAグループからボランティア30名がサポーターとして参加。ANAグループでボランティアを募集したところ、普段は旅客に接することのない人や、空港勤務者以外からの応募もあったという。

 通常の&HANDでは「&HANDデバイス」と呼ばれる小型端末やスマホアプリを利用してサポートを求めるが、空港での実証実験にあたっては利用者が不特定多数となることから、&HANDデバイスの仕組みを活用したキオスク端末風の専用端末を用意。これを第2ターミナル北側の出口2の前に設置した。併せて、北側の手荷物受取場のターンテーブル内で、このような端末を設置していることを告知している。

手荷物受取場のターンテーブル内で「&HAND」に関して、端末の存在や内容について告知

 この専用端末には、ディスプレイに「電車・バスの乗り換えを教えてほしい」「荷物運びを手伝ってほしい」「困っているのでサポートしてほしい」という3種類の困りごとが表示されており、それぞれにボタンが用意されている。このボタンが押されると、サポーターとして登録しているボランティアが持っているスマホに、LINEのチャットボットを利用してメッセージが届く仕組みとなっている。

 メッセージを受け取ったボランティアスタッフは、自分が行けるなら「すぐに向かいます」をタップして現場へ。この際に、ほかのスタッフのスマホにも誰かが向かっていることが分かる仕組みとなっている。さらに、ほかのスタッフにサポートを依頼することも可能だが、例えば「荷物が大きいので男性の手が必要」などの細かいリクエストを伝えられるようなメッセージはチャットボットでは行なえないため、ボランティアチームでLINEグループを作ってメッセージのやり取りをしているという。こうしたことも課題として今後、アプリの機能強化などが検討される見込みだ。

空港での実証実験にあたって開発された「&HAND」の専用端末
ボランティアが持つスマホの画面
ボタンが押されると依頼内容がメッセージで届く
誰かが「すぐに向かいます」を押すと、誰かが向かっていることが分かるよう全員にメッセージが届く
「すぐに向かいます」を押したボランティアのスマホ画面
ほかのボランティアのスマホ画面
困ったことがあってボタンを押すと、ボランティアが駆けつけてサポート

 空港での&HAND活用についてPLAYERSの池之上智子氏は、「鉄道で席を譲ることなどは日常的に行なえるが、空港は非日常の空間なので、私がサポーターになっても役に立てない。どのようにサポートするのが一番よいのか実証実験を通じて見たい」とこの環境の特殊性について語ったほか、初導入の専用端末について前週に実施したというプレ実験で「自分の問いが人を呼ぶほどのことではないといった感じで、ボタンを押して人を呼ぶことのハードルが高いようだった」といった課題が見えたという。

 ボタンは、例えば緊急性を感じさせるような赤色のボタンは避けるなど、押すことのハードルを下げるようなデザインを意識したものとなっているが、プレ実験の実施が夏休み最終週だったことに加え、「太鼓の達人のボタンに似ている」(小島氏)ために、子供にいたずらで多く押されてしまったといい、この対策は検討するとした。

 実証実験を通じて有効性が確認された場合には実用化を目指すことになるが、小島氏は「ANAが主導すると(羽田空港であれば)第2ターミナルでしかできないことになる。第1ターミナルや国際線ターミナルも含めて助け合いがつながればと思うので、(主導するのに)ふさわしい幹事会社のような存在を見つけたい」とコメント。MaaS(Mobility as a Service)との連携や、空港会社や鉄道事業者、テナント関係者など、空港が日常の場である人の多くがボランティアとなって「オール羽田」でサポートを行なえる体制の確立に期待を寄せた。