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発達障がいを持つ子供たちがJリーグ「川崎フロンターレ 対 大分トリニータ」を試合観戦・サッカー教室に参加。ANAも移動などサポート

2019年7月27日~28日 実施

発達障がいを持つ子供たちが「川崎フロンターレ 対 大分トリニータ」の試合を観戦。開始前にはハイタッチで選手を送り出す(写真提供:Jリーグ)

 ANA(全日本空輸)、JTB、富士通、川崎市は7月27日と28日、川崎市と大分市に在住する発達障がいのある子供たちを対象に「川崎フロンターレ対大分トリニータ戦」のサッカー観戦交流イベントを開催した。

 3社は2017年12月に川崎市で開催された発達障がいをテーマとした「心のバリアフリー・シンポジウム」に参加しており、政府が進める「ユニバーサルデザイン 2020 行動計画」で掲げられている「心のバリアフリー」を推進するため、今回はJリーグ(日本プロサッカーリーグ)、川崎フロンターレの協力を得て、具体的な取り組みとして企画された。

 イベントツアーは2日間の日程で、子供たちは初日は川崎フロンターレのホームスタジアムである等々力陸上競技場(神奈川県川崎市)での試合観戦と交流、2日目は川崎フロンターレの麻生グラウンドにおいてサッカー教室を体験した。

大分市からのツアー参加者を乗せたANA796便
4者の役割

JTB: イベント実施前および当日の「心のバリアフリー」研修の実施
ANA: 発達障がいに関する教育を事前に受けたスタッフが空港や機内で移動のサポート
富士通: 達障がいのある子供たちの気持ちを表わす「きもち日記」の提供、発達障がいに対する理解を深めるVR映像コンテンツの制作、提供と「心のバリアフリー」研修の支援
川崎市: 観戦ツアーの企画、ツアー参加者の移動のための福祉バスを用意、センサリールームの設置

 発達障がいを持つ子供たちは感覚過敏であることも多く、人混みや喧騒などが苦手であり、外出などを控えるケースが多いという。今回のツアーでは、その障壁となる移動とスタジアムの観戦時のサポートをANAのボランティアが行なった。

 とくに遠隔地の旅行に欠かせない飛行機による移動は、人が多い空港での過ごし方、搭乗前の保安検査、機内においてのルール、突発な揺れに対する対処、到着してから別交通機関への乗り換えなどハードルが高い。今回は事前に研修を受けたボランティアスタッフが搭乗後の機内にも同行し、子供たちや家族をサポートした。

 大分空港から羽田空港まではANA796便を使い移動したが、27日は台風6号が紀伊半島から東海地方にかけて接近するというあいにくの空模様。飛行機の揺れによる影響が心配されたが、同行したスタッフによるケアと搭乗前に操縦するパイロットに会えたのが大きな安心につながったようで、元気な姿で到着ゲートに現われた。

 その後の貸切バスまでの移動では、「あと200m先の横断歩道を渡ります」といったように、これからすることを伝えて誘導する姿が見られた。突発的な出来事が苦手な子が多いそうで、前もってこれから行なうこと、起きることなどを説明しておくと不安が軽減されるので、ていねいな説明が重要なポイントであるとのことだ。

ツアーに参加する子供たちも若干緊張した表情だが無事に到着
68番ゲートでスタッフがお出迎え
搭乗した便の運航スタッフではないが、機長や地上職員などの制服を着用したスタッフも同行
川崎市が用意した福祉バスで等々力陸上競技場まで移動する
大勢のスタッフが手を振りながらお見送り

 試合会場である等々力陸上競技場では、試合を観戦してもらうためにスタンドの一部を「センサリールーム」として川崎市が用意。このセンサリールームは大音量が苦手な子供でも観戦できるようにガラス張りの部屋になっており、スヌーズレン機器(コス・インターナショナル)を設置したカーミングエリアも併設されている。スヌーズレン機器とは、乳幼児から備えている「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚」を適切に刺激することで緊張状態を解消するもので、試合や会場の雰囲気に動揺してしまった子供を落ち着かせるのに役立つという。プレミアリーグの強豪サッカーチームであるアーセナルFCがホームスタジアムにセンサリールームを設置したところ、発達障がいを持つ子供や親から大変な好評をいただいているとのことで、そちらを参考に川崎市も一時設置を決めた。

 このほか、スタジアムには「ANAアバター」も3台ほど設置されており、大分市の学校と回線を結ぶことで今回参加しなかった子供たちにもライブ感を楽しんでもらう取り組みも行なわれた。事前に子供たちへの接し方がレクチャーされていたこともあり、試合開始前や合間にもトラブルなく、選手やサポーターと子供たちは交流を深めていた。

6階のスタンドに設けられたセンサリールーム。隣の屋外シートでも観戦できるようにしてあった
スタジアムを一望できる上に空調がきいていて音も静か
センサリールームの一角に設けられたカーミングエリア
スヌーズレン機器が設置されている
触覚を刺激するスヌーズレン機器
子供たちと交流を深めるスタッフやサポーター
サポーターが朝8時に集まって製作した歓迎の横断幕
こちらは川崎フロンターレのサポーターが製作した横断幕
この日は発達障がいを持つ子供にも分かりやすいようにひらがなで選手を紹介
ANAアバターで大分市の学校にいる子供たちと交流しているシーン
この日のためだけにショップも特設
大歓声が苦手でない子供たちは屋外シートで観戦(写真提供:Jリーグ)

 ツアー2日目は川崎フロンターレの麻生グラウンドでサッカー教室が開催された。事前に旅のしおりで紹介されていたこともあって指導してくれるコーチともスムーズに対面が進み、簡単な運動からボールを使ったドリブルやシュートまでを教わっていた。

 練習中はANAのボランティアスタッフも近くに立ち、温かい声援を送って子供たちと交流を深めていた。最初は緊張した面持ちをしていた子供も笑顔で応えていた。

 練習後はミニゲームを楽しみ、最後は川崎フロンターレの選手も登場。もちろん、子供たちからは歓声が沸き起こり、記念撮影やサインをもらうなど、普段できない交流に満足している姿が見られた。

サッカー体験教室はフロンターレ川崎の麻生グラウンドにある人工芝グラウンドで行なわれた
人見知りが激しい子供たちにとってはコーチとの顔合わせも重要なポイント
体を動かすウォーミングアップから始まり、ボールを使ったドリブルやシュート練習までを体験
体を動かすウォーミングアップから始まり、ボールを使ったドリブルやシュート練習までを体験
ボールにも慣れ、ミニゲームではいきいきと走り回る子供たち
中にはコーチを出し抜く上手な子の姿もちらほらと
子供たちと積極的にコミュニケーションをとるANAのスタッフ
ANAからは両日合わせて約50人がボランティアスタッフとして参加。募集時はそれよりも多い70人が応募したそうだが、子供たちへの配慮で人数も抑えたとのこと。社内においてもユニバーサルデザインに対する理解が年々深まっていることが見受けられる

 今回のツアーを企画した「えがお共創プロジェクト」の主要メンバーであり、元・日本発達障がいネットワーク事務局長である橋口亜希子氏に話を聞いた。自身も発達障がいを持つ子供の母親であることから各地で啓蒙活動を行なっているそうで、行く先々で親から聞くのは「旅行に行きたくてもいけない」という言葉だった。自身の経験からも公共の乗り物で移動するのは本人にも家族にも多大な負担をかけるのがネックだったと語る。「今回はANAさんの多大なる支援のおかげで飛行機を使った移動も無事にクリアできました。参加してくれた親御さんからは『今まで見たことがない表情で楽しんでくれた』という声が聞けてうれしい思いで一杯です。この成功体験を苦しんでいる人たちにもっと共有していければと考えています」と話してくれた。

大分市から訪れた子供たちは専用のチェックインカウンターで搭乗手続きを行ない、ANA 797便で羽田をあとにした