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全面改装の「界 箱根」を見てきた。露天風呂付きスイートを新設、世界でここだけの寄木細工ずく引き体験

2025年8月13日 開業
8月13日にリニューアルオープンする「界 箱根」を見てきた

 星野リゾートは、8月13日にリニューアルオープンする温泉旅館「界 箱根」(神奈川県足柄下郡箱根町湯本茶屋230)の内覧会を実施した。

 2012年に旧「桜庵(おうあん)」をリノベーションして開業した界 箱根は、2024年9月1日から改装のために休館しており、約1年を経ていよいよ営業を再開する。もともと桜庵は1980年代に建てられた施設のため、これまでも新旧混ざり合うような構造になっていたそうだが、この改装で全客室の刷新、スイートルームの新設、新しい伝統工芸体験の開発、オープンエアの茶屋の新設、食事会場の全面刷新など、ほぼ施設全域におよぶ大規模なリニューアルを行なっている。

 新しい界 箱根は、かつて日本橋から京都までを徒歩で旅した東海道の旅人をテーマに掲げ、宿場で荷をほどいた旅道具を想起させるようなデザイン・アートワークを随所に取り入れている。例えば、客室には三度笠や引き廻し合羽をイメージしたアートを壁面に設えたほか、わらじや提灯などをデザインしたベッドスローを採用するなど、全室を地域の文化に触れるご当地部屋「箱根ごこちの間」と位置付けている。客室数はスイート含む34室。

リニューアルでは本館にスイートルーム2室を新設
旅道具をイメージさせるアートワークを壁面に設えた
ベッドスローも提灯やわらじなどの旅道具をデザイン
客室には身近な実用品としての寄木細工がさりげなく置いてある

湯坂山と須雲川が目の前の全室リバービュー。限定2室のスイートを新設

 すべての客室は眼前に湯坂山の景観、見下ろせば須雲川の清流を臨む“リバービュー”で、春から夏にかけては木々の鮮やかな緑、秋には一面が赤く染まる紅葉、冬には雪化粧という具合に、四季の変化を大開口の窓のすぐ外で感じられるほか、その大きな窓をすべて戸袋に収納してしまえば、一切遮られることなく川の流れが耳に飛び込んでくる。

 客室における最大のトピックは、限定2室のスイートルーム「箱根ごこちスイート」を新たに設けたこと。界 箱根はロビー・ライブラリ、食事会場などのある本館と、全室リバービューの客室棟の2つに分かれているが、スイートルームは本館最上階に位置する。

 客室面積はともに110m2超で、大人4人でゆとりをもって過ごせるリビングに、独立した2つのベッドルーム、リビングと同じ景観が広がる露天風呂、坪庭付きの湯上がり空間、ちょっとした客室並みの広さを持つウォークインクローゼットという具合に、まったく窮屈さを感じさせない贅沢な間取りになっている。食事会場へ直行できるエレベーターがあるのも快適さのポイントと言えそうだ。なお、すでに年内の予約はかなり埋まっているとのこと。

ご当地部屋「箱根ごこちの間」
リビングの窓を開け放てば、湯坂山を目の前に臨む開放感と箱根の自然を肌で感じられる
リビングは和モダンな設え
ベランダまで近寄れば眼下には須雲川を眺められる
書き物などに適したデスクスペースも用意している
寝室。基本は和室だが、6室の和洋室、2室の露天付き洋室も存在する
天井の矢羽根をモチーフにした照明は旧「桜庵」のときのもの。よいものはそのまま残す、がリニューアル方針の1つ
入口側から見た様子。廊下の途中に寝室、最奥にリビングがある
客室棟の通路
限定2室のスイートルーム「箱根ごこちスイート」
一般客室よりさらに大きいスイートルームの壁一面の開口部は、ベランダを設けないことで視線を遮るものがなく、景色に圧倒される
旅道具に着想を得たアートワークはスイートルームにも
着席スペースが多いのもスイートの特徴。窓際なら目に映るすべてが湯坂山の木々に
デスクスペースはリビングから一段高くなっているため、ソファエリアとの適度な距離感を生んでいる
リビングは実際には8人くらい座れそうなゆとりがある
テレビは引き戸に隠れて存在感を抑えている
ベッドルームは独立した2室を備える
スイートは客室内に開放感ある露天風呂を設置
その隣に浴槽と衝立で隔てられた坪庭がある
坪庭を眺めながらくつろげる湯上がり空間
露天風呂の動線は坪庭側とその逆側にもあり、こちらは洗面やシャワールームもゆとりある広さで設けている
大型のスーツケースを数台持ち込んでも余裕のウォークインクローゼット
浴衣はここに
浴衣は上下分離タイプなので、着慣れない人も安心

肌を滑らかに整える大開口の半露天風呂

 界 箱根の象徴的な存在といえば、巨大な開口を借景に四季の豊かな彩りを楽しめる半露天風呂の大浴場で、リニューアル後も健在だ。

 奥湯本に位置する界 箱根の泉質は「ナトリウム-塩化物泉」で、体の芯までしっかり温めたうえで塩分によって肌を滑らかに整える効果があるという。界ブランドとしては同じく箱根の「界 仙石原」(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原817-359)の泉質が「酸性-カルシウム-硫酸塩-塩化物温泉」ということもあり、やや刺激のある千石原に泊まったあとで界 箱根に連泊すれば、より肌を落ち着かせることができるとのこと。近傍で同一ブランドの湯めぐりを楽しめるのも箱根ならではと言えそうだ。

借景が印象的な半露天風呂大浴場
大浴場へのアプローチには、参勤交代をユニークに解釈したアートワーク
大浴場の入口前には、湯上がりのひとときを楽しむためのドリンクとアイスキャンディを用意している
着席スペースも
このとき用意していたのはレモン水と麦茶
アイスキャンディは4種類あった
おそらくどの季節に来ても絵になる半露天風呂。紅葉や積雪後の景色も見てみたい
浴槽ぎりぎりの縁から外を眺める利用者が多いそう
洗い場
サウナと水風呂もある

世界でここだけ? 寄木細工を薄く削り出す「ずく引き体験」

 星野リゾートの界ブランドでは、各施設でそれぞれ異なる地域の伝統文化に触れる「ご当地楽(ごとうちがく)」という体験プログラムを用意している。界 箱根では、地元を象徴する工芸品である箱根寄木細工の「ずく引き」を体験でき、あらかじめ組み上がった寄木に金属の鉋(カンナ)を当てることで0.2mm程度に薄く削り出して、職人による伝統工芸技術に直接触れられるというもの。

 この体験プログラムと寄木細工、そしてその場で購入できる工芸品を提供しているのは小田原に本拠を置く「露木木工所」で、界 箱根との連携は2012年の開業当時から続いており、寄木細工による館内装飾や料理の器などはすべて同社が手掛けている。リニューアル前のご当地楽は紙芝居で寄木細工の歴史などを説明するものだったが、10年以上にわたるコラボレーションを経て、以前から目論んでいたというずく引き体験をついに実現させた。

新たに設けた「ご当地楽ルーム」。壁の装飾は寄木細工の端材でできている
削り出す前の種木、金属の鉋などずく引き体験がうまくパッケージ化されている
星野リゾート担当者による実演
さすがに手慣れた出来栄え
記者も試してみたが、後半でうまく刃が進まなかった

 露木木工所 4代目の露木清高氏が「最初はできるわけないと思っていた」というずく引き体験は、確かに“鉋で木を薄く削り出す”という点だけを聞けば、素人がいきなりマネできるものとは到底思えない。これを、刃出しの具合を繊細に調整する職人向けの鉋ではなく、調整不要の金属鉋にすることで大きく敷居を下げるなど、体験プログラムの成立に向けてアイディアの交換を重ねてきたという。

 露木氏は、「寄木細工をここまで掘り下げた体験施設はほかにない」と太鼓判を押す。「寄木細工というと秘密箱のイメージが強いかもしれませんが、本当はもっと実用的で、幅が広いということを知ってほしいんです。このプログラムを通じた体験でもいいし、生活の新しい道具として取り入れてもいいし、それを認識してお客さまにいいと思ってもらえたら、伝統はつながっていく」と述べて、このずく引き体験で寄木細工の認識に新たな側面が生まれることへの期待を表現していた。

 界 箱根のご当地楽「寄木細工のずく引き体験」は、職人の工房をイメージした専用の空間「ご当地楽ルーム」で行なう。プログラムは1日6回(15時30分、16時30分、17時30分、18時30分、翌9時30分、10時30分)、各回40分程度で通年実施する。

4代目の露木清高氏にずく引きを実演していただいた
ご当地楽ルームの半分は販売スペースになっている
食器や小物入れ、フォトフレームのほか、めずらしいところではリバーシ(オセロ)もあった
よく見るとご当地楽ルームの照明にもずく引きが使われている

お茶と団子を振る舞う「さわ茶屋」、箱根の歴史に着想を得た「日本旅会席」

 かつて箱根路に数多くあったという旅人の休憩所でもある茶屋。今回のリニューアルでは、以前は宿泊客がくつろぐ中庭として機能していたところに、客室棟に連なるように新たに「さわ茶屋」を設けている。チェックインの15時~17時はお茶と団子、19時~22時はハーブティや焼酎などお酒の提供も行なうという(追加料金なし)。

誰もが思い描くような装いの茶屋が中庭に
高低差のある着席スペースを複数用意しており、思い思いの場所で過ごすことができる
さわ茶屋の横では、界の湯守りによる入浴法の紹介などを行なう「温泉いろは」のプログラムを実施
毎日16時15分になると拍子木を鳴らして呼び込みを行なう
御朱印帳ならぬ「お湯印帳」を配布。界の各施設を巡ってお湯印を集めることもできる

 食事会場は本館1階に新設。すべて半個室になっており、一部スタッフが調理を行なうシーンのために空間にゆとりを設けている。早くから西洋料理が持ち込まれていたという箱根の歴史に着想を得て、厚切りの牛肉を甘めの味噌ベースで仕立てた「明治の牛鍋会席」などを提供する。

朝食例
夕食例
飛脚の担いだ箱を思わせる木箱で提供
厚切りの牛肉を味噌ベースでいただく牛鍋会席
すべて半個室の食事会場。部屋食は行なえない
ロビー・エントランス
界 箱根 総支配人 金子和貴氏
施設の詳細を説明した界 箱根スタッフ 北館愛氏