旅レポ

夏の「界 別府」に一人旅。絶景オーシャンビューと美食に圧倒された1泊2日、温泉の奥深さを知る

星野リゾートの温泉旅館「界 別府」へ。夏の1泊2日を紹介します

 夏の某日、星野リゾート「界 別府」(大分県別府市北浜2-14-29)に1泊2日で滞在してきました。大分県・別府温泉にあり、眼前に広がる別府湾のオーシャンビューとご当地食材をふんだんに使った美食を堪能できる温泉旅館です。

 界ブランドと言えば、洗練された館のデザインや細やかなサービスが魅力ですが、ここ界 別府はラグジュアリーなイメージだけじゃない“エンタメ力”がすごい。日ごろ溜まった疲れを癒やすべく一人訪ねてみたら、大人の温泉旅をアップデートしてくれる素敵な体験ができたので紹介します。

湯のまち別府は湧出量・源泉数ともに日本一

 別府市は、日本一の湧出量を誇る温泉地。源泉数は2000を超え、町全体が湯けむりに包まれます。江戸時代から“湯治場”として親しまれ、今なお地元の人々と観光客が入り交じる穏やかな空気が心地いい感じ。

 市内にある代表的な8つの温泉郷(浜脇温泉、別府温泉、観海寺温泉、堀田温泉、明礬温泉、鉄輪温泉、柴石温泉、亀川温泉)を総称して「別府八湯」と呼ばれますが、このうち海沿いに面した「別府温泉」という温泉郷に立地するのが界 別府です。最寄りのJR別府駅からは徒歩10分ほど。

2021年に開業した「界 別府」。別府湾に面した別府温泉郷にあります
目の前に広がる別府湾。遊歩道も
宿の隣にはヨットハーバー
JR別府駅から徒歩10分ほどでアクセスできます

インフィニティ足湯で癒やされる到着のひととき

 チェックイン時間の15時、宿に到着しました。洞窟のようなエントランスをくぐった瞬間、まず圧倒されるのが、目の前いっぱいに広がる別府湾の絶景です。ガラス張りのロビーフロア「湯の広場」は古民家の縁側のように海に向かって開かれており、海と空が溶け合うようなインフィニティな景色が広がります。

 湯の広場の先にせり出すように設けられているのが「足湯」のテラス。立ちのぼる湯けむりと爽やかな潮風も相まって、チェックイン直後から心身がほぐれていくのを感じました。足湯に浸かって、ただ海をぼけ~っと眺める。この時間が、界 別府での滞在の幕開けです。

エントラスをくぐると出迎えるのがオーシャンビューのロビーフロア「湯の広場」と足湯テラス
別府温泉の共同浴場をイメージしたという「湯の広場」には足湯のほか、手湯コーナーも

 宿の建築・デザインを手掛けたのは世界的建築家・隈研吾氏。このあと紹介する客室や大浴場、食事処もそうなのですが、黒壁に囲まれた石畳の廊下や土産処、和紙の提灯が彩るロビーフロア、緑あふれる庭園、伝統と意匠と感じるインテリアなどなど、“館内にいながら温泉街をそぞろ歩きしているよう”な空間がポイント。昼、夕、夜、朝と、時間帯ごとに異なる趣が楽しめます。

黒壁に囲まれた石畳の廊下など、館内は“温泉街”をイメージした造り
湯の広場の隣にロビーフロント/ラウンジ
トラベルライブラリーではドリンクをサービス
和紙の提灯や竹細工のインテリアなど、至るところに伝統工芸
宿は地上11階建。2階にロビーなどのパブリックスペースが点在します

全室オーシャンビュー、露天風呂付客室あり

 全国に23施設展開する「界」のなかでも、界 別府の客室数は最大の全68室(他施設の約4倍)。そのすべてがオーシャンビューというのも大きな特徴です。客室タイプは、最もスタンダードな「和室」(48m2)からスイート仕様の「特別室」(64m2)まで5タイプあり、今回記者は「露天風呂付客室」(48m2)に宿泊しました。

 露天風呂付客室は、落ち着いた照明のなかに設えたベッドルーム、畳の上にソファを配置した和モダンなリビングスペース、そして洗面台とシャワールームの奥に、海景を望む露天風呂という造りです。

 なかでも特筆すべきはリビングスペースのガラス窓。大きな1枚絵画のように別府湾の景色を映し出し、“これを独り占めできるなんて!”と思わずにはいられない贅沢さがあります。内装は、別府の「血の池地獄」から着想を得た古代色「柿渋色」が取り入れられ、外から陽の光が入ると窓枠がちょうど絵の額縁のように黒っぽくなるギミックが。

窓一面のオーシャンビュー
ベッドルーム
客室に備わる露天風呂
洗面台
シャワールーム

 また「豊後絞り」の布地を使ったダウンライト、ベッドボードにベッドスロー、「別府竹細工」を活かしたアートや客室ナンバープレートなど、ご当地の伝統工芸が随所に散りばめられていました。

 部屋に用意されているウェルカム菓子も、地元企業とコラボした特産柑橘「ざぼん」の砂糖漬け。日田市「小鹿田焼」の湯のみにお茶を淹れて一息つけます。

お茶菓子は、特産の柑橘「ざぼん」の砂糖漬け。湯のみとコーヒーカップは小鹿田焼
豊後絞りのダウンライトやベッドルームのファブリック、別府竹細工を使った客室ナンバープレートなど

 また、界オリジナル風呂敷に包まれたくし・歯ブラシ・ヘアゴムや、洗面台の化粧水・メイク落とし・ボディクリーム、ドライヤー、館内着兼ルームウェアなど、必要なアメニティ類は一通り揃っていました。

客室アメニティ類が充実。ルームウェアは、館内着としても使えます。風呂敷は巾着結びにして館内用のスパバッグに

“湯科学”体験!? まずは滞在中に使える実用コーナーへ

 荷物もおろしたし、さっそくお風呂へ!といきたいところですが、まずお勧めしたいのが“温泉ミスト作り”体験です。館内の「ラボ」と呼ばれる理科室のような空間で、温泉成分のミニ講義を受けながら、ビーカーやスポイトを使ってオリジナルの化粧水を調合します。

 温泉研究が盛んな別府市にちなんだ体験コンテンツで、別府の温泉水の特徴を学びながら自分好みのアロマを混ぜてミストを作るプロセスは、大人でも楽しめて滞在中のお風呂上がりに使える実用的なアイテムとなります。

 当日予約制で参加は無料。毎日16時~/17時~の開催です。

温泉旅館のなかに突如現われる「ラボ」
温泉管をイメージしたパイプに、理科の実験器具がズラリ
別府温泉の泉質についてミニ講義を受けながら、オリジナル保湿ミストを作ります
温泉水やグリセリン、アロマを0.01mL単位で調合して完成。全国の温泉巡りが楽しくなる「お湯印帳」もゲット

大浴場で肌を整える。別府温泉は奥が深い……

 界 別府が立地する別府温泉郷は海に近いため、宿のすぐ下から湧くという湯の泉質は塩化物泉。源泉自体は黄味がかっているそうですが、見た目は無色透明で、においもシンプル。

 強め→やさしめと、別府八湯の異なる泉質の温泉郷をハシゴして効能の相乗効果を狙う入浴方法「機能温泉浴」において、別府温泉は“仕上げの湯”や“美肌の湯”などと呼ばれる保湿タイプの温泉らしく、「成分の強い温泉ですっきり角質の汚れを落としたら、やわらかい仕上げの湯に浸かって肌を整えます。クレンジングのあとに保湿するイメージです」と宿のスタッフが教えてくれました。

大浴場の内湯は天井の高い白壁が特徴
8種類の山の花々を「臼杵焼」であしらったデザイン

 大浴場は源泉かけ流し(加水あり)。内湯は、鶴見岳と由布岳の恋物語の民話からインスピレーションを得て8種類の山の花々を臼杵市「臼杵焼」であしらった、天井の高い白壁が特徴。

 一方の露天風呂は、別府石を使用した野趣味あふれる造りで、塩分を多く含むことから温かさが持続する泉質。手足の冷えや肩こりの緩和も期待できるのだそう。

露天風呂は別府石を使用した野趣味あふれる造り
大浴場にもアメニティや大風量のドライヤー完備

 すっかり身体が温まったので、湯上がりは隣接する庭園ベンチで夕方の風に当たりながら、用意されている冷たいゆずほうじ茶やアイスキャンディーをいただきました。

大浴場に隣接する湯上がり処と庭園
冷たいゆずほうじ茶やアイスキャンディーをいただきながら休憩できます

ディナーは旬の味覚と、伊勢海老が豪快な「豊後鍋」

 お待ちかねの夕食は、地元の海の幸と山の恵みを取り入れた会席料理「豊後鍋とりゅうきゅうの会席」コース。

 6~8月は夏のメニューで、彩り豊かな先八寸には頭から丸ごと食べられるほどやわらかい「稚鮎 煎り酒」。続く、煮物椀は“博多押し”と呼ばれる織物帯のような層状の郷土料理をアレンジした「鰻と山芋の博多」。

 揚げ物にはクチナシで淡いみどりに色付けしたカダイフをまとわせ、外カリ中ふわに仕上げた「キスの新緑揚げ」、塩レモンペーストでさっぱりいただくパプリカと椎茸の「野菜天麩羅」など、旬の味覚を楽しめました。

コースは先八寸からスタート。この日は、河豚皮とくろめと椎茸の和え物、南京豆腐赤味噌だれ、合鴨ロース、蕗の胡麻酢かけ、パプリカの茶巾包み、クリームチーズ有馬味噌、稚鮎、九十おかき揚げ
鰻と山芋の博多
キスの新緑揚げと野菜天麩羅

 好漁場に恵まれた大分県は魚が有名で、お造りには大分県産本マグロ、別府湾で獲れたマダコ、タチウオ、マダイ、サワラが桶盛りでラインアップ。

 身がふっくらしたたんぱくな白身魚たちは、大分県の老舗醤油メーカー・フンドーキンの甘い醤油で食すのが絶品で、2周目はかぼすを絞って味変するのが地元流。かぼすの酸味と醤油のコクで魚の旨みが際立ち、まるでフレンチのカルパッチョのよう。

お造りは大分県産本マグロ、別府湾で獲れたマダコ、タチウオ、マダイ、サワラを甘口醤油とかぼすで

 メインディッシュは、伊勢海老、ふぐ、特産椎茸、ハマグリなどの豪華食材が見た目もインパクト大な「豊後鍋」。豊後(ぶんご)とは現在の大分市や別府市を含む地域の旧国名で、地元の味覚を堪能してほしいと名付けられた宿オリジナル鍋です。お好みで、柚子胡椒ならぬ、かぼす胡椒をつけたり、かぼすポン酢×大根おろしをつけたりと、アレンジできます。

 〆は、大分県産米ヒノヒカリに、カンパチなどの魚を漬けにした漁師めし「りゅうきゅう」をのせて。まずはそのまま、次は鍋の熱々のだしをかけて、二度楽しめます。

メインディッシュは豊後鍋
伊勢海老、ふぐ、特産椎茸、ハマグリなどの豪華食材をセルフで鍋にします
〆は漁師めし「りゅうきゅう丼」。熱々のだしをかけて二度楽しめます

 最後のデザートも、かぼすとマスカルポーネチーズを合わせたムースに郷土菓子「やせうま」と甘酸っぱいかぼすソースを融合させた、技の光る逸品でした。

 ちなみにお酒のお勧めは、豊後大野市の藤居醸造によるクラフトビール「IDA ラガー」や焼酎ハイボール「泰明」。ノンアルコールでは「かぼす密ソーダ」など。ほかにも料理とペアリングしたい銘酒が揃っていましたよ。

デザートはかぼすムース×郷土菓子やせうま
IDAビールとかぼす密ソーダが美味でした

夜は、湯しぶきと音が弾けるエンタメショー「湯治ジャグバンド」開演!

 夜のお楽しみとして毎晩開催されているのが「ご当地楽」の時間。界 別府では、「湯治ジャグバンド」と題し、湯桶やケロリンの石鹸置き、ひしゃくなどの温泉道具を使ったユニークな演奏パフォーマンスショーが行なわれます。

 湯しぶきが舞うなか観客も手拍子で参加できるアットホームな雰囲気。音と笑いを通じて、温泉文化がこの地の生活に根付いてきた背景を楽しく感じ取ることができました。

毎晩開催されるエンタメショー「湯治ジャグバンド」
湯桶やケロリンの石鹸置き、ひしゃくなどの温泉道具を使ったユニークな演奏パフォーマンスが楽しめます

縁日みたいな夜遊びコーナー登場。まさに“不夜城”

 また夜になると、共同浴場をモチーフにしたというロビーフロア「湯の広場」が縁日のようなプレイスポットに変わります。輪投げや型抜き、スマートボールなど、どこか懐かしい遊びコーナーが並び、大人も童心に返って楽しめます。

 地元の方が別府温泉の魅力やイチオシ観光スポットを教えてくれる「湯遍路案内所」コーナーも。

別府八湯マップ輪投げ
昔ながらのスマートボール
型抜きは簡単そうに見えてけっこう難しい
「湯遍路案内所」では別府温泉に詳しい地元ガイドがイチ押しスポットを教えてくれます

 もうひとつの目玉が、夜食として登場する「地獄ラーメン」の屋台。自分で麺を茹で、湯切りをして、好みのトッピングをのせて作るセルフ式で、仕上げに「地獄の一撃」という激辛ソースを垂らして完成。

 九州の豚骨スープにニンニクを効かせ、別府名物「地獄めぐり」を彷彿とさせる刺激的な辛さを加えたクセになる味です。

自分で麺を茹で、湯切りをして、好みのトッピングと地獄の一撃を加えて完成
夜食の「地獄ラーメン」は旨辛です

 さらに、溶けないアイスキャンディ「葛バー」を配ってくれる、法被姿のスタッフまで登場。キンキンに冷たくて、もっちりとろけるような食感が大人気で、あずきやイチゴ、ラムネ、みかんなど、季節ごとに変わるフレーバーもいろいろ。

 いずれも体験・参加無料で、予約不要。まさに「不夜城」と言われた別府温泉街の夜を、ひとつの宿のなかで体験できるドラマティックなひとときでした。

溶けないアイスキャンディ「葛バー」もゲット

早起きが楽しい、爽快! 朝活ストレッチと健康朝ごはん

 朝になると、ロビーフロアの大きな窓はすべて開け放たれ、オープンエアの清々しい空間に。ここでは、1日を健やかにスタートさせてくる朝活コーナー「現代湯治体操」が開催されます。

 ヨガマットを並べ、ちょうど別府湾側からのぼる朝日と潮風を感じながら行なう約30分間のストレッチは、身体が目覚めて抜群に気持ちいい運動となりました。参加無料で、前日までに要予約です。

毎朝7時から開催される朝活コーナー「現代湯治体操」

 その後いただく朝食は、大分の郷土料理をアレンジした「ごまだし海鮮汁」という具だくさんスープがメインの和食膳。ほかにも炊きたてご飯に、焼き魚は鯖のかぼす醤油漬け、出汁巻き玉子など、滋味深くヘルシーなラインアップがありがたい。

滋味深く、健康的な和朝食をいただきました
メインは野菜たっぷり「ごまだし海鮮汁」を熱々で
炊きたて大分県産米ヒノヒカリとかぼす醤油の焼き鯖も美味
食事処のエントラス。80個の竹とんぼを吊るしたインテリアにも注目を

滞在の終わりに、思い出作りも

 さて、朝ごはんを食べ終わったらチェックアウト、とはならないのが界 別府。最後は思い出作りに「別府温泉絞り」を体験しました。

 伝統的な染色技法をベースに、高温の温泉水の成分と染料の化学反応で模様を浮かび上がらせる現代風のワークショップで、世界にひとつだけのハンカチを作ることができます。こちらは参加有料で1人1800円、4日前に要予約です。

あらかじめ染色された綿ハンカチに、ビー玉や棒、輪ゴムなどを使って“模様”になる部分を作ります
全体をきつく棒に巻きつけ、高温の温泉水で洗う→乾燥を数回繰り返すことで“色抜き”します。縛った部分をほどくと模様が現われ、最後にアイロンをかけて完成

 チェックアウトは12時と遅めの設定なので、朝の時間もお土産ショッピングなどしてゆったり過ごせました。温泉に浸かり、土地の旬を味わい、文化や遊びに触れ、絶景に癒やされ疲れをとる! そんな流れを、1泊2日のなかで無理なく体験できるのが界 別府の魅力。

大分県や九州のお土産が並ぶショップ
臼杵焼の食器
ざぼんサイダー

 料金の目安は、和室が1泊2食付き3万2000円~、露天風呂付客室が1泊2食付き4万1000円~(いずれも1室2名利用時の1人あたり、税込み・サービス料込・入湯税込み)。

 観光を詰め込む旅ではなく、日常から少し離れてのんびりしたいと願う大人にこそ、訪れてほしい宿です。

部屋の露天風呂で眺める“別府湾サンライズ”に癒やされました
編集部:白江ちなみ