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JALと岩手県、「新・JAPAN PROJECT」で漆産業の振興支援。鶴丸が描かれた漆器を2018年3月から機内販売など

19日まで「漆 DAYS いわて 2017」開催中の岩手県公会堂で記者会見

2017年11月18日 発表

JALが岩手県の漆産業振興を支援する

 JAL(日本航空)と岩手県は11月18日、19日まで「漆 DAYS いわて 2017」開催中の岩手県公会堂で会見を開き、県の漆産業振興を同社が支援することを発表した。これは地域の活性化を支援する「新・JAPAN PROJECT」の一環で、伝統文化としての漆の認知度向上や、「漆商品を使う」気運を高めることを目的としている。

 具体的には情報発信と共同企画商品の開発を挙げており、前者はJALカード会員誌「AGORA 2018年3月号(予定)」で岩手県の浄法寺漆器(じょうぼうじしっき)の記事掲載や、国際線のビデオチャンネルで県制作の漆に関する映像を流す(2018年3月~4月)ほか、2018年には同社職員が岩手県で漆の植林を手伝うなどの活動も行なう。

 また、日本の漆産業の現状や素晴らしさ、文化継承の大切さなどをテーマに、JAL 取締役会長の大西賢氏、岩手県知事の達増拓也(たっそたくや)氏、蒔絵の人間国宝 漆芸家の室瀬和美氏、浄法寺漆産業 代表の松沢卓生氏が実施した対談を、機内誌「SKYWARD 2018年3月号(予定)」に掲載する。

 後者は、室瀬和美氏監修の汁椀と飯椀「巖手椀(いわてわん)セット」や、浄法寺漆産業による酒器「片口と杯セット」を、それぞれ通販サイト「JALショッピング」や機内販売誌「JAL SHOP」で2018年3月(予定)から取り扱う。どちらも器の底にはJALの鶴丸が描かれるという。価格は未定で、各50セットずつの限定販売になる見込み。

漆産業を再び盛り上げるための取り組みを実施

 会見では、JAL 取締役会長の大西賢氏から県への支援内容の説明があったほか、JALグループ社員からアイディアを募り、浄法寺漆産業の協力を得て商品化を目指すという企画を紹介した。締め切りまでにグループから150人ほどの応募があり、かつ1人複数の商品化アイディアがあったため、「本来ならこの場で商品化案をお見せしたかったが、数百件のアイディアがあり、絞り切れていない。どんなものができるか期待してほしい」という。

日本航空株式会社 取締役会長 大西賢氏

 岩手県知事の達増拓也氏は、岩手県は国内の漆生産量が日本一であることや国内外に漆を周知するための取り組みを行なっていることを述べ、「現在国内で使われている国産漆は2%程度だが、そのなかで岩手産は約7割。平成30年(2018年)度からは文化財の修復にすべて国産漆を使う方針が決まっており、いま岩手の漆が全国から注目されている」と話し、輸入漆が98%程度を占める現状において、岩手県の存在感が高まっていることを強調した。漆を使った観光振興にも力を入れているとのこと。

岩手県知事 達増拓也(たっそたくや)氏
新・JAPAN PROJECTの一環として取り組む
情報発信と触れる機会の創出

 重要無形文化財保持者(蒔絵・人間国宝)の漆芸家 室瀬和美氏は、JALとの共同企画商品である汁椀と飯椀の監修を担当。「海外からは漆器と言えば日本、そのように見られているが、一方で国内では漆文化から少し遠ざかってしまった。本来ご飯と味噌汁は両方とも漆塗りの木の器を使うのが日本の文化だが、明治以降に現われたご飯茶碗に皆さん慣れてしまった。

 茶碗は、熱いお茶の熱を逃がして飲みやすくするために陶器や磁器で作られている。一方、ご飯はゆっくり温かくいただくために、冷めにくい木の漆器を使っていた。これが木偏の付く『飯椀』の由来で、素材を使い分けて美味しくいただくというのが和食の文化。それをもう一度思い出してほしい」と述べ、今回の共同企画への熱意を明らかにした。

漆芸家 室瀬和美氏

 共同企画商品のもう一方の監修担当である浄法寺漆産業 代表の松沢卓生氏は、酒器を選んだ理由について「岩手県の日本酒の文化と漆器の文化を活かせる形として片口と杯にした」と説明。一般的な片口は注ぎ口が外に出ているが、これをなくしてスリット状にし、さらにセットに含まれる2つの杯が片口に収納できる形状としたことで、「収納と持ち運びを容易にした」という。JALの特別バージョンとあって、杯の1つは朱色に仕上げている。

株式会社浄法寺漆産業 代表 松沢卓生氏
会見会場に用意してあった酒器「片口と杯セット」

 会見終盤、大西会長は室瀬氏の発言を引用して「我々の生活様式が変わり、漆器を使うことから離れていっている」と指摘。しかし、海外では陶磁器をチャイナ、漆器をジャパンと呼んでおり、「漆は日本を代表するもの。その復活・発展のためのお手伝いをぜひともしてみたい」と意気込みを新たにした。今回の販売を通じて、「手に取ってもらって、そのよさを分かってほしい。これが復活ののろしになれば」と話した。

 また、2018年度から国宝など文化財の修復を国産漆だけで行なうという文化庁の方針について、県の漆生産量は足りるのかという本誌の質問に対して達増知事は、「普通に考えれば、需要が増えれば価格が上昇したり、労働に対する対価が増えたりする。二戸市浄法寺を中心に漆の木を増やしたいという地域があるので、需要に応えられる潜在的な供給力はあると考えている。担い手の人たちが十分な収入を得ることができ、持続可能な形で供給ができるように県も取り組んでいきたい」と述べた。

岩手県公会堂で11月18日~19日に「漆 DAYS いわて 2017」開催

 会見が行なわれた岩手県公会堂では、11月18日と19日の2日間、「漆を『知る』『学ぶ』『触れる』『買う』を体験」と題して、「漆 DAYS いわて 2017」を開催している。会場では室瀬和美氏の蒔絵が特別展示されているほか、漆の生産や漆器作りを開設した企画展示、浄法寺塗りや安比塗り、秀衡塗りなど岩手の漆器の紹介、金継ぎや絵付けを体験できるワークショップ、その場で漆器を購入できる即売会などを実施している。

漆 DAYS いわて 2017

開催日時:2017年11月18日10時~17時、19日10時~16時
会場:岩手県盛岡市内丸11-2 岩手県公会堂
入場料:無料
Webサイト:岩手県公会堂

浄法寺塗りなど岩手県の漆器を紹介する企画展示
国内漆の生産量や漆掻きに使う道具、漆塗りの手順などを説明する企画展示
参考展示のほか、即売会も実施している
JR東日本の寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」の客室に採用された浄法寺の漆パネルが参考展示してあった
3Dプリンタ+漆の新しい試みも
質素なものから細かい細工のものまで、さまざまな商品をその場で購入できる
ワークショップの案内