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地方観光資源の創出と誘致先の絞り込みが滞在日数/単価拡大のカギ。JAL大西会長がインバウンドマーケットEXPO 2018で講演

東北向けには防災プログラムを組み込んだ「防災ツーリズム」

2018年2月21日 実施

JALの大西会長がインバウンドマーケットEXPO 2018で講演した

 東京ビッグサイト(東京都江東区有明)では2月21日から23日にかけて、インバウンドと地方創生市場向け商材の展示会「インバウンドマーケットEXPO 2018」を開催しているが、その初日にJAL(日本航空)取締役会長の大西賢氏が「インバウンドによる地域活性化と日本航空の取り組み」と題した講演を行なった。

 よく知られているとおり、政府は2020年までに訪日外国人旅行者4000万人を目標としている。同時に、旅行消費額の目標を8兆円ともしている。JNTO(日本政府観光局)の推定によると2017年の訪日外国人は2869万人で、消費額は4兆4161億円。つまり、消費額はあと3年で約1.8倍を目指す必要があり、年間プラス22%の成長が求められている。これには、単に旅行者数を増やすだけではなく、1人あたりの旅行消費単価の底上げが欠かせない。

インバウンドマーケットEXPO 2018にJALも出展している(東7ホール)
日本航空株式会社 取締役会長 大西賢氏

 大西氏は例として、世界各国の「国際観光客数と消費額」のスライドを示した。2016年のアメリカはインバウンドが7560万人、消費額は2059億ドル(約23兆4726億円、1ドル=約114円換算)、消費単価は2723ドル(約31万422円)であったのに対し、日本はそれぞれ2404万人、306億ドル(約3兆4884億円)、1273ドル(約14万5122円)となっている。こうしてみると、旅行者数と消費額ほどには単価が離れていないことが分かる。大西氏は「ここにヒントがある」という。

 そして次のスライドで、「1人・1日あたりの消費額」は、アメリカへの旅行者が143ドル(約1万6302円)なのに対し、日本への旅行者は253ドル(約2万8842円)と大きく上回っているが、「旅行日数」ではアメリカでの滞在日数が平均19日、日本は平均5日と4倍もの差が付いていることを示した。「消費額を上げていくには、滞在日数を増やす取り組みが必要で、それにはゴールデンルートだけでなく地方への誘客が欠かせない」と述べて、インバウンド誘致に成功している地域の事例を紹介した。

1日あたりの消費額は決して低くないため、滞在日数を伸ばすことが消費額の増大につながる

 1例目は岐阜県。2009年に岐阜県・観光交流推進局長に就任した古田菜穂子氏は、白川郷や下呂温泉、関ヶ原など県内の著名な観光資源が点で存在することで通過されてしまっていたことに注目し、“県のじまん”を広く募集する「岐阜の宝もの認定プロジェクト」を立ち上げた。募集の間口を広くしたことで1811件の応募があり、なかには「うちのベランダから見える夕日」といった投稿もあったそうだが、この掘り起こしによって5件の「岐阜の宝もの」と11件の「明日の宝もの」を含む56件を認定。岐阜のオリジナリティを持ち、長期間魅力を発信できるコンテンツが増えたことで、観光資源のつながりが点から面に変わり、通過型から滞在型へ転換が進んでいるという。

新しいタイプの観光資源を掘り起こした

 また、インバウンド誘致のターゲット国をシンガポール、タイ、フランスに定め、2009年以降はシンガポールの旅行見本市に14回連続で出展、地元旅行業者との関係を強固にした。2012年からはFIT(Foreign Independent Tour:海外個人旅行)の誘致に乗りだし、フランスに注力したという。

 その結果、岐阜県への外国人旅行者は2009年の22万7936人から2016年には101万13490人となり、約4.4倍に成長した。同じ期間の全国平均が約3.5倍だったことからも、岐阜県の伸び率がよく分かる。なお、シンガポールからの旅行者は2180人(2009年)から2万3530人(2016年)で約10倍に、フランスからの旅行者は3300人(2012年)から1万6170人(2016年)で約5倍にそれぞれ伸長している。

ターゲットを絞ったインバウンド誘致

 2例目は兵庫県豊岡市。豊岡市といえば「城崎温泉」が外国人旅行者にもよく知られている。2016年にはトリップアドバイザーの「外国人に人気の日本の観光スポットランキング」で29位につけており、温泉地としては1位だという。しかし、旅館1棟あたりの客室数がそれほど多くないため、例えばアジア周辺からの団体客を受け入れるようなキャパシティはない。そこで豊岡市は欧米豪にターゲットを設定し、城崎温泉の宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」を英語とフランス語で展開。動画広告配信のGlassViewでアメリカ向けに出稿するなどした結果、豊岡市への外国人旅行者は、1万457人(2013年)から4万4648人(2016年)と3年で約4.3倍に成長。2020年には年間10万人を目指しているという。

豊岡市は城崎温泉の特性を見据えて、ターゲットを欧米豪に絞って成功

 最後に、東北地方へのJALのインバウンド誘致の取り組みとして、「防災ツーリズム」を紹介した。これまでも、外国人旅行者向けの国内線運賃「Japan Explorer Pass」で東北発着路線を最安の5400円に設定したり、社員による復興応援研修を実施したりとさまざまな取り組みを行なっているが、それでもまだ足りないということで、東北に関しては「既存の枠組みにとらわれない新しい発想が必要」として、観光と防災プログラムを融合したコンセプトが生まれた。

 そして、自然災害の多いインドネシアやフィリピン、日本への関心が高くリピーターの多い台湾、タイをターゲットに設定。第3回ジャパン・ツーリズム・アワードで大賞を受賞した、被災者が語り部となって震災遺構を巡る南三陸ホテル観洋の「語り部バス」や、津波の被害に遭った震災遺構 仙台市立荒浜小学校を題材とした防災コンテンツを組み込むことで、教育旅行では旅行者が見たものを母国へフィードバックでき、復興プロセスへの関心が高い富裕層の取り込みも見込めるという。

 大西氏は、もともと東北が持つ観光資源にこうした防災学習をプラスすることで、東北地方全体の活性化に寄与できるのではないかとして、JALが引き続き東北の人流拡大に尽力していく姿勢を明らかにした。

防災コンテンツを組み込んだ旅行商品を造成していく
東北の観光資源に防災学習をプラスする
講演は満席。立ち見が出るほどだった