旅レポ
長崎県の名物食材をとことん堪能してきた(その2)
五島列島で手延べうどんをいただき、椿油の搾油も体験
(2016/5/28 00:00)
長崎県の名物食材を巡るツアーのレポート第2回。前回は長崎市内で味わえる名物食材や料理を堪能しましたが、今回は長崎市から船で1時間40分ほどの五島列島へと渡り、五島列島の名物食材や料理を堪能してきた様子を紹介します。
日本三大うどんの1つ「五島手延うどん」の製麺所を見学
ツアー2日目は、長崎港から高速船で約1時間40分、五島列島の中通島、上五島の鯛ノ浦港へと移動して始まりました。私が五島列島と聞いて思い浮かべるのは、トビウオ漁が盛んということぐらいで、あまり知識はありません。その乏しい知識のなかで、もう1つ思い浮かべることがあります。それは、日本三大うどんの1つ(日本三大うどんの定義には諸説あります)、「五島手延うどん」の生産地だということです。私は、うどん県(香川県)出身ということで、元々うどんにはかなりうるさいのですが、実はまだ五島手延うどんは食べたことがありませんでした。ですので、今回のツアーのなかでも、五島手延うどんは特に楽しみにしていました。
鯛ノ浦港に到着してまず向かったのは、五島手延うどん製麺業者の大手「ますだ製麺」です。ますだ製麺の製麺所は、大手ということもあって、規模はかなり大きいと感じました。製麺所では、20人ほどの職人の皆さんが働いています。
五島手延うどんは、小麦粉に塩水を加えて練って作ります。小麦粉には、五島手延うどん専用の小麦を使っているそうです。また、麺を延ばすときに椿油を塗るという点も、五島手延うどん独特の製法となっています。昔は、足で踏んで生地をこねていたそうですが、いまは機械でこねているそうです。まず30分こねて少し寝かせ、そのあとまた30分ほどこねて耳たぶほどの硬さの生地を作ります。
次に、生地を3回に分けて徐々に延ばしていきます。この延ばす作業のときに、表面に椿油を塗ります。生地に椿油を塗るのは、生地の乾燥を防ぎ、風味を逃さないためだそうですが、この椿油を使うという部分が、五島手延うどんの最大の特徴となっています。
生地を延ばして熟成が進んだら、2本の棒に8の字状に巻き付けていきます。このとき、生地をよりながら棒に巻き付けますが、このよりを付けるかどうかによって、できあがったうどんのコシが変わってくるそうです。いまは機械でよりを付けているそうですが、均一のよりを付けるかどうかによって、うどんのおいしさが大きく変わってくるため、非常に重要な工程なのだそうです。
そして、専用の器具に生地を巻き付けた棒を取り付けて、棒を上下に開くことで細く延ばしながら乾燥させます。この、延ばしながら乾燥させるという工程は、そうめんを作る場合とほぼ同様です。最後に、乾燥した麺を一定の長さに切り揃え、包装してできあがりとなります。
ますだ製麺が製造している製品には、国産小麦のみを使っているものや、乾麺の五島手延うどんとしては珍しい半生の製品など、10種類ほどがあるそうです。現在、中通島には29軒の製麺所があって、全体で年間10億円~12億円ほどの売上げとなっているそうですが、今後は年間20億円の売上げを目指して取り組んでいる最中とのことで、毎年全国のデパートなどで開催される催事に参加するなどして積極的に売り込んでいるそうです。
五島手延うどんは「地獄炊き」でいただくのが定番
五島手延うどんの定番の食べ方が「地獄炊き」です。これは、大きな鍋でお湯を沸かし、そこに五島手延うどんを入れて茹で、茹であがった麺をそのまますくって出汁につけて食べるというものです。いわゆる釜揚げうどんですね。今回は、この五島手延うどんの地獄炊きを、「うどん茶屋遊麺三昧」でいただきました。こちらのお店は、「五島うどんの里」という観光施設にあるお店です。こちらで五島手延うどんを食べるのはもちろん、隣接する「観光物産センター」で五島手延うどんをはじめとする五島列島のお土産も購入できます。
うどん茶屋遊麺三昧でいただく五島手延うどんは、もちろん地獄炊きです。目の前には大きな鉄鍋が置かれ、沸騰したお湯に五島手延うどんを投入します。鍋にうどんを投入したら、鍋に貼り付かないように専用の「すくい棒」でかき混ぜます。このすくい棒は、先端に小さな突起が付けられていて、食べるときにうどんをすくう場合にも使います。
ゆで時間はうどんによって異なりますが、今回は6分~7分ほど茹でてできあがり。茹で上がったうどんを、すくい棒ですくってつけだれに絡めていただきます。
つけだれとしては、熱々のアゴ出汁が基本のようですが、まずは、生卵のつけだれでいただきました。こちらは、生卵にたれやネギなどを入れて卵をといてうどんに絡めていただきます。讃岐うどんにも「釜玉」というメニューがありますが、それに近い感覚の食べ方です。うどんにはしっかりとしたコシが残っていて、心地よい歯ごたえですし、卵のまろやかさが加わって、かなりのおいしさです。
続いて、定番のアゴ出汁です。アゴの風味が強くコクがありますが、比較的あっさりとしていて、そうめんなどの濃いめの出汁とはまったく異なる味わいです。どちらかというと、かけうどんの出汁に近い味わいですが、こちらも非常においしくいただけます。麺は比較的細いので、するすると入っていきます。とはいえ、そうめんや冷や麦よりは太く、強いコシもあって口当たりは間違いなくうどんです。うどん県民としては、どうしても讃岐うどんを基準として見てしまいますが、五島手延うどんもうどんとして十分魅力を感じました。日本三大うどんの1つとして数えられるのも納得です。
地獄炊きの食べ方なら、家庭でも家族で楽しみながら食べられますし、乾麺なので軽く、かさばらず持ち帰れますので、五島列島や長崎県のお土産としても最適でしょう。
五島列島に自生する椿の実から椿油の搾油を体験
続いて向かったのは、「つばき体験工房」です。五島列島は、椿が自生する土地で、昔から椿が生活に深く関わっているそうです。椿を使った特産品も多く、そのなかでも特に有名なのが椿油です。椿の種から搾って取る椿油は、食用としてはもちろん、美容品としても重宝されています。そして、つばき体験工房では、その椿油を搾る搾油体験が行なえます。
椿油の搾油行程は大きく分けて3段階で、まず石臼で椿の実を潰し、潰した実をセイロに移して10分ほど蒸し、蒸した実を専用のろ紙に入れて圧搾機で油を絞る、というものになります。
まずは石臼で椿の種を潰すのですが、この工程はかなり体力を要します。種を潰すのには、餅をつくように石臼ときねを使いますが、きねは打ち付けるのではなくて、種の中の実をすりつぶすように動かします。椿の種は殻がかなり固いこともあるのですが、殻を割るだけではなくて、中の実を細かく潰さなくてはいけないのです。ここでしっかり潰しておかないと、搾り取れる椿油の量が少なくなってしまうそうなので、15分近く時間をかけて念を入れて潰します。この時点で、かなり腕の筋肉が悲鳴をあげてしまいました。
しっかり種が潰れたところで、セイロに種を移して、お湯の沸いた釜の上にセイロを置いて10分ほど蒸します。ここは時間を待つだけなのですが、このあとにも力作業が控えていますので、体力を回復させておきます。
10分ほどで潰した種が蒸し上がったら、セイロを開いて、専用の袋状のろ紙に種を入れます。そして、そのろ紙を圧搾機にセット。あとは、圧搾機で実に圧力をかけていくと、椿油が搾られて出てきます。ただし、この圧搾機の操作にもかなりの腕力を要求されます。圧搾機のハンドルを上下に動かしながら、実に数トンの力を加えて搾ることになるのですが、途中からは全体重をかけないとハンドルが動かなくなるほどです。ここでもかなり体力を使いますが、黄金色の椿油が搾られて出てくる様子は、かなり気持ちがいいです。そして、搾り取られた椿油から不純物を漉し取ると完成となります。1kgの椿の種から、300cc前後の椿油が搾り取れます。
実際に椿油の搾油を体験すると、椿油がいかに貴重な物かが身をもってわかります。かなり体力は使いましたが、普段は体験することのない、非常に貴重な経験となりました。もちろん、体験で搾った椿油は持ち帰れます。髪に付けたり、革製品を磨いたりと、いろいろ活用できます。五島列島に旅行した際のアクティビティとして、特に子供連れにお勧めしたいと思います。
五島列島の伝統的なおやつ、かんころもち
五島列島には、「かんころもち」という伝統的な食べ物があります。これは、サツマイモを薄く切って茹で、干して乾燥させた干し芋「かんころ」をお餅に混ぜて作ったおやつです。かんころ自体は堅い干し芋ですが、かんころもちを作るときには茹でて戻してお餅と混ぜるそうです。地元では正月などに各家庭で作って食べられることが多いそうですが、家庭によって、ごまを入れたり生姜を入れたりと作り方が異なっていて、五島列島の家庭の味として親しまれているとのことです。
食べるときには、一口大に切り分けて、火であぶっていただきます。フライパンであぶってもいいそうですが、七輪で炭火であぶっていただくのが、風味がよくなってお勧めだそうです。芋が混ぜられているためか、お餅よりも柔らかい口当たりです。そして、サツマイモの甘さと風味がストレートに味わえ、普通のお餅よりも、よりおやつに近いと感じました。お茶請けや子供のおやつとしても最適でしょう。
地元では、冬を中心に食べられているそうですが、市販品がお土産として売られていますので、甘いもの好きな方へのお土産としてお勧めです。
薪で海水を煮詰めて作る「矢堅目の塩」
五島列島では近年海塩の製造が注目を集めているそうです。澄んだ海水を汲み上げて、薪を焚いて煮詰めて作る海塩は、ミネラルを豊富に含み、甘さも感じる優しい味わいで、プロの料理人からも引き合いが高まっているのだそうです。今回は、海塩製造業者「やがため」にうかがい、海塩の作り方などを見学しました。
やがためでは、薪を使った直火炊きの平釜を使った、伝統的な製法で海塩を作っています。中通島の奈摩湾に面する工房で、満潮時のきれいな海水を直接釜に注いで、じっくりと煮詰めます。複数の釜を使って、海水をつぎ足したり、煮詰めた海水を隣の釜に移すなどしながら、4トンの海水が2トンほどになるまで4日ほどかけて煮詰めるそうです。
煮詰まった海水は、次に「仕上げ釜」に移されます。仕上げ釜では、90℃ほどの温度で、4日間かけてさらに煮詰めていきます。低温で時間をかけて煮詰めることで、塩の結晶のつぶが大きく、ミネラルを豊富に含んだ海塩ができあがります。高温で煮詰めると早くできあがるそうですが、その場合にはからみが強くなって結晶も小さくなるそうです。やがためではなるべく結晶を大きくし、からみを押さえた海塩を作ることにこだわって、こういった時間のかかる製法を採用しているそうです。
ここまでの工程には、約1週間ほどの時間がかかります。そのあと、乾燥や選別などにさらに1週間ほどかけて、最終的な海塩ができあがります。4トンの海水からは、40kgほどの海塩が作られるそうです。
できあがったばかりの海塩をなめてみましたが、確かに一般的な塩とは違って、からみが少なく、からみが抜けたあとには口の中にわずかな甘みが残るような感じで、とても優しい口当たりです。また、工房には売店も併設されていて、普段使いの塩やフレーバー塩など、さまざまな種類の塩を販売しています。伝統的な製法で手作りされた、やさしい味わいの海塩も、五島のお土産としてお勧めしたいです。
五島の新名物「あごんちょび」
中通島で最後に向かったのが、「虎屋」というお店です。このお店がいま、五島で特に注目を集める商品を作っています。それが「あごんちょび」というものです。
虎屋では、先代の頃は五島手延うどんと塩作りを行なっていたそうです。五島手延うどんを作るときに使われる塩も、地元で作って使おうということで塩作りを始めたそうですが、先代は数年前に体調を崩したことから、いまのご主人が受け継いだそうです。当初は先代同様に塩作りをメインにしていたそうですが、それ以外にも、上五島の新しい名物を作りたいと常々考えていたそうです。そういったなかで、自分の作った塩を使ってアンチョビを作り始めました。
ただ、アンチョビは日本全国で作られていることから、少しインパクトに欠けると感じていたそうで、もっとインパクトのあるもの、目立つものということで「五島列島で水揚げされるトビウオを使ってアンチョビを作ったらどうなるのか」ということで取り組み、数年試行錯誤して完成したのが、あごんちょびなのだそうです。体調20cmほどの小さめのトビウオを3枚おろしにして、キモと一緒に身を1カ月半ほど塩漬けにし、そのあと新上五島町産の椿油とポルトガル産のオリーブオイルを混合したオイルに漬け込むそうです。特にキモと一緒に塩漬けすることで、身がやわらかく熟成されて、美味しく仕上がるのだそうです。
あごんちょびの特徴は、アンチョビと違い、それ自体を食材として楽しめるところにあります。アンチョビもそのまま食べることもありますが、イタリア料理などでは調味料として使うことが中心です。あごんちょびも、調味料的に使うこともできるそうですが、塩漬けにしたトビウオを、出荷前に塩抜きしているそうで、どちらかというとそのまま食べることがお勧めだそうです。実際に、フランスパンにあごんちょびを乗せてカナッペのようにして試食しましたが、くさみはまったくなくトビウオの旨みが広がって、とても美味しくいただけました。また、塩抜きされていることもあって、塩加減もちょうどいい塩梅です。確かにそのまま食べるのがお勧めというのも納得の味わいでした。
2013年12月からあごんちょびの製造を始めたそうですが、そのあと原料のトビウオを安定して確保するために大型漁船も購入してしまったそうで、あごんちょびに賭けて事業を展開しているとのこと。このあごんちょびは、2015年11月に開催された「第28回むらおこし特産品コンテスト」において、最優秀賞にあたる「経済産業大臣賞」を受賞したそうで、このこともあって俄然注目が集まっているわけです。一般的なアンチョビとは異なる、トビウオの深い味わいの逸品で、新たな五島のお土産として見逃せない存在といっていいでしょう。個人的にもお勧めしたいです。
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