ニュース

ANA、第4四半期は「過去最悪の数字」。2020年3月期決算発表。機材計画など柔軟に対応する方針示す

2020年4月28日 発表

2020年3月期決算についてオンライン会見で説明した、ANAホールディングス 取締役 常務執行役員 福澤一郎氏(2020年1月撮影)

 ANAHD(ANAホールディングス)は4月28日、2020年3月期(2019年度)の連結決算を発表した。同日、ANAホールディングス 取締役 常務執行役員 福澤一郎氏がオンライン会見でその内容を説明した。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界各国の入国制限や国内での移動自粛要請などの影響を受け、ANAHDでは4月20日時点で当期の通期連結業績予想を下方修正していた。

 4月28日に発表された経営成績は、売上高が対前年で4.1%減/840億円減の1兆9742億円、営業利益が同63.2%減/1042億円減の608億円、経常利益が同62.1%減/973億円減の593億円、親会社株主に帰属する純利益は同75.0%減/831億円減の276億円となっている。純利益では、航空機の受領遅延やエンジン不具合に対する補償金を計上しているが、ピーチ(Peach Aviation)に係るのれんの減損を行なっている。

 第4四半期のみでは、売上高が対前年で978億円減の3920億円、営業損益が同672億円減となる588億円の損失、経常損益が同656億円減となる631億円の損失、親会社株主に帰属する純損失が同627億円減の587億円となり、黒字から赤字へ転落。損失はいずれも「過去最悪の数字」(福澤氏)となったことが、通期の経営成績に大きな影響を及ぼした。

ANAHDの2020年3月期(2019年度)連結経営成績

 ANA(全日本空輸)の国際線は、第3四半期までは国際線の新規路線開設や大型機材投入など計画に沿って成長戦略を推進。座席キロは通期累計で対前年4.4%減/290万9000万キロ増となっている。一方で、特にWHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言した3月11日以降、各国の渡航制限や日本政府の渡航自粛要請があり、第4四半期単独の対前年で旅客数は31.3%減少、旅客収入は31.7%減の490億円減収となる1058億円となった。

 年度累計の旅客収入は、対前年で5.8%減/376億円減の6139億円、前年度に初めて1000万人を突破した国際線旅客数は同6万7600人/6.7%減の941万6000人、利用率は同4.1pt減の72.9%となっている。

ANAの国際線旅客事業

 国内線は、1月までは堅調な需要動向で前年を上まわる旅客収入となるなど好調に推移していたが、2月に政府からのイベント自粛や延期、休校要請などを受けて急速に需要が減退。第4四半期単独では、対前年で、旅客数は22.5%減少し、収入は21.8%減/353億円減の1246億円となった。

 年度累計の旅客収入は対前年で2.4%減/166億円減の6799億円、旅客数は同3.2%減/140万9000人減の4291万6000人、利用率は同2.1pt減の67.5%となっている。

ANAの国内線旅客事業

 貨物事業は、旅客便の運休/減便による貨物スペース減少などで需給バランスがひっ迫し、臨時便や大型フレイター(貨物専用機)を積極的に利用。衛生関連用品、大型医療機器や半導体関連の特殊商材にも取り組み、3月単月では前年並みを記録。ただし、米中貿易摩擦や海外の政情を受けて通期では対前年17.9%減/223億円減の1026億円の収入となっている。

貨物事業

 ピーチ(Peach Aviation)に統合されたLCC事業については、主力台湾線での競争激化や、香港での市民でも、日韓関係の悪化、期末の新型コロナウイルス感染拡大で需要が減退。売上高は対前年12.5%減/116億円減の819億円、旅客数は同10.6%減/86万4000人減の728万8000人、利用率は同3.2pt減の83.1%と、いずれも前年を下回った。

 これらを合わせた航空事業の年度累計成績は、売上高が対前年で766億円減の1兆7377億円、営業利益が同1110億円減の495億円となっている。

LCC(Peach Aviation)事業

 ただし、第4四半期の減収に対しては、国際線、国内線ともに需要動向に合わせて運航規模を調整することで運航変動費を抑制。国際線では1月下旬から中国線の運休/減便を開始し、アジア、欧米線へと順次対象を拡大して、運航便数を対前年で2月は1割減、3月は4割減とした。国内線も3月は約1割減の運航便数とした結果、第4四半期単独の営業費用は対前年で305億円減少させた。しかしながら、「売上高の減少規模がはるかに大きく」(福澤氏)、第4四半期単独の営業利益は対前年で738億円減の625億円の損失となっている。

 航空関連事業は、売上高が対前年2.9%減/83億円増の2994億円、営業利益が同37.7%減/49億円増の181億円となった。これには空港における旅客対応や地上支援業務の受託増加や、MRO Japanが連結子会社に加わったことなどによる。

 旅行事業は、店頭でのパンフレット商品を中心にする国内ツアーの売り上げが減少する一方で、国内/海外ともにインターネット販売の好調や、ゴールデンウィーク10連休の需要取り込みで第3四半期までは順調に推移。第4四半期に新型コロナの影響が出たことで、売上高は対前年4.5%減/67億円減の1439億円となった。ただ、システム費用の減少などで営業費用を圧縮。営業利益は対前年で129.9%減/7億円増の13億円となっている。

 商社事業は、航空電子部門の取り扱いは増えたが、訪日客減少に伴う空港物販店の不振により、売上高は対前年3.9%減/59億減の1447億円、営業利益は対前年21.5%減/7億円減の29億円となっている。

事業別の売上高/損益

 配当は当初、1株あたり75円を予定したが、現状の経営環境を踏まえて無配の予定とした。

 2021年3月期(2020年度)の業績予想は公表せず、福澤氏は「現時点では新型コロナウイルスの終息時期が不透明で、合理的な見積もりが不透明なため、発表を見送る。諸前提が定められる状況となり次第、開示する」とした。

 なお、新年度に入った4月の運航状況については、国内線は座席キロで対前年で約6割減、旅客数も同約9割減、利用率は2割以下。国際線は座席キロは同8割強の減、旅客数は同約9割強減、利用率は2割強という状況だという。「渡航制限、入国制限、移動制限がある厳しい状況のなかで新年度をスタートした」と説明した。

新型コロナウイルスの影響を受ける現状と、今年度の予測

 現在の資金繰りについて、連結貸借対照表における流動資産の現金および預金と有価証券を合わせた手元流動資金は3月末時点で2386億円。キャッシュフロー計算書における現金および現金同等物期末残高は1359億円となっている。

 福澤氏は「足下の旅客需要の低迷は当面継続することを見込み、すでに間接金融を中心とした借り入れや、コミットメントラインの増枠など、安定的かつ機動的な手元流動性資産の獲得に向けた対応を着実に進めている」とし、民間企業からの約1000億円の借り入れが行なわれているほか、民間金融機関とのコミットメントライン(融資枠)を3500億円増額した総額5000億円とする契約を締結したこと、3500億円の融資実行に向けた具体的な協議が日本政策投資銀行と行なわれていることなど、9500億円の手当の目処が付くと説明した。

連結財政状態と連結キャッシュフロー

 一方、「自助努力による営業費用の削減」にも努めるとし、運休/減便による生産量の抑制で約600億円、従業員の一時帰休などで300億円強、緊急のコスト削減対策を100億円以上と、1000億円規模の費用削減を実行。今後も深掘りしていくとしている。

 例えば、人件費抑制については、現在、グループ22社、3万5000人を対象に一時帰休制度を取り入れているが、5月末ぐらいまでに35社、4万2000人程度へ対象を拡大したいとしている。当面、「待遇面での一程度、従業員にいろいろな形のお願いをせざるを得ないが、雇用を維持しながら現在の危機を乗り越える」とのスタンスを示した。一方で、新卒採用については抑制を検討せざると得ない立ち位置であるとした。

 機材については、新機材の受領の後ろ倒しや、現有機について柔軟性を持って検討し、事業構造のあり方も検討していくとし、「基本的には国際線で成長する大きな方針は変わらないが、需要の大きなパラダイムシフトが起きているのも事実。投資抑制、キャッシュアウト抑制の観点からも、機材計画を柔軟に対応できる準備を積極的に検討することが必要なフェーズになっている。保守的に慎重に対応していく」とした。

 今後の需要回復の見込みついては、「現時点では見通せない」としつつ、IATA(国際航空運送協会)や定期航空協会が示している「前年の半分ほどの需要回復の仕方、売り上げ規模なるだろう」という情報を元にした現時点での想定を参考として披露。「特に国際線のリカバリは相当ゆっくりになるだろう」としたほか、「8月ぐらいの終息を前提に見たいと考えている。ただし、9月から一気に戻るわけではなく、徐々に回復し、2020年度末に5割から7割程度に留まると慎重に見ている」と話した。

 加えて、「国内線、国際線、国際線の国や地域、ビジネスとレジャーなどの違いで、時間差を持って需要が回復していくことを想定し、保守的に収支見通しを立てようと考えている」と現状想定しているシナリオを説明した。