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伊丹空港から那覇空港へ移転したMRO Japanの格納庫を見学。塗装のための専用スペースも

MRO Japanが大阪から沖縄へ事業所を移転し、1月7日から那覇空港に隣接した格納庫での事業をスタート

 航空機整備などMRO(Maintenance、Repair、Overhaul)事業を手がけるMRO Japanは、これまで伊丹空港に隣接するエリアに事業所、格納庫を設けて事業を展開してきたが、2019年1月7日から沖縄・那覇空港の滑走路脇に新たに建設された格納庫へ移転して事業を開始した。この格納庫を見学した。

 MRO Japanは2015年にANAHD(ANAホールディングス)の子会社として、ANA(全日本空輸)グループの保有機材を中心に航空機の整備事業などを展開してきた。今般、沖縄県の「沖縄県アジア経済戦略構想推進計画」に掲げられた航空産業クラスタの育成にANAグループが賛意を示したことで、沖縄県が「沖縄県航空機整備施設」という名称の格納庫を建設。MRO Japanがここに入居する形で移転した。見学にあたってMRO Japanの事業内容などを紹介した、MRO Japan 事業推進部 部長の佐々木泰史氏は、「通常、格納庫の建設には100億円単位の投資が必要になるが、沖縄県が代わってくれた」と、今回の移転実現の背景を説明する。

 佐々木氏の説明のなかで、沖縄県に移転した理由としては大きく3点が挙げられ、1つは上記の格納庫を沖縄県が建設したこと。

 2つ目は地理的な観点。これまでの伊丹空港から那覇空港へ移転することで、東アジアの中心に位置する場所に拠点を構えることになる。LCCで多く利用されているエアバス A320型機、ボーイング 737型機の航続距離がおおむね3000~4000kmの範囲であり、沖縄を中心に東アジア/東南アジア圏を広くカバーできる。LCCの需要拡大もあり、市場を広げて事業拡大を図る狙いだ。

 ちなみに、MRO Japanは現在、事業認可を国土交通省 航空局からのみ受け、ボーイング 737/767/777/787型機、エアバス A320型機の系列、ボンバルディア DHC-8-400型機の系列、三菱航空機のMRJについて整備が可能となっている。MRJについては、三菱航空機により、アジアにおける「推奨機体MRO」にも選定されている。

 とはいえ、海外航空会社や航空機リース会社が整備委託先の要件としている、米国FAAや欧州のEASAといった当局の認可を受けていないことは課題となる。この点について佐々木氏は、「2020年度中にEASAの取得をする予定。これにより顧客の幅が広がる」との計画を紹介した。

 沖縄移転の理由3つ目は、沖縄県における雇用のニーズで、観光産業が盛んな沖縄県は3次産業の労働力は需要が高いものの、2次産業の需要が低いという課題がある。MRO Japanは沖縄県出身者を中心に採用を進めており、2016年からの3年間で67名を採用(現在はそのうち55名が在籍)。3割が大学/専門学校/高等専門学校の卒業生、7割が高校卒とのこと。高卒生の採用は今後も積極的に行ない、整備士の育成を図っていく方針だ。

 なお、出身高校の学科も工業系ではなく普通科からの採用も多く、さらに石垣島、宮古島などの離島出身者も多いという。高校卒での就職ということで大学受験を経ていないスタッフとなるが、整備士のスキル習得や資格取得には大学受験並みの勉強が必要になることで、大変な思いをしているスタッフも多いというが、MRO Japanでは「専門の教官がいて、教育の環境を整えている」という。

 ちなみに同社全体の従業員は260名前後であり、現在は4割ほどが沖縄県出身者となっている。MRO Japanでは、今後も毎年20~30名を採用し、ANAグループからの出向者は徐々に減っていくことで、沖縄県出身者の比率はさらに高まる見込み。2019年4月には24名(うち23名が沖縄県出身者)を採用する予定になっている。

那覇空港ターミナルビルから見たMRO Japanの格納庫
沖縄県が建設した「沖縄県航空機整備施設」に入居している
MRO Japan株式会社 事業推進部 部長 佐々木泰史氏

 MRO Japanはこの沖縄移転を機に第三者割当増資を行ない、それまでの資本金1000万円から、10億円へと増資。増資分の一部はANAHDも引き受けているが、出資比率は100%から45%へと下がり、ジャムコが25%、三菱重工業20%となったほか、沖縄県の団体・企業である沖縄振興開発金融公庫、琉球銀行、沖縄銀行、沖縄海邦銀行、沖縄電力が各2%を保有。ANAグループのMRO事業会社という立ち位置から、より主体的に運営を進める企業体制になった。

 現在の事業の主体は、いわゆるA整備、C整備と呼ばれる、航空法で航空機の飛行時間に応じて点検を実施する定期整備を中心に、その付帯整備や構造整備などを受託。航空機にトラブルが生じて航空会社の整備部門よりも立地的優位性がある場合にMRO Japanの整備士が対応するような業務も受託している。

 また、那覇空港への移転に伴い、ライン整備の依頼などもあるという。これまではANAやピーチ(Peach Aviation)からの依頼で不定期にライン整備を行なうこともあったというが、今後は恒常的に受託することも計画している。

小型機5機+塗装が可能な大型機対応のエリアを有する格納庫

 沖縄県が整備し、MRO Japanが入居した新たな格納庫は、幅200m、奥行きが94m、高さが33m強というサイズで、対応できる機体整備は羽田空港の整備部門の約2倍の能力を持つという。

 伊丹空港からの移転にあたって、車両や足場など伊丹空港で使用していた設備も多く輸送。10月初旬から12月中旬の約2か月半をかけて、船便を中心にコンテナ200個以上を輸送したそうだ。特に大型機の垂直尾翼の整備作業に利用する足場は運送会社から「オフィス移転では日本一でないかというサイズと言われた」(佐々木氏)という大規模な移転作業が行なわれた。

 なお、足場のほか、作業用車両やジャッキなど、伊丹空港の格納庫で使用していたものの多くを那覇空港の格納庫でも使用している。

車両やジャッキなどは伊丹空港の格納庫で使っていたものを引き続き使用している
MRO Japan格納庫の模型。中央付近の仕切りを挟み、向かって左が南側の小型機用格納庫、右が北側の塗装&大型機対応の格納庫

 格納庫は大きく2つのエリアに分かれており、南側のエリアは、エアバス A320型機やボーイング 737型機ならびにより小型の航空機に対応する格納庫で、3機の航空機を同時に整備が可能。さらに台風などの際には、避難などの目的で最大5機を収容することができる。

 見学時にはANAのボーイング 737-800型機がC整備に入っており、シートなどもすべて取り外された状態で整備が行なわれていた。

 なお、このボーイング 737-800型機はもっとも北側のスペースに入り口向きに停められていた。3機が整備に入った場合は、両脇の2機が入り口を向き、中央の1機が奥を向く格好で収容されるそうだ。

小型機用の格納庫
小型機用の格納庫。整備時は3機を収容。最大で5機収容できる
奥にある垂直尾翼用の足場は常設されており、整備対象機が入ったら機体に近付ける。ちなみに、写真左の手前にある足場は、機体が入ったあとに組んだもの
見学時は空いていた南側2機分のスペース
整備中のボーイング 737-800型機(登録記号:JA56AN)
垂直尾翼の足場
専用に組んだ足場でWi-Fiアンテナ付近の整備
ウィングレットに対応した足場
整備中のエンジン
C整備では機内外のさまざまな装備品を取り外して整備が行なわれる

 北側のエリアは塗装をするための専用設備を備えた大型機対応の格納庫となっている。対応できる大型機はボーイング 777型機クラスで、エアバス A380型機は対応できない。こちらは大型機、小型機を問わず1機のみ格納できる。

 この格納庫は、塗装に対応するため、換気や排水のシステムが充実しているのが特徴。天井や壁面などにダクトが多く見られるほか、床にも通風口を備えている。

 ちなみに、かなり広いスペースとなっているが、大型機であろうが、小型機であろうが、基本的には1機のみを収容して作業を行なうことを想定しているという。

 見学時にはボンバルディア Q400(DHC-8-Q400)型機が再塗装のためにドックインしており、ちょうど塗装が剥がされたベアメタルの状態になっていた。

塗装&大型機に対応した北側の格納庫
ボーイング 777-9Xまで対応できる広さ。小型機のボンバルディア Q400型機が入っているので大きさをイメージしやすいと思う
天井や壁面などに換気用のダクトを設けている
換気のために設けられた床面の通風口
こちらは排水溝
再塗装作業中のボンバルディア Q400型機
ほとんどの塗装が剥がされベアメタルの状態になっている