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ANAと三菱地所、テレワークで観光案内所を運営する実証実験スタート。アバターを「観光」に活用

2020年2月26日~28日 実施

ANAHDと三菱地所が、観光案内所の無人営業に向けた「遠隔操作営業の実証実験」をスタート

 ANAHD(ANAホールディングス)と三菱地所は、訪日外国人向け総合観光案内所「JNTO TIC(ツーリスト・インフォメーション・センター」で、遠隔地から観光案内サービスを提供する「遠隔操作営業の実証実験」を2月26日~28日に実施している。

 JNTO TICは2012年1月に現在の場所で営業を開始し、2018年11月からは日本文化を体験できるコーナーや、自然災害時の防災施設としての役割を持たせるなど大幅にリニューアルしている。

 三菱地所 街ブランド推進部 専任部長の大谷典之氏によると、リニューアル後は欧米豪の個人旅行客を中心に、来訪者が増加している増加という一方で、課題もあるという。

 その一つが、自然災害時に対応するスタッフが出勤できない状況があること。実際に2019年の東日本台風(台風19号)の際には公共交通機関の計画運休が2日間行なわれ、1日目はスタッフが来られなかったことから休業とし、2日目はシフトをやりくりして出勤できるスタッフにより営業したという。こうした状況下こそ訪日外国人が情報を得られる場としてJNTO TICの重要性が高まるのは言うまでもなく、それをスタッフの負担を軽減して実現することを目指している。

 また、訪日外国人向けの案内所ということで高度な言語スキルが求められることから、東京に所在するJNTO TICでも常に人手不足だという。スキルを持つスタッフが在宅でも利用者に対応でき、かつ1人で複数の案内所の対応をできるようになればサービス向上にもつながる。

 こうした課題を解決するために、すでにアバターの実証実験を重ねた実績のあるANAHDとタッグを組み、コミュニケーション型アバター「newme」を活用して、遠隔での接遇業務や、施設の解錠/施錠、電気の点灯/消灯などを操作し、課題を洗い出すのが今回の目的となる。

案内所を訪れた外国人をnewmeが出迎え、遠隔地にいるスタッフが接遇
newmeが自走し、観光ガイドブックがある場所へ誘導
ガイドブックを見ながら遠隔で鉄道の乗り継ぎ案内をした
遠隔地からnewmeを通じて接遇するスタッフ

 三菱地所では今回の実証実験を通じて、例えばnewmeの画面のサイズ感や、誘導/コミュニケーションの円滑さ、ネットワーク環境などの設備の動作といった面での“気付き”を得て、ANAHDがそのフィードバックを受けて、現場でより実践的に使えるnewmeにバージョンアップしていくという協力関係を組んでいるという。

 ANAHD アバター準備室 ディレクターの梶谷ケビン氏は、「今回は『観光』というエリアにフォーカスして実証実験を行なう。このユースケースは非常に可能性があると思っている。JNTO TICは訪日観光客が情報を集める重要な場所だと思う。アバターを使えば遠隔もしくは自宅から案内業務ができるようになる。必要なときに必要な情報を。そして日本のおもてなしをいつでも提供できるようになるのは意味がある。将来的には東京だけでなく、日本全国の観光案内所や観光名所にアバターを導入することで、国内外の観光客に日本の魅力を発信できるようになれば」と期待し、「新しい未来への第一歩」と表現した。

三菱地所株式会社 街ブランド推進部 専任部長 大谷典之氏
ANAホールディングス株式会社 アバター準備室 ディレクター 梶谷ケビン氏

 さらに今回、三菱地所が出資している「LiveSmart」社が提供するスマートホームプラットフォームも活用。同社が提供するスマートホームハブである「LS Mini」を使ってテレビのオン/オフを行なっているほか、岩崎電気の遠隔照明、セサミの後付けスマートロックを、一つのアプリケーション上で遠隔操作できるようにしている。

 LiveSmartのアプリ側で複数のベンダーのスマートホーム向けハードウェアを組み込む格好となっていることから、数万円のオーダーという低コストでハードウェアをそろえているのも特徴となっており、JNTO TICでの事例を国内外へ展開する際に、多大なコストをかけずに実現できることも一つのアピール材料になる。

所内の照明、テレビ、カギを一元的に遠隔操作できるLiveSmartのアプリ
ライブカメラの映像も視聴可能
LiveSmartのスマートホームハブ「LS Mini」
スマホからテレビと照明のオン/オフを実行。テレビはLS Miniから赤外線を使って操作している
岩崎電気の照明「Link-S2」を操作。タブレットでスイッチを押すと照明がオン/オフする
後付け可能なセサミのスマートロック。こちらもLiveSmartのアプリから操作

 大谷氏は「ちょっと先の未来にはなるが」としつつも、「将来的には、案内所は無人で、遠隔地から笑顔で接客できることが、数年後に実現できるのでは。それをANAさんと一緒に目指したい」と話す。

 もちろん課題もあり、「コストを抑えて、安定した動作を実現するところが課題。ほぼ大丈夫だが、扉がほんの少しズレてカギが掛からないといったことがあり、間違いがあってはいけない場所では不安が残る」といった点を挙げた。そのため、無人化に向けては、例えば高度スキルを持つスタッフのみの在宅化からスタートするなど、「複数のフェーズに分けて段階的に無人化していくことになると思う」としている。

JNTO TICの遠隔操作営業の様子(映像提供:三菱地所)