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MRJが飛行試験を行なう予定の米ワシントン州モーゼスレイクの「グラント・カウンティ国際空港」を見学

 リージョナルジェット「MRJ」の開発拠点として、三菱航空機がアメリカ・ワシントン州・シアトルに、シアトル・エンジニアリング・センターを開設したのは既報のとおり。併せて三菱航空機では、MRJのアメリカにおける開発拠点として、同じワシントン州のモーゼスレイクにある「Grant County International Airport」(グラント・カウンティ国際空港)を飛行試験の拠点として使用することを発表している。8月3日(米国時間)に行なわれた記念式典の翌日となる8月4日(同)、このグラント・カウンティ国際空港や建設中のハンガーの見学会が実施された。

 グラント・カウンティ国際空港があるモーゼスレイクまでは、シアトルから車で3時間ほど。別記事で同空港に触れた際に“シアトル郊外”と形容したのだが、実際に訪れてみると“郊外”と表現するには少々遠かったかも知れないと思っている。とはいえ、インターステイト90号線をひたすら走るだけなので、時間がそれなりにかかるだけで複雑なルートというわけではない。

 このグラント・カウンティ国際空港は日本との関わりも深く、JAL(日本航空)がボーイング 747の操縦訓練プログラムを1968年から2009年までの約40年間に渡って実施していた。

 さらに今回、米国パートナーのAeroTECを介して三菱航空機が本空港を拠点として使用するわけだが、空港周辺にはシートベルトなどの自動車用安全システムメーカーとして知られるタカタ(TAKATA)や、多摩化学工業や富士化学工業、日本ケミコンといったケミカルメーカーの現地法人が立地している。

 また、同空港の脇にある学校「ビッグ・ベンド・コミュニティー・カレッジ」では、日本人の農業研修留学プログラムを実施するなど、経済、文化の両面で日本との関わりが非常に深い空港といえる。

グラント・カウンティ国際空港の一角に建設中のハンガー

MRJの飛行試験における拠点の1つとなるグラント・カウンティ国際空港に建設中のハンガー

 三菱航空機のアメリカのパートナーであるAeroTECが、このグラント・カウンティ国際空港に建設中のハンガー(格納庫)は、6万5000平方フィートの敷地面積を持つ。

 ここに、3機のMRJを格納できる。中央の奥に1機、左右手前に2機で計3機という格納方法になるという。ちなみに、格納庫の入り口中央が、飛行機の垂直尾翼の高さに合わせて高く取られているのが分かる。これは将来的にAeroTECが、別の機体のメンテナンスなどを受託することを見据えて、大型機にも対応させているとのことだ。

 内部では複数の重機が作業を行なっていた。MRJのアメリカでの飛行試験は2016年第2四半期の開始を予定しているが、このハンガーは今秋には完成の予定。それに向けて作業が進められていることになる。

ハンガーの全景
MRJを3機格納できる大きさとなっている
入り口は大型の航空機にも対応できる設計
建設中のハンガーを奥側から見た様子
こちらは手前側から奥に向かって見た様子
資材が山積みになっており、重機によって高所の作業が進められている。完成は今秋の予定だ

滑走路は5本、最大4113mとアメリカ最大級を誇る空港で高頻度テストを実施

ターミナルビル内に展示されていた航空写真。上下に伸びるのがメインの滑走路

 三菱航空機がグラント・カウンティ国際空港を飛行試験のベースとして選んだ理由に、短期間で型式証明に必要な飛行時間を達成するために、高頻度のテストを行なえる空港であることが挙げられている。

 グラント・カウンティ国際空港は、全部で5本の滑走路を持つが、そのメインとなるのがアメリカでも最大級という約4113m(1万3053フィート)の長さを持つ14L/32R滑走路である。次いで長い滑走路は、14L/32Rに交差して設けられている04/22滑走路で、1万フィート(約3048m)の長さを持つ。

 メインの滑走路はILS(計器着陸システム)のカテゴリIに対応。三菱航空機のプレゼンテーションでは、天候の条件がよいことも同空港選定の理由に挙げていたが、モーゼスレーク港湾局の担当者も同様に、視界が極端に悪化することがないため高精度なカテゴリIIやIIIといったILSでなくとも十分に対応できると話していた。

 また、同空港のトラフィック(離発着)は、2013年実績で7万8253回。24時間運用可能で、全体のトラフィックが10万回未満、そして、すべてのトラフィックがメインの滑走路を使用しているわけではないことを考えると、混雑していない空港で、柔軟に飛行試験を実施できるということもメリットになる。

滑走路に降り立って撮影。向いている方向は、写真左が14滑走路、写真右が32滑走路の方向となる
こちらはバスで移動中に撮影したもので、写真左が14滑走路、写真右が32滑走路のエンド部分
滑走路には雨天時に水はけをよくするための溝が掘られている。滑走路でも一部エリアのみ、こうした処理が施されているという
メインの滑走路と交差する04/22滑走路
電波によって空港までの方向と距離を示すVOR/DME(VHF Omnidirectional Range/Distance Measuring Equipment)の地上施設

空港用消防車「パンター」の放水デモなど

 見学会では、消防設備についての説明もあった。同空港には、オーストリアのローゼンバウアー製消防車で、国内空港でもおなじみの「パンター」(Panther)が配備されている。24時間空港らしく夜間でも視認性のよい黄色にペイントされてたボディが目に留まる。

 このデモンストレーションも行なわれ、角度を自在に操って遠距離まで放水可能なことが、高速走行しながらの放水を披露した。

グラント・カウンティ国際空港に配備されている消防車
主力はオーストリアのローゼンバウアー製消防車「パンター」
ノズル部分。駐車中だったので横向きに収納されている。右側の「FLIR」と書かれている装置は赤外線カメラ
モーゼスレイク港湾局のロゴが描かれている
パンターの後方部
タイヤはミシュラン製
運転席
ノズルの操作を行なうスティック
赤外線カメラにより熱を発している部分を捉えることができる。表示色も切り替え可能
ノズルの角度を変えての放水でも
遠距離の放水
走行しながらの放水

 最後に、グラント・カウンティ国際空港で見かけた飛行機を紹介しておこう。来年の今頃には、ここにMRJの姿もあるはずだ。

この日はアメリカ空軍の輸送機「C17」が頻繁にフライトを繰り返していた
第2次世界大戦前後に活躍した飛行艇「PBY」。「カタリナ」の愛称で知られる。この機体は、現在でも飛行可能な状態にメンテナンスされているという
ボーイング 757型機をベースにした環境性能検証機「エコデモンストレーター」。現在はリサイクル検証のフェーズに移っているとのことだ
冒頭触れた「ビッグ・ベンド・コミュニティー・カレッジ」では航空機整備の課程もあり、同校所有の航空機も運用している
超音速飛行が可能なジェットエンジン搭載の訓練機「T-38」。写真の機体はボーイングが飛行中の航空機の撮影やサポートなどを行なう随伴機、いわゆる「チェイス・プレーン」として使用しているもの
(編集部:多和田新也)