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MRJ初飛行は「大成功」。機長は「飛行機が飛びたいと言っているような感じ」と感想
(2015/11/12 17:02)
- 2015年11月11日 実施
三菱航空機が開発を進めてきた国産リージョナルジェット旅客機「MRJ」が11月11日に初飛行を行なった。終了後の記者会見で三菱航空機 代表取締役社長の森本浩通氏は「成功、それも大成功に近いと考えている」と喜びを示した。
初飛行については離陸直後にレポート記事をお届けしているが、記者会見で三菱航空機 取締役副社長の岸信夫氏から試験内容の詳細な報告があった。
それによると、離陸時刻は9時35分、着陸時刻は11時02分で、飛行時間は1時間27分。当初予定していたよりも若干短いフライトとなったそうだが、チーフテストパイロットを務めた安村佳之氏によれば「余裕があれば実施する追加の試験項目を予定しており、もう少し粘れば実施できたが、それよりも、このタイミングで帰った方がよいという判断をした。着陸に際して必要な試験項目ではなく、元々スキップしてもよい項目の一部を持ち帰ったもの」と説明した。
搭乗員は5名で、チーフテストパイロットの安村佳之氏のほか、テストパイロットの戸田和男氏、計測員としてエンジニアが3名搭乗。太平洋上にある防衛省の飛行訓練空域で、上昇、下降、左右の旋回、着陸の模擬、基本的な特性の確認を行なった。最高高度は1万5000フィート(約4500m)、最高速度は150ノット(約280km/h)。脚ならびにフラップ、スラットは下げ位置に固定したまま試験し、スラストリバーサー(エンジンの逆推力装置)は作動させずに着陸。「ほぼ計画どおりに試験を完了した」(岸氏)と報告した。
飛行に際しては、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の実験用航空機「飛翔」による天候偵察が行なわれたほか、航空自衛隊 岐阜基地所属の練習機「T-4」、三菱重工業の「ビーチ 400」が随伴機としてともにフライト。地上で初飛行を見守った人は、関係者172名、報道関係者177名の計349名。もちろん、三菱重工業/航空機関係者の多数も集まっていた。
【お詫びと訂正】初出時、T-4の説明に誤りがありましたので修正いたしました。お詫びして訂正いたします。
着陸後、タラップに姿を見せたチーフテストパイロットの安村佳之氏は両手を、戸田氏は片手を挙げて拍手に応えたが、記者会見で安村氏は「飛行機をとめて地上にいるメンテナンススタッフとインターフォンを繋いでコミュニケーションをしたとき、『どういう風に出ると皆さん喜びますかねぇ?』と聞いたら、『それはもう手を上げるしかないでしょう』と言われたので、『やるしかないね』ということで、両手を挙げて、皆さんに『成功しました』ということを報告するために、そのようなスタイルにした」と笑顔を見せて裏話を明かした。
その後、三菱重工業の地上の整備スタッフや、三菱重工業 会長の大宮英明氏、同取締役 副社長執行役員 ドメインCEO 交通・輸送ドメイン長の鯨井洋一氏、森本浩通 三菱航空機社長らと握手を交わして喜びを分かち合った。
2017年第2四半期の納入スケジュールは予定どおり
終了後に行なわれた記者会見では、森本氏が「秋晴れのなか、まさにMRJの美しい機体が、青空へ飛び立つ姿を皆さんとともに見送ることができ、開発に携わる者として、これ以上かけがえのない喜びと思っている。これまで多くの方々から、いったいいつ飛ぶんだという質問を多々いただき、ご心配をおかけしたが、期待にお応えできてほっとしているのが率直なところ」と喜びと安堵が入り交じった胸の内を披露。
一方で「半世紀ぶりの国産旅客機の開発ということで予想以上に時間を要したが、ゼロからのスタートという意味においては、よくここまできたなという思いもしている。とは申しても、初飛行は文字どおりあくまで飛行試験の開始。これから数千時間におよぶ飛行試験を経て、型式証明の取得、そして初号機の納入とまだまだ道のりが続いている。本日の喜びを糧に、また明日から社員一同、ゴールに向かって邁進していきたいと思っている」と気持ちを引き締めていた。
初飛行後のセールス活動については、「初飛行したから受注がすぐに……というシンプルなビジネスではないが、今まで“紙飛行機”だったものが現実に空を舞ったことは大きなインパクトがあり、お客様にも説得力のあるセールス活動に繋げられると考えている。今回の初飛行を励みに、これからさらに受注活動に注力し、その結果が注文に結びつけばよいと考えている」とコメント。さらに、現在日本から営業活動を行なっているアジア圏については、今後の成長を考え、アジアのどこかに拠点を置くような体制を検討するとの考えも示した。
今後の試験について、岸氏は「飛行試験は今日が初めて、これから2500時間の試験をこなしていく。飛んでみて初めて分かることを改善しながら、決められたスケジュールのなかできっちりとよりよい飛行機にしていく。これをスケジュールどおりにこなしていくために、計画しているフライトを連続してやっていく。もちろん地上試験の一部も残っているし、型式証明に向けた文書を作るという作業もあるが、なんといっても飛行試験を計画どおり行ない、データをきっちり分析し、次に反映するため、アメリカでの飛行試験の役割に重心を移すことを加速する。すなわちモーゼスレイクでのフライトテスト、それを支えるシアトル・エンジニアリング・センター、名古屋の設計部門、これを適正な配分にし、もし不足人員があれば、必要であれば外国人を含めて充足していくということを加速していきたい」とした。
さらに、質疑応答では「ほとんどの延期の記者会見などに出ていて、その時に判明した事項をスケジュールに反映してきたが、そのたびに悔しい思いで、次こそはきっちりやろうとしてきた。今回は、最後に2週間……延期というか変更はあったが、きっちりとスケジュールに、ほぼ約束を守れたと思っている」と胸をなで下ろした様子もあった。
また、森本氏は「今回の初飛行の取り組みは今のところ初号機納入に影響がないスケジュールを維持しているが、残された時間が以前よりもタイトになっているのも、これはこれで否定できないところ。そのために、アメリカで頻度を上げて試験を実施することで飛行試験を短縮する。そうしたばん回策によって、2017年第2四半期の納入というのは可能と考えている。開発なので、どういう事象が出るかは見えない部分があるが、今の次点で納期を変えるつもりはなく、それに向かって邁進していく」と、現在予定されているスケジュールどおりの納入計画を進める意向を示している。
「飛行機が飛びたいと言っているような感じでふわっと浮き上がった」
今回の初飛行について、チーフパイロットを務めた安村氏は「先週までハイスピードタキシー(高速地上走行)を含めて地上走行試験を進めてきたが、本日は離陸速度に達したら、飛行機が飛びたいと言っているような感じでふわっと浮き上がった。天気も良好だったので、上昇するときは非常に安定した状態だった。シミュレータで訓練、検証を数年間に渡り行なってきたが、まさにシミュレータのとおり飛行機が飛んでいく感じで、まったく違和感がなかった」とコメント。
さらに、「そのあと空域まで行き、着陸のシミュレーションなどを行なって、着陸になったが、本日は若干風のゆらぎがあり、着陸進入中、若干機体が揺れた。ただ、これに対して操縦の修正など、私が経験した機体のなかでもトップクラスと言えるぐらいの操縦性、安定性があった。それ以降、まったく問題なく着陸できた」と説明した。
質疑応答で乗り心地についてのコメントを求められると、「パイロットは飛行機が自分の意図どおりに飛べるかどうかを乗り心地として判断している」としたうえで、「安定性がどうか、意図どおりに動けるか、意図した以上に動きすぎていないか、という見方をする。まず安定性については、離陸直後から空域に行って着陸するまで飛行機自体はすごく安定していた。手を離してもほぼまっすぐ、あまり揺れもせずに飛べる。意図どおり飛べるか動けるかについては、コントーラビリティチェックということで旋回や上昇、降下をしたりなど若干大きめの入力して機体の状況を確かめたが、非常にレスポンスよく動いた。着陸のとき、風は弱かったが、若干“息”があって、ピッチ(前後の傾き)とロール(左右の傾き)に若干揺れながらアプローチしたが、機体自身がみずから立て直そうとする力、パイロットが操縦桿を動かしたときの特性、どちらも素晴らしかった。今日、1時間半程度だが飛行機を触って、非常に高いポテンシャルを持っていると感じている。これから厳しい試験が続いていくが、必ずや素晴らしい飛行機ができあがって、みなさんにお届けできると確信を得ることができた」とMRJを評価した。
また、初飛行の日をどのような思いで迎えたかを問われると、安村氏は「緊張や不安はなかった。朝早く来て、エンジンをかけて、走って、ブリーフィングしてまた走行という、地上走行試験を毎日のように継続してきた。今日に向けても、ここ数日間はシミュレータでのトレーニング、実機の確認などを日々やってきており、いろんなことを考える余裕がなかったのが現実だが、個人としては早く飛びたくて仕方なく、わくわくして今日の日を迎えた。ただし、どこかで緊張感があったのか、夜はあまり寝られなかった。2時頃に目が覚めて、ほとんど寝られなかった」と述べたほか、同乗した戸田氏は「今日の日を首を長くして待っていた。これまでも飛行に向けた準備を積み重ねてきたが、飛行試験のために各分野の人達、パイロットを含めて、設計、整備、製造などの各方面の方々の力の結晶が今日ということで、みんなの力を合わせて、やっとこの日を迎えられたという印象」と、両名とも期待が高まった状態で初飛行を迎えた様子を言葉に表わした。
一方、エンジニアリングを統括している岸氏は、「安心してくださいとパイロットに言っているが、私自身は不安で不安で仕方なかった。エンジニアは概して心配性で、これがこうなったらどうだとか、こうなったらこうしようとか、常に考えている。初飛行をきっちり成功させて、機体が安全に帰ってくるのはもちろんだが、もし何かがあった時には乗組員を絶対に安全にかえす。そのためには何をするのか。そうすると、実は心配で心配で……。一方で、よくここまで飛行機ができあがったなという気持ちもあって、2つの気持ちが入り混ざっていた。パイロットが2時に目が覚めたと話していたが、私も2時半ぐらいに目が覚めて、メールなどを見てしまうとまた寝られなくなる状態だった。もう少し言うと、高速地上走行試験から心配だった」と不安のなかで迎えた初飛行だったことを吐露。この日は飛行試験のデータをテレメタリーでモニターする部屋の横で、飛行機の状態や、飛行機の実際の機上映像などを見て、まさかの事態に備えていたという。
安村氏は飛行中の景色や着陸について訊ねられると、「試験に集中していたので、実はあまり外は見えていなかったが、空域に進出していくとき南向きに飛んでいくので、そういえば左側に富士山が見えるはずだな、と思って見たら、非常に美しい富士山がくっきりと見えた。その時、ふと我に返って感動を覚えた。帰りに名古屋空港に向かって飛行降下をしたが、ふるさとに帰っていくようなイメージで、みんなに素晴らしい着陸を見せたいと思いながら帰ってきた」「自分で言うのもなんだが、最高の着陸だったと思っている。MRJのポテンシャルが素晴らしいからできたことだと考えている」と答え、MRJの機体に自信を見せた。