【イベントレポート】パリ航空ショー2015

三菱航空機、「MRJ」のフライトデッキ・ビデオ・デモンストレータ初公開

進捗状況説明のほか、最新仕様の客室モックアップも展示

2015年6月15日~6月21日(現地時間) 開催

6月8日、初の地上走行試験が行なわれた「MRJ」

 三菱航空機は6月17日(現地時間)、パリ航空ショーにおいて開発中の旅客機「MRJ」の進捗状況について発表した

 MRJは70~90席級のリージョナルジェット機で、プラット・アンド・ホイットニー製「PW1400G」ギヤードターボファンエンジンや機体空力性能により、同クラスの従来機と比較して燃料消費を20%低減でき、また騒音も40%軽減されるとしている。

 初号機は2014年10月にロールアウトし、2015年6月8日には初の地上走行試験(Low-speed Taxing Test)を実施した。地上走行試験を開始したことについて、会見した三菱航空機の商品戦略グループ 神谷英行グループリーダーは、「A small step but a big step for us to flight test(小さなステップだが、我々にとっては飛行試験に向けて大きなステップだ)」とコメントした。

初号機による地上走行試験のビデオ(提供:三菱航空機)

 飛行試験は5機の試験機により行なわれる予定で、各機の状況は下記のとおり。

  • 初号機:地上走行試験を含め各種試験を実施中
  • 2号機:全機の機能試験、技術試験を実施中
  • 3号機:脚の取り付けが完了し、艤装作業中
  • 4号機:翼胴結合作業中
  • 5号機:胴体結合が完了

 飛行試験5号機には、ローンチカスタマーであるANA(全日本空輸)の塗装が施されたが、あくまで飛行試験機であるため、納入機とはならない。

地上試験・飛行試験のスケジュール
ANA塗装が施された飛行試験5号機

 飛行試験は、日本の小牧飛行場の他、米国のモーゼスレイクを拠点として米国内の4~5カ所の空港で高地試験や高温環境試験を実施する。

 飛行試験のほかに地上での荷重試験も進行中で、静荷重試験はすでに実施されており、また疲労試験は2015年度第3四半期頃より開始するとのこと。

米国での試験予定地
静荷重試験の様子

 現在試験や製造が行なわれているのは90席級の「MRJ 90」であるが、胴体短縮形の70席級「MRJ 70」の開発も進められており、MRJ 90の納入開始後1年程度でMRJ 70の納入も開始できる見込みであるという。MRJ 70は最大離陸重量が8万6000lbsで、長い航続距離を活かして北米の長距離路線市場を狙う。さらに、胴体延長型の100席級「MRJ 100X」も計画されているが、市場の動向や顧客の要望を鑑み、開発に踏み切るかを検討中である。

MRJシリーズラインアップ

 現在までに、MRJはANAやJAL(日本航空)をはじめとする航空会社から、確定223機、オプション184機の受注を得ている。今回のパリ航空ショーでも新たな受注の獲得が期待されていたが、残念ながらその発表はなかった。新規受注を獲得できなかったことに関して、三菱航空機の森本浩通社長は、「まだ初飛行を行なえていない状態。多くの顧客から、早く初飛行をしてほしいとの声を聞いている。開発は順調だが、顧客としては初飛行を見て購入を決めたいと思っている。初飛行をすれば購入を決断すると考えており、時間の問題だ」との考えを示した。

 三菱航空機は、今後20年での70~100席級旅客機の需要を5190機と予測しており、その半分のシェアを獲得したいと考えている。会見では「MRJは新世代の航空機であり多くの長所があるので、半分のシェアを獲得する能力があると考えている」とコメントしたが、ライバルメーカーも次々とこのクラスの市場参入を表明している中で半分のシェアを獲得するためのハードルは非常に高いだろう。

 量産に向けて、MRJの最終組立工場も名古屋で建設が始まっており、2016年から稼働開始予定であるとのこと。産業用ロボットを用いた低コスト化やムービングラインによる効率化が図られ、12機を同時に組み立てられるという。量産立ち上げ時は月産1機のペースで、受注状況に応じて生産ペースを加速し、最終的には月産10機程度を目指す。

三菱航空機による市場予測
名古屋に建設中のMRJ最終組立工場
会見した三菱航空機 森本浩通社長
質疑に答える三菱航空機 商品戦略グループ 神谷英行グループリーダー
MRJの概要と特徴の説明

 会見の後には、フライトデッキ・ビデオ・デモンストレータと客室モックアップが公開された。

 フライトデッキ・ビデオ・デモンストレータは、コックピットに表示される画面類のデモンストレーションで、今回が初の公開となる。コックピットの画面表示を含め、アビオニクスはロックウェル・コリンズとの共同開発で、パイロットが欲しい情報に容易にアクセスでき、また容易に理解できる表示により、パイロットの負担軽減を目指している。

初公開されたフライトデッキ・ビデオ・デモンストレータ

 客室については、配置や寸法などはこれまでに公開されたものと変更ないが、シート表面の素材と色を見直し、座り心地と開放感を向上させたという。シート配置は、上級クラスでは2-1の横3席配列、エコノミークラスでは2-2の横4席配列。MRJの客室は高さ、幅ともクラス最大で、シート幅やオーバーヘッドコンパートメントの容量もクラス最大となる。

客室モックアップ全景。手前が上級クラスで、奥がエコノミークラス
オーバーヘッドビンと照明。照明はLEDを採用している
上級クラス座席
エコノミークラス座席。手前がシートピッチ32inch、奥が29inch
エコノミークラス座席。手前がシートピッチ31inch、奥が30inch
シートピッチ31inchの座席
シートピッチ30inchの座席
シートピッチ29inchの座席
機体後部に設置されたギャレー
機体後部のラバトリーは、車椅子でも利用可能
客室に関する説明

【お詫びと訂正】初出時、組み立て工場の同時組み立て台数に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

外江 彩