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MRJ、“いま分かっていることを反映してから”9月~10月に初飛行へ
試験機の5号機はANAカラーに
(2015/4/10 22:12)
- 2015年4月10日 発表
三菱重工業および三菱航空機は4月10日、国産ジェット旅客機「MRJ」の開発状況などに関する記者会見を開催した。5月~6月が見込まれていた初飛行の延期が4月8日付けの一部報道で伝えられたが、これを認める一方、理由は開発プロセスの見直しであることを説明した。
ちなみに、MRJの事業については、三菱重工業の交通・輸送ドメインにMRJ事業部を発足。三菱航空機の取締役副社長兼執行役員である岸信夫氏が、三菱重工業 交通・輸送ドメイン MRJ事業部長を兼務する。
三菱航空機内では、三菱重工業 常務執行役員 交通・輸送ドメイン 副ドメイン長である森本浩通氏が三菱航空機代表取締役社長を兼務。開発や三菱重工業内のMRJ事業を担当する岸信夫副社長、主に営業を担当する堀口幸範副社長という体制となる。森本氏は「重工と航空機がクルマの両輪のように一体となって事業を推進していく」と説明した。
また、2015年1月には、それまで三菱重工業の大江工場内に置いていた三菱航空機の本社機能を、県営名古屋空港ターミナルビル内へ移転。県営名古屋空港は、試験機製造や各種試験が行なわれる工場に隣接した場所であるほか、現在ターミナルそばには、量産工場となる「小牧南新工場」を建設中。約1500名の従業員をワンフロアに集約し、業務の効率化を図っている。
初飛行の延期は開発プロセス見直しのため、飛行試験5号機はANAカラー
開発状況については、岸副社長より説明があった。一部報道により話題になった初飛行については、当初5月~6月を見込んでいたが、これを9月~10月に見直すことを正式に表明。理由について「飛行試験が始まってから、結果のフィードバックを数回予定していたが、いま分かっているものについては初飛行の前にフィードバックし、初飛行直後から有効なデータ取得を行なう計画にした」と説明した。
「あくまで一例」として紹介されたのが非常用発電装置の取り付け部分の構造で、板を増やすなどで作動中の振動を抑えるなどの改修を、飛行試験がはじまってからどこかのタイミングで実施しようとしていたが、これを事前に実施することにしたという。飛行試験が始まってからも問題点をフィードバックする期間は複数回設けられているが、それは飛行試験で見つかったものを反映するためのものにしていくというのが今回の方針だ。
初飛行が延期となる一方で、北米で行なう試験機を、予定していた3機から4機へ増やす。北米では「1日に3~4回行なえる可能性があるというハイレート(高頻度)」な試験が可能であり、4機へと増やすことで型式証明の取得などに必要な飛行時間を確保する狙いがある。
そのため、米シアトルに150人規模のエンジニアリングセンターを開設。航空機メーカーのBoeing本社があるシアトル地区の航空関連エキスパートとの協働を図る。そして、シアトルにほど近いモーゼスレイクにあるGrant County International Airportを飛行試験のベース拠点とするほか、高度の高い空港における試験や、寒冷地での試験、長い滑走路を持つ空港において(離陸中の離陸断念を想定した)エマージェンシー状態での試験なども北米各所で行なう予定となっており、適合性証明に向けた活動を加速させる。
北米でテストする飛行試験機数は増えたが、数は従来の計画通り5機のまま。現在、地上試験機1機、飛行試験機1機が完成しており、加えて地上試験機を1台、飛行試験機を4台組み立てている。地上試験機では翼端の曲げ強度の測定など静強度試験を実施中だ。そのほか各機体の進捗は下記の通り。
国内でのテストのみが行なわれる5号機については、ローンチカスタマーであるANAのカラーリングを施すことが発表された。発表されたデザインは、垂直尾翼にかけてのトリトンブルー、垂直尾翼のロゴはANAをベースとし、胴体前方のロゴはMRJのロゴが描かれたものとなっている。
これら地上試験、飛行試験と並行して、ANAと協働してカスタマーサポート体制の構築も進められる。また、整備/試験マニュアルはSAAB社、技術支援体制はBoeing社、ITシステムはDeloitte社、シミュレータを含む訓練体制はカナダのCAE社、スペアパーツの在庫/供給体制はBoeing社と協業するという。スペアパーツの物流や機体整備のパートナーは現在募集中。ITシステムについては、まもなく運用を開始したいとしている。
2017年第2四半期の初号機納入については変わりがないとし、カスタマーサポートについても現在の約100名から、納入の頃には400名程度にまで増員して体制を整えるとした。
量産新工場が2016年春頃に竣工、自動車量産技術の活用も
量産に向けた体制の確立については、三菱重工業 交通・輸送ドメイン 副ドメイン長の石川彰彦氏が説明を行なった。
量産拠点としては、県営名古屋空港の西側に隣接する県有地を取得し、小牧南新工場を建設している。工場は幅150m、長さ135m、高さ22mの建屋で、それに5階建てのオフィス棟が付随する。
工場内は2区画に分けられ、1区画は主翼と胴体の結合ラインが2つ設けられる。もう1区画は、U字型の「艤装ムービングライン」となっており、機体をU字型に進めながら装備品の搭載や機能試験を行なっていくという。ここで月産10機の生産体制を整える。
また、この工場は一般見学できるように配慮されており、格納庫内の見学や、天井から飛行機の仕組みを見られる見学コーナーの提供も予定されているという。
三菱重工業の神戸造船所では、主翼部品の一貫製造を行なう。ここで製造された主翼部品は愛知県の飛島工場へ送られ、主翼と胴体を組み立て。これを小牧南新工場へ送って結合する、という流れだ。
部品の製造は、愛知県の大江工場で中/大物部品の板金や機械加工を行なうほか、三重県の松阪工場で小物部品の製造、尾翼の組み立てが行なわれる。
特に松阪工場では、板金加工メーカー、機械加工メーカー、自動車部品メーカーの計9社が参加する「航空機部品生産協同組合」を4月1日に設立した。航空機の複雑な高精度加工技術と厳格な品質管理を持ったメーカー、自動車の高速加工技術や物流管理技術を持ったメーカーの技術を一拠点に集約し、民間旅客機の量産部品を一貫生産するクラスタの確立を進めている。
エンジンは小牧市の三菱重工業航空エンジンで、プラット・アンド・ホイットニーのPW1200Gの最終組み立てを行なう。この工場では、エンジンのテストセルを持っており、運転試験を行なった上で、最終組み立て工場である小牧南新工場へ送られる。
部品管理については、MRJ 1機あたりに使用する約100万点の部品を管理するため、国内の物流会社と協力して、世界中のサプライヤーとリアルタイムに接続するネットワークを構築。愛知県に物流管理センターを設けて、状況をトラッキングできるようにする。また、納入時に工場へ送るものとストックするものに分け、ジャスト・イン・タイムでラインに供給できる体制を整える。これらのサプライヤー管理体制は2016年下期に立ち上げる予定となっている。